第52話 開幕
私たちのもとにドルト少佐が現れ、ちょうど一ヶ月後、こちら側が宣戦する形で戦争が始まった。
私とソフィー、ステラがいるのは最前線の少し後ろ。そこで兵士たちの肉体を改造したり新たな兵器を開発している。
「ノルン、今日のノルマは何人残ってる!?」
「後三十人!だけど素材が足りないから十人が限界かも!」
「お母さん!この人拒否反応出てる!」
「今行くから分離作業の準備してて!」
「りょーかい!」
本部に選ばれた兵士たちを改造、とはいえドラゴンはそう簡単には狩れないので比較的量が手に入って適応しやすいゴブリンやオークの肉体に改造することが多い。後これは後で分かったことなのだが人間から遠い見た目の生き物ほどこの錬金術は失敗しやすいので、あの時の私たちのとりあえずでやってみたのはかなり危なかった。戦争が始まる前に受け取った部下に実践させた時、初めて拒否反応でゆっくりと肉体が分離していったトカゲを見て冷や汗をかいたのを思い出す。
錬金術の精度によって成功率が変わってくるのはわかっているが、私たち三人では足りないから部下の人たちにもやってもらうしかないし、安定するまで私たちが後処理するしかないのが辛い。今も3日ほど寝れずにいる。
「大丈夫ですか!体におかしいところは!」
ステラに案内されて分離作用を起こしかけている兵士の元へ辿り着く。
「腕が、あと足も!引きちぎられるような痛みがする!」
腕と足の痛み、良かった初期症状だ。これなら薬を投与すれば正常に変換が進む。
「今からとある薬を点滴します!少しチクッとしますから!」
もう慣れた手つきで針を刺して点滴を開始、注入し始めてから数秒もすれば穏やかな顔になった。
「開発が間に合って良かった。これがなかったらもっと大変だったよ」
ゴブリンの肉体適応できなかった兵士に使った薬の名前は人魔融和剤G、人と対応する魔物の血液を強制的に宥和させることで拒絶反応を解消する薬だ。
「他に何かあった人いる、ステラちゃん」
「他は特にいないよ、あと伝言。こっちも終わったから昼食にしましょうって」
どうやらソフィーの方も終わったらしい。
「よし、一旦休憩入ります!皆さんも余裕があるうちに休憩しておいてください!」
部下の人たちにも一旦休憩を与えてソフィーの元へ向かう。
「お疲れソフィー」
「そっちも、大丈夫だった?」
「うん、初期症状だったから。ソフィーの開発してくれた人魔融和剤のおかげだよ」
「良かった、あれはまだ改良の余地があるから出来たら試験お願いね」
もくもくと昼食を進める。いつ何があるかわからないから、急いで食べて、少しでも体力を回復できるよう残った時間は過眠に回す。ここ二週間ほどこの二時間の睡眠で乗り越えてるが限界に近い。
「お休み」「おやすみなさい!」
「うん、二人ともお休み」
三人で川の字になって狭いベッドで横になる。少し窮屈だがそんなことに文句が言えないほど忙しい。寝ようと思うが、不安でなかなか眠気が来ない。
「今は大丈夫だろうけど、いつここが安全じゃなくなるかもわからないんだ」
寮生のみんなでいろいろ生き残るための装備を整えたりしたけど、どこまで通用するかは定かじゃない。それに、きっと私たちが作ったものも向こうが模倣して、こちら側以上の量産体制で来るはずだ。そうなったらきっと、この戦争は地獄になる。
「大丈夫、私たちは大丈夫だから」
本当に?という声が聞こえた気がした。多分、空耳。
これから先他国が戦争に参加してさらに戦果は拡大し、きっと前世の第二次世界大戦のような悲劇が起こるだろう。私にできることは、それが起きる前に戦争が終わることともしそうなったら逃げる手段を確保すること。
「絶対にみんなを守って、生きて、生きよう」
この世界に来れて大切な人が、仲間ができた。一つしかない命で、一生懸命に生きている。だから私にできる恩返しは、命を懸けて守ること。
じゃないと、割に合わない。
私はソフィーとステラを強く抱きしめて、深い眠りについた。




