ローダンセに告ぐ【原本】
0:【ローダンセに告ぐ】
0:登場人物
オリバー:オリバー・カーネンハーツ。革命軍総長。
ルーファス:ルーファス・フルブルーノ。第13代目皇帝。
0:ーーーーー
0:11年前。
0:グリムドリン帝国 皇室
オリバー:「俺の夢は、民がより良い国を作る、そんな国家だ」
ルーファス:「私は、より良い国が民を潤す。そういう国家を作ることだ」
オリバー:「はあ、また気が合わないな、鉄仮面」
ルーファス:「まったくだ。王座はひとつしかないと言うのに」
オリバー:「であれば、勝負だろう」
ルーファス:「私とお前、どちらが先に待望を果たすか、か。」
オリバー:「そうだ。」
ルーファス:「いいだろう。乗った。」
オリバー:「民の為に。」
ルーファス:「国の為に。」
0:11年後。
0:926年。
0:グリムドリン帝国 皇城
オリバー:「ーーー今日は月が綺麗だな。ルーファス。」
ルーファス:「やはり来ると思っていた。最後は私だと思った。最後は、お前だとも思った。なんだか少し、嬉しく思うよ。オリバー」
オリバー:「随分なご挨拶じゃないか。皇帝が。」
ルーファス:「私は元々こういう人間だ。十年もたてば忘れてしまうか?」
オリバー:「まさか。お前との日々を忘れたことなんかない。だから、わざわざこんな所まで来たんじゃないか」
ルーファス:「…そうか。」
0:オリバーはその場に座った。
オリバー:「…。酒を持ってきたんだ。少し、話でもしないか」
ルーファス:「この戦火の中、酒を飲んで語らい合おうと」
オリバー:「ああ。父上に怒られてしまいそうだが、構わないだろう。俺達は昔から問題児だった」
ルーファス:「…お前の言う通り。今日は月が綺麗に出ている。きっとゆっくりと眺められるのは、今日が最後だろう。盃を交わすなら、今が良い」
オリバー:「…ボルドーから取り寄せたワインだ。月であろうが、煙であろうが、何が摘みでも不味くはないだろう。」
ルーファス:「どうだろうな。私達は昔から舌と着るものだけは安い」
オリバー:「ああ、まったくだ。」
ルーファス:「昔、この国をよくしようと誓い合ったのを、覚えているか」
オリバー:「勿論だ。誰も貧困に喘ぐ事のない国を作る。俺と、お前なら出来ると。そう言って夜を明かした」
ルーファス:「…あれから十年だ。信じられるか?あの私達が今、酒を飲める歳になった」
オリバー:「ああ。本当に、長い十年だった。さあ、飲んでくれ。俺とお前の、最後の杯だ。」
ルーファス:「…乾杯」
オリバー:「乾杯」
0:二人は盃を交わした
ルーファス:「…。美味しいな」
オリバー:「そうだろう。俺が選択を間違ったことがあったか?」
ルーファス:「間違いだらけだろう、私達は」
オリバー:「はは、まったくだ。」
ルーファス:「最近は、どうなんだ?」
オリバー:「また藪から棒に。」
ルーファス:「久しぶりの邂逅だ。明るい月も見え、酒もある。身の上話を聞くにはこれ以上ないだろう。」
オリバー:「そうだな。最近か、最近と言っても、随分と時が経ちすぎた。語り通せば夜が明けるぞ」
ルーファス:「お前は昔から話をまとめるのが下手だからな」
オリバー:「うるさいな。そういうお前の方こそ、どうなんだ。」
ルーファス:「最近か。最近は、凝りが酷いな。多忙に身を洗われる毎日だよ。正直頭が痛い」
オリバー:「はは、鉄仮面のルーファスが弱音か。随分丸くなったものじゃないか」
ルーファス:「お前の前だからに決まっているだろう。」
オリバー:「なんだ、久しぶりに会ったからって嫌に素直じゃないか。」
ルーファス:「いちいち野暮な奴だな。それじゃあ、いつかミリアに逃げられるぞ」
オリバー:「…」
ルーファス:「お前まさか」
オリバー:「なんだ。その顔は」
ルーファス:「いや。なんだ。なんというか」
オリバー:「そうだよ。お察しの通りだ。来週子供も産まれる。」
ルーファス:「はははっ。そうか、ミリアが」
オリバー:「ああ、信じられるか?あの堅物だぞ、俺じゃなくライナーとくっつきやがった」
ルーファス:「お前は昔からこう、なんというか」
オリバー:「なんだ」
ルーファス:「鈍いというか無神経というか、なぁ」
オリバー:「おいおい、お前だって人の事は言えないだろう。聞いたぞ、リース様に逃げられたらしいじゃないか」
ルーファス:「耳が早いし、耳が痛い。参ったな」
オリバー:「どっちからだ?」
ルーファス:「聞くな、野暮だろう。」
オリバー:「それもそうだ。」
ルーファス:「新しい女は?」
オリバー:「居る訳が無いだろう」
ルーファス:「そうか。背も伸びた、顔もこう、キリッとして。いい男になったというのに」
オリバー:「10年もすれば背も伸びる。」
ルーファス:「…いい顔になった。もうあの頃とは違うんだな、と。改めて思ったよ。立派になったじゃないか」
オリバー:「よく言う、剣術ではいつも俺に負けていたというのに。学問だってそうだ」
ルーファス:「相も変わらず鼻につく。そういう所が昔から嫌いだ。」
オリバー:「俺だってそうだ。お前のそのお高く止まった態度が気に食わない。」
ルーファス:「…は。」
オリバー:「なにがおかしい」
ルーファス:「いいや。お前と初めてあった時も、同じ理由で喧嘩をしたな、と思ってな」
オリバー:「あの頃は、こうして盃を交わし合う仲になる等とは思いもしなかったよ。」
ルーファス:「それはそうだ、剣術指南の時も、ミサの時も、いつだって喧嘩ばかりだったからな。」
0:回想
0:12年前
0:軍学校 剣術指南訓練
ルーファス:「なんだ。またお前が相手か。」
オリバー:「ああ、今日も負かせてやるよ。鉄仮面。」
ルーファス:「はは、言っていろ。昨日のようには行かない。せいぜい才能に溺れて胡座をかいていればいい」
オリバー:「はぁぁ?俺が胡座かいてるように見えてるのか、節穴だな、お前」
ルーファス:「私がか?冗談じゃない。私の目を疑うお前の方が節穴だろうが」
オリバー:「いいや、お前だ。」
ルーファス:「いいや、お前だ」
オリバー:「もういい。あとの文句は剣にのせて聞くよ。遠吠えと一緒にな」
ルーファス:「ああ、それがいい。今のうちに洗っとくんだな、首を。」
オリバー:「言ってろ。」
0:二人は向かい合った
ルーファス:「はあああああっ。」
オリバー:「はあああああっ。」
0:二人は鍔迫り合いになった
ルーファス:「ふっ。」
オリバー:「おっと、剣筋がブレブレだっ。」
ルーファス:「くっ。お前こそ、基礎が足りてないんじゃないかっ。」
オリバー:「うお…!本当に昨日とは違うじゃないかっ。少し見直したぞ鉄仮面…!」
0:オリバーは木剣でルーファスの手を叩いた
ルーファス:「いっ…。」
オリバー:「でも、俺の勝ち」
ルーファス:「ふざけるな。私は負けてない」
オリバー:「負けただろうがっ。真剣なら手首落ちてるんだぞっ。」
ルーファス:「手首は落ちても首は落ちてないっ。真剣での勝負ならまだ私は負けてないっ。」
オリバー:「屁理屈言うな!」
ルーファス:「正論だ!」
オリバー:「はあ、お前とは本当に気が合わない。」
ルーファス:「こっちのセリフだ。」
オリバー:「鉄仮面」
ルーファス:「さっきから何なんだ、その鉄仮面って言うのは」
オリバー:「あだ名だよあだ名。眉ひとつ動かさないから鉄仮面。お似合いだろ」
ルーファス:「じゃあお前は子犬か」
オリバー:「は?何でだ」
ルーファス:「キャンキャンうるさいから」
オリバー:「はぁぁああ!?」
ルーファス:「ほらうるさい」
オリバー:「お前だってうるさい時あるだろうが!」
ルーファス:「お前にだけだ!鬱陶しい!」
オリバー:「うるせえよ!鉄仮面!」
ルーファス:「犬!」
オリバー:「鉄仮面!」
ルーファス:「犬!」
オリバー:「鉄仮面!」
0:回想終了
0:現代 皇城に火の手が回り始める
オリバー:「ーーーあれほどまでに気の合わないお前と、唯一意見が合うのは、国への想いと、あとなんだ?」
ルーファス:「舌の安さだろう。」
オリバー:「ああ、サルバーのピーチパイは美味かった。」
ルーファス:「何故か不評だからな。あんなに美味しいのに」
オリバー:「皇城で出るものは確かに美味いんだがな、下町の店との差が分からん。」
ルーファス:「その頃からか、飯屋でばったりと出くわす機会が増えたのは」
オリバー:「ああ。話していくうちに、お前の愛国心には感服したのを覚えている。今だから言えるが、あの頃はお前を排他主義の冷酷男と思っていたからな。」
ルーファス:「そういう陰口を叩かれていたのは知っている。今となっては懐かしいが」
オリバー:「人付き合いが下手過ぎるんだよ。」
ルーファス:「どいつもこいつも、国の為、民の為だと言いながら、結局は資本にしがみつく屑ばかりだ。ああいうのが、この国を作ってしまったんだよ」
オリバー:「だからつるむ相手が俺しか居なかったのか?寂しいヤツめ」
ルーファス:「集団は人を弱くする。」
オリバー:「集団は意志を強固にするぞ」
ルーファス:「は、本当に気が合わない。」
オリバー:「話せば良い奴だと分かるんだが、お前のそれは理解するのに10年かかるからな。」
ルーファス:「別に構わないさ、誰に理解されなくとも。私は私の信じた道を行く。」
オリバー:「お前の視野は広過ぎる。誰にも理解できない行動が、2年後になって意味に気付く。それを語らないからこそ、お前は孤立するんだ」
ルーファス:「どうも私の性分には合わないらしい。今思えば、お前が一番私を理解していたのだと、奇しくも思うほか無い」
オリバー:「ああ。よく分かる。分かるからこそ。俺は今、ここに居るんだ。」
ルーファス:「…お前の働きは聞き及んでいる。貧民街からは義賊として英雄扱いされているそうじゃないか」
オリバー:「上級国民からは随分反感を買ったみたいだがな。だが、革命軍全員の協力あってこそ、ここまで至れたんだ。俺の働きだなんて思っていないさ」
ルーファス:「お前は昔から人を惹きつける力があったからな。ああ、思えばお前のそういう所に嫉妬していたのかもしれない。」
オリバー:「なんだ、急に」
ルーファス:「お前はいつも人に囲まれていた。剣術の才もある。学問も、帝王学も。私よりもよっぽど、王座に座るべき素質があった。」
オリバー:「俺は元々、皇帝なんかになっていい身分の人間じゃないんだ。父はお前と同じでも、母は庶民。皇位継承からは程遠い。第一皇子であるお前が、最も相応しいのは明白だ」
ルーファス:「…」
オリバー:「父から、世間の全てから、その寵愛を一身に受け、着くべくして王座へ着くお前を見た。俺の方こそ、嫉妬していたのかもしれない。」
ルーファス:「…そうか。」
オリバー:「だからだろうな。お前が気に食わなかったのは。産まれたその時から全てを望まれたお前を、妬ましくも思った。俺はお前達とは違う、とでも言ったかの様な態度が、目に付いた。」
ルーファス:「…。私達が最後の喧嘩をした日を、覚えているか。」
オリバー:「…ああ。覚えている。あの日も今日のように、月が綺麗に出ていた。」
ルーファス:「私達の国を想う気持ちは変わらなかった。だが、王座を取り巻く不況を前に、曲がりにも同じ血を分かつ身として、どう在るべきか。ここがやはり、気が合わなかった。」
0:二人は月を眺めた
0:回想 10年前
0:皇室 長廊下にて
オリバー:「ーーーふざけるなよルーファス…っ!」
0:ルーファスは胸倉を掴まれている
ルーファス:「ーーー…っ。」
オリバー:「お前の今放ったその言葉の意味を、分かっていて言ったのか。」
ルーファス:「ああ。」
オリバー:「今がどう言う状況か分かっているのか!」
ルーファス:「わかっているとも。重々、分かっている。父上が崩御された。内戦が起こる。だから、貧民街の市民を掃討する。」
オリバー:「どうかしている、何故だ…!俺とお前で内乱を止めればいいだけの話じゃないか!王が居なくとも、俺達が居る!」
ルーファス:「私とお前が?」
オリバー:「ああ、そうだ。俺達二人が手を合わせていかなければならない、そういう時期じゃないか」
ルーファス:「いいや、私とお前は違う」
オリバー:「…は?」
ルーファス:「私は、第13代目皇帝なんだ。」
オリバー:「…っ。ああ、そうだな。俺とお前は違うさ。だが、国を思う気持ちは同じはずだ!今だけはお互いがお互いの手を取るべきだ!」
ルーファス:「私は、国の為ならば犠牲を厭わない。例えこの内戦で幾人が死ぬ事になろうとも。この国の在り方は変えない」
オリバー:「だが!父上の政策は全て失敗に終わっている!貴族も、この国の成り立ちも、その全てが民を苦しめている!それが今になって爆発したんだ、その結果がこの戦火だ!お前にはあれが見えないのか?戦場を見た事も無い子供が戦っている!自分の明日食べる飯の為にだ!」
ルーファス:「分かっている。だからこそ、私達が終わらせなければならないんだ。」
オリバー:「いいや、何も分かってない…!この国の在り方を国民が受け入れていなかったんだ!そのシワ寄せが今、血となり屍となっている!」
ルーファス:「分かっている」
オリバー:「だったら何故戦わない!民の為に!お前ほど優秀な男が、何故だ!このままでは死人が増える一方だ!」
ルーファス:「分かっていると言っている!」
オリバー:「…」
ルーファス:「犠牲の無い正義は無い。代償の無い安寧は無い。失う物無く、得る物も無い。私は、屍の道を歩く覚悟をしなければならない…!!」
オリバー:「民を犠牲にしてまで国がある意味はない!民があっての国だ!」
ルーファス:「国が民を守るんだ!何故分からない!救いの手を差し伸べるだけが救済か!?それを一生分続けていくつもりか!?その場限りの救済は同情と変わりない!」
オリバー:「情を無くして人を名乗れるか!!今すぐ掃討作戦を取り下げろ!」
ルーファス:「王が伏した途端内乱の起こる国を律せず何が王だ!!言ったぞ、私は第13代目皇帝だと!お前が継承議会への出席を蹴ったばかりに、私に全てが託されている!この国の未来を、その選択の全てを!お前に私の何がわかる!」
オリバー:「これから先もそうしていくつもりか!?お前は排他的すぎる!その連鎖はいつかお前自身の首を絞めるぞ!」
ルーファス:「それが私の正義だ!!継承の終わった今、お前はただの名誉貴族だ。最早、私を止める人間など、居ないんだ」
オリバー:「…。」
ルーファス:「私は、私の王道を行く。」
オリバー:「…。最後の最後まで、気が合わないな」
ルーファス:「だから言っただろう。私とお前は違うと」
オリバー:「…。お前とは、いい友になれたと思っていた。俺が唯一認めた男だよ。それは今でも変わらない。わかっている。お前が一度腹を括ったなら、その命が尽きるまでその使命を全うする。だからーーー」
0:オリバーは背を向けた
ルーファス:「…」
オリバー:「ここまでだ、ルーファス。」
ルーファス:「ああ。お前にもお前の正義があるんだろう。元より、継承争いであればこそ。私達の衝突は起こりえたことなんだ。」
オリバー:「…。そんな難しい話じゃないだろう」
ルーファス:「…。そうだな。互いの意見が分かたれた。それだけの話だ」
オリバー:「…世話になったな。」
0:オリバーはその場を去った。
ルーファス:「…。」
0:回想終了
0:現代 皇城の火の手はその勢いを増している
オリバー:「ーーー今でも。稀に夢に見る。だが、後悔は無い。」
ルーファス:「ああ。私もだ。これ以上ない。」
オリバー:「…お前の視野は広過ぎる。確かにお前が王になり、この国は組織としてより成長した。だが、国を安泰させる為なら、お前は多少なりの犠牲も厭わない。しかし、それもひとつの正義の在り方だと、今なら思うよ。ルーファス」
ルーファス:「お前は優し過ぎる。隣人を救う為なら、自らも、国すらも手放す男だ。だからあの時の仲違いに後悔はない。必ずまた、私達は私達の決着を付けにやってくると思っていたからな。まあ、ローゼンベルクでの一戦は肝を冷やしたが」
オリバー:「なんだ。俺が負けるとでも思ったのか」
ルーファス:「いいや。私の唯一認めた男だ。そんな所で死ぬとは微塵も疑わなんだよ。」
オリバー:「はっ、変わらんなぁ。お前は」
ルーファス:「お前も、私も。変わらんよ。だからこうして今。戦の火種はヨーロッパを包んでいる。だろう」
オリバー:「…ああ」
ルーファス:「ご馳走さま、良い酒だった。」
オリバー:「最後の晩餐には、ちょうど良かったか」
ルーファス:「十分過ぎるな、私には」
0:皇城の火の手は勢いを止めず、その煙は空を覆う
0:二人は立ち上がった
オリバー:「ーーー俺達は国を良くしようと思った。」
ルーファス:「私は皇族として。第十三代目皇帝として。」
オリバー:「俺は革命軍として。皇族の血が流れる身でありながら、冠に牙を向く矛として」
ルーファス:「あれから十年。袂は分かった。」
オリバー:「真剣を握って戦うのは、初めてだな」
ルーファス:「二度もあってたまるか。」
オリバー:「…まったくだな。」
ルーファス:「うぉおおおおおおっ!」
オリバー:「うぉおおおおおっ!」
0:2人の剣が交わる
ルーファス:「はぁあっ!」
オリバー:「おっと、重心が高いんじゃないかっ!」
ルーファス:「ぐっ…!お前こそ疲れが隠しきれてない、オリバーっ!」
オリバー:「皇室に籠ってばかりで鈍ったんじゃないか、鉄仮面…!!」
0:オリバーは強く剣を振り、ルーファスの手を掠めた
ルーファス:「っ…!やはり、強いな、お前は、剣の腕だって、何だって、私は何一つお前に敵わなかった!」
オリバー:「思い上がりも甚だしい!俺とお前は、同じだっ!国があっての民、民があっての国っ。この衝突に不利有利もない!」
0:オリバーはルーファスの腕を斬りあげた
ルーファス:「がぁ…ッ。」
0:オリバーは追撃の手を緩めた
オリバー:「ーーー…っ。」
ルーファス:「なんだ。なぜ手を止める。勝った気でいるのか?私の腕を斬ったから何だ。まだ私の首はここにあるぞ。」
オリバー:「これが、真剣を握る手の重さか…。」
0:オリバーは剣を強く握る
オリバー:「ーーーまっこと、醜い…!」
ルーファス:「そういうものだ。その覚悟があるだろう。だからこの場にいるんだろう!この期に及んで私一人殺せず、果たせる大義も無い!私達はなんだ!言ってみろオリバー!」
0:ルーファスもまた強く剣を握り、斬りかかった
オリバー:「…ッッ…!」
ルーファス:「互いを怨み合う敵か!?」
0:ルーファスは一切攻撃の手を緩めない
オリバー:「ぐ…ッ」
ルーファス:「憎しみ会う仇か!?」
0:オリバーは剣を握り直した
オリバー:「うぉお…ッ」
ルーファス:「いいや違うッッ!」
オリバー:「ーーーうおおおあああっ!」
ルーファス:「はぁぁあああああっ!」
0:斬りあう二人
ルーファス:「ーーッッ!オリバー!!お前は、私の、友だっ!」
オリバー:「俺にとってもそうだ!お前は俺の、たった一人の友人だ、ルーファス!!だが、この国を思えばこそ、反乱は必然だった!例え俺がここで斬られようが!俺には俺の、意地がある!」
ルーファス:「ならば私を斬り伏せて、前に進んでみろ!!革命軍として、私の友として、私を斬ってみろ、オリバー!!」
0:ルーファスは剣を振るった
オリバー:「…っ。」
ルーファス:「何故だ。何故本気を出さない。お前の意地があるんだろう。お前の正義があるんだろう。だったらそれを、証明してみせろ。」
オリバー:「…ああ。」
ルーファス:「お前ほどの男が!今更になって迷っているのか!」
オリバー:「迷ってなどいるものか!」
0:二人は互いに身を引き、戦いの手を止める
オリバー:「この戦いが終われば、どちらが死のうと、この国は確実にその在り方を変える。であれば、俺達の勝負はここで終わりだ。」
ルーファス:「ああ。私が勝てば帝国を。お前が勝てば新しい国家を。十年と続いた互いの正義の衝突は、この場で必ずその因縁に幕を閉じる。」
オリバー:「だから、迷ってはいない。ただ、決着をつけるのが惜しいだけだ…!」
ルーファス:「…。ああ、安心したよ。」
0:ルーファスの目は曇っていない
ルーファス:「ーー全くもって同意する。」
オリバー:「お前という男と互いに競い合った事を、誇りに思う」
ルーファス:「私もだ。お前ほどの男と高め合い、語らい合い、こうして互いの意地と共に衝突できる事を。誇りに思わざるを得ない」
0:二人は再び構えた
ルーファス:「第十三代目皇帝、ルーファス・フルブルーノ。」
オリバー:「革命軍総長。オリバー・カーネンハーツ。」
ルーファス:「国の為に」
オリバー:「民の為に」
0:二人は剣を強く握った
ルーファス:「オリバぁぁぁぁああああっ!」
オリバー:「ルーファスぅうううっ!」
0:二人は力の限り剣を振るった
ルーファス:「――ごほっ。」
0:ルーファスの腹は裂け、その場に膝を着いた
ルーファス:「……ごほっ…」
オリバー:「…」
0:その場には二人の荒い息使いだけが遺る
ルーファス:「…ああ。見事だ。やっぱり、お前には、敵わないらしい」
オリバー:「…。ルーファス、俺は…」
ルーファス:「謝るな。それは私にとって、屈辱以外の何物でもない。言っていただろう。私は私の道を行き、お前はお前の道を歩んだ。それが、たまたま食い違っただけなんだ。」
オリバー:「…。」
ルーファス:「は、は。これで、お前の勝利だ。お前の正義の在り方を、示す時だ。」
オリバー:「ルーファス。」
ルーファス:「…なんだ。」
オリバー:「…。お前は俺に、本気ではないと。そう言ったな」
ルーファス:「ああ。言ったな」
オリバー:「お前は、俺に勝つ気でこの場に立っていなかっただろう。」
ルーファス:「…なぜ、そう思った?」
オリバー:「お前の首は繋がったままだ。だと言うのに、膝を着いて、敗北を飲み込んでいる。」
ルーファス:「…」
オリバー:「俺の友は、そんなに諦めが良い奴じゃない。」
ルーファス:「…。はは。察しの良さまで並ばれちゃあ、いよいよ勝てるものが無い」
0:ルーファスの血は止まらない
オリバー:「…お前は、死にたかったんだろう。皇族としての責務も、国民達からの不満も。何もかも。捨ててしまいたい程に、疲れてしまったのだろう」
ルーファス:「…。私は。ずっと。なぜ自分が皇帝になってしまったのだろうと。ずっと、そう思っていた。私は、私よりも優秀な男を知っている。私一人では、もはや屍の道は険し過ぎる。」
オリバー:「…」
ルーファス:「だから。私は、お前とは違う。」
オリバー:「巫山戯るな。巫山戯るな!!最後の決着まで、そうやってお前は、鉄仮面気取って居たというのか…!」
ルーファス:「…。いいや、違う。全力だったさ。正真正銘、全てを賭けてお前に挑んだつもりだ。」
オリバー:「…」
ルーファス:「勝つ気でもいた。殺す気でもいた。だが、知っていた。私ではお前に勝てないという事を。ごほ…っ。分かってるんだ…」
オリバー:「ルーファス」
ルーファス:「だから、生きて、生きて生きて生きて、そうして最後に。お前に託すんだ。お前なら、いい。」
オリバー:「…」
ルーファス:「これが、弱い私の。唯一最悪の最善手なんだ。」
オリバー:「……っ。」
0:オリバーはルーファスの手を握った
オリバー:「お前は。何でもかんでも、一人で背負い込む。俺はそれが、昔から気に食わない…!」
ルーファス:「…」
オリバー:「お前が俺の友だと言うのであれば…っ。」
ルーファス:「…ああ。」
オリバー:「お前の背負った罪も、業も、罰も、全て俺が引き受けるっ!だから…!」
ルーファス:「…」
オリバー:「だから今は、少しおやすみ。ルーファス」
ルーファス:「……ありがとう。」
ルーファス:(M)父上、母上。兄上。今参ります。そちらへ行ったら、どうか私を、よくやったと褒めて下さい。あの頃のように、私たちを…。
0:ルーファスは目を閉じた
オリバー:「……。」
0:オリバーは火の回る皇城を歩く
オリバー:「………っ。」
0:皇城を降り、皇室へと歩いた
オリバー:「俺は、必ずいい国を作ってみせる。俺が、この手で。必ずだ。」
0:その足を止める。
オリバー:「………。だから。先にそっちで待っていろ。ルーファス…!」