第5話 「期待」
今から2000年ほど前...舞台は中国...
そこでは、あるアシュラ一族の者が、自らを高める『何か』を探しながら、日常を彷徨っていた...
ある山の中、ある男が木々をかいくぐりながら駆け抜ける。
彼は黒髪に赤目。アシュラ一族だ。
その名は、阿修羅。
数分すると、数人が木々をかいくぐりながら現れた。
青龍刀を装備した盗賊たちだ。
「いたぞ!!あいつだ!!」
「おとなしく持ってるもの全部渡しやがれ!!」
阿修羅は盗賊たちのそんな脅迫にも怖気づかず、逆に不敵な笑みを浮かべた。
「やーだよっ!!欲しかったら俺を倒してからにしな!!」
そう言うと、阿修羅は突然立ち止まった。
盗賊たちは皆青龍刀を構える。
「さて、と...いっちょやるか!」
阿修羅は一人目に斬りかかってきた盗賊を、相手の斬撃をかわしながらの顔面への肘打ちで沈める。
「借りるぜ!」
そのまま沈めた盗賊の青龍刀を装備すると、阿修羅は刃を自分の側に向けた状態で構えた。
斬るつもりはないようだ。
「なめやがって...!」
次は2人がかりで斬りかかってきた。
阿修羅はそれもものともせずに、軽い身のこなしで相手に近づき、青龍刀での打撃で2人を一瞬で沈めた。
その後、阿修羅は木の上に登る。
すると...
「待ちやがれーッ!!」
枝を飛び移りながら一人の盗賊が向かってきている。
こちらの枝に来るつもりだ。相手はそのまま阿修羅のほうへと跳んだ。
阿修羅はまた不敵な笑みを浮かべると、相手がこちらの枝に飛び移ってくる前に、相手のいるほうへと跳んだ。
相手は予想外の動きに対処できず、阿修羅の蹴りによって空中で沈められ、ガタガタと木の枝にぶつかりながら地に落ちていった。
「「うおおおおおッ!!」」
「おわっ!...っと」
突然2人に後ろから襲撃を喰らいそうになった阿修羅は、ギリギリで攻撃をかわすと...
「フンッ!!」
一瞬だけ瞳が桜色になり、阿修羅は足にドウッ!と力を入れた。
すると、3人のいた枝が折れ、突然の事態に対応できなかった2人はバランスを崩してしまい、反撃の準備ができずに阿修羅に沈められてしまった。
しかし...
「って...うわああああ!!」
思いのほか枝が早く折れ切ってしまい、阿修羅も2人とともに木から落ちてしまった。
が、さっき沈めた2人を下敷きにすることによって何とか難を逃れた。
その後、少し進むと、山からの景色がはっきりと見え始めた。
異民族の侵入を防ぐために建設中の大規模な『長城』。
その下に広がる緑豊かな平原。動物も躍動している。
それはまさに、大絶景であった。
阿修羅は、大きくのびをしながら、その絶景を満喫するのだった。
「おやっさーん!帰ったぜ!」
「おう、阿修羅か!やっぱいたか?」
「いたいた、ほらッ」
阿修羅は縄で拘束した盗賊たちを前に投げ出す。
阿修羅におやっさんと呼ばれている者、その名も陽朗は、その面々を確認する。
「やっぱな~。山ん中にゃあ盗賊が住み着く」
そう言うと、陽朗は阿修羅に報酬を手渡した。
「にしてもよ、阿修羅。お前ここに来て何年目だ?」
「ん~?5年目じゃね~?」
「そっかあ...もう5年か...」
「なんでさ」
「いや、お前もそろそろやりたいことがあるんじゃないのか?」
「う~ん......ないな、今は」
「そっか。でもよ、阿修羅」
「?」
「若いうちは、やりたいことは全部やっとくもんだぜ。そうすりゃ自分をもっと高められるってもんだ!」
「そういうもんかねえ...」
「ああ」
「う~ん...」
「ま、やりたいことができたら言ってくれよ。できる限りのことはするぜ」
「いらねぇよ。ただでさえ身寄りのない俺をここまで使ってくれてんのに、これ以上は求めらんねえ」
「俺はお前のおかげで助かってんだぜ?ただの商人だった俺がここまで成り上がったのはお前のおかげだ」
そう、陽朗はもともとただの商人だった。しかし、当時、戦によって身寄りを無くした阿修羅を引き取り、その屈強さを見込んで、周辺の治安維持として彼を雇用した結果、今では村への貢献度で1、2を争うほどの者となった。
「...そこまで言うなら」
「おう!」
こうして、その後、阿修羅はいつも通りの1日を過ごし、眠りについた。
翌日...
なにやら騒がしい。
「......なんだよぉ。騒がしいなあ...」
阿修羅は大きなあくびをしながら村の中心へ向かう。
皆がある者を取り囲んでいる。老人だ。つえをついている。
「なんだぁ?あのじいさん。見ねえ顔だな」
老人は少し困っているようだ。山のふもとにあるこの村には盗賊以外のよそ者が滅多に来ない。そのため、村人たちが見物に集まったというわけだろう。
「おいお前ら!そこの爺さんが困ってんじゃねえか!!通してやれ!!」
群衆はそんな阿修羅の声を聞くと、少しずつ道を開け始めた。
「大丈夫か?じいさん」
「.......」
「な、なんだよ。そんなに見つめて.....。俺の顔に何かついてんのか?」
「汝が阿修羅か?」
「え、ああ、そうだけど。なんで?」
「『なんで?』というのは....『なぜ分かったのか』ということかな」
「ま、まあそうだな」
「フンッ!!」
「おわっ!?」
突然老人がつえで突きをお見舞いしてきた。
阿修羅はそれをかわす。
阿修羅は頬から激痛が走った。かすっていたのだ。
この攻撃、老人の『それ』じゃない。阿修羅はそう思った。
「アンタ....何者だ?」
「儂は永越。『武人』じゃ」
「......『武人』?」
永越はうなずく。
「あの一撃をかわすとはのう...。これは期待できそうじゃな。もしかすると“ヤツ”を超えられるやもしれぬ...」
「何ブツブツ言ってんだ!俺に用があるんだろ?さっさとしてくれ!」
「......そうじゃな。それでは、一度手合わせと行こうか」
「は?」
「安心せい。ある程度加減はする」
「いや、そういうことじゃ─」
「構えい!」
「ッ!!」
阿修羅は反射的に戦闘態勢に入った。
この老人の威圧感。明らかに普通じゃない。阿修羅はそう思った。
「よいか?阿修羅よ......殺す気で来い」
「!?」
永越から物凄い眼光が走る。
永越はつえを自身の前に出し、構えた。
今までにない緊張感の中、阿修羅は大地を蹴り、永越へと向かっていくのだった...。