147. 二人の娘の願い
スズカは、幼少期は活発で明るい子だと、妻は言っていた。レイノスは、スズカは子供に関しては、妻に任せきりだった。
しかし、スズカが八歳の時に、妻が病死した。
元々、育児は妻やメイドに任せきりだった男に何ができようか……しかも三人の子どもや公務もある。自然と三番目の子ども(公位継承権三位)のスズカに、関しては、数年後には政略結婚として他国の王子に嫁がせるのだからと、見なくなってしまった。
今思うと、八歳の女の子には残酷な仕打ちをしたと思う。大好きな妻が死んで、唯一の血の繋がった親であるレイノスからは、愛情を注がれない。自然とスズカは、メイドと仲良くなって行き、メイドから聞かされた公都のミカンの街に興味を示したりしたそうだ。
しかし、レイノスは、そのサインを見なかった。唯一といえるスズカと仲直りできるチャンスだったかもしれないのに。
月日は経ち、スズカが十二歳になった時、レイノスはスズカの嫁ぎ先を探し出した。どの国の王子に嫁がせれば国家として大きな利益を得ることが出来るかを考えた。
スズカの気持ちも考えずに。
そんなある日に、事件は起きた。
レイノスは、二人の息子のどちらかを自身の後継者と位置付けて幼少期より英才教育を行っていた。幼少期から少々の悪さをする子ではあったが、歳を重ねれば、落ち着くと楽観視していた。
実際問題、国政に関わりだしたら落ち着いていた。
表面だけは…………
レイノスは、子どもの事を幼少期から見て来なかった。それは、息子二人に始まり娘のスズカに関しては八歳の頃から殆ど関わっていなかった。
二人の息子も次男は、十六歳。長男は、十八歳となっていた。十分に異性に興味を示す年頃に突入していた。二人はレイノスの目の前では、礼節正しく振る舞っていたが、裏ではとんでもない事をしていた事が発覚したのだ。
それは、とある事件が発覚したことだ。
事件の詳細はこうだ。二人のメイドがフルヤとモリヤから性的暴行を受け妊娠させられたという衝撃的な物だった。
何かの間違いだと思い、妊娠したと言うメイドのお腹の中に居ると言う子どものDNA検査を特殊な技術を使って行った。結果は、フルヤとモリヤが持っている遺伝子と一致。二人の子を妊娠していたことが発覚した。
事情を聞けば聞くほど公には出来ない内容だった。
メイドの二人は、以前からフルヤとモリヤの二人から関係を迫られていたそうだ。しかし、断っていた。中々、了承してくれないメイドに業を煮やしたフルヤとモリヤは、実力行使に出たという事だ。暴れれば、権力を盾に脅しを掛けられ抵抗できなくされた挙句、好き勝手されたと。
そして、その日を境に女の子の日が来なくなった事で、周りのメイドやメイド長に相談の結果、事件が発覚した。
後日、レイノスは二人に事情を聞くと罪を認めた。余罪もある可能性もあったので問いただせば頭が痛くなるほどの余罪が出て来た。
これは、公国を率いていた一族としては大きなスキャンダルだ。
レイノスは、我を忘れた。
この事が、公になれば間違いなく自身の首が物理的に飛ぶことが確実だし、一族諸共、貴族や民衆に殺される恐れがあるからだ。
まずは、フルヤとモリヤの子を妊娠した二人のメイドを消した。最初は抵抗があったが、一回行った事でたかが外れたレイノスは、どんどんとこの事件に関わった人物を消していった。
それは、レンが行った事とは、正反対だった。
確かに、レンは王政に関わった途端に複数の貴族家を取り潰し当主並びに責任能力をもつ一族を断罪した。しかし、それらの貴族家は私腹を肥やすために、民から搾取し続け、民を傷つけて来た貴族家の血筋を途絶えさせ新たな人格者を新たな領主に任命させるためだった。
しかし、レイノスがやったのは、レンが断罪した側の人間と同じことだ。自分たちの犯した犯罪の責任を民に押し付け、消していった。
これが、スズカの心を壊し、レイノスに激しい怒りを植え付けるカギになっているとも知らずに。
最初に、レイノスが消したメイド二人は、スズカの世話係のメイドだった。現在、スズカの傍仕えとして働いているセバスは、二人のメイドの父親だ。
二人のメイドは、スズカにとって親代わり的な存在であり、とても懐いていた。
しかし、二人がある日を境に自分の所に来なくなった。その代わりに、セバスが来たのだ。スズカも十二歳。何かあった事なんて、想像が付いた。
スズカは、セバスと問いただした。セバスも自分の大事な娘二人が孕まされた挙句、保身のために消されたという事実に、腸が煮え狂っていたこともあり事件の詳細をスズカに話してしまった。
セバスに、スズカを殺して復讐するという手段は無かった。それは、娘二人から聞かされた「「お父さん。スズカ様をよろしく……スズカ様、本当にいい子だからぁ……」」という言葉を二人の娘の願いを裏切りたくないからだ。
それに、スズカと接するうちにスズカの人柄に触れるうちに、この子は別だと感じた。二人の娘の忘れ形見を死ぬまで見届けようと決心したのだった。
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