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短編集  作者: ゆーろ
4/10

傍観性林檎病

登場人物


与戸:よと。高校生。


黒傘:くろかさ。高校生。黒竹を兼役


犬引:刑事


北城:刑事


0:傍観性林檎病

黒傘:「暇だなぁ」


与戸:「暇だなぁ」


黒傘:「授業サボって空き部屋に入り浸る、これって健全か、与戸」


与戸:「いーや黒傘、間違いなく不健全だろう。ただまぁ、僕達に限ってテストで赤点取ることはないし」


黒傘:「出席日数の話してんの」


与戸:「何とあと5日も残ってる」


黒傘:「やったね」


与戸:「…麻雀でもする?」


黒傘:「二人麻雀はしらけんるんだよなぁ、お前とじゃ決着つかねぇし」


与戸:「それも分かる」


黒傘:「暇だなぁ」


与戸:「暇だなぁ」


黒傘:「…」


与戸:「ちょっと馬鹿にしないで聞いて欲しいんだけどさ」


黒傘:「お前がそういうってことは馬鹿にするぞ、俺は」


与戸:「学校の四不思議よつふしぎって聞いた事ある?」


黒傘:「ある」


与戸:「調べてみようよ」


黒傘:「…与戸」


与戸:「なに、黒傘」


黒傘:「ばっっかでーー!!信じてんのかよお前!」


与戸:「信じてない」


黒傘:「じゃあなんでそんな事言い出した。なんか興味ある項目でも見つけたか」


与戸:「まず普通七不思議なのに四不思議なのが少し興味あるかな」


黒傘:「考え出したやつが面倒になっただけだろ」


与戸:「うん、だろうね」


黒傘:「まぁ。いいぜ、乗る。暇だし」


与戸:「どうもどうも」


黒傘:「えっと、確か一つ目があれだ

黒傘:毎日内容が勝手に変わる新聞記事がどこかにある、とか。日替わり新聞だっけか」


与戸:「記憶力いいね、この時点で僕としては結構好きなんだけど、どう?」


黒傘:「そもそも新聞は毎日刷られるものだぞ?見間違い、勘違いが関の山だろうよ」


与戸:「四不思議っていう非現実が実在するっていうテイで話してんでしょーが」


黒傘:「はいはい。あるとしたら、図書室だの資料室か」


与戸:「四不思議が、不思議、で留まっている以上、誰も彼もが入れる場所とは考えにくいでしょ」


黒傘:「あぁそうだ。その日替わり新聞が色んな場所に出現する。とかいうトンデモ現象が無い限りな」


与戸:「まぁそれは一旦置いとて、次ね。とは言ってもこれは僕もどうかと思うけど

与戸:この学校は生徒が忽然と消えたり、はたまた現れたりするらしい」


黒傘:「ぷっ。いくら何でも雑だろ。そもそもそんな事が本当に起こっちまったらそりゃもう警察の仕事だ」


与戸:「例えば、この学校の生徒が消える。この消える、が、僕達の記憶からも消える、という意味で捉えるなら、また変わってくるね。現実的では無いけれど」


黒傘:「じゃあなんだ?現れる、の場合は俺たちの記憶も勝手に上書きされるってか?そりゃ神様の仕業だろ、すげーのなんのって」


与戸:「うん、すげーのなんのだ。次、三つめもかなり有り体なものだ」


黒傘:「開かずの教室だろ。生徒が使ってる教室以外は鍵かかってんだから当然だろ」


与戸:「って言いたいけれど。もし事実なら検証方法は簡単だ。簡単だろ?」


黒傘:「馬鹿にしてんのか。まず学校中の扉の鍵を予め開けて」


与戸:「何十人かに手伝って貰って、全ての部屋の扉を同時に開ける」


黒傘:「これで開かなかった部屋が、その開かずの教室って事だ」


与戸:「問題は中に何があるかだよね」


黒傘:「開かねぇんだから分からんだろ」


与戸:「そりゃそーだ」


黒傘:「はい、最後に四つめ」


与戸:「頭が痛くなるけれど」


黒傘:「赤マント。不審者が生徒攫って殺す、とか何とか」


与戸:「うーん、度し難い」


0:場面転換 街中


犬引:「北城警部補、珈琲です」


北城:「さんきゅう犬引、ってお〜いっ。これアイスじゃねぇか、ホットじゃないと嫌なんだよ俺は」


犬引:「こんな時期にアイス珈琲なんて売ってるわけないでしょう。文句があるなら私が飲みますが」


北城:「怒んなよ。飲むから」


犬引:「そうして下さい」


北城:「かぁ〜、苦い、アイスコーヒーは苦いだけだ。気が狂っちまう」


犬引:「そうですね、私もです。この事件を担当して五年になりますが、いい加減頭痛では済みませんよ」


北城:「あぁ安心しろ。本庁が手放しした案件だからな。監視のアホが俺らに全投げだ、サボってたって誰も文句言わねぇよ」


犬引:「サボっても原因の究明にはなりません。アレは事件と事故の線引きすら未だ難しい所ですから」


北城:「俺個人としちゃ神様のちょっとしたイタズラとかであって欲しいが、刑事が神を認めちゃ笑い話にもならんだろうよ」


犬引:「とは言え、大体の関連記事は洗いざらい探しましたが、事件性は無いのも事実ですよ」


北城:「いいか犬引。現実逃避しても何にもならん。俺達の仕事は人がやらかした犯行を暴き、捕らえることだ。アレはとくにな」


犬引:「町柳高校まちやなぎこうこう、立てこもり事件…という名がついた様ですが。どう思います?これ」


北城:「捜査本部も適当なもんだな。と思ったよ。立てこもりっていうか、引きこもりの方がしっくりくらぁ」


犬引:「イライラしてますね。あぁ、聞いていませんでしたが、警部補はいつからこの事件の担当で?」


北城:「初めっからだよ」


犬引:「初めから…というと、もう12年も前ですが」


北城:「まだ新米だったがな、その時の先輩が優秀で付き添ったんだ」


犬引:「警部補もたまには初心に帰れよな」


北城:「急に敬語外すな、怖いだろ」


犬引:「冗談です」


北城:「なにが?」


犬引:「とりあえず現場に向かいましょうか」


北城:「あぁ、これ吸い終わったらな。お前の車禁煙だろ」


犬引:「いえ、結構ですよ。私も吸いますから」


北城:「あれ。犬引煙草吸ってたか?」


犬引:「はい、最近。しかもゴールデンバット」


北城:「まじ?」


犬引:「冗談ですが」


北城:「なにが?」


0:場面転換


与戸:「しかし変な話だよね、僕は前々からおかしいと思ってたんだ」


黒傘:「赤マントか?」


与戸:「そ。金次郎や人体模型が動いた、ならまだ見間違いで済むけれど、トイレの花子さんも、テケテケも、赤マントも、実在しない化け物達だ。赤マントなんて諸説あると言えど3メートルを超える巨漢らしいよぉ?やってらんないね」


黒傘:「そういうのに限って下半身だの上半身だのが無かったりするからな」


与戸:「だから僕は学校の怪談話でこういった話を聞く度に、一気に身体が重くなる、そう、気分が悪くなる」


黒傘:「気持ちは分かる。そんで、調べるなら何からにするよ」


与戸:「せっかくだし広報部に売り込もう。その為には」


黒傘:「開かずの教室は最後だろぉ、人手も居るし、何より面倒臭い」


与戸:「ご最もで」


黒傘:「まずは日替わり新聞からでいいんじゃねぇの」


与戸:「よし、じゃあ手分けしよう」


黒傘:「俺は図書室、放送室、理科準備室、音楽準備室、とその他の空き教室を適当に回ってみるわ」


与戸:「よし。じゃあ僕は資料室、屋上、体育館、あとまぁ、ダメ元で職員室を巡ってみようかな」


黒傘:「本当にダメ元だな」


与戸:「いいじゃない、職員がなにか隠してる、とかなら更にそそらない?」


黒傘:「それはそそる」


与戸:「じゃ、何か分かったら電話して」


黒傘:「はいよぉ。んじゃまた後でな」


0:場面転換


犬引:「着きました、起きて下さい警部補」


北城:「おぉ起きてる。相変わらず変わらねぇな。本当に、なんにも変わらねぇわ」


犬引:「事件発覚当初は大勢の警官で取り囲まれていたものですが、今では立ち入り禁止のフェンスと、警官が数人のみ。忘れられていくものですね、出来事というのは」


北城:「教育委員も親族ももう半分以上諦めてる。警戒態勢が緩くなるのも当然だ。どの道、中には入れねぇしな」


犬引:「この赤い紐よりも先には行けない。行けば体が飛ぶ。建物が存在しているだけで、生徒を視認することも出来ない。正直、中の方々が生きているかも怪しいでしょう」


北城:「まったくだ、もしこれで突破に成功して、やっとの思いで敷地内に踏み入った結果、全員白骨死体でした、原因は何も分かりません。だなんて事になったら相当凹む」


犬引:「警部補が凹む前に上からの八つ当たりが凄いと思いますよ、怖い」


北城:「犬引。」


犬引:「はい。なんですか警部補」


北城:「お前はどう思う」


犬引:「どう、と言いますと」


北城:「異質も異質、映画やドラマの世界の話だ。この赤い紐から先に行けばその部位は消える、試しに大型トラックをぶち込んでみたっつー検証もあったらしいが」


犬引:「トラックがまるまる一両、消えたんでしょう」


北城:「あぁ。人間の仕業では理解が出来ねぇ。だが人間の仕業じゃねぇと納得が出来ん。だからこういう時、俺は犯人の人物像から探る事にしてる」


犬引:「犯罪心理学に置けるフォーマットな考え方ですね。北城さんはどのように感じますか」


北城:「それが分からん。だからこそ若い奴の意見を聞きてぇわけよ」


犬引:「犯人像、ですか」


北城:「なんでもいい、妄想じみた推察が事件解決に導いたケースも過去多くある」


犬引:「…やめておきましょう。私では、力になれない」


北城:「なんでもいいっつったろ」


犬引:「私は引き際がいいんですよ、妄想は執着に変わる、そんな側面的な推理より証拠を信じます」


北城:「あっそ、ノリわる」


犬引:「そういう警部補こそ、なにか無いんですか」


北城:「あー。犯人像と関係はねぇが、俺はな、この高校の卒業生なんだ」


犬引:「はい、聞いた事ありますよ。7回くらい」


北城:「俺が卒業したのが14年前。それから二年後、町柳高校引きこもり事件?が始まった」


犬引:「町柳高校立てこもり事件です」


北城:「俺は卒業する時に桜の木を植えたんだわ」


犬引:「桜の。…種ですか?」


北城:「種だ。金がなかった。あそこの倉庫の隣に植えた、よく見えるようにな。目立ちたがり屋なんだ、俺は」


犬引:「…?何もありませんが?」


北城:「そうだ。人間は視認できないが、植物や建物は視認できている。が、無い。」


犬引:「…桜の木でしたら、種からでも十年あれば成熟する。誰も手入れしなければ余り大きくは育たない事もありますが、それでも2〜3mには育つ筈です」


北城:「びっくりだろ。そんで学会の方では、中の時間は止まっちまってる。っていう説が出てる」


犬引:「時間が止まってる?本気で言ってるんですか」


北城:「あぁビックリだろぉ。俺その論文を見た瞬間コンビニに行って酒を買ったよ」


犬引:「でしたら、手段がますます分かりませんね」


北城:「手段、ね」


犬引:「雨が降るのは、蒸発された水分が上空で再び質量を持った水となるから。地震が起きるはプレートが歪み、その上の岩盤が揺れるから。世の中に理由のない事象は無い、と信じたいですね。私は」


北城:「もし自然現象で時が止まっているのなら、その原理は。人為的な事件であれば動機は。発端は。誰が。という話になる訳か」


犬引:「えぇ、頭が痛くなりますね」


北城:「あぁ駄目だ。ヤニが足りん」


犬引:「一本、どうぞ?」


北城:「冗談か?」


犬引:「まじですが」


0:場面転換


黒傘:「理科準備室も無し。ダメだな、全部ハズレだ。そろそろ三限も終わる頃か。こりゃもうダメだな…いや。与戸からか、もしもし?どだった…」


与戸:「黒傘!!見つけた!見つけたよ!」


黒傘:「見つけたって…まさか」


与戸:「日替わり新聞!!」


黒傘:「…まじかよ。どこにあったんだ」


与戸:「校長室の屋根裏、こりゃ気付かないよ」


黒傘:「逆に最初に見つけた奴がすげぇな…そんで、内容はどうだった?」


与戸:「それも含めて、少し話したいことがある、一旦合流しよう。黒傘、僕達はとんでもない日常を過ごしているかもしれない」


黒傘:「お、おう。そんじゃな。…めちゃくちゃ興奮してたな」


0:場面転換


与戸:「黒傘」


黒傘:「はい、黒傘です」


与戸:「この日替わり新聞は、2015年のものだ」


黒傘:「…は?」


与戸:「今何年だと思う」


黒傘:「そりゃあ、2003年だけど…」


与戸:「見てくれ、これ」


黒傘:「…報道、テレビ番組、広告、えっ、ペ・ヨンジュン結婚したのかよ!?」


与戸:「偽物、と断定するにしては作りが緻密すぎる」


黒傘:「あぁ。写真も偽物とは思えん。これが何枚も…」


与戸:「そんでこれだよ。」


黒傘:「…2003年8月10日の記事か…は?町柳高校…立てこもり事件…!?」


与戸:「そう!立てこもり事件なんて起きてないんだ!だって僕らは今日、8月10日を生きている!」


黒傘:「こりゃあ…なにがどうなってんだ…」


与戸:「そして事件発覚の日時、日付は今日、そして時間は、16時44分」


黒傘:「…なるほどな」


与戸:「黒傘、興奮してるよ、僕は」


黒傘:「俺もだ。これから考えられるのは…なんだろうな」


与戸:「少しずつ話していこう。と言いたいけど」


黒傘:「あぁ。この際、現実的か否かは抜きで話そう。」


与戸:「流石だよ黒傘。まず僕から考察を話してもいいかな」


黒傘:「はいはい、頼むわ」


与戸:「ありがとう。僕の新聞記事に対する結論は、大きく三つ。

与戸:一つ、この新聞記事は精密に作られた偽物である

与戸:二つ、この新聞記事は別の世界、別の時間軸の物である

与戸:三つ、この新聞記事は本物である」


黒傘:「三だ。年数が古い新聞は紙が劣化して、紙焼けしているのに対し、2015年に近付くにつれ、新品同様の状態だ。これをわざわざ数百枚作るのは不可能だろうよ」


与戸:「だね。因みに二つ目を否定するのはどうして?」


黒傘:「確認のしようがないからだ。もしそれを肯定したら議論はここで終わる」


与戸:「そうだね、うんうん、そうだね、黒傘、やっぱり賢いね」


黒傘:「そんじゃ次だ、これが本物の新聞であることを前提に話を進める。俺がここで気になるのは、俺達と、この新聞、或いは記事内容との関係だ」


与戸:「その関係、というのは、どうして僕達がこの未来の新聞記事に見覚えがないのか、だよね」


黒傘:「そうだ、SFもビックリだが、その方がおもしれぇ。無自覚的にタイムスリップでもしてんのか。俺らは」


与戸:「はたまた、ある一定の範囲の時が止まっているのか」


黒傘:「あー、超科学実験による仮想空間かもしんねぇな。はは。ウケる」


与戸:「または、2003年の8月10日を、何度も繰り返しているか」


黒傘:「…だな。現実的じゃねぇが、そもそもこの新聞が現実的じゃねぇ。」


与戸:「黒傘はどう思う」


黒傘:「タイムスリップ説は無い。こりゃ持論だが、現在と過去を行き来するのは不可能だ」


与戸:「もし可能なら約700万年の歴史の中でタイムトラベラーがいた痕跡が見つかってるって話だからね」


黒傘:「時が止まっている…これもねぇだろうな、決定的な矛盾がある」


与戸:「もしそうなら僕達がこうして話していること自体、間違っているからね」


黒傘:「仮想空間はどうよ」


与戸:「あれ冗談じゃなかったんだ。」


黒傘:「これはお前の最後の説に、間接的に繋がるんじゃねぇか」


与戸:「2003年の8月10日を繰り返している説かい」


黒傘:「あぁ。何らかの現象による仮想空間内で、俺たちは同じ日を繰り返してる。どうだ」


与戸:「―――うん。凄く面白い」


0:場面転換


北城:「犬引、これを見てくれ」


犬引:「これは…防犯カメラですか?」


北城:「そうだ。町柳高校から徒歩5分圏内のファミリーマートだ。そこで毎日、必ず新聞を買う学生がいるらしいんだ」


犬引:「学生が?町柳支店のコンビニで?おかしいでしょう」


北城:「だろう?町柳高校が閉鎖してから近隣住民はこぞって引越し、ここに学生はいやしない」


犬引:「しかし顔がよく見えませんね」


北城:「どの日の、どのカメラでもそうなんだ。カメラの位置を正確に把握してるとかしか思えん」


犬引:「なぜこれを監察に持っていかないのですか、特定だって」


北城:「誰に、どこに令状を叩き付ける訳でもねぇのに騒ぎを起こしたかぁねぇ。何せ人質は町柳高校の全生徒職員だからな」


犬引:「生きているかも分からない人間に気を使う暇と、人員と、金があるんですか」


北城:「滅多な事言うな犬引、殴るぞ」


犬引:「パワハラですよ」


北城:「教育だ」


犬引:「昭和思考ですね。それで、警部補はその防犯カメラの青年が、町柳高校立てこもり事件の犯人である、と疑っているわけですか」


北城:「30%ってとこだ。」


犬引:「でしたら店長に話をつけて覆面を付けましょう、これと同じ制服、背丈の人間が来た場合…ん?ちょっと待ってください」


北城:「気付いたか」


犬引:「はい」


北城:「もし町柳高校立てこもり事件の犯人がそいつなら、12年前の姿を維持し続けてるのは訳がわからんだろ」


犬引:「12年間学生の格好をする変態コスプレ野郎っていう線も」


北城:「ねぇだろうが」


犬引:「冗談ですが」


北城:「この制服が町柳高校の制服に酷似しているのも事実だ。まぁ、白ワイシャツに黒ズボンだから、割とどこにでもある格好ではあるんだがな」


犬引:「…どの道私たちができる対応は変わりません、覆面官を数人配備するよう手配します」


北城:「上手く捕まってくれるとありがてぇな」


犬引:「えぇ。本心から同感します」


0:場面転換


与戸:「それでだよ黒傘」


黒傘:「あぁ。誰が、なんの為にこの日替わり新聞を用意したか、だな」


与戸:「僕はね、ここに来て学校の四不思議が全て真実じゃないかと思い始めたよ」


黒傘:「察するに犯人は、この四不思議を作った奴と同一人物、またはその一味だな」


与戸:「うん。そして賢い奴なら、真相に近づきかねないような物を四不思議なんていう怪談にして残している理由はただ一つ」


黒傘:「遊んでやがる、解けるかどうか」


与戸:「悪趣味な事だよ、以上の事から、僕は犯人を「非常に子供じみた性格の性根が歪み切った奴」と推測する」


黒傘:「与戸といい勝負じゃねぇの。もしもここまでの推察が全部当たってるなら」


与戸:「あぁ。四不思議はこの学校が8月10日を繰り返している事に気づかせる為のヒントで、犯人だけはこの束縛から逃れる事が出来る何らかの力を持っている」


黒傘:「…やっぱり時間がねぇな?」


与戸:「外に助けを求めるか」


黒傘:「いや。多分この空間の時間で、16時44分が来る前に、どういう形かでは知らねぇが時間が巻きもどる。そのトリガーが主犯以外の人間が敷地の外に出ること、とかだったらシャレにならん」


与戸:「だからだよ」


黒傘:「は?」


与戸:「時間がリセットされてしまえば僕達は今の記憶の全てを失う筈、だから外の人達に僕達の状況と、記憶を引き継いでもらうんだ」


黒傘:「…なるほどな。待ってろ、大きめの紙持ってくる」


与戸:「ありがとう」


0:場面転換


犬引:「しかし学校を見つめるだけで給料が貰えるんですから、楽なものですね」


北城:「まったくだ。覆面は?」


犬引:「残念ながら空きがないようです。暫くは」


北城:「ちっ。人員ケチってる場合かよ」


0:校舎内から鉛筆が転がってくるのを目撃する犬引


犬引:「…北城さん、今の見ました?」


北城:「は?なにが?」


犬引:「今、何も無いところから鉛筆が」


北城:「…おいおい、そんなのあったか?」


犬引:「ですから、今、出てきたんです、この赤い紐の向こうから」


北城:「見間違いじゃ」


犬引:「ないです」


北城:「冗談じゃ」


犬引:「ないです」


北城:「…!犬引、今すぐ鑑識を呼べ!」


犬引:「はい。…もしもし、犬引です。吉村さん。はい、お世話になっております」


北城:(N)肝心な所を見逃した…!くそっ、12年もここに居て何やってんだ俺は…もし犬引が言ったのが本当ならこれは重要な物的証拠になる!捜査を一気に進められるぞ!


犬引:「はい、失礼します。よろしくお願い致します」


北城:「…あ?」


犬引:「北城さん?どうかされましたか」


北城:「おい、あれ。何か紙、はみ出てないか」


犬引:「…!また証拠が…!しかも半分だけ!?」


北城:「まて犬引!触るな!」


犬引:「…なにか書いてある」


北城:「犬引、読みあげろ」


犬引:「はい。

犬引:…初めまして、私は町柳高校 三年生の与戸…と申します。」


北城:「与戸…!?」


犬引:「警部補もご存知で?」


北城:「あぁ。与戸は俺の二つ下の後輩だ。やたらめったら頭が良くてな。授業態度は最低だったが「黒山」って奴と仲がいい、問題児の天才で有名だったんだ」


犬引:「黒山…。とにかく、これは自ら、この状況に気付いてこの紙をこちらに送った…という事でしょうか」


北城:「ありえるな、充分に。続けてくれ」


犬引:「はい。

犬引:この紙の切れ端を見た方が居るのならば、そのまま紙を引き抜かずにこの文を読み、以下の項目に従って下さい

与戸:(文章)鉛筆がそのあたりに落ちてると思います、投げ返して下さい」


犬引:「…投げ返す??折角手に入れた証拠ですが…どうします、警部補」


北城:「…悔しいが、被害者とコンタクトが取れているんだ。従おう」


犬引:「…いえ。鉛筆だけじゃないんです。」


北城:「あ?」


与戸:(文章)「また、鉛筆を投げ入れた際はこの紙のどこでも良いので丸印と、そちらの日付を描いて、こちらに返却して下さい」


犬引:「…とも指示があります、もしこれでこの紙まで失っては…」


北城:「犬引、これは賭けだ。因みに俺は乗るぞ」


犬引:「…わかりましたよ。従います、警部補」


北城:「…人は入れないが、人が触れていない状態の物質は入れることができるのか」


犬引:「っぽいですね。では紙を返します」


0:場面転換


与戸:「はは…まさか本当に敷地外に鉛筆を投げるだけで消えちゃうとは…」


黒傘:「迂闊に近付かなくて良かったわ、まじでよ。」


与戸:「うん。また信憑性が上がった、楽しい」


黒傘:「おっ。紙が戻ってきたぞ」


与戸:「印は?」


黒傘:「丸印が付いてる。鉛筆は戻ってきてねぇな」


与戸:「ということは、こっちから何かを外に出す事はできても、向こうからこっちに何かを入れる事は出来ない。ってことか」


黒傘:「んで、やっぱ向こうの時間は2015年だと、笑えねぇな」


与戸:「…」


黒傘:「今考えてもしゃあねぇ。紙、戻すから書けよ」


与戸:「もう書いたよ、気を付けてね、僕達は絶対触れちゃダメだからね!物越しからでもダメだからね!」


黒傘:「うるさい任せろ、ソロッと綺麗に投げ入れるさ」


0:場面転換


北城:「紙が戻ってきたな」


犬引:「…どうやら向こうからこちらに送ることは出来ても、こちらからは何も送れない、という事らしいです」


北城:「警察を使って検証かよ、まぁだがそりゃそうだろうよ。向こうにこっちの物が届くなら今頃あっちは突入しようとした自衛隊の何百っつー死体で埋め尽くされてる」


犬引:「あとトラックもですよ。

犬引:…!警部補、これ…」


北城:「あ?」


与戸:(文章)「私達は、2003年の8月10日を繰り返している、と仮説を立てています。今回その事に気付けたのは、主犯の遊び心で校内に残されていた、2003年以降の新聞記事からです

与戸:そして私たちは、いつまたリセットされ、繰り返しの日々に戻るかが分からない状況にあります。現状はこれしか分かっていませんが、何か分かれば、またこの様な形でメッセージを送ります。どうか私たちを助けて下さい」


北城:「…町柳高校立てこもり事件は…その日を繰り返す事で発生してたってのか」


犬引:「12年間も、同じ日を、自覚無く過ごしていた…か」


北城:「想像したくもねぇ、あぁ、頭が痛くなってきやがった」


犬引:「しかしこれで、その近隣のコンビニで新聞を買っていた学生が主犯なのは間違いないでしょう」


北城:「あぁ。事件解決も目前だ。文章はもう終わりか?」


犬引:「最後に、記憶を引き継ぐ為に紙は、半分だけハミ出した、この状態のままにし、一切触れないように。

犬引:そして、同じ様な内容の文章が送られた時は、私達の記憶がないまま、真実にもう一度辿り着いた証拠です。どうかその事を教えて下さい。

犬引:…らしいですが、どうしますか」


北城:「…従おう、鑑識には上手く言い訳しとけ」


犬引:「分かりました。」


0:場面転換


黒傘:「よし。これで色々な対策もバッチリだな」


与戸:「うん。もし今日のリセットが僕達の記憶だけじゃなく、この土地毎リセットされる場合、あの紙は「こっち側」の部分だけ消えちゃうからね。また四不思議を探るところからのリスタートだ。まぁ、その時は地道に繰り返すけど」


黒傘:「まじで不便だし面倒だ、記憶が引き継げされ出来りゃいいんだけどよ」


与戸:「僕らなら何回でも解けるっしょ」


黒傘:「あー、こうなると一番怖いのが…」


与戸:「四不思議の二つ目。学校の生徒が消えたり、現れたりする。だね」


黒傘:「それやられちゃ元も子もない。無理ゲーじゃない事を願うよ」


与戸:「真相を解き明かすか、机上の空論に終わるか、緊張するなぁ」


黒傘:「学食行こうぜ、与戸。腹減った」


与戸:「いいね、授業サボって飯だけ食う。最高」


黒傘:「歩きながら話そう」


与戸:「はいよ〜、あぁ。そういえばさ」


黒傘:「あ?なに」


与戸:「一限目の後の休憩時間かな?職員室前に居たんだけど、なんかモノごっつい音したの知ってる?」


黒傘:「モノごっつい音。あーー、なんか聞いたな、ドドド、ゴン!って感じのやつ」


与戸:「そそ、あれさ。ほんと怖くて」


黒傘:「え?なにが?」


与戸:「見たんだよ、その音の正体」


黒傘:「まさか四不思議絡みか?」


与戸:「いーや。男子生徒が誰かを突き落としてたって話」


黒傘:「なんだよ、つまんねぇな」


与戸:「階段から真っ逆さまだよ?多分頭打ったねありゃ」


黒傘:「んな事より飯だよ、何食う?」


与戸:「あ〜ハンバーグ定食かな。黒傘は?」


黒傘:「生姜焼き一択だろ」


与戸:「いいね」


0:場面転換


北城:「一先ずは次のアクションがあるまで何もできることは無し。か」


犬引:「ありますよ、警部補」


北城:「お?なんだなんだ、言ってみろ。俺ァ今日機嫌良いからな。なんならこの後奢って…」


0:犬引は用紙を引き抜く


北城:「…犬引…?」


犬引:「やっぱり事件だったんですよ。これ。防犯カメラに写った学生。文章にあった、意図的に校内に残されているヒント。学校の中では同じ日が何度も続いている現象。天災ならばどれほどよかったか。」


北城:「は?いきなりなに言ってんだお前は…?」


犬引:「想像して下さい、相手の主犯はこれだけの敷地を一夜にして占領し、包囲できる化け物ですよ。突入して豚箱にぶち込むよりここで遊んでいてくれた方がよっぽど安全だと思いませんか」


北城:「でもこの中では人が生きてる。国民の安全保障は国家公務員の義務だ。本当にどうしたお前」


犬引:「私の本名は、黒山です」


北城:「…は?」


犬引:「5年前、どういう訳かあの繰り返しの日々から脱出した、唯一の、町柳高校三年生、それが私です」


北城:「そんなの報告書にはねぇぞ」


犬引:「そうでしょうね。もうその時、既にこの学校の管理体制はあまりにも杜撰ずさんだった。私はどういう訳か、主犯に見逃された。きっと遊ばれているんでしょう。この繰り返しの日々から抜け出した人間は、外の世界でどうするのか。きっと今でも、この赤い紐の向こうから薄ら笑いを浮かべて楽しんでる」


北城:「犬引、お前の冗談はいつも笑えねぇな」


犬引:「冗談じゃないですから。国民の安全を優先している。貴方よりも。その為にはあの主犯を外に出す訳には行かないんです」


北城:「…分かった。ひとつ聞かせろ。」


犬引:「なんでしょう」


北城:「お前、あの文章を見たのは今日で何度目だ」


犬引:「三度目です。あぁ、ただしっかり内容を見たのは今回が初めてですよ。何せ前回は三ヶ月前の昼間でしてね、本当に焦りました。見る間もなくって感じです」


北城:「それはどうした。鑑識に回したのか?彼らの助けに答えたのか?」


犬引:「破り捨てて燃やしましたが」


北城:「…。お前はどうして警察に就職した。まったく意味がわからん」


犬引:「言いましたよ。国民の安全を優先する為だと、本心です、これは」


北城:「あの学校に取り残された彼らは、国民じゃねぇって言いたい訳か」


犬引:「警部補、分かってください。人命には優先度があります。私は、彼らの命を尊重出来ない」


北城:「それは俺の後輩を捨てていい命だって意味で捉えるぞ」


犬引:「まぁ、端的に言えば。そうです。ですが別にいいじゃないですか」


北城:「あ?」


犬引:「だって彼らは、無自覚的に繰り返しているとは言え、日々を無事に過ごせている。さっきの文章がその何よりの証拠だと思いますが」


北城:「お前が本当に黒山だって言うなら、与戸を助けてやりたいとは思わねぇのかよ」


犬引:「人は、出来事を忘れる生き物なんです」


北城:「…ヤニが足りんな」


犬引:「一本、どうぞ?」


北城:「最後に聞くぞ。」


犬引:「はい」


北城:「本当にお前は黒山で、またこの証拠を燃やす気なんだな」


犬引:「はい、おっしゃる通りです、警部補」


北城:「そうか

北城:――両手を上げて膝を附け!連行する!従わないのならこの場での射殺も辞さない!」


犬引:「残念です」


0:場面転換


与戸:「あー、美味しかった」


黒傘:「特にすることもねぇし、空き部屋戻るか」


与戸:「そうするかぁ。あ、そうだ黒傘」


黒傘:「ん?なんだ」


与戸:「四不思議の二つ目が本当なら、僕達はもう僕達じゃないかもしれないけどさ」


黒傘:「おう」


与戸:「何度でも、解こうね」


黒傘:「任せろよ。あ、なら俺もひとつ」


与戸:「なに?」


黒傘:「四不思議の三つ目。開かずの教室。もしこれが空いたら、中に何が、そんで誰がいると思う」


与戸:「主犯、だろうね」


黒傘:「同感だ。今からやっちまうか」


与戸:「あぁ、全然有りだよ」


黒傘:「あー。なんかここまで非現実が続くといよいよ赤マントも居そうだな」


与戸:「これに関しては本当に未だに心から度し難いけど、まぁ折角だし、会いに行ってみる?」


黒傘:「おぉ、いいんじゃねぇの。案外赤マントが記憶を保持してるお助けキャラだったりするかもしれねぇしな」


与戸:「…あれ。待って」


北城:(男子生徒)「…あのさ」


黒傘:「あ?」


与戸:(N)何か、とんでもない見逃しをしている気がする


北城:(男子生徒)「赤マントに会いに行くって、マジで言ってるんですか。」


与戸:(N)そうだ。そもそもこの繰り返しの記憶を保持した生徒がいたって何もおかしく無いじゃないか


北城:(男子生徒)「そんなの存在しないと思うけど」


与戸:(N)もし、もしもこれが決定的な見逃しなら


黒傘:「都市伝説なんてことぁ知ってんだよ、そもそも俺たちはなぁ」


与戸:(N)黒傘の言葉を、僕の思考を遮る様に、予鈴のベルが鳴った


0:場面転換


犬引:「…外から中に入れるとそれは消失する。という事は、押し込むだけで行方不明事件で処理できるんですよ。

犬引:もう少し一緒に、仕事したかったです。北城先輩

犬引:…駄目だ駄目だ。平穏に、平穏に、よし。」


0:紙を破り捨てる犬引

黒竹:「暇だなぁ」


与戸:「暇だなぁ」


黒竹:「授業サボって空き部屋に入り浸る、これって健全か、与戸」


与戸:「いーや黒竹、間違いなく不健全だろう。ただまぁ、僕達に限ってテストで赤点取ることはないし」


黒竹:「出席日数の話してんの」


与戸:「何とあと32日も残ってる」


黒竹:「やったね」


与戸:「…麻雀でもする?」


黒竹:「二人麻雀はしらけんるんだよなぁ、お前には毎回負ける」


与戸:「負けるからシラケるのか」


黒竹:「まぁな。」


与戸:「…暇だなぁ」


黒竹:「暇だな」


与戸:「ちょっと馬鹿にしないで聞いて欲しいんだけどさ」


黒竹:「お前がそういうってことは馬鹿にするぞ、俺は」


与戸:「学校の四不思議よつふしぎって聞いた事ある?」


黒竹:「ない」


与戸:「調べてみようよ」


犬引:(N)人は、出来事を忘れる生き物だ


黒竹:「嫌だよ、めんどくさい。」


犬引:(N)しかしそれは、幸せな事でもある


与戸:「えー、どうしても?」


黒竹:「どうしてもだ、馬鹿らしい。それなら麻雀しようぜ」


与戸:「んー、おっけ、そうしよっか」


犬引:(N)これは持論だが、平穏とは、変わらず繰り返す事だと思う。だから諦めて、受容する事が君達の平穏で


黒竹:「なぁ、与戸」


与戸:「どしたの、黒竹」


犬引:(N)我々の平穏は、傍観し続ける事だ


黒竹:「…いや、なんでもない」


与戸:「ん、そっか」


犬引:(N)これもひとつの答えだと、彼なら言うだろう

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