120. 対応
『デモ』。
国民が政府に抱えている不満を表現する手段の一つ。政府の『デモ』隊にどういった対応をするかで今後の国家の命運が別れるといっても過言ではない。
対応を間違えれば、国内に大きな癌を抱えることになる。
レンから出された、「『デモ』をどのように対処」するかの問題をマホは、必死に考えている。
マホは、答えが見つかったようで見つからないようだ。
レンはそんなマホの様子を、ニンマリ笑顔で見ていた。
「レンくん。何か楽しそう」
「う~~ん?マホが知識を身に付けてくれるのが、嬉しんだよね♪」
「何か、親みたいなこと言うね」
「王家って、親と子どもに必然と距離出来てしまうからね……兄弟が家族みたいになるんだよ。僕らで言うと、親が僕で、息子がシオン。娘がマホ。みたいなね」
「そうなんですね……見方は違えど、私と同じ気持ちかな?孤児院時代は、小さい子どもたちを自分の子どものように接していたし」
「マナ……それは、比べたらダメ。親が居ない方が辛いんだからね」
「うん。ごめん」
レンとマナが雑談をしているとマホが答えをまとめ終わったようで手をピシッと上げて答えますとアピールしてきた。
「はい!マホちゃんお答えを!!」
何故か、マナが反応して答えるように促した。
(何か。本当の姉妹みたいだな~~)
「色々考えたんですのですが……軍を使って鎮圧します」
「理由は?」
「内戦を防ぐためには、『デモ』を起こしている人たちが暴徒化するまでに鎮圧したらいいと思います」
(あぁ~~やっぱり、その答えになるよね)
「それは、限りなく不正解に近いですね」
「えっ!?じゃ、正解はなんですか?」
「正解はないよ?」
「えっ??」
マホは、二度驚きの表情を見せた。
レンは、その表情がツボに入ったようでまた、笑いを堪えようとするがマナが背後でハリセンを片手に冷たい視線を送ったため、レンは一気に寒気がして正気に戻った。
レンは、気を取り戻して、解説に移る。
「マホの答えはさぁ……内戦を防ぐという点では、短期的には良いと思うけど。長期的にみると怖い部分もある」
「怖い部分??」
「そう。『デモ』を軍で鎮圧するということは、一時的なしのぎでしかない。『デモ』は鎮圧したとしても国民の不満を解消した訳ではないよね?」
「では、鎮圧後に対策をすればいいのではないでしょうか?」
「対策をすれば、一部の国民の不満は取り除かれるよね♪」
やはり、マホは疑問を抱いているようだ。
「政府の政治に不満を持って『デモ』を起して、その結果、政府に抱いていた不満を解消してくれたとしても別の不満が生まれるんだよ?」
「えっ?それは、何ですか?」
「不満がすり替わるんだよ。最初は、『政府の政策が不満だ』っていうことから『我々は政府に弾圧された』ってね!……そりゃ、マホの言う通りに、一部の国民は納得してくれると思うけど……デモを鎮圧された時に『我々は政府に弾圧された』って思った人はそれでは、納得しない。なおかつ」
「なおかつ……」
レンは、政治の難しさを解いた。
「『我々は政府に弾圧された』って思った人が過激化する恐れもある。過激化した集団というのは本当に国家として扱いが難しい」
「……過激化した人の扱い……」
「政府が問題を解決したとするだろ……過激化した人からしたら政府に反抗する理由を失われたと思い『我々は政府に弾圧された』という大義名分を掲げて活動するだろうね」
「えっ?不満が解消されたのに……??」
「人が過激化する要因って複数の不満が募りに募った結果だからね……今の話でいうと『政治への不満』と『デモの弾圧』で過激化したと考えるべきだと思うよ。こういう人たちはね、『自分たちが政権を握る』ことを目的にすることが多い。こういう過激化が生まれた時点で、内戦は始まるんだよ」
レンのお話に、マホはこういった事態が起こった時の事を想像したのだろう。表情がかなり青ざめた表情になっている。
そして、マホは恐る恐るレンならどうするかを問うた。
「……レンお兄様ならどう対応しますか?」
レンは少し考えて、答えを導きだした。
「対応は二つ。一つ目は、『デモ』が政府側の人間が主導した場合。その場合は、全国民に判断を問う。デモ側の政治家が率いる政府か、現政府のどちらがいいかを選択させる。二つ目は『デモ』が国民が主導してた場合。その場合は、潔く政治の世界から去る。ただ、それだけ」
レンの考えを聞いたマホは、更に理由をしりたくなったようだ。
「……何故ですか?失策をご自身の手で解消しようとは思わないんですか??」
「……国民は待ってくれたんだよ。生活が苦しいながらも政府が対処してくれるのを。『デモ』が起こった時点で、国民から科せられたリミットは過ぎてるんだよ。そこで、今からやります!なんて言おうものなら国民の目にはこう映るだろうね……権力に縋りつく独裁者ってね。国民主導の『デモ』が起こった時点で国民からの審判は付けられたんだよ。そこは、潔く次の権力者にバトンを渡して、『デモ』が内戦に発展しないようにするのが、無能な政治家の最後の仕事だよ」
ここまで言うと、レンは十秒程空を眺めた後に、マホの眼を見る。
「対応を誤れば、国は簡単に滅びるんだよ」
マホに言い終えると、次は、マナの眼を見て話し出す。
「……僕も近い将来、王位を譲ると思うよ。早くて、五年後かな?来年度、貴族学校に入学した子達が、社会に出だすタイミングで」
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