母の夢
「こんな夢を見た」と、母が私の目を見つめて言う。
「今朝ね、お前の名前を何度も何度も呼んでいる夢を見た。何か起こるかもしれない。」
口ぶりからすると悪夢というほどの夢でもないらしく、私は「ふぅん」と気のない返事をして遅い朝食をパクつく。テレビには春の甲子園の第一試合が映っている。
同じ年ごろのまだ色の白い少年たちを眺めながら、私はふと、どんな些細なことでも心配してくれる母をうざったいと思う思春期の自分を小憎らしく思い、またいつか私が子供を持った時には、きっとそんな夢を見るようになるのだろうと直感した。そして、いるはずもない我が子が心配になった。