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第8話 「邪心」

「師匠...だと?」


あんな邪悪な奴が。


「...いつまで弟子面するつもりじゃ?栄善エイゼン


「おっとこれは失礼。つい、癖でな」


どうやら本当に弟子だったようだ。しかし、永越の口調から察するに、もう弟子ではないと見える。


「汝は破門にしたはずじゃ。『二度とこの道場に足を踏み入れるな』とな」


「ああ、その通りだ。俺はこの道場に入れない。だが、ここにいるやつら皆殺しにすりゃ、話も別だろう?」


「何を...!?」


「俺はな、国を建てたいんだよ。俺こそがこの大陸の覇者になるんだ。そう、皇帝にな」


「皇帝...!?」


「だが、皇帝なる者がこんなチンケな道場にも入れないとなると、威厳もガタ崩れだ。だから入ることにした。部下とともにな」


「貴様...!まさか、この道場に飽き足らず、あの町も滅ぼすつもりか...!?」


永越の声は怒りで震えている。


「当たり前だ。あそこは俺の『汚点』だ。...............と、言いたいところだが、あいにく今日は部下を引き連れてはいない。今日ここに来たのは、『帰郷』のためと言ったところだな」


「ふざけるな...!ここは汝の故郷ではない...!」


「好きに言うがいいさ。近いうち、ここは火の海になるのだからな。それでは、せいぜい震えて眠れ。クックック...」


栄善が不気味な笑い声を上げながら道場を立ち去ろうとしたそのときだった。


「おい!待ちな!!」


「?」


「!!阿修羅...!」


「さっきから聞いてりゃ、訳の分かんねえことばっか言いやがって。その頭、叩き直してやらあ!!」


「阿修羅!!やめぬか!!今の汝に勝てる相手ではない!!」


栄善は阿修羅を舐めまわすかのように見つめ、その後、ニタァと不気味な笑みを浮かべた。


永越はとてつもなく嫌な予感がした。


「口だけは達者だな。名はなんだ?」


「阿修羅だ」


「...なるほど。なら、なおさらお前はここで殺さなければならん」


「どういう意味だ?」


「それが俺の『生まれた意味』だ」


「......?」


すると次の瞬間、栄善は構え始めた。


「ッ...!!」


阿修羅も構える。


初めに攻撃に出たのは阿修羅だ。

阿修羅は軽快な動きで蹴りを繰り出す。


それに対し、栄善は片手で受け止める。

阿修羅は間髪入れずに、次の攻撃を繰り出す。


栄善はそれをかわすと、反撃に出た。


栄善は止まることなく、猛攻を繰り出す。

阿修羅は、その猛攻に押され始めた。


そして、あるタイミングで、栄善が強打に出ようとしたその時、


「フンッ!!」


相手が攻撃する際に生じる一瞬の隙を見失わなかったアシュラは、栄善の腹部に蹴りをぶちかました。


栄善はふらつく。


「グッ...!?」


「やった!!」


弟子たちは歓声を上げた。

阿修羅も得意げな表情を浮かべ、次の攻撃に出た。


が、


栄善は阿修羅の渾身の殴打をつかんだ。

すると、栄善は自身の人差し指と中指を突き出し、阿修羅の胸部へ狙いを定めた。


「!!いかんッ!!!」


永越は手に持っていたつえを全力で投げた。


「うぐッ!?」


つえは栄善の腕に見事に命中した。

これにより、攻撃の軌道がずれ、栄善の攻撃は阿修羅の肩に命中した。


「ぐっ...!?あ...ああああああああああッ!?」


阿修羅は直後に生じた激しいしびれと痛みに顔をゆがませ、情けない叫び声を上げた。


「くっ...!あの一瞬で狙いを変えたのか...!」


「クックック...」


栄善は今度こそ狙いを定める。


が、


「てやあっ!!」


リンが栄善に蹴りを繰り出した。

栄善はそれをかわすと、少し距離をとり、自身の服をはたき始めた。


「......興が冷めた。少しは楽しめるかと思っていたのだが、残念だ」


そう言うと、栄善は階段を下って行ってしまった。


「ふう...行ったか。ったく...とんでもねえことになったな」


ダイは腕を組みながらそう言った。


シュウは突然の事態の連続に頭が追い付いてないという様子だ。


「師匠...私たちは、どうすれば...」


「鍛錬を積む。ただそれだけじゃ。ヤツの魔の手から、この道場を...町を守るために...!」


「「「はい!!」」」


「さてと...。阿修羅よ、大丈夫かの?」


「まだ...まだ負けてねえぞ...師匠...!俺ァ負けてねえ!!」


「無茶をするでない...。............全治2日と言ったところじゃな...」


「2日!?」


「うむ。それまでは休息をとるようにの」


「そんな...!アイツらがいつ来るかもわからねえってのに...!」


「だったら、無駄な戦いを仕掛けないことじゃな」


「ッ...!」


阿修羅は黙りこくってしまった。





2日間の休息期間、阿修羅は他の弟子たちが鍛錬を積む様子をただ窓から見つめた...。





2日後...結局栄善は来なかった。

不幸中の幸いと言ったところか。


「よし!これから鍛錬再開だ!」


「......阿修羅よ」


「ん?なんだ師匠?」


「汝には...『破の秘孔』を教えることにした」


「「「!?」」」


3人の弟子たちは驚きを隠せない。


「しっ、しかし、師匠!その技は─」


「わかっておる。儂の生涯における最大の過ちじゃ」


「?」


永越はある段差に腰かけた。


「何が...あったんだ?」


「阿修羅よ。2日前、栄善に受けた攻撃を覚えておるか?」


「ああ。なんていうか、異様だった」


「あれが『破の秘孔』じゃ」


「!!」


そう、永越の生涯における最大の過ち...それは...


「儂は、教えるべき人間を間違えてしもうたのじゃ...」





今から15年ほど前...永越は戦場跡で、ある少年と出会った。

その子には名がなかった。

永越は、身寄りのないその子を弟子として道場に置き、栄善という名も与えた。


栄善は武の才能の塊だった。

5年の歳月をかけ、永越は彼に武の技術のほとんどをたたき込んだ。


そんな中の...ある日のことだった。


「栄善よ、儂は汝を『継承者』として本格的に育てようと思うとる。よいな?」


「はい!師匠!」


「それでは、これから汝に最後の稽古をつける。汝には『破の秘孔』を習得してもらう」


「破の...秘孔?」


「うむ。その技は、秘孔を突くだけでどんな強者をも一瞬で沈められる。......そして、人を殺すこともな」


「人を...殺す...」


「よいか、栄善。これはあくまで他者を守るための技じゃ。それを忘れるでないぞ」


「............はい、師匠」


こうして永越は栄善に『破の秘孔』を教えた。

彼こそが自分の『継承者』にふさわしい者だと確信していたからだ。


しかし......


ある朝のことだった。


「む?栄善?」


栄善が突如として姿を消した。


その後、栄善を探しに町の入り繰りまで来たときのことだった。


「永越さん!!」


一人の町人が息を切らしながら向かってきた。

その顔は恐怖で歪んでいる。


「なにがあったのじゃ!?」


「奴だ...!栄善が...やりやがった!!」


「栄善じゃと!?」


永越は駆け足で町を回った。

そして...



「栄善!!」


「!!...師匠」


そこにあったのは、いくつもの死体に囲まれながら、新たな『獲物』に手を下そうとしていた栄善の姿だった。


「これは...一体何じゃ...!?汝が...やったのか...!?」


「あーあ、ばれちまった」


「!?」


栄善は『獲物』を投げ飛ばすと、永越のほうへと向きなおった。


「そうだ。俺が殺った」


「何故....!?」


「やりたかったんだよ。ただ、やってみたかった。それだけだ」


「...何?」


「この技は本当にいとも簡単に人を殺せる。それを知ったここにいるやつらは恐れをなして俺に逆らわない...。『力』とは...こうも素晴らしいものだったんだ...!」


栄善は恍惚しきっている。


「優越感に溺れたか...!愚か者め...!」


「愚かなのは師匠だ。こんな力を持っているのになぜあんなチンケな道場なんかに居座り続ける?」


「...師匠ではない」


「何?」


「儂はもう、貴様の師匠ではないと言ったのだ!!栄善!!貴様を今日より、破門とする!!二度と、道場に足を踏み入れるな!!!!」


「!!フッ...フフフッ...アハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」


「...!?」


「ああ、好きにするがいいさ。もう用は済んだ。俺は上り詰めてやるぜ。この『力』でな...クックック...」


そう言って、栄善は立ち去ってしまった。

この出来事は永越にとって、師匠としてこの上ない失態として、彼を今も苦しめ続けている。





「そんな中、ヤツはついに帰ってきたのじゃ。それも大層な『野望』を抱えてな」


「...師匠」


「なんじゃ?」


「俺...怖いよ。『破の秘孔』。そんなの覚えて、俺、大丈夫かな...」


「その思いがあるなら十分じゃ。それに、汝の心には、確かに四徳がある」


「仁義礼智か...」


「うむ」


「栄善には教えなかったのか?」


「あの時は、儂もまだ若かった。ただひたすらに、栄善を最強の『武人』にしたかった...。例え...四徳を無下にしてでも」


「.........師匠、それに皆」


「「「「...?」」」」


「もし俺がアイツみたいになったら、すぐにでも殺してくれ。どんな卑怯な手を使って殺してもらっても構わない」


皆はゆっくりと、嚙み締めるようにうなずいた。


「それでは...阿修羅よ、汝に最後の稽古をつける。『破の秘孔』...しかとその体に叩き込め!」


「押忍!!!!」


阿修羅は、これまでにない勢いで返事した。

彼は覚悟を決めた。


全ては、『大切なもの』を守るために...

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