第31話 職員室に呼ばれる
あの事件からしばらく経ち、中間試験も終わった。早いもんだ。
才田は学校に来なくなった。というか、転校してしまったらしい。そりゃあれだけやれば来にくくもなるよな。
「錦小路さん。放課後、ちょっと職員室来れませんか?」
「あっ、はい。予定は空いてます」
授業が終わってすぐ担任に呼び止められた。
俺、なんかやったっけ。少なくともあの事件が片付いてからは大人しくしてたし。
あまりに覚えがなさすぎて、緊張しながら職員室に入る。
担任の席に向かうと、そこにいたのは担任と――
「あっ、錦小路来た」
凪月だった。
「それで、俺に、朝比奈さんの勉強を見てほしい、と」
「そうなんです。あの、前回の補習をした先生から、大人に教えてもらうより同じ世代の人に教えてもらった方が分かりやすいんじゃないかって話がありまして……錦小路さんは今回の中間テストで学年1位だったから、適任なんじゃないかっていうことで。あっ、ちなみに今回の件をやってもらえたら、内申点かなり上げます」
「なるほど……」
こんなこと言ったらクズだと思われても仕方ないけど、できるだけヒロインとの接触は避けたい。つまりめちゃくちゃ断りたい。
えっ、でもどうなんだろ。主人公との接点はなくなったわけだし、ここはもうヒロインと接触しても大丈夫なのか? いやぁ、分からん。できれば死亡フラグは最小限に抑えたいところだけど……
「錦小路、お願い! なつきの家お母さんがお菓子作り好きだから勉強会にお菓子持ってくるし、それにおじいちゃんが温泉やってるから、いつでもすぐに無料で入れるようにしてもらうし、知り合い錦小路しかいなくて、錦小路以外の人と勉強するのは緊張するし、そもそもその生徒にも断られたらなつき、夏休み中毎日5時間分の宿題出されるみたいでさ。だからお願い……!」
目には涙がたまりかけている。
うっ。これは断りづらい……てかこれ断ったら人間じゃないだろ。毎日5時間分の宿題はどう考えてもしんどすぎるし……
「ね、お願い。あっ、でも錦小路に都合があるのも分かるし、ほんと、できたらでいいんだけど」
「あ~、うん。時間はあるから。大丈夫。期末テストまで一緒に勉強しよう」
思わず答える。
確実に自分から距離を詰めてしまった。どう考えてもヤバイよな……まぁ、だからといって断るわけにはいかなかったんだけど。
「えっ、いいの!」
途端凪月が目を輝かせる。
「ありがとうー! 正直言えば、どうしても錦小路が良かったし、そうじゃなかったらどうしようかと思ってたよー!」
凪月がやったー、と万歳をした。
確かに知らない人と勉強するほど気まずいことってないもんな。
「じゃ、じゃあ何曜日ならいけるかとか、今度相談しよっか。ほんともうありがとうね、錦小路」
「いや、別に勉強見るくらいなら全然するし。あと俺けっこう暇だから」
2回目だから、もう全部前世の復習だし、あと塾にも行ってないから余計に。
「神様仏様錦小路様だ! へへっ。嬉しいなぁ。錦小路とは仲良くなりたかったし、これからもっと長く一緒にいれるのかぁ」
凪月の発言に、ちょうど真ん前にいた先生が目を丸くする。
だって絶対に異性の友達に言うセリフじゃないもんな。よっぽど仲が良くない限り。
でも凪月の怖いところは、これ全部無意識に言ってるっていうところ。
「え、えぇととにかく、次のテストではいい点数が取れるように頑張ってくださいね」
「はーい。頑張ります! 錦小路、よろしくね」
「う、うん。よろしくな」
俺は頷いた。
それにしても、凪月の様子からして勉強会、心配でしかないな。




