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第27話 やり直す

 日付が二日前に戻っている。

 つまり、死に戻りはセーブした地点に戻るのではなく前の日の規定時間に戻るということ。ならば、


「何度でも死んで日付を戻したら、ドラゴン対策ができる?」


 例え今の装備では無理でも、一か月備え続けたら?

 そしたら、もっといい装備だって作れるだろうし、対ドラゴンに備えた道具を錬金する余裕もできる。 

 じゃあ、やるしかないんじゃないか。


「わかってる、やらなきゃ結局死んじゃうんだから」


 そのことを理解してからかれこれ三時間、私はそれを実行できずにいた。


 怖いからだ。

 

 今までは自分から望んで死んだわけじゃない。だが今から私は自分の手で自分を殺さなければいけない。そして自殺は大抵苦しい。

 首吊り、殺傷、服毒、いくらでも方法は思いつくけどどれを選んだって最高に苦しく死ねるのは間違いなくて、私はそれに怯えている。

 死の恐怖の前には誰でも赤子のようで、自ら進むならなおさらだ。

 頭を抱えて悩んでいると、ソフィーが呼ぶ声がする。


「ノルンー?」


「あ、うん今行くよー」


 扉を開けてソフィーの下へ向かう。

 昼ごはんの用意が終わったので私を呼んだみたいだ。今日は私の好物のピザトースト、お昼になんて珍しい。


「お昼にピザトーストなんて珍しいね」


「ええ、ノルンの元気がなかったから、相談はされなくても元気づけてあげるぐらいはしたいもの」


 ソフィーが悲しそうにそう語る。

 隠し事をしているとき、ソフィーは絶対に見破る。そしていつもこの顔をする。

 私はその顔に耐えられない。美しい顔の細胞一つにすら悲しみがこれ以上刻まれないことを、常に願っている。

 だから、話してもいいんじゃないかという気分になる。だって、ソフィーは私の仲間で、半身で、恋人。隠し事をすること自体ソフィーに背を向ける行為だとも言える。

 それに、どれだけ戻ったって私一人の力でドラゴン退治を成し遂げられる保証もない。じゃあ、ソフィーに全てを告白したっていいんじゃないか。

 私は最後まで悩んでいた。だが、私自身の気持ちより、ソフィーを信じることを選んだ方がいい気がした。


「あのねソフィー、食事が終わったら、話したいことがあるの」


「......ようやく話してくれる気になったのね、今紅茶を用意するから、全部聞かせて頂戴」


 春の太陽のような優しいほほえみがソフィーの顔を彩る。

 話すことを決めて良かったなと思う気持ちと、死に戻りへの強い渇望が、私の中に湧き上がってくるのを感じた。きっとこの気持ちが愛なのだろう。少し重たい、私の愛。これまでもこの先も、この愛は途切れることを知らず、きっと二人の間にあり続ける。


「それで、今日の朝からずっと元気がなかったのはなぜ?」


 私は神の御前にいる罪人のように、全てを告白した。

 声が震えた。恐怖した。ソフィーに全てを明かすということは、自分の隠したいことを知られるということ。

 私の持っているスキル、これから起こること、そしてこれからやろうとしていること。ソフィーは最初驚いた表情をしていて、次にもっと驚いた顔をして、最後には悲しそうな顔に変わってしまっていた。


「......そういうことだったのね、ノルンは、私のために地獄のような苦しみに、身を投じようとしている」


「うん、そう。そして今、私の決心は決まったよ」


「どうしても、やるの」


「ソフィーのためなら」


 そうだ、今更私の精神が何だというのだ。

 今になってようやく決意が固まった。私はソフィーのためだったら死だって使ってみせる。

 

「だからそんな悲しい顔をしないで、笑顔で見送ってほしいな」


「......もう決めたのなら私は何も言わない。でも忘れないで、私にノルンがいるように、ノルンにも私がいる。どの時間のソフィーだってノルンを助ける。だから、過去に戻ったら、隠さず私を頼って」

「約束、いいわね?」


「うん、わかった。ソフィーに誓うよ。」


 指先にそっとキスをして誓約の儀式を済ませる。

 そろそろ旅が始まる、愛すべき存在に別れを告げる時間が来る。これ以上は明日になってしまう。


「愛してる、ソフィー」


「ええ私もよ、ノルン。私はこの先、貴女に会うことがなくても、絶対に忘れない。貴女を胸に抱えて、一生生きていくから」

「だから、絶対に諦めないで。愛してる」


 涙で目をはらしながらソフィーが私の唇にやさしい口づけをする。

 とっても甘くて、やわらかくて、温かい。


「いってらっしゃい」


「うん、行ってくるよ」


 私はそのあと、誰にも見つからなくて、誰にも触られることのないような場所で静かに命を引き取った。

 これから私はなんどもこの別れを繰り返す。でも、何度だってソフィーは見送って、私を愛して生き続けてくれる。

 そう思うと、この旅が希望に満ち溢れているように見えた。

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