第49話 ソフィーvsノルン
不思議だ。大切で大切でたまらないノルンと戦う羽目になっているというのに、少しワクワクしている私がいる。
よく考えてみたらノルンとまともに戦う機会なんてこれ以降ないだろうし、なにより私とノルンの研究成果を試すこともできるのだ。ワクワクしないわけがない。
「さぁ始めるわよ!」
アンプルを首に注射して身体能力をさらに強化する。今回使ったのはヨロイオオトカゲの脊髄から抽出した成分とリューリードラゴンの胆液を混ぜて作り出した特製品。うまくいっていれば以前より固くなって、回復能力が増しているはずだ。
体全体が冷気で満たされて悪寒を感じる。きっと長くは持たないだろうが、問題ない。
「だって時間までに片付けちゃえば問題ないもの!」
ノルンに向けて思いっきり蹴りを放つ。流石はノルンだ、余裕で私の一撃を受け止めてくる。
「絶対にメイベルを傷つけさせない!」
「あんたは私のものでしょうが!」
掴まれた足を無視して無理やり体を回転させ次の蹴りを脳天目掛けて打ち出す。途中骨が捻れ折れたが身体能力にブーストをかけた今なら一瞬で治すことができる。
「あぐっ!」
「そんなものじゃないわよねぇ!ノルンンン!!」
アドレナリンと薬の相乗効果でどんどんとその場の熱が上がっていく。
「メイベル!4番と7番出して!」
「で、でもあれは試験途中って……」
「いいから出せ!」
「ひゃいぃっ!」
メイベルから投げられたアンプルを同じように首筋に注入する。
「あぁ、これあんまり使いたくなかったのになぁ!」
「そう来なくっちゃねぇ!」
戦闘のスピードが明らかに加速する。右に飛んだかと思えば気づけば左、上と縦横無尽に駆け回ってもはやマーガレットとステラには追いきれない速度だった。
ああ、楽しい。もっと、もっと私と踊りましょう!
「はぁ、はぁ、そろそろ諦めたらどう!?」
「お断りよ!」
攻撃力に特化したノルンの強化に対して私の防御特化は相性は若干悪い。薬を打ったタイミングもあり効果切れすると私は負けてしまうだろう。
そんなことを考えてた瞬間、体におきな衝撃が走り血を吐いて立ち止まる。
「どうやら終わり、みたいだね。楽し、かったよ」
ノルンが私に向かって最後の一撃を決めようとする。まともに受けたら確実に重症になる一撃。
「あんまりやりたくなかったんだけど、仕方ないわね」
そんな致命傷が確実な一撃を、私は迎え入れるように突っ込んだ。
「え、は?ちょっと、え!?死んじゃうよ!?な、何を!ぬ、抜けない!」
「ふふ、やっぱりノルン、油断すると思った、わ」
ノルンが好んで人を殺すような真似はしないことはわかってる、だから使える奥の手。私の力で打ち勝ちたかったけど、仕方ない。
予期せぬ展開にノルンが焦っている隙に筋弛緩剤と解毒薬を打ち込む。
「うっ!?」
「直接対決じゃ、負けたけど、私の、勝ちよ、ノルン」
さて、ノルンは片付いた。あとは、メイベルだけだ。
「ひ、ひぃぃぃ!お、お助けぇぇぇ!!」
「逃げ、る?お前は絶対に許さないぞ、メイベル……」
腹部に空いた穴をそのままにメイベルの元へ滲み寄っていく。メイベルは恐怖で完全に戦意を喪失している。
「いい……?」
「は、はいぃっ!な、なななんでしょうか!?」
「次に、ノルンに手を出そうなんて考えでもしたら……お前を絶対に、ありとあらゆる方法で苦しめたあとに、殺してやる……」
「ひぃぃぃ!わかりましたぁぁぁぁ!!もう二度としませんんんん!!!だから許してぇぇ!!」
「ふぎゅぅ」
メイベルがショックで気絶したのを見届ける。なんだか体がふわふわしてきた。そろそろ私も限界のようだ。
「あぁ、疲れた……」
ばたっと倒れる。その場には倒れる女二人と、血まみれで腹部にも穴が空いている私がいた。随分と悲惨な景色だが、結果としては上出来だろう。誰も殺さず、ノルンを取り戻せたのだから。
「まぁ、お疲れ。あとは私がなんとかするから、ゆっくり眠ってなさい」
マーガレットがそう言ったのをかすかに聞いて安心した私は、今度こそ深い眠りへと落ちていった。
マーガレット、ノルン、ソフィーを抱えて外に出てくると、ゴーレムの死体の山の上でお菓子を食べているアーサーがいた。
「お、終わったんだね」
「ええ、大惨事よ。それより、相変わらずあんたのオートメイルはすごいわね」
「まぁ我が家の至宝だからね、ただまだ叔父上には遠く及ばないよ」
死体の山からさっと飛び降りてソフィーの身体を受け取る。
「うわっ、重症じゃないか。これは、エルトランに頼まないといけないな。怪我とか、諸々は僕がやるから、地面の修復とかはマーガレットに頼んでいいかな」
「もとよりそのつもりよ」
短く会話を終了させて互いにすべきことへと戻る。はた迷惑なメイベル騒動は、こうして終焉を迎えた。




