第1話 私!ノイフォンミュラー!
カクヨムにもあるので、よかったら見てください
朝の木漏れ日で目が覚める。
まだ少し眠たいから、六時半ぐらいだろうと思う。
もう少し眠りたいけど、今日も学校があるから無理やり体を起こすと、違和感が私を襲う。
「あれ、私の部屋こんなんだっけ」
寝ぼけ眼で周りを見渡すと壁が石造りだ。
え、いやいや、そんなわけない!私の部屋は普通の部屋だしこんな声じゃない私!
「えっなになにどういうこと!?」
寝起きだというのに変なことが起き過ぎて逆に冷静になんてなれないムリムリ!
心の中が騒がしいまま自分の姿を確認しようと部屋にある鏡の前に立つ。
鏡に映ったのは、すらっとした金髪に青く全てを見通すような目。見るもの全てを魅了するような存在感が、そこに立っているだけで醸し出されている。
見覚えがある。それは、私の知っているゲームのキャラクター。
「ノイフォンミュラー…」
「え、え、いやこれえ!?どうなってんのぉぉぉぉ!?」
見た目と声からは想像できないようなセリフが私の口から吐き出された。
私の前世、いや死んでないけど前世には伝説的なゲームがある。
『恋と戦争』というタイトルのゲームだ。
重厚かつ緻密な設定の世界観、魅力的なストーリーにキャラクター、その上妙に凝ったゲームシステムがゲームオタクと推し文化に大受けし、ネットを介して爆発的に拡散、一世を風靡する作品となった。
もちろん私もこのゲームをやっていた。軽く一万時間は遊んだけど、このゲーム、本っ当に面白い。
推しを生かせようと奮戦したり、推しのために世界帝国を築いたり、果ては宇宙大戦争を巻き起こしたり、トンチキなエピソードもいくつかあったがどれも面白いストーリーだった。
しかもこのゲーム、まだ更新が続いている。今となっては知る方法はないけれど、多分今もそうだろう。リリースからもう十年は経とうというのに、いまだに更新され続けている。
ネットの掲示板では日夜この運営の謎について語られたり陰謀論が広まっていたりする。わたしも最初はその話を鵜呑みにして痛い目を見たものだ。
話は戦恋のキャラクターに戻して、このノイフォンミュラーというキャラ、恋戦の世界で唯一深掘りされていない。
どのキャラクターもプレイアブルとして実装されているのにノイフォンミュラーだけは実装されていないのだ。
一応わかっている情報としては、ノイフォンミュラーは帝国歴4056年頃技術者として戦争に介入し、開発した武器が大きな貢献をしたことぐらいだ。
存在感はありつつも重度の引きこもり、それがノイフォンミュラーなのだ。
「ってことは、異世界転生ってやつ!?」
「知識チートで無双できるやつってこと!?」
「推しのために働けるとかマジかこれ!やったぁ!」
正直モブである私がどうしてこんな重要なキャラに転生したのかなんてわからないけど、ゲーム本編では諦めていた推しを救うルートに挑戦できると思うと心は跳ね上がるようだった。
「ま、何はともかくスキル確認だよね」
手を空中へとかざし、スキルと念じるとスキル一覧が空中に映し出される。
なぜこんなことを知っているかというと、恋戦のプレイアブルの中に転生者がいて、そこで描写があったのだ。
「えーと、スキルは」
「開発と、死に戻り?」
死に戻りならわかる。有名な作品があるおかげでこのスキルがどれほど地獄を見せるかもよくわかっている。
「まぁ、死に戻りは一応アクティブにするぐらいにしとこ」
地獄を見るのは嫌だったが死にたくもないのでスキル死に戻りはアクティブ、つまりは常に発動している状態にしておいた。
「それで、問題はこっちだよね」
開発、聞いたことがないスキルだ。この世界だとスキルの内容は使うことでしかわからず、条件もわからない。
だから慎重になる必要がある、のだが名前からはどうも危ないスキルには見えないので、何かを作ってみることにした。
この私のなんでも試してみる性格で後々痛い目に合う羽目になるのを、今の私は知らない。
「まぁとりあえずスキル発動!【開発】!」
スキルの名前を唱えた瞬間空中に青い画面が浮かび上がる。ゲーム、特にオープンワールドで見るようなもの。
「うわ、すごい」
目の前に色々な情報が並ぶ。
パッと見るだけでも所持している素材、制作可能物、時間、場所などが記されている。
「なんか…ゲームの画面みたい…」
早速スキルに魅了された私は試してみることにした。そうしてわかったことだが、この【開発】というスキル、かなりやばい。
素材さえあれば必要な手順を飛ばして何でも作れるのだ。ふつうは道具を使わなきいけない加工も簡単にできる。まぁもちろんスキルレベルが足りていたら、なんだけどもね!
例えばこの部屋の石を材料にしたら椅子、コップ、果てはナイフといった武器までなんでも、この場で作れる。最強じゃん...
「ゲーム本編から察してはいたけど、マジでチート…」
「これさえあれば…推しだって救えるはず!」
「やるぞーーー!!!」
現代人のオタクらしくあっという間に異世界転生という概念に馴染んだ私は、前世ではできなかったことを成し遂げようと心を決め、開いた窓から空へと高らかに宣誓した。