もーもー族の乳牛小奈は、貧乳でお悩み中
モノや動物の『擬人化』が進み、さまざまな種族が誕生した──遥か先の世界の片隅に。
悩める少女が一人いた。
「も~....」
少女──もーもー族の乳牛 小奈は、憂鬱そうな表情で自分の胸を、頻りに揉んでいた。
しかも、「爆乳生搾り白乳」とかいう卑猥な単語を大々的にプリントされた──よりによって、貧乳の少女がそのようなTシャツを着ているのだ。
この状況はあまりに特徴的で、見る人によればカオスと表現しそうなぐらいだ。
そんなぐらい意味不明な状況下で、平然と居座るもう一人の少女──こちらは生粋の人間である羽那 亜千屡がいた。
間違っても、胸を揉んでもいないし、「爆乳生搾り白乳」とかいうTシャツも来ていない。
ただ、小奈と比べて胸は大きかった。
「でさ、いつまで悩んでるつもりなん? そんなに揉んだって、大きくならんよ」
小奈より胸がデカい(重要な外見特徴なので、二度いわしてもらう)亜千屡は、呆れたといわんばかりに投げやりに言う。まぁ無理もない。なにせ、目の前でずっと他人が胸を揉むところを見せれている身なのだ。
最も彼女にも、こんな状況を生み出した責任の一端はあるにはある。『胸を揉むと大きくなる』なんていう都市伝説を面白半分で教えた結果、招いた惨劇がこれだ。自業自得というには、あまりに酷だけれど。
「そこまで胸の大きさに拘んなくても、あんた顔が可愛いんだからそれで良くない?」
「も~! 私にとっては一大事なんだよ!!」
一気に締めに入ろうと、亜千屡はお膳立てるも、逆に小奈の反感を買ってしまったぽい。つくづく、亜千屡はついていなかった。ひょっとすると、亜千屡は薄幸体質なのかもしれない。
「あのねぇ、亜千屡ちゃん! もーもー族にとっては、胸の大きさが美の象徴なんだよ~! つまり、爆乳であればあるほど、美しいとされているの」
「そりゃ、また面倒な美的感覚だなぁ。じゃ、貧乳の小奈はブスってことになるん?」
「なぁ!? ど、ど直..だね。うーん、まぁそうなのかな....」
いっそう、しょんぼり項垂れる小奈。それを見て慌てて、亜千屡はフォローに徹する。
以降、長文会話が続くが。暫し彼女らの、会話を楽しんで頂ければと思う。
「あ、でもでも! 今はね、意外と貧乳キャラが流行ってんだよ!! なんて言うのかな、うーん。ロリっ子の需要が増えた感じ? みたいな。ほら、ロリっ子って大体、貧乳でしょ?」
「いやでも、それは人間の感性なんじゃない....」
「えっと、いやいや。ロリなんて、世界共通どころか種族共通みたいなもんでしょ。皆好きだって、ロリ!」
「そうかな? もっとお姉さん系の方が、皆好きなんじゃないの?」
「はぁ~分かってないな。小奈、ロリっ子舐めてるでしょ? ロリっていうのはね、小さいから幼いから、めちゃくちゃ可愛いんだよ!!」
「あははぁぁ....亜千屡ちゃん、熱く語るね..」
「いやそりゃ。ロリである小奈の魅力を分からせる為には、まずロリっ子が何たるかを解説しないとね」
あぁ、まずい。すっかり亜千屡は、オチを見失ったようだ。仕方ない。亜千屡には、目一杯ロリっ子について語らせよう。
──さてさて。お気付きの方も居るかもしれないが、この話にオチはない。オチなんて存在しないお話だ。そうは言っても、やっぱりここまで読んでくださった読者は、納得がいかないだろう。
敢えていうなら、結局小奈の悩みはまだまだ「お悩み中」の真っ只中なのだ。女の子の悩み事ほど、デリケートなものはないんじゃないかな?