第6話 「入門」
まず、攻撃に出たのは阿修羅のほうだった。
素早い身のこなしで永越の背後に回り、蹴りをお見舞いする。
が、
「!?」
かわされた。
「クソッ...!」
次は殴打をお見舞いしようとしたが、腕を杖で抑えられ、そのまま阿修羅は蹴っ飛ばされた。
「......は......?」
明らかに老人の蹴りじゃない。阿修羅は予想外のダメージに困惑と驚きを隠せずにいた。
その後も何度も攻撃に回った阿修羅だが、すべて杖で防がれ、反撃の突きの雨を喰らい、ついに動けなくなってしまった。
「......な、なん...」
「思うように身体が動かんじゃろう。それもそのはず、儂は汝の『秘孔』をついたからのう」
「秘孔...?」
「杖で突いたじゃろう?」
「ああ...あれか」
すると、永越は阿修羅に近づき、杖を向ける。
「......へ?」
「ええいっ!!」
「えっ!ちょっ!?」
次の瞬間、永越は物凄い速さで再び秘孔を突いた。
「......ん?あ、動ける」
「再び秘孔を突いたからのう。さて......本題に入るとするかの。......阿修羅よ、汝には並外れた武術の才が眠っておる。どうじゃ?儂のもとでその才、磨いてみたいとは思わんか?」
「才を...磨く...」
阿修羅は辺りを見渡した。
その先には陽朗もいる。陽朗はうれしそうな顔でうなずいた。
「............わかったよ。俺、アンタのもとで修行する。んでもって、この世一の『武人』ってやつになってやる!!」
永越は少し微笑んだ。
「よし。ついてこい。それと...」
「それと?」
「儂のことは『師匠』と呼びなさい」
「え~?」
「それでは、ゆくぞ!」
次の瞬間、永越が突然走り出した。老人とは思えないほどの速度だ。
阿修羅も懸命についていく。
その途中、岩の柱が乱立する道があった。
下を見ると、そこにあるのは、奈落。
「......嘘だろ?」
にっとわらうと、永越は軽快な動きで岩の柱を飛び移っていった。
阿修羅は唖然としながらも、それに懸命についていった。
「おっととと...」
何度か落ちそうになりながらも、生まれ持った高い身体能力でそれを乗り越えた。
次にあるのは、つるが何本もつるされている道。
「......行くしかねえか」
阿修羅は永越に続き、つるにつかまりながら飛び移り、向こう岸へたどり着いた。
ターザンで有名な、アレだ。
そして...
「ぜえ...ぜえ...やっと...見えてきたぞ...」
これらの過程を長い長い距離を経てやっと終わった阿修羅。
しかし、そんな彼を待ち受けるのは、それもまた気の遠くなるほどに長い長い階段...。
「あ...ああ...」
阿修羅は絶望した。
しかし、永越はなんのこれしきと、軽々と階段を駆け上っていく。
阿修羅も顔をしわだらけにしながらそれに続いた。
そして...
「さ、ここが儂らの道場じゃ」
「...儂“ら”?」
「「「とうっ!!」」」
すると次の瞬間、3人の若者が道場の屋根から飛び降りてきた。
一人は少女、一人は大男、一人は小柄な青年。
「アタシはリン!!」
「俺はダイ!!」
「僕はシュウ!」
それぞれ、少女、大男、小柄な青年が名を名乗った。
全員、阿修羅よりは年上だ。背もシュウ以外は阿修羅よりも高い。
「儂の弟子たちじゃ」
「へえ............じゃあさ、聞くけど...お前ら、弟子入りしたとき、“あの道”渡ってここに来てんのか?」
3人はもちろんと言わんばかりにうなずく。
阿修羅はあっけにとられた。
「アンタが例の?思ったより大したことなさそうね」
リンは眉をひそめ、半笑いでそう言った。
「な...なにを~!?」
「阿修羅よ。リンはこの中では最強じゃぞ。今の汝では勝てん」
「んなもん...!やってみなきゃ分かんねえ!!」
阿修羅はリンに飛び掛かった。
が、
「ほら、だから言ったじゃない」
「」
阿修羅は完膚なきまでにボコボコにされてしまった。
「う、嘘だろ...。俺、一応シャーマンなのに...」
「怠けてりゃ、シャーマンだろうがなんだろうが同じよ」
「な、怠けてる...!?」
「弱い者いじめばっかやって金稼いでも、強くはなれねえだろうよ」
ダイはそう言った。
確かに、今まで戦ってきたのは、自分よりも弱い盗賊たちだ。
それに、山の中を跳び回ってたとはいえ、それも危険の少ないものだったからできたことである。
阿修羅はそれ以上言い返せなかった。
「そういえば師匠、食料がそろそろ尽きる頃ですよ」
「む、そういえばそうじゃったな。シュウよ」
「どうすんだ?」
「そうじゃな...。阿修羅よ、買い出しに行って参れ。この紙に項目は書いてある」
「え、今から?」
「うむ」
「どうやって?」
「さっき渡ったじゃろう?」
「うっそだろ...」
「アタシらにとっちゃ、それが日常よ」
阿修羅はショックのあまり失神してしまった。
そして数分後...
「う、う~ん...」
「ほれ」
「............ん?かご?」
「これを渡すのを忘れとった」
「.........」
3人の弟子たちと目が合うと、彼らは笑い返してきた。
「......鬼だ。こいつら鬼だ...」
多分、行かなければ永遠に飯は食えない。
そう確信した阿修羅はしぶしぶかごを受け取り、買い出しに行くのだった。
さあ、地獄の修行の始まりだ。
覚悟を決めた阿修羅は階段を勢いよく駆け下りていく。
彼の中にあるのはなにも絶望だけではなかった。
もう一つ、彼にあったもの。それは、これから始まる『新たな日常』への大きな期待感だった。