第3話 探検!町!そして相棒!?
外を飛び出して目に入ったのは爽快な空、子供が好きな絵の具をキャンパスいっぱいに塗りたくったみたいに一面真っ青な快晴。
周りを見渡すと追いかけっこで遊んでいる子供や、井戸端会議をしている奥さん方が見える、世界は変わっていても人間はあまり変わらないのだろう。前世でも何度か見た景色だ。
「きゃっ!?」「うわっ!」
周りを見ていたせいで向かってくる少年に気づかずぶつかってしまった。
地面に勢いよくしりもちをつく。痛い、けどそれよりぶつかった少年は大丈夫だろうか。
「大丈夫!?」
急いで立ち上がって駆け寄ってみると、少年は膝に怪我をしていた。
「あ、うん。大丈夫だよお姉さん」
「だめだよ怪我してるんだから!ほら傷跡見せて、絆創膏貼ってあげるから!」
ケガさせてしまった責任を取るためにけがの治療をする。消毒液が染みて痛そうだったが早く治すためだし我慢してもらう。
前世で保健委員をしていたおかげでこういうのは得意だから良かった。
「これでよし、次からは気を付けてね?」
「あ、うん。ありがとう、ございます」
無事応急処置は終わったけどなぜだか少年の顔は真っ赤になっていた。多分恥ずかしかったのかな。
「じゃあ私は行くから、次は気を付けてるんだよー!」
完璧だ。完璧にいいお姉さんだ。やはり見た目がいいというのは大きなアドバンテージだ。
このまま変わっていけそうな気がする。カミサマありがとうございます。
町を道なりに、鼻歌交じり歩くと大きな広場が見えてきた。
「うわぁー!すごーい!ここがセルク第十三広場かぁ~!!」
セルクの町は区画ごとに管理されていて、ノイフォンミュラーが住んでいるのは設定集によれば第十三区、昔は帝国の中央と端のちょうど間のあたりに位置していた町だ。
今は国土の縮小により端のあたりに位置している。
いま私のいるセルク第十三広場は円を重視した設計で、十三区自体がこの広場を中心に円形状に広がっている。どこに行くにも基準として便利なのでここの子供たちは待ち合わせに使うのは基本ここだ。中央には噴水があり暑い日なんかは子供たちがここで水遊びをしていたりする。
もう一つの特徴は、このような広場には前世で言う祭りの屋台のようにいろんな商人が店を開いている。周りを見渡せば、お腹の空くにおいで誘ってくるおいしそうな食べ物、少し遠くでは工芸品、何を買うにしてもここが便利でいい。
「すごいすっごい!ほんとに恋戦の世界なんだ!」
今更ながらに興奮が冷めやらない私は、お腹がすいていたこともあり中央付近の出店を訪れた。この広場では中央に行くほど稼げている店なのでなにもわからないならそのあたりから選ぶことになる。
店の名前は「ゴリトスの腕力チキン」、変な名前!
十分ほど並んで、私が注文する番になる。
「あの~、すいません~」
坊主頭に日焼けで黒くなった肌、それと190cmはあろうかという巨体にビビり散らかし、おどおどした声しか出なかった。
しかし店主のゴリトスさんは思ったよりも優しい人だったようで、こんな私にも眩い太陽のような笑顔で接客をしてくれた。この見た目で職人気質じゃなくて気のいいあんちゃんなことあるんだな。
「おっ、嬢ちゃん!何が欲しい?」
見た目からは信じられないほどの満面の笑みに少し怯えつつ注文をする。良い人なんだろうけど見た目が完全にヤのつく自由業の方だよ!怖い!!
失礼な本音は隠して、おいしそうなだなと思った「名物!腕力チキン」とやらを頼むことにした。
「あ、じゃあその、これ、ください」
「ん、腕力チキン一つね!じゃあそこで待ってな!」
言われる通り少し離れたところで待っていると三分ほど経ってドリトスさんがチキンを持ってやって来る。
「はい腕力チキン一つ!熱いから気をつけな!」
「あっ、はいありがとうございます」
腕力チキン、おすすめと書いてあっただけあって本当においしい。唐辛子系のスパイスを基準にがっつり効いた塩味が食欲を増進させる。私はこんな暑い中で汗をかいているというのに食べる手が止まらない。中央に店を構えられるのがよくわかる味だった。しかもこれで値段がリーズナブルなのだから通うしかないだろう。
さて、食べ終わったがスパイスの食欲増進効果でまだお腹には余裕がある、というかもっと食べたい。ということでほかの店もめぐってみることにした。
お肉、パン、サラダ、どれもおいしくて幸せ気分。
それにこの町の人たち、みんないい人で、人に優しくされたことが少ない私は、すぐうれしくなっていい気になった。この人たちみたいに人に優しくしてあげられる人になろう!
いつの間にか、私はこの町が大好きになっていた。
「お腹いっぱいだなぁ、そろそろ食べ物以外も見てみようかな」
というわけで最初にやってきたのは来た時点で見えていた小物商。
ラインナップは、人形といったおもちゃ類がメインだ。
「何か買おうかなー」
始めて見るものに囲まれて興奮してきた私がじっくりと見定めていると、一際異彩な空気を放つ、機械のようなものが目に入る。なんか知っているような、知らないような...
少ない脳みそを搾りきっても答えは出てこなかったので、おとなしく店員さんに聞くことにした。妙な敗北感があって悔しい。
「あの、店員さん。これなんですか?」
「ん、ああこれか。これは錬金釜だよ」
「これが!?釜じゃないじゃなくないです!?」
思わずなれないツッコミなんてしてしまった。だってわかるわけないじゃん。機械だよ?どう見たって釜じゃないし!この世界の錬金釜は一応ちゃんと釜の見た目してたはずでしょ!?
「はは、だが間違いなく錬金釜だぞ。裏側に錬金釜のマークがついてたしな」
錬金術ってもっと古風なのイメージしてたけどなぁ。
ほら、フラスコとか使うやつね。ちょっとイメージが崩れたけど、それも私が詳しく知らないだけなんだろうな。思ったよりもわからないことが多いし、家に帰ったらいろいろと調べてみよう!
「店員さん、これ何ドルクですか?」
とりあえずお金には余裕があるし、買ってからいろいろ考えるとしよう!思考停止って楽だね!
「やっぱり高いですかね?」
「んー、それなぁ。長らくここにおいてんだけど誰も買わねぇんだよなぁ、壊れてんのかも。だからまけて、19800ドルクでどうだい?」
錬金釜が約二万ドルク、破格だ。
錬金釜の平均価格は安くても四万ドルクはするのに、まさかの半額!これは買うしかないでしょ!
「買い、買います!」
財布を取り出して二万ドルク支払う。私みたいな華麗で幼さを残している少女がポンと二万ドルクを出したのに違和感を抱いていたようだが、金持ちの子供とでも思ったのかあっさり取引は終了した。
本当はもうちょっといろんなところを巡りたかったんだけどなぁ、思わぬ出費で財布の中が軽くなってしまった。
大人しく家へ帰ることにしよう。明日もここには来られるんだし、一日でいろいろ巡り切るのも勿体ないよね。
「ゆーうやーけこーやーけー♪ふふっ」
少し暗くなり始めた町の景色が、朝私に見せた姿とはまた違う哀愁のようなものを演出していたから、ノスタルジックな気持ちを引き起こさせる。
家に帰ろう、暗くなる前に。懐かしい歌でも歌いながら。