表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

第3話 「怪事」

雨が降ってきた。


ゲオルギオスは作品が濡れないよう、布で覆った。


「今日は...このぐらいにしておこう」


そう言うと、ゲオルギオスは就寝した。





一方その頃...


「はあっ...はあっ...!」


一人の老人が夜のアテネの街を疾走する。

その様子は、まるで何者かに追われているかのようだった。

数分後、老人の目の前に突然槍が降ってきた。

槍はそのまま地面に刺さる。


「!!.........ハッ!?」


老人が後ろを振り返ると、そこには黒いフード付きのローブに身を包んだ者がいた。


「き、貴様...!何者だッ...!私に一体何の用だ...!?」


「故郷のために、死ね」


「ッ!!」


さっきまで地面に刺さっていた槍で老人は突かれ、絶命した。


「死んだぞ」


老人を殺害した者は仲間を呼び寄せた。


「.........間違いない。こいつだ」


仲間の一人がそう言うと、何らかの細工をし、彼らはそのまま闇夜に消えていった。





翌朝...


なにやら騒がしい。


「...なんだ?」


目をこすりながらゲオルギオスは外に出る。

すると、何かを人々が取り囲んで騒ぎ立てていた。

ゲオルギオスは人々を押しのけ、取り囲まれている何かを確認する。


「これは...!」


そこにあったのは老人の遺体。何等かに刺された痕もある。

ゲオルギオスには分かる。これは槍で刺された痕だ。

しかもその老人、ゲオルギオスは何者か知っている。

というよりも、アテネ市民ならほとんどが知っている。

それもそのはず、この老人はアテネの敏腕役人であり、選挙で選んだのはゲオルギオスを含むアテネ市民である。当時のアテネは徹底的な直接民主制のポリスであった。


「ちくしょう...!いったい誰がこんなことを...!」


「どうしよう...とにかく弔ってあげないと...」


「おい待て!何か地面に書いてあるぞ!」


そんな市民の会話とともに皆が老人の周辺の地面に書いてあったものを確認しようと押し寄せた。


「......ゼ ウ ス?」


「なぜ...全能の神の名が...?」


謎は深まるばかりだ。

その後、老人の葬儀が行われ、それからはいつもの日常の風景へと戻っていった。

ゲオルギオスもいつものように依頼をこなし、作品造りに汗を流し、そして眠りについた。





翌朝...


またなにやら騒がしい。


「今度はなんだ...」


ゲオルギオスが見たのは、昨日と同じような景色。

違うのは、殺された者の特徴。

今回殺されたのは女性。

彼女は一昨日婚姻の儀が執り行われた、つまり新婚の妻ということである。

そして彼女の周辺の地面に書かれていたのは...


「次はヘラか...。なんてやつだ!神の名を人殺しとともに用いるとは...!」


ある者はそう言って憤慨した。


「ゼウス...ヘラ...」


ゲオルギオスは二つの神の名を復唱しながら今日も作業に打ち込んだ。


その翌日には鍛冶屋の者。ヘパイストスと書いてあった。

そしてさらに翌日には旅人の者。ヘルメスと書いてあった。

その後も、主婦とヘスティア、農民とデメテル、木こりとアルテミス、美男とアポロン、美女とアフロディーテ...。


「.........まさか...いや。どうなんだ...?」


人混みの中、ゲオルギオスは一連の事件について、何らかの共通性を見出そうとしていた。

そして翌日...


「今度は輸送船の船員だ!」


「ポセイドン、か」


この瞬間、ゲオルギオスは、心の中で打ち立てた仮説が決定的になったように感じた。





「よかった...!まだいたか」


「おう!どうした!?」


ゲオルギオスが寄ったのは、以前柱造りを依頼してきた、かつての戦友。


「お前、今日は俺の家に泊まっていけ」


「は?なんで」


「いいから泊っていくんだ!!......すまない。事情を話す」


ゲオルギオスは彼に一連の事件の仮説について話した。


「へぇ~。で、俺がアテネいちの怪力だから、次は俺だと」


「ああ」


「なるほどなあ、ま、俺はそう簡単に─」


「............」


「わ、分かったよ。行けばいいんだろ?」


「ああ、苦労をかける」


その後...


「何?お前の家に?」


「はい。これは『戦争』です」


「......なるほど、そういうことか」


次にゲオルギオスが寄ったのは、将軍の家。

数々の戦果を挙げたゲオルギオスのことを気に入っていた将軍は、ゲオルギオスの説得に応じた。


こうして、ゲオルギオスは彼らを自身の家、つまり工房へ迎え入れた。


そして、その日の夜...


ゲオルギオスは盾と槍を装備し、待機していた。


すると、


「お、おい誰か来るぞ...」


「シッ...!静かにしろ...」


足音が工房へと向かってきている。

そして...


「......」


足音は工房で止まった。


「よう」


工房へ入ろうとする者にゲオルギオスは一挨拶した。

相手はどうやら一人で来たようだ。

相手はフードをとった。

顔があらわになる。

その正体、それは...


「......2年ぶりだな、レ二」


「そちらもな、ゲオルギオス」


そう、犯人の正体はレ二とその仲間たちだったのだ。


「戦争は終わったはずだが?」


「俺たちにとっての戦争はまだ終わっちゃいない...!なぜなら...俺は今ここで生きている!」


「お前一人がペルシアの全てとでも言いたいのか?」


「今はそうだ」


「勘違いもいいところだな」


「.........謎が解けたようだな」


レ二は話を逸らす。

ゲオルギオスはそれに感づきながらもそれに応じた。


「オリュンポス12神の名を使うとはな...。1人目は敏腕役人から全能の神ゼウス、2人目は新婚の者から婚姻の神ヘラ...。そして残り2人、後ろの2人で当てはめるなら、アテネで評判の怪力で元兵士から軍神アレス、将軍から戦略の神アテナ...そうだろう?」


「その通りだ」


「なぜオリュンポス12神の名を?」


「哀れだとは思わんか?自らが信仰している神のせいで殺害の対象になるのだ」


「...なるほど」


「そして、お前もその対象の一人だ」


「なに?」


「俺は神の名一つあたり一人殺害するとは言ってない。アテナは工芸の神でもある。つまり石工のお前も、その一人だ」


そう言うと、レ二は槍を構える。

ゲオルギオスも戦闘態勢に入った。


たった今、そこでは再び『戦争』が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ