第44話 最後の寮生
あれから二か月ほどが経過した。
ステラはあの時以来暴走することもなく私たちとの楽しい生活を営んでくれている。最近じゃソフィーもずいぶん仲良くなって、私ほどじゃないけど交流も増えているようだ。
当然私が一番だけどね、これは譲れない。
心の中で最低なマウントを取りながらソフィーの作ってくれたサンドイッチに手を伸ばしていると、ふいに思い出したことがあった。
「そういえばさ、メイベルちゃんって覚えてる?」
「ええ、ずっと引きこもってる子よね。あ、こらステラ、野菜捨てちゃダメでしょう」
こっそり私の皿に野菜をのせてきたのをソフィーが叱ると、無理やり会話の方向を変えるためにステラがメイベルの話題を続けようとする。
「そ、そんなことよりお母さん!メイベルちゃんがどうしたの?」
「そんなことしてもだめだから、はい、食べなさい」
フォークで野菜を突き刺して薬を振りかけ食べさせる。
固く口を結んでいたがあきらめたのか大人しく野菜を受け入れる。
青い顔で咀嚼していたステラだったが噛むごとに顔色を取り戻し始める。どうやら実験は成功らしい。
「なにこれ!?牛肉の味がする!」
「あら、完成してたのね。というかそれがあったならもう少し早く出しなさいよ」
「ごめんごめん、さっき思い出したからさ。ステラ、これはねぇステラみたいなお野菜が苦手な子でも食べられるよう味だけを任意のものに変えられる薬!今のところピーマン味と牛肉味が完成したの!」
徹夜して調整してたため若干テンションが高い私が高らかに小瓶を掲げ、薬の説明をする。ソフィーは呆れて、ステラは目をキラキラ輝かせていた。
そう、これは先月からステラの野菜嫌いを何とかするために開発した薬だ。特許も取ってあるのであと数か月もすれば販売されるだろう。
原理は複雑だがやったことで言ったら私たちの肉体を変換したときと一緒だ。
「ありがとう!」
「全然いいよ、いつかは野菜も食べれるようになろうね」
さて野菜騒動もひと段落着いたことだし話をメイベルに戻そう。
「それで、ステラはメイベルと会う方法知ってる?」
「えっと、私は無理だけどマーガレットなら多分できるよ」
「マリーが?」
そういえばマーガレットは最初に歓迎会を開いた時もほかの人よりは詳しそうだった。
だったら一度マーガレットを訪ねてみるのもありかもしれない。
「でもお母さんなんで急にメイベルちゃんに会いたくなったの?」
「私も最初は出てくるのを待とうと思ってたんだけど二か月たっても出てこないのはこっちから行かないと無理かなって」
というわけで私たちはマーガレットの部屋までやってきた。
マーガレットらしく薔薇をメインにとても豪華な見た目に改造された扉をたたく。
叩いて数秒後マーガレットが出てくる。今日も気高いオーラをばっちり発揮している。
「マリー今ちょっといい?」
「ノルン!ええいいわよ。紅茶も用意するしましょうか?中で話す?」
「せっかくだからお願いしようかな。ソフィーとステラも紅茶でいい?」
「構わないわ」「クッキー持ってくるね!」
私が何か言う前にステラが走り去ったのでとりあえず二人でマーガレットの部屋の中にはいる。
マリーが紅茶を淹れに行ったのでとりあえず椅子に二人して座る。座ると少し沈んで私の身体を受け止める感覚が心地よかった。
「ほらどうぞ、ノルンはこれ好きだったわよね」
運ばれてきたのは深紅ともいえるほど鮮やかな赤色をした紅茶。
この地方の名産でロザールと呼ばれる種類のものだ。マーガレットと仲良くなるためによく来ていたらいつの間にかこれが気に入っていた。
一口紅茶を飲むと鼻腔に格式高い香りが広がる。
「うん、やっぱりおいしいね。マリーが入れてくれたからかな」
「何度飲んでもおいしいわね」
「そ?よかったわ」
嬉しそうに笑うマーガレット、仲良くなっていなければこの笑顔を見ることはなかったと思うと少しは頑張った甲斐があるというものだ。
ステラも合流してゆっくりティータイムを楽しんだところで本題を始める。
「マリーにお願いがあるんだけど、いいかな?」
「ええ、なんでも」
「メイベルに合わせてほしいの、ホントは自分から出てきてくれるまで待っていようと思ったんだけど二か月経っても無理ならさすがにこっちから行くべきかなって」
マーガレットが紅茶を一口飲むと少し考えるようなしぐさをする。
無理なのだろうか、もしそうならどうしよう。いよいよ直接行くしかないのだろうか。
「いいわよ」
「なんか悩んでる動作してなかった!?すごいあっさりした返事だけど本当に大丈夫なの?」
「ええ大丈夫よ。さ、今から行きましょう」
よくわからないが出来るみたいだしおとなしくついていこう。
そうしてやってきたのはメイベルの部屋、の窓側だ。隣にいるマーガレットがバッグから靴を四セット取り出す。
これは跳躍靴だろうけど、まさか。
「さ、登るわよ」
「え、どういうこと?」
「あの子引きこもりこじらせて表の扉に罠仕掛けてるから裏から行くしかないのよ」
「えぇ......」
私とソフィーが引く。ステラは窓から侵入するのが初めての経験なのかすごくワクワクしている。
まさかそこまで人が苦手なタイプと思っていなかった。私は靴を履き替えながら無事に帰れることと少しでも仲良くなれることを祈っていた。




