189. 不安な心
レンは、エリザと話していた部屋を出ると、食堂で待っているであろう、マナとリーナを呼ばずに……というか、食堂にすら寄らずに、自身の執務室に向かった。
夕方も過ぎて、普通なら夕ご飯を食べる時間だ。
あぁ、そうか。だから、マナとリーナは、休憩ついでに夕ご飯を食べに行ったのか。正直、お腹が空いているが、ご飯を食べている時間が惜しい。
執務室に入ると、移動された通信機が置いてあり、メモ書きも置いてあった。月明りを頼りに、メモ書きを読む。
『レン様。 ニック様が、急ぎ王城へ向かうと。 早くて明日の夕方頃にいらっしゃるそうです』
リーヴァンからのメモ書きだった。
メモ書きを見た、レンは、フフッと笑った。
「そんなに急がなくてもいいのになぁ~~」
レンは、執務室の自分の椅子に座り、机に置いてあるランプを点けて、手元だけを見えるようにする。レン一人で、公務をする際の定番のスタイルだ。
マナとリーナと賑やかに働くのもいいが、こうやって一人で公務をこなす時間もかなり落ち着くと言った所だ。
まぁ、部屋が暗い中で、ランプを頼りに仕事をするスタイルは……あまり、いい方法では無い。
王政に関わりだした頃、公務をこなしていくなかで、どうしても時間が足りなかった仕事があり、マナを返した後に、執務室で仕事をしている所をコノハに見つかり、過労を心配された。
だから、余り周りに心配をかけないように、このスタイルを編み出したら……思いのほか気に入ってしまったのだ。
この、ライトが照らしている部分だけに、視界を集中させて仕事をする。これは、かなり仕事のスピードが進む気がする。
◇◇◇
私とリーナは、休憩がてら食堂で夕ご飯を食べていた。
今日は、夜遅くまでお仕事が予想されるので、たらふく食べて、英気を養うためだ。それと、レンくんが、エリザ様と話し合いを終えたら、夕ご飯を食べに来ると思ったので、食堂でレンくんを待つことにした。
最初は、レンくんがエリザ様と話し合っている間に、私たちで公務を進めようと思ったが、レンくんが、それを許さなかった。
デートナシにする。
私にとって、かなりこの言葉は、響いた。
『うつけ者』と言われる位に、レンくんは、破天荒な言動をしまくり、気心知れた人物の前なら明るく振る舞い、妹のマホちゃんの前では、お兄ちゃんの顔を見せている。
そんなレンくんなので、コノハやリーヴァンには、二人きりでデートの一つや二つしているものだと思われていた。もちろん、マホちゃんにも。
レンくんは、一見すると軽そうな男の子に見える。しかし、中身は、ガードが堅い男の子なのだ。
しかも……しかもだ!
そこに、鈍感と言うカードが、付いている。これが、かなりやっかいだ。
この鈍感堅物な男の子に、アピールにアピールを重ねてやっと、漕ぎつけたレンくんとのデート。無駄には、出来ない。
リーナは、パスタで、私は、サラダを食べている。
レンくんと、エリザ様が、話し出して三十分以上経過している。もうそろそろ、終わるか頃かと思い、残り少なかった、夕ご飯を食べ終えて食器を片付けて、レンくんが、食堂に来るのリーナと共に待つ。
「……今日さ、公国のスズカ様へのアポイントを私が取れって言われた時、驚いたよ」
さっきまで、レンくんは、オレジアナ公国のスズカ様と通信機越しで、会談していた。
このような、他国の重鎮との会談のアポ取りは、これまで、私の仕事だった。しかし、今日は、リーナに命じていた。
ただ単に、リーナに、対外的な業務を経験させることを目的なら理解出来る。
しかし、一つの不安がある。
レンくんの中で、私の評価が、落ちたのではないかということだ。
貧民街出身の私が、レンくんの隣に居続けるためには、結果を残して評価されるしかない。
レンくんは、首相から国王に立場が変わる。立場が変わるという事は、彼の周りに仕える人物を入れ替えるのには、丁度いいタイミングだからだ。
「ねぇ、レンくんが、国王になっても……私たち、レンくんの傍に居れるかな……」
「やっぱり、それが不安なんだね」
「うん。 本当に、私的感情が半分以上占めているのは理解してるけど……レンくんから離れたくない……」
日に日に、不安になっている。
レンくんが、目指す国家改革のサポートを出来ているのか……彼の支えになれているのだろうか。
「大丈夫じゃない?少なくとも、秘書官外されるとしたら私の可能性高いからなぁ~~」
皆、そう言ってくれる。
エリザ様だったり、コノハだったり……レンくんに近い人物は、こう言うが、レンくんから直接言われたことがない。
「あれ?マナちゃんに、リーナちゃんん?」
食堂に入って来たのは、エリザ様だ。
レンくんの様子は、無い。
エリザ様も、私たち二人を見て、キョトンとしている。
「ねぇ、二人とも、レンと合流してないの?」
「時間的に、エリザ様とお話を終えたら、食堂に来ると思って……」
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