133. 交渉における妥協点
スズカは、やらかしてしまったと思っていた。
父親であるレイノスから外交での交渉において、大事なのは最初の条件提示と最初に妥協案を提示することであると。
現状、最初の条件提示で交渉の相手国であるラインブルー王国の代表であるレンを怒らせて軍事衝突一歩手前までいってしまった。
スズカの失敗は最初の提案における交換条件を提示しなかったことで、一方的に領土割譲を要求してきたと捉えられたことだ。
怒ったレンが示唆した軍事衝突を何とか防ぐために、レンの機嫌を直そうとしたが、それこそレンの空気に呑まれている証拠である。
そうこうしているうちに、レンの方から妥協案を出されてしまった。
最初に、妥協案を出されてしまえば、交渉の流れは一気にレン側に行ってしまい再びこっち側に流れを取り戻すのはかなりの労力を使ってしまう。
現在のレンの表情は、スズカの答えを待っている状態で、ニッコリ笑顔で待っている。このニッコリ笑顔はある意味怖い。
スズカの答え次第で、関係性が決まってしまうし公国の未来が決まってしまうというプレッシャーが凄い。
レンが提示してきた、代替案の書類に目を通して考える。
本来、王国側に割譲される予定だった農業地帯の一部の割譲の見返りとして要求されている内容に関して思案している所だ。
レンが提示して来た領土分割案に関しては意義はないのだが、問題点は、代替案が書かれた紙の最後の方に書かれている条項が引っ掛かる。
『・公国は、今後、王国に輸出する食料品に関して年間輸出量の三割を無償で輸出すること』
この条項が、スズカが頭を悩ませる種となっている。
旧帝国が滅亡したことで、お互いの課題点である食料品と加工品を両国間で直接やり取りすることになった。そして、王国は、公国の領土割譲要求を呑む見返りに、公国から王国に輸出される食料品で年間三割の無償ですることを要求されている。
「レン。領土の分割案に関しては、反対意見はありません。しかし……」
「何か不満でも??」
「食料品を三割を無償で王国に渡す事には、難色を示すよ……」
「えっ?何か問題でも? 王国にとって、配分される予定だった農業地帯あるじゃん? そこの収穫量で王国内の食糧自給率かなり改善されることを試算していたんだけどね……公国が、農業地帯の一部を欲しいと言うんだったらそれを吞む代わりに本来得る予定だった農業作物の補填の要求するのは当然じゃないか??」
レンの言う事は、ごもっともだ。反論のしようが無い。
「でも、三割も無償は……」
「でも、おかしいじゃん!さっき、スズカが提示してきた条件だったら公国にしか利益ないじゃいないか??農業地帯が欲しいっていうならその補填位してよ?? ここは、譲らないよ」
レンは、解っていた。
最初のシノバンを基準にして半分こでは、公国の重鎮が納得しないということに、正式な領土分割交渉の席で、王国に分割される予定の農業地帯を公国が欲しがるということに。
「……ですが、三割も無償ってのは……」
「公国内での自身の立ち位置が悪くなるから??」
「……!!」
スズカは、図星を突かれたようで、表情自体は冷静を装っているが顔面は蒼白といった様子だった。
「他国の王家の娘に言うことでは無いけど……交渉の席において、プラスとマイナスのバランスを考えなよ??今のスズカは、自身のプラスしか考えていないでしょ??」
図星だった。公国内での権力争いにおいて兄二人通り越して公位継承権第一位に躍り出た今、スズカが一番欲しいのは実績だった。
レンは、それを見抜いていた。けど、レンだけが一方的にマイナスを被る訳にはいかない。王国に分割される一部の領土を公国に割譲するマイナスを被っている以上少しでもプラスを得ようとするのは当然の動きだ。
「……スズカ、外交交渉の席において友好を築きたい国と交渉では如何に両国間でプラマイゼロになるかが、交渉材料だとおもうけど?? 改めて問うけど、今のスズカの要求は、公国と王国にとってプラマイゼロと言える??」
「……言えないです。断然公国がプラスです」
「だったらさぁ~~僕が提示した妥協案で同意しようよ! それなら両国にとってプラマイゼロだ」
スズカは、諦めた表情だ。
「解った。その条件で同意します」
スズカの言葉を聞いたレンはマナに条約締結に関する書類を用意させてレンとスズカの前にペンと共に置いた。
「じゃ、調印しちゃおうか!」
「……わかった。でも、書類も準備しているなんて準備が良すぎるだろ?」
「準備はしていないよ?マナが、話の流れを汲み取りどの辺りで交渉が落ち着くかを予想して書類を作成してくれているだけだよ?」
「マナちゃん。めっちゃ優秀やん」
「やろ!」
「何で、レンがドヤ顔してんの?」
スズカは、サインを終えた後に、レンに相談してきた。
「この後どうするべきかなぁ~~??」
「でも、既に公国内では結構なプラスを稼いでるだろ?スズカ?」
「そうかな?」
スズカは、疑問を抱いた表情をした。
「色々あるじゃん!密偵を排除して、長年対立していた王国との関係を改善した。それだけでもかなりの実績だよ? 僕とスズカは、内政でどれだけプラスを出せるかの状態だと思うよ? 外交ではこれ以上プラスは出せないな」
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