32. うつけ父の思い!
私の息子…レン=ラインブルー。
私とエリザとの初めての子どもだ。
幼少期は,大人しい子どもだという印象だ。
王城の,書庫に毎日通って本をずっと読んでいた。メイドのサユリいわく,読んでいる本のジャンルは様々…童話や恋愛もの,王国の歴史,王国の法律,周辺国の歴史,等々
元々,自頭が良い方だと思っていた…。
王国内の教育係から,読み書き・算術を教えた際の呑み込みの早さは,兄妹三人の中で,一番早かったみたいだ。教育係いわく…レンと同じ,感覚でシオンに教えたらシオンは,頭をパンクさせてしまったらしい…
正直,私はこの頃からレンに政治家としての才能を感じていた。
私の後を継いだ時に,困らないよう色々根回しもしていた。彼の傍仕えとして,サユリの娘・コノハを付けた。執事には,立候補してきたリーヴァンを付けた。立候補してきた時の熱量に,私が折れたのだ。
しかし,順調に育っていたレンに奇行が見られだした。
十歳になってから,頻繁に王都の街に出歩くことが,増えたのだ。
レンが,初めて王都に出歩いた日。私は,レンに国王の仕事を見学させようと彼を呼びに部屋に行くと……そこには,メイドのコノハとレン?が居たので…レン?を連れて執務室に向かい見学させていた。
ふと,違和感を覚えた。
それは,立ち方の癖だ。レンは,左足に体重をのせる癖があったが…この日のレン?には無く…バランスよく直立に立っていた…どちらかというと,彼の執事のリーヴァンの立ち方の癖に似ていた。
「お前は,リーヴァンか??」
「いえ!レン?です!」
「いや,リーヴァンだろ…レンは,そんな口癖ない…」
「はぁ~やっぱりバレましたか……」
何故,リーヴァンが変装していたのか,問いただすと…
「レン様が…街に遊びに行く際…王城に自分がいないと…父上が怒るから,変装しておいてくれと……」
うん。怒られるとわかっていて,リーヴァンに変装させてまで,街に遊びに出るとは……帰ってきたらお説教だな…
その日は,レンの帰宅予定時間に,レンの部屋で待ち構えて帰って来たレンにお説教となった。
これに,懲りてお忍びで街に出ることは無くなると思っていたが……レンは,開き直ったのか変装もせずに,王城の正門や裏門から堂々と街に遊びに出るようになった。
そして,レンはしでかした。
その日は,オノフェス男爵家が王都に来て,謁見の予定だった。謁見の場には,レンとオノフェス男爵家の三女リーナも同席して行う予定であったが……
まず,自由人と聞いていたリーナが姿を消した。オノフェス男爵家当主の慌てた表情は,既視感を感じる。
続いて…続報が来た…どうやら…レンとリーナが,一緒に王都を散歩しているみたいだ。
類は友を呼ぶという奴か……
ここからは,僕とオノフェス男爵家当主の二人で謝罪合戦が始まったが…お互いの子どもに手を焼いているという話で大分盛り上がった……ある意味,話題に困らなかったが……王族と貴族の会話ではない…
レンとリーナの二人が,王城に帰ってきたら,謁見開始!!かと思ったが…私とオノフェス男爵家当主の二人でのお説教となったので,謁見は,翌日に延期になった。
翌日の謁見では,レンとリーナの二人はずっと外の景色を見ていた。やっぱり,レンの妻としてはリーナみたいな人がいいのかな…と思った日だった。
そして,レンは貴族学校に入学した。
そこからだ……レンが,貴族連中の中で「うつけ者」と呼ばれだしたのは……
公務をこなしていく中で,貴族連中から
「王位継承権第一位をシオンに移しては…」
という意見を言われるようになった。
しかし,幼少期に見た,政治家としてのレンの才能に掛けてみたいと思った。そのため,王位継承権第一位をレンから移す考えは無かった。
そして,レンが十五歳になって秘書官を任命して私の元で働くことになる日になった。
この日,レンは政治家としての才能を発揮した。
侯爵家以上の人間から秘書官を選ぶ。私の時もそうだったので同じようにしたが…
レンは,王国法に違反していると指摘してきた…
そして,レンはマナとリーナを連れてきた。
レンは,二人を秘書官に任命したいと言ってきた。ここは,私と違うと思った。私は,父親に言われるがまま侯爵家以上の貴族家から秘書官を選んだ。
しかし,レンは,自ら出会った人の人柄や性格等を自分の眼で見たうえで…二人を秘書官にしたいと言った。
その時,私は人前もあったので平然?とした態度を取ったが…内心,あの時の私の眼は間違いでは無かったという片鱗を見せてきた。
そして…その才能の片鱗を見せたのは,裁判だ。
そこは,私や妻のエリザにとって人生の分岐点となった日だった……。




