175. さようなら
裁判所には、トクヤとシオンが、拘束された状態で、居た。
レンは、裁判所の王族が座る椅子ではなく、二人の目の前に、椅子を持って来て座る。エリザとマホは、傍聴席に移動して座った。
「レンお兄様……卑怯ですよ!!男なら正々堂々と――」
「――内戦を防ぐのに正々堂々と戦う必要ないでしょ? だって、内戦起こせば……民が苦しむ。君は、自身の権力掌握欲求で民を苦しめようとしたんだよ? 僕が、一番怒る展開だって、解らなかった?」
シオンが喋っていたが、レンが、遮って喋る。
普段、明るい人の敬語で淡々と話す事ほど、恐怖を感じるものはない。シオンは、さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、一瞬で大人しくなった。
トクヤが、裁判所にレンが入って来た時から、ずっと大人しいままだ。レンは、そんなトクヤの様子が、少し不思議に思った。
普段の怯えたトクヤなら、この展開になったら命乞いをしてくると思っていた。
「父上は、大人しいですね」
レンは、トクヤに直球的に話しかけた。
トクヤは、覚悟を決めた表情になっていた事をレンは、感じ取った。
「……レン。少し、自由に発言を許可して貰えないか?」
「……許可します」
トクヤは、拘束されているので、傍聴席に居る、エリザとマホの方向に完全に向けないが、可能な範囲で向いた。
二人は、トクヤの意図を汲み取り、トクヤの目線に入るように移動した。
「まず、二人に謝りたい。マホ……こんな、ダメな父親で申し訳なかった。レンの背中を見て王族としてしっかり、育ってくれ……」
「……わかりました」
トクヤの、言葉にマホが理解の意を表現する。
「エリザ……本当に申し訳無かった……これからは、レンとマホの面倒を頼んだ……罪人が、偉そうにすまない……」
「……」
トクヤからの発言に、エリザは、返事をしなかった。
トクヤは、それだけ言い終わると、レンの方向を向いた。その様子を隣で見ていたシオンが、不味いと思ったのか止めに入って来た。
「父上! 何、言ってるんですか! 大義は、私たちに――」
「――私、トクヤ=ラインブルーは、本日のこの時を持って王位から退くことを表明します。次期国王は、妻の
エリザ=ラインブルーに決定権を委ねます」
トクヤが、王位から退くことを宣言した。
レンは、トクヤの発言の意図を汲み取り、その場に、マテオとリーヴァンが、居る事を確認する。
「リーヴァンにマテオ。証人になって」
「「かしこまりました」」
突然のトクヤの王位からの退位宣言に、シオンは呆気に取られている。トクヤが王位から退けば、完全にシオンが持っている大義名分を失う事になる。
「父上! 考え直して――」
「黙れ!」
初めて聞いた。トクヤの怒った声を。レン・エリザ・マホは、物珍しそうな表情を見せた。一方、怒られたシオンは、完全に怯んでいる。
「いい加減、気づけ!俺たちは、負けたんだよ。刃を交える前に、情報戦から負けたんだよ。王族として……王族として、内乱を起こして負けた方が、国家反逆罪の罪を追うんだよ……判決の権利は、勝利したレンが持っている」
「父上、俺はまだ、負けて―――」
「―――負けたんだよ。だから、拘束されて、生殺与奪の権をレンに握られている。いい加減気づけ……」
この時、初めてレンは、思った。トクヤもビビりながら王族としての責務を行っていたという事を。まぁ、仕事振りは粗だらけだったが……
そして、最後……レンに向かって話し出す。
「レン……本当に……本当に……すまなかった……レンが、王政にデビューする時だってそうだ。レンが王政に入って、結果を残し、私を越えて行った時は、本来なら喜ばなければならなかった。なのに、嫉妬した。嫉妬して、本来なら止めないといけないのにシオンの味方をしてしまった……本当にすまない」
実の息子もあるが、この短期間で、数多の政治家の人々を見て来たレンだからこそ解る。このトクヤの言葉に、嘘が一つも混ざっていない事に。
「その責任は……しっかりと取る。レンの事だから言わなくても解っていると思うし、エリザだって……この場に来ているという事は、マホだって理解しているはずだ……遠慮なくやれ」
最後の言葉は、トクヤなりに、最後の父親をしたのだろう。
もちろん、この言葉を聞いた時点で、妥協する訳ではない。
レンは、トクヤの耳元で言葉を発する。
「――――」
一言、呟き、レンは胸元に忍ばせていた、ナイフでトクヤの首元を切った。
致命傷を負った、トクヤは、一瞬にして地べたに、倒れ込んだ。首元からは、血が流れている。
マホは、必死に我慢している様子だ。エリザは、そんなマホの背中を摩っている。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
目の前で、父親が殺された所を見た、シオンは、発狂し、必死に拘束を解こうと暴れる。
レンは、暴れるシオンを無力化した。そして、耳元で、トクヤに言った事と同じ事をシオンに呟く。
―――― 一緒に政治の舞台で活躍出来なかった事が、残念です。さようなら。
その言葉を最後に、シオンもトクヤと同じ道を辿った。
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