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短編集  作者: ゆーろ
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【7DAYS】

7DAYS

登場人物:



真琴:男。二ノにのみや 真琴まこと17歳。高校生。


皐月:女。二ノにのみや 皐月さつき16歳。高校生。


新海:男。新海しんかい 修也しゅうや26歳。教師。





【7DAYS】





皐月:____いつか、私を見つけてね


真琴:『夏風が、頬を撫ぜる頃。

過去を愛でる花は、綺麗に散っていた』



【1日目】


皐月:あち〜…。


真琴:暑いな…。


0:通学路。蝉の声


皐月:暑すぎる。まるで夏じゃん


真琴:夏なんだよ


皐月:やばいよ。溶けるよ。これ人が死ぬよ


真琴:そうだな。


皐月:兄貴、なんか無いの。どうにかしてよこれ


真琴:ドラえもんか。どうにか出来たらしてる。


皐月:兄貴〜。


真琴:なんだよ


皐月:暑いよ〜兄貴〜


0:ひっついた


皐月:暑すぎるよ〜


真琴:おいくっ付くな。暑いって


皐月:暑いね〜


真琴:暑いから離れろ


皐月:どうにかしてくれないと無理〜


真琴:マジでどけって。マジで


皐月:ええ〜


真琴:おい、キモイ。離れろ。キモイ。ウザイ。


皐月:言い過ぎじゃんっ。怒った!


真琴:殴るぞ


皐月:うわ。マジだ。マジな目してる。こわー


0:離れた


皐月:ひひ。面白かったからいいや。


真琴:お前さあ。友達いないの?


皐月:?なんで?


真琴:何が悲しくて兄妹で登校してんだよ。


皐月:ええー。いいじゃん別に。仲が良いのはいい事だぞう


真琴:限度があるだろ。いくつだよ。


皐月:私ももう16になりまして


真琴:入学してから3ヶ月くらい経ったろ。なに?友達できてないの?


皐月:いるし。


真琴:本当か?


皐月:本当だよ、いるいる。


真琴:……


皐月:おいっ。なんだその目っ。居るってばマジでっ。


真琴:お兄ちゃんは心配です


皐月:舐めすぎでしょ。私だよ?友達くらいいるに決まってんじゃんね?


真琴:ああそう…。


皐月:そういう兄貴こそ友達おらんのですか。


真琴:いない


皐月:認めんのはっや…。


真琴:というか要らない。


皐月:は〜…何に憧れてんだか。この歳になって友達のひとりも…可愛い可愛い妹も心配してるよ。そう、私がね。


真琴:可愛い


皐月:そう、可愛い


真琴:……


皐月:だーかーらその目やめろっつーのっ。傷つくだろぅ、傷ついちゃうだろぅ


真琴:あーもう、朝からうるせえよ。ただでさえ気が滅入ってんのに。


皐月:なにをー。こんな可愛い妹を横に添えて何が気が滅入るだー


真琴:滅入るだろ。


皐月:滅入るなよー。優しくしろよー。


真琴:ちっ。


皐月:あ!舌打ちした!ひっでー!


真琴:お前ほんと黙って。お願い


皐月:嫌ですぅ。私からベラを取ったら何が残るんでい


真琴:死ね死ね


皐月:死ねって言ったー!


新海:おー。相変わらず賑やかだな、二ノ宮兄妹


真琴:先生


新海:おはよう


皐月:修也くん!おはよぅ


新海:これこれ、いつまで昔馴染み気分だー。せめて修也先生にしろー。


皐月:はーい。


新海:ていうかお前ら、毎朝一緒に登校してんの?仲良いなー


皐月:へへー、仲良しピース


真琴:コイツが勝手に着いてくるだけっすよ


新海:なんだなんだ、まだ兄離れ出来ねえの


真琴:え…そうなんですか…


皐月:ちょいちょいちょーい。引くなよ。違いますから。いつも一人で可哀想な兄貴の横に居るだけですから。これ憐れみですから


真琴:余計なお世話過ぎる


皐月:そんなこと言ってー。寂しいんでしょ。一人暮らし


新海:なに?真琴、一人暮らし始めたの?


真琴:ええ、まあ。


新海:ああー、そう。まだ高校生なのに


真琴:今の内に慣れておこうと思って


皐月:ていうか、修也くんは知ってなきゃいけないでしょ。先生じゃん


新海:一々名簿確認すんのめんどくせえよ。


真琴:住所変更届は別の先生に出したからな、新海先生の性格考えたら知らないのは当然だ


新海:なんかそれ嫌味じゃん?


真琴:新海先生は昔から適当じゃないすか


新海:そうでーす。いえーい。で、慣れるっつーと?


真琴:はい?


新海:何人連れ込んだ


真琴:は?


皐月:!兄貴…やっぱそれが目的だったのか…


真琴:ちげえよ。


皐月:私という物がありながら


真琴:お前が居てどうなんだよ


新海:いくら彼女が出来ないからって妹には手出すなよー。流石の俺も庇えん


皐月:いやん。


真琴:死ね。新海先生も、弄らないでくださいよ


新海:うるさい、若さが憎いだけだ。


真琴:がっつり私怨じゃないすか…


新海:そうさ?アラサーの妬み舐めんな


皐月:み、醜い…


新海:うるさい。で、何でまた一人暮らし


真琴:高校でたら中央に行こうと思ってるんで。中央立の学校は寮生理じゃないですか


新海:出た。ガキの頃と同じ事言ってら。今もガキだけど


皐月:ねー。いつまで言ってんだか


真琴:うるせえな


新海:なーんであんな命の保証も無い仕事しようと思えるのか。俺には分からんねー。


皐月:あれ。修也くんも昔は中央目指してませんでした?


新海:やめたやめた。あんなもん凡人が目指せるとこじゃねえって。


皐月:うわー。大人の挫折のリアリティ


新海:しばくぞ。…っと、もうこんな時間か。先行くわ


真琴:はい。また後で


皐月:またねー修也くーん


新海:先生な。


0:新海は先に歩いて行った


皐月:…。あつ〜い。もう歩くのだるーい。疲れたー。私をおんぶする権利、いる?


真琴:いらん


皐月:ちぇー。


真琴:コンビニ寄ってく


皐月:昼飯ー?


真琴:ああ


皐月:兄貴もお母さんに弁当作ってもらえばいいじゃん


真琴:いいよ。独り立ちするって言った手間気まづいし


皐月:家賃は払ってもらってるじゃん。情けねー。


真琴:うるせーな。バイトだけじゃ流石に無理だったんだよ


皐月:結構働いてるよね


真琴:まあなー。生活費だけでも結構苦しいし


皐月:尚更弁当作ってもらいなよ。親のスネは齧れる内に齧っときなー?


真琴:いいって。


皐月:ま、頼まれても嫌だけど。かさばるし


真琴:なんなんだお前


皐月:あ、私もコンビニ寄っていい?


真琴:漫画?


皐月:そ。新刊出たんだー


真琴:奢らねえからな


皐月:くそケチあほ


真琴:やっぱそれ目的じゃねえか。お前さあ、お前さあ…。


皐月:あーあー。説教は聞きたくないー。ほら行くならさっさと行こーよー。遅れちゃいますぜ


真琴:誰のせいだよ。


皐月:うーるーさーいなー。


0:二人はコンビニに入った


真琴:涼しいなあ。


皐月:ね。あ、このパン美味しかったよ。


真琴:今日は米の気分なんだよなあ


皐月:ふむ。コンビニのおにぎりはなあー。


真琴:なんだよ


皐月:知らない?添加物を摂り過ぎると「異常体いじょうたい」になっちゃうよーって噂


真琴:しょうもな。そんな事言い出したら世の中全員異常体じゃねえか。


皐月:あ。最近やたら異常体になっちゃう人達が増えてるのってそういう事か。論文書こうかな


真琴:陰謀論者の妹かー。しんどいなー。


皐月:大手フランチャイズの陰謀なのだ


真琴:異常体なんか増やしてなんの得があんだよ


皐月:さあー。


真琴:あほくさ。


0:真琴はおにぎりをカゴに入れる


皐月:って言いながら買い物カゴにおにぎり入れてますけども。全然話聞かないな本当に。


真琴:添加物摂ったら異常体になるって?本気で言ってんすか??


皐月:あー。知らないよ。兄貴が異常体になっても私知らないよー。中央に売っぱらってやるからー。


真琴:薄情な妹だ。なんて可哀想な兄貴なんだ、俺は


皐月:そりゃあね?怖いですよ。いくら肉親と言えど。怖いですよ。何されるか分かったもんじゃないですし。わたくし、か弱い乙女ですから


真琴:か弱い…?


皐月:なんだよその目。でもでも、コンビニ飯ばっかりじゃ栄養バランス悪いのは本当でしょ。こっちのおにぎりにしようよー。海苔ふにゃふにゃのやつ


真琴:同じコンビニ飯じゃねえか。俺、海苔はパリパリ派なの


皐月:折角体調心配してやってんのに。可愛くねーやつ


真琴:うっせえな。飯くらい好きに食わせろよ。


皐月:はいはい。漫画見てくるー


真琴:はいよー。


0:皐月は雑誌コーナーへ小走り


真琴:(M)冷房が強い。汗が急速に冷えて、服に冷たく張り付くのが分かる。ただの夏。蝉の声も、妹も煩い。何の変哲もない、ただの夏だった。


0:学校


新海:42ページのグラフなー。「異常体」の世界人口は1846年の段階で2割を超えてる。


真琴:(M)人類は、超能力を手にしたらしい。


新海:今では年間約9万人が異常体になってるし、今年は更に多くなるかもしれない。


真琴:(M)想像よりも現実は華々しくない。超能力者は「異常体」と呼ばれ、人類史の中で長い間迫害を受けた。


新海:昨今も異常体による犯罪件数は減らない。海外では異常体による、人権確保のデモ運動が活発化してる。


真琴:(M)義務教育では、異常体が扱う超能力。「異常性」がどれ程危険なのか、という事を執拗に教えられる。


新海:皆も明日、目が覚めたら、異常性が芽生えてた、なんて事もあるかもしれないし。他人事じゃない。おーい吉田。寝るなー。


真琴:(M)予防法は無い。人は唐突に異常体になる。無差別に、無作為に。「異常性」に選ばれてしまった人間は、モラルも道徳もかなぐり捨てて危険物へと成り下がる。


新海:もー分かってると思うけど、異常体になったら直ぐに中央政府に連絡する事。出頭さえすれば収容施設で安全に過ごせる。芽生えた異常性の内容次第では、中央政府職員としての特別雇用も認められてる


真琴:(M)明日、目が覚めたら超能力者になっているかもしれない。その瞬間、異常体として人の生を終える。


新海:間違っても、異常性が芽生えても隠そうとしないように。どうせバレるし、最悪の場合は殺処分も十分に有り得る。


真琴:(M)自分が事故や殺人事件にそうそう巻き込まれないのと同じように、当然の様に教えられ、当然の様に知っているその常識は、どこか遠いものに感じていた。


新海:異常性の暴発事件も多く確認されてる。制御が効かなくなる事もある。明日は我が身だよー


真琴:(M)俺にとって非現実は、程遠かった。


新海:おーい吉田。寝るなーー。


真琴:(M)8年前、叔父さんが異常体になるまでは。



0:時間経過

0:放課後



真琴:お疲れ様です。


新海:はーいお疲れ。あ、真琴。


真琴:はい?


新海:明日ウチの学年さ、進路相談あるだろ。このプリントだけ2組に持ってってくんない?


真琴:分かりました。


新海:悪いな


真琴:いえ。


0:プリントを受け取る


真琴:それじゃあ、お疲れ様っす


新海:ほーいお疲れ


0:廊下


真琴:…。進路相談か。…失礼します。すみませーん


0:2組に入りプリントを渡す


真琴:あの、これ。新海先生からです。はい、お願いします。それじゃあ、失礼します。


0:教室から出た


真琴:…。


0:歩いている


真琴:(M)進路希望かー。もう二年か。言ってる間に終わっちまうんだろうな、高校生活。しっかし暑い。


0:スマホを見た


真琴:(M)33度…。過去最高気温、ね。最高気温、毎年更新してんじゃねえか?っと…。靴、靴。


0:クラスメイトに声をかけられる


真琴:おう、お疲れ


0:下駄箱から靴を出す。


真琴:…。


0:帰路


真琴:(M)はぁ〜。外暑すぎ。だるいなぁ。あ、晩飯買って帰らねえと。今の時間だと、スーパーの惣菜とか安くなってんじゃねえかな…。いや、暑すぎる。無理だ。もうちょい暗くなって涼しくなったらにしよう。もう寄り道する元気すらない。暑い。


0:時間経過


真琴:…。


0:鍵を開ける


真琴:…ただいまー。うお、涼し。


0:マンションの自室に入る


真琴:あれ?冷房付けっぱなしだったか?やっべえ…


皐月:あ、おかえりー


真琴:おう、ただいま。


皐月:あれ、晩御飯買ってこなかったんだ?


真琴:暑すぎるから夜買いに行く事にした。


皐月:そかそか。じゃあ私も一緒に行くー


真琴:はいよー。


0:真琴は荷物を置いた


真琴:…?


皐月:しっかしホント暑いねー


真琴:待て


皐月:ん?


真琴:なんで居る。


皐月:え?


真琴:は?


皐月:私の家だもん


真琴:ちげえよ。俺の家な?何してんのお前


皐月:兄貴の家は私の家だよ


真琴:本当になに言ってんの?帰って?


皐月:いいじゃーん。電車乗るのしんどかったんだよー。ちょっと休憩させてよー。


真琴:ふざけんな。帰れ


皐月:やだやだやだー。ていうかさ、兄貴の家の方が学校から近いのズルくないですか?


真琴:知るかよ。ていうか何で勝手に入ってんだよ。鍵かけ忘れたのか…?


皐月:ううん、閉まってた


真琴:は?


皐月:合鍵。実家に預けてたやつ。


0:皐月は鍵をみせつけた


皐月:持ってきた


真琴:は?


皐月:嬉しいでしょー?帰ったらこんな可愛い子が出迎えてくれるの


真琴:嫌な気持ちになった。帰れ


皐月:酷すぎる。え、なに?兄貴わたしの事きらい?


真琴:嫌いだよ。勝手に上がり込む不審者は嫌いだよ。


皐月:不審者じゃないーっ。私は二ノ宮 真琴の妹だーっ。


真琴:頼むから勝手に入んな


皐月:なに。女でも連れ込む気だった??


真琴:そうだ。お兄ちゃん超モテモテだからな、取っかえ引っ変えで女連れ込んでんだよ。だから勝手に入るな


皐月:私という物がありながらー


真琴:ちっ


皐月:舌打ちやめて。ボケたから乗ってあげたんじゃん。


真琴:お前ほんとマジで帰れよ


皐月:おーねーがいー。ちょっとだけ。ちょっとだけ涼ませて。可愛い妹が熱中症で倒れたらどうすんのー。


真琴:はぁ…。もういいけど、まじで次は来る前に連絡しろよ


皐月:え、連絡したら来てもいいの?


真琴:たまにならな。たまにだぞ


皐月:わかった!


真琴:絶対分かってねえし。ムカつく


皐月:ねー、この漫画読んでいい?


真琴:手に取った後に聞くな。


皐月:ありがとー。


真琴:はあ…。


皐月:ため息やめろー。


真琴:暗くなるまでにはマジで帰れよ


皐月:はいはいー。


0:無言


真琴:…


皐月:もうちょい冷房下げていい?


真琴:無理。


皐月:けち。


0:無言


真琴:…


皐月:そろそろ夏休みですなー。


真琴:そーな。


皐月:実家帰ってくる?


真琴:帰らない。バイトあるし


皐月:実家から通ったらいいじゃん


真琴:遠いんだよ。電車乗りたくない


皐月:あ、兄貴のバイト先、このマンションの近く?


真琴:特定しようとすんな。


皐月:居酒屋だっけ


真琴:バイト先にだけは来んなよ。


皐月:へへー。へへー。


真琴:絶対、来んなよ。


皐月:はいはい。すーぐ怒る


真琴:怒らせんな、疲れるんだから。


皐月:…。ボッチ。


真琴:おい、聞こえてんぞカスこら


皐月:だってボッチじゃん!


真琴:お前だって友達いねえだろうが!


皐月:はー?いるやいっ。超いるやいっ。


真琴:じゃあ友達とどっか出掛けたりしろよ。お兄ちゃんね、心配だ。もしかして俺しか絡める奴いないんじゃないかと


皐月:失礼だなー。兄貴より友達いるって


真琴:こんなウザイ奴に友達が出来るわけがない


皐月:ほんっと失礼だなっ。ウザイのは兄貴の前でだけですー


真琴:ウザイ自覚あるんかい


皐月:まあね


真琴:うっぜ


皐月:はいー。またそうやって私を傷付ける。


真琴:じゃあ帰れよ


0:真琴は鞄からプリントを出す


皐月:嫌ですぅ。ん、課題?


真琴:んーや。進路相談


皐月:え、まだ二年なのに?


真琴:二年だからじゃねえの?来年は皐月もあるんだから考えとけよー


皐月:うーん。進路希望…将来かー。将来ねー。ないなー。夢とかなー。うーん。


真琴:お兄ちゃんのお嫁さんって言ってたのは頓挫か


皐月:それいつの話…。ていうか覚えてたのキモ。


真琴:もう許さん。今すぐ追い出す


皐月:嘘嘘嘘嘘。覚えててくれて嬉しいですーあー娶ってくれー娶ってくれー


真琴:きっしょ。


皐月:あのね兄貴、いくら明るい私だって傷つかないわけじゃないんですわ


真琴:お前から言い出したんだろバカ


皐月:先にバカって言った方がバカだしー!


真琴:…


皐月:おい無視すんな。おい。


0:皐月は覗き込む


皐月:ふむふむ。やっぱり中央行くんだ?


真琴:その為に一人暮らししてるからな。


皐月:中央立って日本にあったっけ?


真琴:あるある。関東関西中部それぞれに。


皐月:え、そんなあるんだ。


真琴:ま、分校だけどな。


皐月:ふーん。


真琴:けど、本校行きてえんだよなあ


皐月:本校。本校ってどこ


真琴:ドイツ


皐月:ドイツ!


真琴:そ。


皐月:なんでさ、日本のでいいじゃん


真琴:同じ日本に居たらほら、いざって時に実家に帰っちまうかもしれないじゃん


皐月:いいじゃん。泣き寝入りすればいいじゃん。そもそも兄貴英語も喋れないでしょーが。あ、ドイツ語か


真琴:勉強中


皐月:え。まじ??


真琴:ほら。


0:真琴は参考書とノートを見せる


皐月:うわ…。まじだ…。マジでちゃんと勉強してる…。


真琴:どうだ。見習え


皐月:ええー。本当に行くんすか兄貴ー


真琴:だからそう言ってんだろ


皐月:うわー。兄貴が外国に飛ぶー


真琴:飛ぶぞー。


皐月:そのまま海の見える丘に一軒家を構えて金髪のグラマラスな外国人女性を嫁にするんだー。


真琴:具体的だな。でも無いな。中央立の学校卒業したら日本支部に配属希望するつもりだし


皐月:あ、そうなの


真琴:うん


皐月:中央立って何年制だっけ


真琴:基本2年


皐月:帰ってくる頃には20歳じゃん


真琴:そうだな


皐月:私も一緒に行く


真琴:ドイツに?


皐月:ドイツに


真琴:はっ


皐月:おいー鼻で笑うなー。


真琴:ていうかお前、課題は?


皐月:今日はないー


真琴:あ、そう。


0:真琴はベッドに寝転んだ


真琴:…。


皐月:…。


0:無言でスマホ見たり漫画読んだり


真琴:…。よっこらせ


0:真琴は起き上がる


皐月:ん。どこ行くの


真琴:晩飯買いに行く。お前そろそろ帰れよ


皐月:えー。


真琴:いやもう帰れって、ほんと


皐月:泊まる


真琴:無理。


皐月:泊まる!!


真琴:無理!!帰れ!!


皐月:はー。はいはい、帰りますよーだ。


真琴:早く支度しろよー。俺もう出るぞ


皐月:あんたね、ちょっとくらい待ちなさいな。


真琴:駅まで送ってく


皐月:えー?いいよ別に。暑いでしょ


真琴:晩飯買うついでだし送るぞ?


皐月:いいよいいよ。そいじゃあね、兄貴


真琴:はいよー。気ぃ付けて帰れよ


皐月:あざーす。



新海:『あの日、日常が綻ぶ音を聞いた。その時までどうやら俺は、自分の事を特別な存在だと思い上がっていたらしい。目の前で人が死んだ。殺された。見知った人間が、射殺された。その日から、前に進もうとする足が、酷く重くなった様に感じる。』


【二日目】


真琴:失礼します。


新海:うい、お疲れ様、真琴。


真琴:うす。


新海:えーっとお、真琴の進路希望はー…。やっぱ中央か。しかも第一希望、それ以外は考えてないと


真琴:はい


新海:…。うーん。


真琴:なんすかその反応。成績も足りてますよね?


新海:足りてるよ?足りてるけど、なー。


真琴:…


新海:ドイツってお前


真琴:語学の勉強はしてます


新海:いや分かるけど。なんでわざわざ本校行きたいの


真琴:実家近いと泣き帰るかもしれないんで


新海:情けないなー。


真琴:俺情けないよ。修也くんなら知ってるだろ


新海:先生な


真琴:はいはい。


新海:…ヒロムさん、反対しなかったのか


真琴:父さんの許可は貰ってますよ。その上で一人暮らしも許してもらってるんで


新海:…そうかぁ…


真琴:…叔父さんの事は、修也くんが引きづる様な事じゃないよ


新海:…


真琴:あれは、うん、しょうが無かった


新海:…。中央に入ったら、沢山の死を見る事になるんだ。異常体も、人も。


真琴:うん


新海:意味、分かるよな


真琴:分かるよ


新海:…


真琴:立派だろ。中央に入ったら、みんな俺を自慢するし


新海:ああ、立派だよ。確かに立派な仕事だ。誰かがやらなくちゃダメなんだからさ。すげー立派な仕事だよ。


0:新海は肘を着く


新海:でも、これは先生としてじゃなくて、新海修也個人としてだけどさ。


真琴:うん


新海:やめとけ、真琴


真琴:…


新海:俺は、お前の叔父さんが死んだ日にやめた。それでいいと思った。中央に入って、誰かの為にって体張って。立派な事だよ。かっけーよ。でも、身近な人を、殺す事になる場合だってある。それを想像しただけで無理だった。そんな俺がさ、この先中央目指してもなーって思ったよ


真琴:…


新海:目の前で叔父さんが撃たれたんだ。中央職員に、頭めがけて一発。折れちまった。あんな非情な決断、俺にはできない。多分、お前にも。


真琴:…


新海:お前だって、誰かの死を背負う必要は無いんだぞ、真琴


真琴:違うよ、修也くん。俺がそんな立派なこと考えてるわけないじゃんか


新海:じゃあ何で目指すんだ


真琴:叔父さんが異常体になった時さ、皐月に襲いかかったんだ。覚えてるだろ


新海:…ああ


真琴:修也くんは必死に叔父さんを止めてくれたけど。俺、何も出来なかったでしょ。皐月を必死に抱き締めてただけで。


新海:そりゃあ、まだあの時お前ら9歳とかだろ。しょうがねえよ


真琴:しょうがなくない。兄貴は、妹を守らなくちゃいけないんだ。


新海:守ってはいたんじゃねえの…?


真琴:戦わないと。


新海:そんなヒーローじゃねえんだから


真琴:…。あの日まで、異常体とか、異常性とか、俺にとっては縁遠いもので、あー、そういうのもあるんだなー。って言うくらいの認識だったんだ。叔父さんが異常体になったって聞いた時も、何処かまだ現実味が無くて。…でも、皐月が襲われた時に、頭が真っ白になったんだよ。


新海:あー、これ現実なんだ。ってか


真琴:そう。皐月は泣いてて、俺はただ妹の手を握ってるだけで、修也くんに逃げろって言われても、足すら動かなくて。それが、悔しくて。不安だったんです


新海:…お前、結構シスコンだな?


真琴:そう言われてもしょうがないですね。また…誰が、いつ、何処で異常体になるか分からない。交通事故にあうかもしれない。異常体じゃなくても、人の手による殺人事件に巻き込まれるかもしれない。そんな時に、皐月の所に直ぐ駆け付けられるように、中央に入りたいんです


新海:ほーん…だから警察じゃダメなわけねー。


真琴:はい。異常体に関する事件は警察機関の範疇外、ですよね


新海:よーく勉強してんなあお前


真琴:本気ですから


新海:これ、皐月ちゃんには言ってんの?


真琴:言えるわけないじゃないですか


新海:ま、そうだよなー。一応聞くけど、なんで?


真琴:それこそ、皐月に背負わせてしまう気がするんで。


新海:ん。じゃあもう何も言わん


真琴:あざす


新海:凄いなあ、真琴は


真琴:俺が中央入るの目指したのは、修也くんの背中を見てたからですよ


新海:俺のお?


真琴:修也くんは、ずっと俺の兄貴分みたいな人だったんで。今でも憧れてます


新海:はは、そんな兄貴分も、今じゃ夢も何もかも捨てて寂れた学校の先生やってんだ。世知辛いもんだな


真琴:そんな事ないよ。ほんとうに。修也くんは、ずっと俺のヒーローだから


新海:昔虫取り教えたくらいだろ


真琴:オリジナル拳法も教えてくれたろ。新海流 奥義。


新海:おい、弄ってんだろ。


真琴:冗談抜きにしても、本当に修也くんは、俺のヒーローだよ。


新海:…


真琴:今でも


新海:…ありがとうな、おじさん嬉しいよ。


真琴:うん。


新海:あと、修也先生な


真琴:めんどくせえな


新海:はいはい進路相談終わり。ほれ、行った行った


真琴:ありがとうございました。


0:真琴は席を立つ


真琴:失礼します


新海:真琴


真琴:はい?


新海:頑張れよ


真琴:…。うすっ。


0:扉が閉まる


新海:……ヒーローだってさ。


0:場面転換

0:放課後

0:廊下


皐月:はぁぁぁぁ。今日も一日よく学びよく遊びよく寝た!


0:皐月はクラスメイトと話している


皐月:えー?いやいや、学校は寝る場所でもあるって。社会史とかクソ眠いもんね。なんでなんだろうねあれ。新手の催眠術じゃない?そういう異常性かも。って、聞いてる??おーーい。なんだよ、聞いてんじゃん。…ん?あ、カラオケ?いやーー、ごめん、今日もバイトが。ごめんねーいっつも。うん、またねーっ。


0:クラスメイトは先に帰った


皐月:…。


新海:二ノ宮妹


皐月:うおっ。びっくりした!修也くん?


新海:先生だ


皐月:修也先生。後ろからいきなり声をかけるのはやめてください。学生を驚かせようだなんて趣味が悪いでございます


新海:バイトしてるって嘘つくのも相当趣味悪いだろーが


皐月:ちょ、聞いてたんすか。大きい声で言わないでね?私の学生生活が懸かってるよ割とまじで


新海:好き好んでサークルクラッシュなんかしねえよ面倒くさい


皐月:よかった。


新海:今日も真琴にだる絡みしに行くのか?


皐月:へへー。はい


新海:はぁーホントにブラコンだねえ。


皐月:兄貴が友達居ないから構ってあげてるんですぅ


新海:一見刺々しいからなーあいつ。


皐月:え。嘘。本当に居ないの?流石に1人や2人は友達が居て、たまたま私が目撃してないだけかと思ってたんだけど。本当に友達いないの?


新海:いないな。別に虐められてるとか無視されてるとかじゃないが


皐月:かー。なんてこった


新海:まあ、今はあいつが必要としてない感じあるしなー。


皐月:何その望めばいつでも作れますみたいな


新海:根は愉快な奴なんだから出来るだろ


皐月:まあねー。そうですけどねー。あ、てか二年、今日進路相談だったんだよね


新海:そ。


皐月:聞きました?兄貴の


新海:ドイツな


皐月:ドイツですよードイツ。ウケますね


新海:そうだなあ、ウケたね


皐月:しかもマジでドイツ語勉強しちゃってるし


新海:頑張ってんだからいいじゃん


皐月:え。認めてんの


新海:なにを


皐月:兄貴の中央入り


新海:認めるも何も、立派な夢じゃんな


皐月:えー。そうだけどー。なんで止めてくんないんだよー


新海:止める理由ないだろ


皐月:あるある。超ある。兄貴にエリートコースは似合わないもん


新海:横暴だな


皐月:それにほら。叔父さんの事も


新海:…


皐月:…あ、いや別に。だからって兄貴にどうこうって話じゃない…。いや、そういう話だなコレ。


新海:男には男の夢ってのがあんの


皐月:私女だしー。意味わかんないしー。えー。兄貴とめてよー。お願いだよー修也くーん


新海:公私混同はしない主義だ


皐月:薄情だー。


新海:大人だからな


皐月:大人は薄情か。


新海:そうだ。いいじゃねえか、やれる所までやらせてやりゃあ。


皐月:ほっとけば勝手にやめるって?まあー兄貴チキンだからなー。


新海:そうそう


皐月:昔さ、私と兄貴で修也くん止めたの思い出した


新海:あー、あったなあ


皐月:あの時は修也くんがドイツ行くって言ってた。


新海:言ってたな


皐月:結局行かなかったけど


新海:行かなかったな


皐月:…


新海:止めるのも、権利だと思うけどな、俺は


皐月:家族の?


新海:そう


皐月:そっか。


新海:そうだ


皐月:うん。分かった。またね修也くん


新海:先生だ


皐月:はいはい、お疲れ様です修也せんせー


新海:気ぃ付けて帰れよ


皐月:はいー。


0:場面転換

0:コンビニ


真琴:…。


0:商品棚を見ている


真琴:(M)新商品のカップ麺。340円。いつものカップ麺は210円。食べてえなあ…食べてえけど、今月ちょいピンチなんだよなあ。誤差130円…。おにぎり一個分か…。うーーん。


皐月:高い方のカップ麺買うなら、安いカップ麺買っておにぎりも買った方が腹の足しになるよねー


真琴:そうなんだよ。でもいい加減味にも飽きたしな


皐月:それでも今月はピンチだと


真琴:そう。ってか何で居るんだよ。しれーっと横にいやがる


皐月:今の時間帯ならコンビニかなって。あたり


真琴:普通にストーカーじゃねえか。心まで読みやがって


皐月:そりゃそんな商品棚凝視してたら分かるよ。せこい学生だって


真琴:そんな見てたか?


皐月:見てた見てた。スーパー行こうよ。向こうの方が安いし


真琴:うーーーん。あのスーパーちょい遠いんだよなあ


皐月:暑くてだるい?


真琴:だる過ぎる。お前くらいだるい


皐月:しれっと傷付けるなよー。お前さー


真琴:しゃあねえ、いつものカップ麺にするか


皐月:えー。スーパー行こーよー


真琴:なんでだよ


皐月:私も晩御飯食べたい


真琴:は?今日母さん家居ないの?


皐月:いるよ?


真琴:じゃあ家で食えよ


皐月:今日泊まってくー


真琴:どこに


皐月:兄貴の家


真琴:そか


皐月:うん


真琴:ちょっと待てや。なんでお前はそういつも自分勝手なんだ


皐月:やだやだやだやだ泊まるんだ泊まるんだ泊まるんだーい!


真琴:うっぜ


皐月:いやだいやだいやだ泊ーめーてーよー


真琴:嫌だっつってんだろ。


皐月:でもお母さんには兄貴の家泊まるって言っちゃったよ。


真琴:お前ほんと勝手だな。すぐ撤回しろ


皐月:二言は無いのだ


真琴:男にはな


皐月:もう。そんなことばっかり言っていいんですかね。ええ?


真琴:はあ?


皐月:お母さんから今日の食費貰ってます


真琴:…いくら


皐月:5000円


真琴:パジャマ持ってきたか?


皐月:勿論


真琴:よし。行くぞ。スーパーに


皐月:おろろ。生活費頼らないんじゃなかったんですかお兄様


真琴:違う。これは交渉だ。誰かを家に泊める報酬を得る。当然の対価だ


皐月:物は言いようだなー


真琴:ほれ、行くぞ


皐月:あいあい


真琴:(M)スーパーに行き、とりあえず気になった冷凍食品やら、レトルト食品をカゴに詰め、帰路に着く。


0:場面転換

0:真琴のマンション


皐月:これどこ入れればいい?


真琴:冷凍庫ー


皐月:はいよー。あ、レンチン出来た!持ってく持ってく


真琴:火傷すんなよー


皐月:あちちち。ほい。


真琴:よし、食うか


皐月:お箸とフォークは?


真琴:持ってきてる


皐月:ないすー。それではそれでは…


0:手を合わせた


皐月:いただきます


真琴:いただきます


皐月:豪勢だねー。全部レトルトだけど


真琴:ここ最近の食生活から考えればとんでもない贅沢だ


皐月:いっつもカップラーメンとかで済ませてんの?


真琴:まあな。


皐月:体に悪いってほんとーに


真琴:今んとこ超健康だから大丈夫


皐月:ホントかよ。お。このハンバーグ結構行ける


真琴:マジか。ていうかお前大きい方とるなよ


皐月:誤差じゃん


真琴:唐揚げ5つしかないけど


皐月:いいよ、兄貴3つ食べなよ


真琴:良い妹を持ったな


皐月:へへ、そうでしょうが。ええこら


真琴:んん。美味い


皐月:なんかー、懐かしいねー。


真琴:なにが?


皐月:え。この状況で懐かしいって言って、何が?とか言うかねフツー


真琴:うるせえな


皐月:ほら、実家の食卓を思い出す


真琴:ほー。


皐月:なんでピンと来てねえんだよ


真琴:そんな大昔って程でもないだろ


皐月:2年ですよ2年。兄貴が居なくなってからの食卓はそれはもう寂しく……も無いな


真琴:だろうなっ。俺そんな喋らないもんな。


皐月:でも私は兄貴と食べるご飯が一番美味しいですぜ


真琴:おお、味噌汁も結構美味いな


皐月:話聞けよ。ホント話聞けよ


真琴:ていうかお前、寝る時どうすんの?


皐月:?普通にベッドで寝るけど?


真琴:俺が床で寝る前提かよ。いいけど別に


皐月:なんでさ、一緒に寝ればいいじゃん


真琴:いくつだよ。いいよ、ベッド使って。クッションかき集めるし


皐月:照れちゃって


真琴:ちっ


皐月:また舌打ちしたー!


真琴:くっそ面白くねえ


皐月:そういうマジな反応まじでやめてください…


真琴:(M)暫くいつもの馬鹿話をしながら、可も不可もないレトルト食品を平らげ、特にやることも無くなった俺達は、可も不可もないB級映画を見ていた。俺も皐月もこれといって興味は示さず、片手にスマホを弄りながら眺めている内に、映画はエンドロールを迎えた。


皐月:…


真琴:…


0:2人は映画を見ている


皐月:ふむ。


真琴:そこそこ面白かったな、この映画


皐月:そうだね。


真琴:そろそろ風呂入るかー。


皐月:うん


真琴:シャワーでいいよな?


皐月:もちもち。湯船とか浸かれないよ。こんな暑いのに


真琴:そんじゃー先入っていいぞ


皐月:覗くなよ〜


真琴:…


皐月:無視はやめろって


真琴:着替え持ってきたか?


皐月:パジャマだけー。制服洗ってっていい?


真琴:おー。洗濯機入れといて


皐月:ありがとー。


0:真琴は携帯を弄っている


皐月:…よいしょ。


真琴:なんで横に座る。風呂入れよ


皐月:いやね。聞きましたよ。


真琴:?


皐月:中央に入ると


真琴:それは前々から言ってんだろ


皐月:進路相談で、修也くんも止めなかったと


真琴:…。まあ、止められはしたよ。一応。


皐月:おお。流石、修也くんは常識人だ


真琴:でも、最終的には応援してくれた


皐月:修也くーん!頑張れよー!


真琴:やっぱり今日泊まるとか言い出しのはこの事だったか


皐月:バレてたか。まあ、泊まりたいのは毎日そうだけど。


真琴:なんでだよ


皐月:だって学校から近いじゃんかー。てかさてかさ、何でそんなに中央に入りたがるのさ


真琴:んー。なんでって


皐月:だって聞いた事ないもん。実は


真琴:あー。


皐月:いやね、私はね。思うわけですよ。こんな可愛い妹を置いて国外逃亡。これはもうね、それ相応の理由が無ければ認められないですよ


真琴:なんだよそれ


0:真琴は寝転がる


皐月:おいー。真剣に聞けー。


真琴:聞いてる聞いてるー


皐月:絶対聞いてないし。二ノ宮 真琴ー。私は真剣に聞いてるのだぞー


真琴:別にいいだろ何でも。


皐月:良くないって。いやほんと良くないって。だって命に関わる仕事だよ??兄貴弱いんだから死ぬってすぐ


真琴:はあ?別にお前に関係ないだろ


皐月:か、関係ないってなんだよー。おいー。ひでえなー。薄情だぞクソ兄貴こらー


真琴:無いだろうが実際


皐月:関係あるよ


真琴:…。


皐月:…関係あるよ、お兄ちゃん


真琴:…え?


皐月:家族だよ。関係あるよ。


真琴:…お、おお。悪い


皐月:…なんてねー。うっそー。ちょっとビビった?


真琴:…


皐月:さてさて、私はお風呂に入りますよ。ホントに覗くなよー。


真琴:皐月


皐月:なに?


真琴:その。すまん。関係ないとか言って


皐月:え?


真琴:いや、普通に怒ってたろ今。分かるよ


皐月:…


真琴:だから…流石に、ああ。ちょっとさっきのは言い方は、違うよな。すまんかった。


皐月:んーーーもーー。そういうとこだぞー。おまえーー。


真琴:悪かったって


皐月:はいはい。いいよ、許す許す。そんじゃーお風呂お先ー。


真琴:おう。


0:場面転換


皐月:『ハンドルネーム.世界一可愛い妹さんからのお便りです。カブが抜けません。昔からそうでした。昔から私の言葉は届きませんでした。修也くんとお兄ちゃんは、同じ場所を見ていたけれど、私にはどうやら、お兄ちゃんと同じ景色は見えないようでした。幼心ながらに覚えた、漠然とした疎外感は、心の隅の方に根を張りました。友達を作りました。部活に入りました。それでもカブは抜けません。』



【3日目】


0:翌朝

0:通学路


真琴:腰いってえ……。くそが…。


皐月:だから一緒に寝ていいって言ったのに


真琴:あくまでお前はベッドから降りるつもりなかったんだな。


皐月:女子を床で寝かせるとかヤバくない?


真琴:うっぜえ


皐月:意地はらずにベッド来いよー


真琴:お前じゃなかったら喜んで寝てたよ。


皐月:うーわ。そういうこと言う


0:真琴が話しかけられる


真琴:…ん。おう、おはよー。あれ、サキちゃんっていつもこの道だったっけ。ああ、こいつ、前話した妹


皐月:…ども


真琴:全然似てないって、勘弁してくれ。おう。はいはい、また学校でー。


皐月:…おい、おいおいおい、おいー。


真琴:なんだよ


皐月:今の、誰?


真琴:同じクラスの相澤さん。


皐月:サキちゃんとか言ってたじゃーん。下の名前でさー。え、なに。彼女??


真琴:ちげえよ、相澤さんも中央入りするって聞いて、たまたま意気投合したんだ


皐月:…


真琴:ただそんだけだ。それ以上はない。


皐月:はーー。ほーー。へーー。


真琴:なんだよ。弄るなよお前


皐月:弄るでしょー。なんだよー、いつの間に春来てんだよ兄貴ー。おらっ。


真琴:いってえな!


皐月:あ、最近家に行くのにやたら目くじら立ててたのは、ほー。そういう事ですかー


真琴:お前マジで悪質だぞ


皐月:言ってくれればいいのにー。いけず


真琴:まじでそういうのじゃないから。


皐月:いいじゃんいいじゃん、そう照れなさんな。心配だったんだぞー、私は。兄貴にこのまま一人も彼女が出来ず、そして死ぬまで一人で狭い1Kのマンションで過ごすのかと…すんすん


真琴:具体的だな、やめろ


皐月:だーかーらー照れるな…って…またコンビニ?


真琴:昼飯


皐月:私も行くー


真琴:うい


皐月:ひゃー涼しいー


真琴:(M)冷房が強い。汗が急速に冷えて、服に冷たく張り付くのが分かる。ただの夏。蝉の声も、妹も煩い。何の変哲もない、ただの夏だった。


0:場面転換

0:時間経過

0:7月14日


真琴:…


皐月:兄貴ー兄貴ー


真琴:なんだ


皐月:もう帰んの?


真琴:今日バイトだから一旦帰る


皐月:ちぇ。待ってろよー。校門前で待ってろよー。


真琴:嫌。


皐月:ンモー。置いてくなよー私をー


真琴:なんか予定あんのか?


皐月:うん、先生に呼び出しくらった


真琴:うわ。何したんだお前


皐月:多分赤点について


真琴:あー。お前バカだもんな


皐月:聞き捨てならねえ。私は凄いんだぞ


真琴:いやほんと。なんでウチの入試受かったのか


皐月:うっさいなぁもう。本気出せば凄いんだぞ私は


真琴:それしか言うことないのかよ。そんじゃあな


皐月:はいはいー。


0:真琴は帰った


皐月:…はぁー。嫌だなあ。嫌だなあ。


0:空き教室


皐月:お邪魔しますー。


新海:…


皐月:って、あれ。修也くんじゃん。やっほー。


新海:…


皐月:あれ。おーい。おーーい、修也くん??


新海:ん。ああ、居たんだ。


皐月:なんですか、居ましたよ


新海:ん?ノックくらいしなさい


皐月:ええ。すんません


新海:まぁいいや、お疲れ様、好きなとこ座って


皐月:あざっす。それで、なんで修也くん…修也先生が?もしかしてただの雑談??


新海:ん。皐月ちゃんのとこの担任風邪引いちゃったろ。だから俺が代わりに


皐月:あーーー、やっぱりそれっすよね


新海:それっすよ。赤点、酷くない?


皐月:…はい


新海:まあ、ウチそこそこの進学校だから周りのレベルが高いってのもあるけどさ。


皐月:おす


新海:どーすんの、これ。留年するぞ


皐月:どうにかなんないすか


新海:なんない。


皐月:っすよね…


新海:んーー、まあ。こんな事言うのだいぶ心苦しいけど


皐月:はいぃ


新海:着いていけてないな、勉強


皐月:…


新海:もっと濁さず言うなら、よく受かったな。ウチに


皐月:…おす…


新海:皐月ちゃん。やってるね??


皐月:…


新海:いやまあー、それが発覚して今更なんだって話じゃないから。面倒くさいから。正直に言いなさい


皐月:入試の時は…その…はい…カンニングしました


新海:やってんなーー


皐月:すみません!何でもするんで許してください勘弁してくださいお願いしますお願いしますお願いします


新海:んん。さっき言ったからまあ、今更告発とかはしないけど。しないけど、この成績のままじゃいつかバレるぞ?担任じゃない俺でも分かったんだから


皐月:はいぃ


新海:はあ。何でそんな無理してウチ来たんだよ


皐月:それは


新海:嘘つくなよ。


皐月:…兄貴が、いるので…


新海:は?そんだけ?


皐月:…おす


新海:…こっちもまじのブラコンかい…。


皐月:…だってだって、兄貴、中学卒業と同時に一人暮らしするとか言い出すし…


新海:んーー。


皐月:…


新海:えーーっとなあ。…うん。なあ皐月ちゃん、真琴は、な。多分な。俺らとは違う人間だ


皐月:え?


新海:俺らがすごーく頑張ってさ、必死に追い付こうとしてもさ。置いてっちゃうような奴らだ。二ノ宮真琴は、そういう人間だよ。


皐月:なんすか急に


新海:説教。自分のレベルを分かってない上に、ズルしてんだから、当たり前だろ


皐月:分かってますけどお


新海:今から勉強頑張ってどうにかなるレベルとは思えない。これは教師として言うけどな、皐月ちゃんは、真琴とは違う。


皐月:厳しい、厳しいですよ修也先生っ。泣いてしまいますよ!いいんですか!!


新海:そもそも、この学校で一緒に居るうちはまだいいとして…卒業後はどうするつもりだ。またカンニングか?


皐月:ねえー!泣く!いよいよ泣く!


新海:ちょいちょい、皐月ちゃん、聞いてる?


皐月:聞いてますよ、喋ってるじゃないですかっ。どんなボケですかっ。


新海:え、全然聞こえなかった。


皐月:だーーもう、だから、つまり頑張れば…っ。


新海:?


皐月:頑張ったらいいんですよねっ


新海:うん?いやね、皐月ちゃんのレベルだと頑張っても…


皐月:頑張ります頑張ります頑張りますっ。というか先生がそんなこと言わないでくださいよぅ


新海:そりゃそうだけど。カンニングだからね君ね


皐月:う。駄目ですか。駄目ですよねえ


新海:んー、頑張るのか


皐月:頑張ります頑張ります!ちょー頑張りますっ。お願いしますチャンスくださいっ。ワンチャンスー、ワンモアチャンスーぷりーず


新海:はぁ、しょうがないなあ


皐月:修也くんーすきー


0:携帯が鳴る


新海:ん。


皐月:あれ、携帯が


新海:(M)携帯が鳴る。着信音では無い、焦燥感を煽る爆音が心臓を揺らす


皐月:え…アラート…?


新海:(M)緊急アラート。近場で異常体が出現した事を知らせる警報。


皐月:ちょ、え、え。ちょっと待って、近くないですか…?


新海:(M)劇的では無く、唐突に。非日常が訪れた。年甲斐もなく、ほんの一瞬浮き足立つような気持ちになって、同時に手に汗が滲んでいくのが分かる。


皐月:修也くん、修也くん


新海:あ、ああ、うん。大丈夫。大丈夫だ


皐月:でも、このアラート…


新海:(M)緊急アラートは、中央政府の観測室から測定された、異常性の発生位置を報せるもの。そしてそのアラートは、校内を指していた。


皐月:え、えっ、この学校の中に、異常体が


新海:まだ確定してない、大丈夫だ。落ち着け


皐月:いやでも、これ。がっつりウチの学校ですよね。


新海:(M)警報が指す危険区域は半径15キロメール。それは、ウチの学校を起点としていた。つまりこの警報に一切の狂いが無かった場合


皐月:誰か、この辺で、もう異常性を使った人が居るってことですよね、これ…っ。


新海:…っ。


皐月:お兄ちゃん…!


新海:真琴がどうした


皐月:今日バイトあるからって一旦家帰ってるんですっ


新海:まじか…っ。皐月ちゃん、すぐ連絡して


皐月:はい


0:場面転換

0:帰路


真琴:…緊急アラート。


0:真琴の携帯が鳴っている


真琴:異常体の出没警報、しかもクソ近い…!皐月…っ。


0:電話をかける


真琴:…っ。もしもし、皐月!


皐月:「お兄ちゃん!」


真琴:良かった、無事だな。今どこにいる


皐月:「学校、お兄ちゃんは」


真琴:良かった、俺は駅前。


皐月:「はあ?なんでぶらついてんの」


真琴:晩飯買って行こうと思ったんだよ。取り敢えず学校から出んなよ。修也くんも居るんだろ?


皐月:「居るけど、お兄ちゃんはどうすんの」


真琴:…。俺は取り敢えず帰るよ、この調子じゃバイトも休みだろうしな


皐月:「お兄ちゃん」


真琴:なんだ


皐月:「嘘ついてる」


真琴:ついてない


皐月:「嘘ついてるよ」


真琴:…


皐月:「どこ行くの」


真琴:…修也くんに代わってくれ


皐月:「やだ。どこ行くか教えて」


真琴:…


皐月:「お兄ちゃん!」


真琴:避難誘導、手伝ってくる


皐月:「意味わかんない!真っ直ぐ帰って!」


真琴:うるさい。皐月は学校から一歩も出んなよ


皐月:「お兄ちゃん!話聞け!」


真琴:そんじゃあな、もう切るぞ


0:電話を切った

0:場面転換 学校


皐月:え、嘘。ねえ、お兄ちゃん!


新海:?


皐月:…どうしよ、どうしよう、修也くん


新海:どうした、皐月ちゃん


皐月:お兄ちゃんが


新海:真琴がどうした


皐月:避難誘導手伝うとか言い出して、どうしよう


新海:はあ??


皐月:これ、まずいよね、やばいよね


新海:…皐月ちゃん、真琴、どこにいるって言ってた


皐月:え、あ、駅前としか、


新海:ちょっと遠いな…


0:深海は考えた


新海:…ごめん、皐月ちゃん。真琴はちゃんと後で探しに行く。今は皆の安全が優先だ


皐月:…っ。


0:場面転換

0:駅前


真琴:(M)思ったより騒ぎになってんな…!そりゃそうだ、この辺で異常体が出るなんて初めての事だろうし…。いや、叔父さんの件があったか


0:真琴は走ってる


真琴:(M)どこに居る。どこに居る。学校に向かわなければそれでいい。最悪、刺し違えてでもっ。くそ、全然見つからないっ。警報は、警報は…っ。どこから出てる…っ。


0:真琴は携帯を見た


真琴:…ウチの学校が起点になってんじゃねえか…


0:また走り出す


真琴:(M)くそが、警報がざっくりし過ぎなんだよボケ…っ。つまりこれ、皐月の方が危ないって事じゃねえか…!


0:真琴は走りながら電話をかける


真琴:(M)出ろ、出ろ…っ。


0:警報が鳴り止む


真琴:(M)…っ。なんだ、警報が止んだぞ…。何が…


0:携帯を覗く


真琴:……誤報…?


0:場面転換

0:学校


皐月:警報、止みましたね…


新海:…拍子抜け、誤報だってさ


皐月:誤報、すか


新海:うん。ほら


0:携帯を見せる


皐月:…まじだ


新海:はぁ。


皐月:え、え、じゃあ異常体は、どこにも居ないってこと?


新海:…はぁーーーー。なんだよ。ビビらせやがって…


皐月:お兄ちゃん、


新海:真琴も無事だろうな、とか言ってる間に、ほれ。電話きたじゃねえか


0:電話


皐月:…!も、もしもし!


真琴:「もしもし、皐月、そっちは何も無いか?大丈夫か」


皐月:うん、うん、大丈夫。お兄ちゃんも、大丈夫?っぽい、ね


真琴:「大丈夫だ。学校まで迎えに行くから待ってろ」


皐月:私が迎えに行くよ


真琴:「いい。そこから動くな」


皐月:…わかった


真琴:「そんじゃあ。また後でな」


皐月:うん。


0:電話終わり


新海:ほらな、大丈夫だったろ


皐月:…はい。私、あの、玄関でお兄ちゃん待ってます


新海:ん。誤報だったとは言え、気をつけろよ


皐月:はい


0:皐月は教室から出た


新海:…


0:場面転換

0:玄関


真琴:…。


皐月:…!お兄ちゃん!


真琴:皐月


皐月:おかえり


真琴:ただいま、なのか。分からんが、取り敢えず無事でよかった


皐月:…


真琴:…皐月?どうした?


皐月:今日泊まる。泊めろ


真琴:…


皐月:…


真琴:晩飯は自分で買えよ。


皐月:…え。いいの?


真琴:心配かけちまったしなあ。なんか奢れって言われるよりよっぽどマシだ


皐月:…


真琴:だから…まあ。なんだ、怒んな。


皐月:…


真琴:聞いてる??


皐月:…。ふふふふふ、なんてね!ビビった?ビビった?マジで怒ってると思った??


真琴:お前さあ…


皐月:兄貴のああいうトンチな行動は今に始まったことじゃないからねー。もう慣れたよ、飽きたよー。


真琴:そうか、元気になったら帰れ


皐月:前言撤回が早いって。無理無理、絶対泊まるから。言質とってるからー。


真琴:(M)…明るく振舞ってる、けど。多分無理させてるよなあ、これ。


皐月:…兄貴?


真琴:いいや。お菓子買ってやる。


皐月:え、なんで。優しい。怖い。無理。これ以上お金は貸せません。


真琴:1回も借りた覚えねえよ。なに。いらないの。


皐月:いるいる。


真琴:300円までな


皐月:このご時世300円で何が買えるというのか…


0:場面転換

0:学校


真琴:……。


皐月:いやーー。


0:料理。焦げている


真琴:なんだこれ。


皐月:妹の手料理だよー嫌だなー。


真琴:料理なのか、これは


皐月:まあまあ、見た目によらないから。食べてみたら分かるから。ほら


真琴:やめろ、おい、無理矢理口に押し込むなっ


皐月:まあまあまあまあまあ


真琴:むごっ。


皐月:…どうでっしゃろ?


真琴:…あれ、俺生きてる?


皐月:そんなに不味いか


真琴:死んだかと思った


皐月:大袈裟だって


真琴:食ってみろ。飛ぶぞ


皐月:もー。失礼しちゃうなー。もぐもぐ。


真琴:…


皐月:あれ、私生きてる?


真琴:死んでる


皐月:生きてるよ!ギリ生きてるよ!死ぬかと思っただけで!


真琴:何故食品がここまで不味くなるのか


皐月:お兄ちゃん、自炊できるの


真琴:そんな大層なものは作れないけど、食えるもんは作れる


皐月:女子力で負けている…?で、これどうしますか。この、塩分の塊みたいな肉らしきもの。我ながらもはや食い物では無い


真琴:しょうがない、米だ。


皐月:こめ


真琴:大量の米だ。この塩の塊を大量の米で掻っ込む。


皐月:え、食べるの?


真琴:しょうがねえだろ。晩飯これしかねえんだから


皐月:いやいや、やめとこうよ。こんなの食ったら病気になるよ。癌とか


真琴:自分で言うなよ。


皐月:言うって。ごまかせないって。私達の健康のためにこれは残しましょう


真琴:いいって。米ついでくる


皐月:いやいやいや、無理しなくていいよホント。なんか買ってくるって


真琴:駄目だ。外には出んな


皐月:?なんで?まだ補導される時間じゃないよ


真琴:危ないからだろうが


皐月:え?あ、異常体のこと?あれは誤報だったって…


真琴:念には念をだ。外が暗い内は外出すんな


皐月:あらら。心配してんだー。心配性なのかー。そうかー。


真琴:心配だ。


皐月:おろ…


真琴:だから明日は早めに帰れ


皐月:…お兄様…


真琴:冗談抜きだぞ


皐月:おぉ。いやでもね。私は思うわけです。絶対兄貴の方が危なっかしいと。


真琴:は?


皐月:今日もあんな行動してさ。だから誰かが見張ってなきゃいけないと思うんだ。お前みたいなやつ


真琴:お前って言ったな


皐月:明日休講になったし。その後土日だし。それまで監視することに決めた


真琴:勝手なこと言うな


皐月:うるさいうるさい!口答えすんな!


真琴:なんでそんな横暴なんだお前は!いつからそんな面倒臭い奴になったんだよ!


皐月:私は生まれた瞬間からめんどくさいよ!


真琴:声を大にして言うな!近所迷惑だろうが!


皐月:すんません


真琴:はぁ…。


皐月:でも、監視すんのは本気だからね。兄貴、何するか分かったもんじゃないし。それにお願いもあるので


真琴:お願い?


皐月:勉強、教えて


真琴:は?なんで?


皐月:私このままじゃ留年。最悪退学になるから


真琴:は??


皐月:だから助けて!お願いお兄様!兄上!兄貴ぃ!



真琴:『憧れの背中があった。正義感が強くて、勇敢で、虫取りが上手い。俺の一番最初に憧れた背中。その人と同じ夢を見た。けど、あのたった一発の銃声は、憧れも、希望も、夢も、全てを壊した。人を殺す覚悟が、人を守る覚悟だと知った。あの日も、蝉が煩かった。』


【4日目】


新海:へー、ここが真琴の家か。


皐月:どうぞどうぞ、狭いところですがお座り下さい


真琴:おい


新海:ふむ。


皐月:あ、お茶でも飲みます?


新海:じゃあ頂こうかな


皐月:すぐに。


新海:…で?なんで昼間っから俺を呼び出したわけ??休みなんだけど。


皐月:っ。


真琴:皐月の勉強見てやってください


新海:は??


皐月:お願い!お願い!


新海:時間外労働はしない主義だ、帰る


皐月:修也くーん。待ってよー。お願いー。たのむーたのむー。


新海:なんで、お前の、不始末を、俺がしなきゃならん


皐月:正論だよー。言い返すことないよー。


新海:それに俺は教師だぞ。誰かに肩入れなんか出来るか


真琴:じゃあ、修也くんにならいい、って事か


新海:お…おぉ…


真琴:俺からも頼むよ、修也くん


皐月:兄上…!


新海:でもこいつカンニングして受験してんだぞ?


皐月:ちょっ


真琴:お前…最っ低だな


皐月:やめて、本気で軽蔑してる目だ、やめて。泣きそう


真琴:お前さ。最低だな。


皐月:2回も言うなよ!ちがう!ちーがーうーのーっ。誰かの答案用紙覗いたりはしてないのー。


真琴:なんの弁明だよ


皐月:だってなんかさ、それは他人の努力を盗んでるみたいじゃない?だからメモの切れ端とか、消しゴムの裏側とかに仕込みをしたんですーっ。これは努力!立派な努力!故にせーふ!せーふ!


真琴:アウトだろ


新海:アウトだな


皐月:アウトだよ!!!私が悪かったよ!!許してよ!!勉強教えてよ!!!


新海:はぁーーー。


真琴:いやあ、まさかここまでの悪党だと思ってなかった。呼び出してごめん、修也くん。


新海:ホントだよ。俺の貴重な休日返せよマジで


真琴:いやほんと、返す言葉もない。せめて飯くらいはご馳走させてくれよ。修也くん、昼はもう食べた?


新海:おー、食ってきたけど。なになに、真琴料理とかすんの


真琴:そんな大層なもの作れなんで、なんか出前でも頼もうかと


新海:おいおい、手作りじゃないなら俺が奢るしかないじゃん。


真琴:なんで?


新海:なんでって。わかんねえかなぁ。大人のプライドだよ。手料理をご馳走してもらうのはいい。既に届いてる出前の飯を食うのもいい。ただ、今、目の前で、こう…現金のやり取りが発生したとなったら、そりゃ奢らなきゃならんのよ


真琴:いいじゃん、今日は先生じゃないんだし。


新海:あ、たしかに。


皐月:ちょいちょいちょーーい


真琴:なんだよ


新海:うるさいな


皐月:いやいや、ね?分かりますよ。確かに私は許されざる方法を使い入学しましたとも。ええ。だからって私抜きで話進めなくてもいいじゃんかー!


真琴:お前が自分で蒔いた種だろ。


皐月:そうだけどさーー。頼むよー、修也くーん、兄貴教えんの下手でさー、修也くんにしか頼めないんだよー


新海:んーーー。


真琴:修也くん、聞かなくていいから


皐月:おーねーがーいー。これからは真剣に勉強するからーーー。


新海:んーーー。


真琴:皐月も、往生際が悪いぞ


皐月:やだやだやだ!退学なんていやだ!どんな顔してお父さんとお母さんに会えばいいのさ!


真琴:カンニングした時点でもう向ける顔ねえよ。親不孝もんが


皐月:うるさいうるさいこのわからず屋アホばかカスなすび!私は修也くんに頼んでんのっ。


真琴:おまえっ。なすびって言ったな


新海:うーーーん。


皐月:修也くんっ。


真琴:修也くん


新海:…まあ、いいんじゃねえの。


皐月:えっ


真琴:修也くん…


新海:その代わり、もうズルすんなよ。


皐月:分かった!わかったわかった!


真琴:そうやって修也くんは昔から皐月を甘やかす。修也くんだけじゃない、両親も皐月にゲロ甘で、だからこんなに育ったんですよ。


皐月:ふふん。英才教育の賜物さ


真琴:威張るな


新海:ほれ、そんじゃあ早速始めんぞ。ノート出せ


皐月:はーい!


真琴:(M)こうして、皐月の為の勉強会が始まった。一年の勉強を今更俺が復習してもしょうがない。二人の勉強会を横目に漫画を読んだり、スマホをいじったりと、優雅な休日を過ごした。まるで昨日の騒がしさが嘘のように。


皐月:はぁーーーっ。疲れたぁ…ちょっと休憩ー


新海:ういー。


真琴:お疲れ様ー。どう修也くん、バカの調子は?


皐月:バカって言うなー


新海:思ったより飲み込みいいぞ、何で勉強できないのか分からん。


皐月:へへー。私馬鹿では無いのでー。どうですどうです。フンス


真琴:修也くんの教え方が上手いんだろ。


新海:いぇーい


皐月:まあ、実際修也くんの教え方すっごい分かりやすい。頭にスッと入ってくるし。何でこうなるのかー、って言うのをちゃんと教えてくれるし


新海:へへ、やめろやい


真琴:昔から修也くんは教えんのうまかったもんなあ。


新海:そうかあ?


真琴:うん。虫取りとか


新海:またそれかよ。もはやそれしか無いだろ。


真琴:そんな事ないって。


皐月:あ、もう結構いい時間だ。


真琴:ちょい早いけど、飯にするか


皐月:じゃあ私暗くなる前に買い出し行ってくるー


真琴:出前にするって言ったろ


皐月:昨日のリベンジ、リベンジ


真琴:修也くん、帰った方がいいかもしれない


新海:なんで


皐月:いいから、修也くんも。そのまま待ってて。すぐ戻ってくるから


真琴:はぁ。いいよ、俺が行く。


皐月:なんで?


真琴:いいから、帰ってくるまで勉強でもしてろ。そんじゃあ修也くん、ちょっと皐月お願いします


新海:はいよー。


皐月:え、私行くってば。おーい


0:真琴は部屋を出た


皐月:はー。なんだよなんだよ。


新海:相変わらず愛されてるねえ、皐月ちゃんは


皐月:愛されてる?


新海:心配なんだろうよ、昨日あんなことあったばっかりだしな。


皐月:…。ふふん。やっぱりなんだかんだと妹が可愛い兄上なのであった、ということだ


新海:そうだろうなー。


皐月:ありがとね、修也くん


新海:んー?


皐月:勉強教えてくれたのもそうだし、そのほら、カンニングの事とか…


新海:あー、いいよ。カンニングについては昔馴染みじゃなくても無視してたし。面倒くさい


皐月:はは、変わったねー、修也くんは


新海:そうか


皐月:うん。昔はこう、正義のヒーロー見参っ。みたいな感じで、正義感の塊だった印象


新海:ガキの頃の話じゃねえか。あれからもう何年経ったと思ってんだ。


皐月:そりゃあそうかー。今の修也くんも好きだけどさ。


新海:どーもどーも


皐月:だからさ、こうやって三人で一緒にいると、昔を思い出して、なんか。いいね


新海:…


皐月:叔父さんの事を気にしてるならさ、いいんだよ。もう気に病まなくて。修也くんは悪くないもん


新海:皐月ちゃんって結構鋭いのなあ


皐月:分かるよ。勉強見てくれてるのも、贖罪って言うの?そういうこう、罪滅ぼしなのかなーって。なんか、漬け込んでるみたいでごめんね


新海:分かっててお願いしたなら相当タチ悪いなあ。


皐月:ごめんごめん


新海:…


皐月:修也くんは、逃げたわけじゃないよ


新海:中央に行かなかったこと、か


皐月:それだけじゃなくて。今こうして先生やってるのも、全部。逃げたわけじゃないと思うんだー。


新海:…まあ、忙しいからな。現実は


皐月:ね。忙しい。昨日異常体が出たーとかで、少しの間日常とは違う事が起こったけど、一晩寝たらもう学校の単位の心配してんだもん。忙しいや


新海:俺からしたら真琴の方が凄いよ。異常体の脅威を、あんなガキの頃に知ったのに。それでも中央入り目指して頑張ってんだから


皐月:そんな大層なもんじゃないと思うけど。兄貴は夢と戦う事を決めた。修也くんは、現実と戦うことを決めた、そんだけの違いだよ


新海:はは。身の程を知ったって意味では、そうだろうなあ。


皐月:なんでそんな捻くれた言い方するかなあ


新海:大人になるってのはそう言う事なんだよ


皐月:ひひ、大人だっさ


新海:だせーぞお、大人は。それ、真琴帰ってくるまでもうちょい進めんぞ


皐月:ほいほーい。お願いします大先生


新海:(M)それから30分ほど勉強を教えてたが、真琴が一向に帰ってこないので皐月ちゃんが探しに行った。わざわざ行かなくても、と言ったが、聞く耳持たず。昨日の騒動が誤報だった以上、そう目くじらを立てることも無いだろうと思い、黙って見送り、一人で時間を潰すこと20分。


真琴:だーかーら!お前にはもうメシ作らせないっつってんの!


皐月:無理無理無理!私が作る私が作る私が作る!


新海:なんの喧嘩だよ


真琴:修也くんは知らないだろ、こいつのメシの不味さを!


皐月:はぁー?昨日は美味しそうに食べてたじゃん!


真琴:あれの何処が美味しそうに食ってたように見えんだよ!


皐月:嬉し泣きしながら食べてたじゃんか!


真琴:泣いてたんだよ普通に!


皐月:今日は大丈夫だって!


真琴:一石二鳥で上手くならねえんだよ家事は!


皐月:はぁーー?なんでそんな作りたがるんだよ!


真琴:お前もだろうが!


皐月:あれだろ!あのー、相澤さんにご馳走する気だろ!


真琴:なんで今サキちゃんの名前が出てくんだよ!


新海:相澤サキか?


皐月:そー!こいつ!全然帰ってこないと思ったらっ。スーパーで相澤さんとイチャコライチャコラチュッチュッチュッしてたんだよーいっ。


新海:え、そうなんですか真琴さん


真琴:違うっ。たまたま会ったから話してだけだっ。


皐月:ほーへー。ほーん。あーんなに楽しそうに話しとってからにっ。どうせ近日中に家に誘ってさぁっ。手料理とか振舞ってさぁっ。あわよくばワンナイトとか考えてんだろっ。させるかぁーっ!


新海:別に良くない??


皐月:どーーしてっ。なーぜ兄貴ばかり先に行くのかっ。私よりも先に恋人を作ることが許せないっ。


真琴:ほっっとけよっ。


皐月:普段仏頂面のくせに!むっつり!


新海:俺はわかるぞ、真琴


真琴:っぱ修也くんだよ


皐月:2対1だー。きもいんだー。


新海:ていうかもうどっちでもいいから飯にしようや、なんやかんやと1時間経ってるから


皐月:私が作るっ


真琴:わかったよもう。


皐月:ふふん。


0:皐月はキッチンへ


新海:相変わらず仲良いなあお前ら


真琴:そうかな


新海:ああ、変わらないよ。お前らは、本当に


真琴:…うーん。そうかぁ


新海:そうだ。


真琴:…


0:無言


真琴:(M)…気まづい。思えば修也くんとプライベートでこうして話す機会っていうのは、随分久しぶりだな。

関わること自体、叔父さんの一件以降、めっきり頻度が落ちたし。

…そう思うと…なんだかんだ、皐月ってこういう場の架け橋になってたんだなあ。

正直、話したい事も、聞きたいことも沢山あるんだけどなあ。

修也くんが中央入りを断念したきっかけの事とか。

普通に、あれからどうしてたのか、とか。

彼女いるのー、とか。


新海:なあ、真琴


真琴:、なに?


新海:焦げ臭くないか??


真琴:…ああ…もう…皐月ー。お前やったなー


皐月:やってないー。やってないからこっち来ないでー。


真琴:はあ、ごめん修也くん、残してもいいから


新海:え?言ったってちょっと焦がしたくらいだろ。大袈裟だなあ真琴は


真琴:(M)その後、食卓に並んだ黒い何かを見て、修也くんはあんぐりとしていた。二人して泣きながら何とか口に放り込む。


新海:真琴、これっ。おえっ。


真琴:だからっ。おえっ。言ったろ、おえっ。


皐月:おかしいなあ…レシピ通りに作ったのになあ


新海:なんで先に言わないんだ真琴


真琴:言ったよ。言ったろ


新海:ここまでとは聞いてないっ。


真琴:(M)1時間ほどかけてなんとか平らげ、ムカつくので皿洗いは皐月にやらせた。扉の向こうで皿を洗う音が漏れている。皐月は何故か上機嫌に鼻歌を歌っている。むかつく。その間、ほぼ日課となっているB級映画を修也くんと見ていた。


新海:真琴、映画よく見るのか


真琴:うん、まあ。ぼちぼちかな


新海:へー。


真琴:修也くんは?


新海:中学出てからは全然見なくなったなあ。そもそもあんまり見なかったけど


真琴:昔はヒーローアニメよく見てたじゃん


新海:ガキの頃は誰だって通る道だろ。嫌いなんだよなあー、安っぽい正義感振りかざしてる主人公。ほら、今見てる映画のコイツだって。結局血筋が恵まれてるオチだろ?


真琴:んー、まあ。映画なんて大抵ご都合主義だしなあ。分からないでもない


新海:まあ、でも。こういう無垢な正義感が人を救うんだろうなあ。


真琴:なに、ナイーブ?


新海:んー。


真琴:珍しい。俺でよければ話聞くよ、てか聞かせてよ


新海:…。いやー、お前はすごいやつだなぁって思うわけだよ


真琴:俺が?


新海:ん。


真琴:何も凄くないけどな


新海:すげーよ。俺、お前の歳にはもう第一希望市役所の公務員だったもん。


真琴:ああ…。ん…と


新海:俺が中央入りを諦めたのは、叔父さんの死がきっかけだよ。それ以上は無い


真琴:…


新海:気ぃ使うな。久しぶりにこう、面と向かってちゃんと話すから、気まづいのは分かるけど


真琴:修也くんもか、よかった。俺だけ変に緊張してんのかと思ってた


新海:するする、俺だってするさ


真琴:…。昔さ、修也くんが中央にはいるんだ〜って言い出して、そっから俺も中央入り目指して。初めは何となくだったけど、今では…ていうか、これ前の進路相談の時話したか


新海:ん。聞いた。


真琴:じゃあ、今度は修也くんの番だな


新海:おれぇ


真琴:聞かせてよ、中央入り、諦めた経緯と言うか。


新海:…それこそ前話した通りだ。目の前でお前らの叔父さんが射殺されて、ポッキリ折れた。あぁいや…ポッキリは、嘘だな。立ち上がる機会なんて幾らでもあったんだろうに。中々腰が上がらなくて。気付けばもう周りは就職とか進学の時期でさ、夢とかそれどころじゃなくなってたよ。


真琴:…


新海:お前が慕ってくれてた修也くんは、もうただの冴えないアラサーだ


真琴:違うよ、そんな事ない。修也くんは、今もこうして俺たちの先生やってるじゃん


新海:ただの先生だ


真琴:ただの、なんて無い。そんな事言ったら俺も、中央入り目指してるだけの、ただのガキだ。


新海:…


真琴:進路相談の時さ。頑張れって。言ってくれたろ


新海:ん


真琴:嬉しかったんだ。なんか、なんて言うんだろ。修也くんにそんな気は無いかもしれないけど。託されたって気がして


新海:…そんな立派なもんじゃない。やれるものならやってみろって思った程度だよ


真琴:それでも背中を押してくれたじゃないか。他の誰でもない、修也くんが


新海:…


真琴:だから俺、頑張るよ。この映画の主人公みたいに、とまでは言わないけど。無垢で、馬鹿げた正義感でいいから。修也くんが苦しみ切れなかった分まで、俺が


新海:…苦しみきれなかった…?


真琴:修也くんは今でも、後悔してるだろ。でも、今になって後悔に向き合うのは、いくらなんでも無謀だろうし、今の修也くんにはその必要も、時間も無いと思うから


新海:…はぁー。高校生にしてやられてんなあ、俺は


真琴:その代わりさ、いつか俺が挫けそうになったら。また背中叩いてよ。


新海:俺でいいの?


真琴:修也くんじゃなきゃ、多分逆ギレするよ俺


新海:はは、じゃあその時はそうする。


皐月:…


真琴:ん。どうした皐月、皿洗い終わったのか?


皐月:うん。終わったー。随分仲良く話してますねえ、お二人さん


真琴:ああ、久しぶりに腹割って話した


新海:大きくなったねえ真琴ちゃん


真琴:やめろよ


皐月:…。私も


新海:?


皐月:私も、中央目指したい。


真琴:…


新海:ははーん。またカンニングか


皐月:違うよい!今度は本気、真面目にド正面から!


新海:死ぬ程勉強しないと無理だぞ


皐月:無理とか言うな先生がーっ


新海:今はただの修也くんだからな。


皐月:調子良い奴め。でもさでもさ、今の言い方から察するにさ、死ぬ気でやればなんとかなるかもしれないってことだよね?ですよね?


新海:んー。まあ、限りなく不可能に近い、理論上可能、ってやつだな


皐月:1%でもあるなら目指すっ


新海:ほんき?


皐月:ほんき!


真琴:無理だ無理、やめとけ。


皐月:はーー?なんだこらっ。やれるわっ。


真琴:お前はすぐ泣き言言うし逃げるから無理だ。


皐月:やれるしやれるしっ。超やれるしっ。


真琴:今までの行動見てたら分かるっての、無理だって。学校の受験すらカンニングで済ます様なやつには無理


新海:真琴…?


皐月:酷い事ばっか言うっ。そうやって若者の将来を潰すんだーいっ。出来るってば。私こう見えて結構優秀だから


真琴:無理だっつってんだろっ。


皐月:…


新海:…おいおい真琴、そんな熱くなってやんなよ。


真琴:こいつが意味わからん事言うのが悪い。クソ面白くねえ冗談言いやがって


皐月:冗談じゃないし


真琴:もう寝ろお前。それか帰れ


皐月:…、なんだよそれー、お兄ちゃんが泊まっていいって言ったんだろー


真琴:じゃあ寝ろ。黙って寝ろ


新海:おーいおいおい、どうしたどうした。やめてやれよ真琴、大人気ないぞ


真琴:いや、だってこいつが


皐月:大人気ないってなに


新海:え


皐月:私だけ、そんなにガキなの?


新海:あ、いや。そういう訳じゃなくてだな…


皐月:…


0:新海は目眩に襲われる


新海:(M)あれ…なんだ。急に、なんか。…なんだ、これ。


真琴:おい皐月、修也くんに当たるなよ


皐月:…。うーそうそ!ごめんっ。冗談が過ぎましたーっ。でもさあ、このくらい言わないと私が本気って分かってくんないでしょーが。


新海:…


真琴:お前なあ、心臓に悪いボケすんなよ


皐月:ごめんって。修也くん、ホントごめんっ。やり過ぎたっす。今日は勉強教えに来てくれたお客さんなのに


新海:…


皐月:…修也くん?大丈夫??


真琴:…え、寝た?修也くん??


新海:ん。あ、ああ。悪い悪い、大丈夫だ。そうかそうか、ギャグだったか。キレ芸まで覚えたのか皐月ちゃん


皐月:へへん。


真琴:威張るな


皐月:いやほんとごめんよ、やり過ぎたよ


真琴:さ、て。そんじゃどうする?なんか映画もう一本くらい見る?


皐月:んー。眠い!私寝る!


真琴:そうか、修也くんはどうする?


新海:どうするって、なにが?


真琴:今日泊まってくかってこと。もう結構遅い時間になっちゃったし。


新海:いやあ、流石に三人もこの部屋ではきついだろ、帰るよ


真琴:そう?昔は俺と皐月の共有部屋で三人雑魚寝してたし、行けるんじゃ


新海:今じゃ身長が違うだろーが。狭いぞ普通に


真琴:いいっていいって、泊まってってよ。


新海:…そんじゃあ、お言葉に甘えるか


真琴:うし。じゃあベッドは修也くんな


皐月:えー。まあ、お客人だしな。しょうがないな。


新海:そこまで気ぃ使うな、居づらいわ。じゃんけんにしよう


皐月:いいねー!


真琴:ん、そんじゃあ


皐月:じゃんけんぽんっ。


真琴:(M)結果的に俺がベッドで寝れる権利を獲得した。時間はまだ24時にもなってないが、消灯する。


新海:…ねた?


真琴:なんで修学旅行の夜みたいなことしてんの


新海:ねえねえ、好きな子誰


皐月:えーやだ。気になる


真琴:言わねーよ。やめろって。先生来るって


新海:いいじゃーん


皐月:教えろよー


真琴:ていうか皐月はマジで寝ろよ。お前が寝るって言い出したんだろ


皐月:はいはーい。寝ますよー。ぐうぐう


真琴:嘘つけお前


新海:いつぶりだろうなあ。誰かと寝るの


真琴:修也くんこそ彼女のひとりくらいいないの?確か結構モテてた気が


新海:ガキの頃は脚が早いだけでモテんのよ。彼女居たら泊まってねーって


真琴:そりゃそうか。


新海:そうだ


真琴:…


新海:…


真琴:寂しいやつ


新海:シバくぞ


真琴:はは。ごめん


新海:タバコ吸っていい?


真琴:ベランダならいいけど。


新海:んー。出るのめんどくさいな。いいや


真琴:ん。


真琴:(M)他愛もない。本当に他愛のない会話のラリーを続ける内に、皐月の寝息が聞こえた。寝たフリをしてる内に本当に寝てしまったのだろう。思いの外、なんちゃって修学旅行トークに花が咲き、朝日が登った頃にようやく眠気が来た。久しぶりに、こんなに人と話した気がする。



新海:『そう遠くない、割と最近の話。外国で大きな戦争があったらしい。これまた異常体を取り巻く大事件。沢山の死人が出て、世界、特にヨーロッパ諸国は大恐慌に陥ったと言う。対して、俺達の住む日本はその間も依然として平和で、遠くで起こっている何か大きなことを眺めているだけ。いや、眺めてすらいなかった。どんなに大きな事が起こっても、俺には関係が無い。今はそれでいい。そんな非日常にかまけている暇なんてない。現実を生きるのだけで、十分忙しいんだ。』


【5日目】



真琴:(M)携帯のアラームで目が覚める。しかし、俺の携帯だけじゃ無い。修也くんの携帯も大きな音を鳴らしている。


新海:んーー。なんだよ、こんな朝っぱらから。


真琴:ん…え…っ。修也くん、緊急アラート…っ。


新海:は?また?誤報じゃなくて?


真琴:わかんないけど…皐月!


0:皐月は部屋に居ない


真琴:…は?皐月?


新海:おいおい、皐月ちゃんどこ行った


真琴:あの馬鹿っ。


新海:真琴は家の中にいろ、探してくる


真琴:そんな訳にいかない、俺も行く


新海:…。分かった、とりあえずマンション周辺でいいな


真琴:うん。何かあったらすぐ電話するから


新海:ああ、こっちもそうする。


0:場面転換

0:マンション周辺


真琴:(M)なんなんだ、一昨日と言い、今日といい…っ。こんなの初めてだ、街中が警報でうるさいっ、くそっ。


0:真琴は走っている


真琴:(M)居ない、居ない居ない居ない…っ。あの馬鹿、なんでこう間が悪いんだ…っ。


0:場面転換

0:駅前


新海:…っ。くそ、電車止まって人だらけじゃねえか


0:新海は立ち尽くしている


新海:(M)様子を見るに、まだ被害が出た訳じゃなさそうだが…っ。いつ何が起こってもおかしくない、今回も誤報であってくれよ畜生っ。


0:時間経過


真琴:(M)それから一時間程探し回ったが、皐月の姿は無かった。


新海:「もしもし、真琴」


真琴:見つかった…!?


新海:「いや、全然ダメだ。」


真琴:くっそ…っ。


新海:「真琴、お前1回家帰れ」


真琴:は?何言ってんだよ


新海:「俺は教師だ。お前らの安全を保証する義務がある。」


真琴:言ってる場合かよ、皐月が…!


新海:「真琴。言うこと聞け」


真琴:…


新海:「確かに先生以前に俺とお前は友達だ。だけどな、それでもお前はウチの生徒だ。保護下にいる間に聞き分けが出来ないなら、俺は本気で怒る」


真琴:…


新海:「真琴」


真琴:…っ。任せても、いいんだよな


新海:「ああ、任せろ」


真琴:…分かった。頼んだ、修也くん。


新海:「おう。」


0:電話を切る


真琴:くそっ。…くそ、くそ…っ。


0:場面転換

0:商店街


新海:(M)中央政府情報局からの追加報道。現在この近辺で出没していると思われる異常体は「透明化」の異常性を有している可能性がある。との事。


0:新海は携帯を握る


新海:透明化だぁ…?そんなもん、見えねえんじゃあ身を守るもクソもねえじゃねえか…っ。無茶言いやがってくそっ。


0:新海はまた走り出す


新海:(M)あの日の記憶がフラッシュバックする。二ノ宮の叔父さんが射殺された時の事。異常体は力に制御出来ずに人を殺そうとする。初期症状での発狂はよくある事だ。もし、もし巻き込まれたら。俺はもう二度と自分を許せない。早く見つけないと、早く、早く、早く…っ。


0:新海の足は次第に止まる


新海:……あれ、何を急いでんだっけ、俺


0:場面転換

0:真琴のマンション


真琴:(M)ノコノコと帰ってきた。追加情報によると、どうやら透明化の能力を持った異常体。家屋の鍵の厳重管理を心掛けるように触書があった。


0:部屋を開ける


真琴:…。


皐月:…


真琴:…は?皐月?


皐月:えっ


真琴:は???


皐月:え???


真琴:お前。お前さぁぁぁ、なんだよ。どこ行ってたんだよ


皐月:え、あ、いや、早くに目が覚めたから普通にコンビニ寄ってて…


真琴:じゃあ連絡しろ


皐月:いや、あれ。え?


真琴:は??なんだよ


皐月:…。ううん、いやあのっ。…ごめん。私もさっき帰ってきたから


真琴:はぁ、いや、無事ならいい。良かった、本当に


皐月:…お兄ちゃん、私探してくれてたの


真琴:そうだ。俺だけじゃない、修也くんも今走り回ってくれてる。


皐月:…そっ、か。ごめんなさい、心配かけました


真琴:ホントだよ。とりあえず修也くんに連絡する。


0:真琴は修也に電話をかける


真琴:…もしもし?修也くん?


新海:「ああ、真琴か。」


真琴:皐月、ウチに居たよ。騒がせてごめん


新海:「ん?ああ、おう。お前は無事に帰れたのか?」


真琴:うん。大丈夫。ありがとう


新海:「そうか、そりゃ良かった。俺今から職員会議あるから戻れないけど、もう今日は家からは出るなよ」


真琴:職員会議??こんな時に


新海:「こんな時だからだよ、生徒の安全がかかってるからな。」


真琴:…気を付けてくれよ、修也くんも


新海:「ありがとな、そんじゃあ。今日は何があっても家から出んなよ。絶対だぞ」


真琴:分かった。皐月にも念押して言っておく


新海:「んー、まあいい、取り敢えず俺急いでるから。またな」


真琴:うん。


0:電話が終わる


皐月:修也くん、なんて?


真琴:今から職員会議なんだと


皐月:うわーー。大変じゃん。やばいね


真琴:本当にな。取り敢えずお前、今日泊まってけ


皐月:うわーい。まあそのつもりでしたけど。


真琴:…。はあ、一昨日と言い、最近騒がしいな…


皐月:だねー。


真琴:見たか?速報


皐月:うん。透明化?らしいね


真琴:な。外出なんて出来たもんじゃない


皐月:今日は昨日の残りかー。


真琴:しんど過ぎるな。


皐月:なんでだよ


真琴:なんでだろうな


皐月:ねえねえお兄ちゃん、なんか映画見ようよ


真琴:映画?なんで


皐月:見たいから


真琴:んー、まあ、気を紛らわすには丁度いいか…?


皐月:んだんだ。見よー


真琴:おう、いいけど。なんか見たいのあんの


皐月:特にないー。あ、でもこれ気になる。


真琴:恋愛ものかぁ


皐月:主演の柿本さんが凄い良い芝居するんだってさ


真琴:んー。まあ、物は試しか


皐月:ポップコーンとか買ってくればよかったねー。あ、さっき一応お菓子買ってきたから。食べながらみよーよっ。


真琴:いいけど…。なんかテンション高いなお前


皐月:そうかね。私はいつだってテンション高いウザ可愛い妹ですよ


真琴:ウザイ妹ではあるな


皐月:こらー!そんなこと言うなー!


真琴:(M)相変わらず煩い皐月を横目に映画を見る。恋愛ものはむず痒くなるのであまり好きじゃない。俺だって年頃の男の子なのだ。…にしても


皐月:…あ。見て見て。ここ、昔通ったことある高速道路だ


真琴:え。ああ、そうだな


皐月:なんかロマンあるよねー。こういうの


0:皐月はべったり引っ付いてる


真琴:なあ…皐月


皐月:なに?


真琴:あー、いや。なんか近くないか


皐月:そう?私とお兄ちゃんの心の距離だね


真琴:きも


皐月:悪口ぃー。


真琴:(M)皐月は昔、兄…まあつまり俺にベッタリくっついている子供だった。何か嫌なこと、怖いことがあればすぐに泣き付くような奴だった。最近ではあまりその傾向は見られなくなったが、一昨日や今日みたいに大きく皐月のメンタルが崩れる事があると、たまに再発する。まあ、それだけ異常体関連の事は精神的に来るんだろう。叔父さんの事もある。見知った人間が悪者として射殺される現場を目の当たりにしたんだ、そう簡単に傷が癒える筈もない。


皐月:…。離れろって言わないんです?


真琴:は?


皐月:めっちゃ嫌そうな顔。いやほらね、いつもならその顔にプラスして「ベタベタするな」っつって乱暴に突き放すじゃないですか


真琴:なんか言い方悪いな。


皐月:実際乱暴だと思います


真琴:んー。まあ、今日はな。しょうがねえわ。


皐月:…


真琴:マンションに戻った時、一人で心細かったろ


皐月:…うん


真琴:だから、そりゃまあ。しょうがないわ。


皐月:優しいですなあ、お兄様は


真琴:ふふん。兄貴だからな。


皐月:うん。お兄ちゃんだ


真琴:(M)まあ、いい歳こいてこうも兄離れ出来ていないと些か不安が募るが、今日はいいだろ。そんなこんなで映画も終盤になった頃。再び携帯が光る


皐月:…ん。中央からまた速報だ


真琴:お。なんて?まさかまた誤報じゃないだろうな


皐月:うんん、なんか。反応消失だって


真琴:…??


皐月:だから、反応消失。


真琴:異常体の?


皐月:多分?


真琴:どゆこと?


皐月:分かんないよ


真琴:あれか?もう執行処分が終わったとか…。ああいや、それならそう報道されるだろうしな。


皐月:あ、修也くんから電話来てるよ


真琴:ん。はい、もしもし


新海:「真琴!」


真琴:え、あ、うん。なに?


新海:「皐月ちゃんは!」


真琴:え…?さっき言ったじゃん、家に居たよ


新海:「ああーー、あれ?言われたっけか…」


真琴:言った言った。


新海:「はぁーー、いや、まあまあ、居たなら良かった、本当に」


真琴:うん。修也くんは?大丈夫そう?


新海:「ああ、大丈夫。異常体の反応消失って事で、また会議がおじゃんだ。」


真琴:反応消失ってさ。これどういう意味?


新海:「分からんな。殺処分が執行されたなら処分速報があるだろうし。この辺から移動したなら、その報道になるはずだ。情報局だってザルじゃないんだから」


真琴:だよなあ。


新海:「まあ、考えてもわからんな。」


真琴:うん。とりあえず修也くんも、一応気を付けて


新海:「おう、ありがとう。そんじゃあな。皐月ちゃんにもよろしく言っといてくれ」


真琴:分かった。それじゃ


0:電話終了


真琴:…うーん。


皐月:流石の修也くんも、反応消失については分からないっぽい?


真琴:っぽいな。意味がわからん。まあ、異常体なんていつどんな意味の分からない個体が出てきても不思議じゃないしな。


皐月:ねえねえ兄貴。この速報って、中央の…情報局?が出してるんだっけ


真琴:ああ。中央本庁に観測室って言うのがあって、そこで発動された異常性の反応検知をしてるんだと。


皐月:世界中の?すごいね。やばいね


真琴:まあ、異常体が力を使ってからじゃないと報道出来ないのが痛いところだけどな。


皐月:確かに、これじゃ後手後手か


真琴:ああ。何か起こってからじゃ遅い。遅いけど


皐月:私らに何かができるわけじゃない、と。


真琴:そういうこと


皐月:そっかぁ。


真琴:…


皐月:あ。お母さんから着信来てた


真琴:は?俺には来てないけど


皐月:今日兄貴んとこ泊まるって言ってるから、ついでなんじゃない?


真琴:俺の扱いどうなってんだマジで


皐月:…1回帰ろっかな


真琴:んーー。いやあ、一回帰るならそのまま実家で安静にしてろ


皐月:いやだ


真琴:嫌とかないから。


皐月:いやだ


真琴:…。お前なあ…


皐月:心配症だなあ兄貴は。大丈夫ですよ、ちょちょっと行ってちょちょっと帰ってきますから


真琴:…。


皐月:安心しろーい!私こう見えて逃げ足早いから!


真琴:せめて駅まで送ってく


皐月:え


真琴:こっち戻る時また駅着いたら連絡しろ。そん時も迎えに行く


皐月:なんか。なんか。兄貴、今日優しくないすか


真琴:俺は元々優しい。ほれ、行くぞ。ちょっとでも人通りが多い時間の方がいい。


皐月:電車動いてるかなぁ


真琴:あ、確かに


皐月:んーとね。あ、1時間後から運転再開だって


真琴:駅員も大変だなぁ


皐月:ねー。


真琴:(M)その後、まだ時間が暫く余っているので映画の残りと、見るからに面白くないB級映画を途中まで見た後、皐月を駅まで送った。今日はなんと言うか、ドッと疲れた。多分一昨日よりも疲れた。マンションに戻り、一息つく。


0:一人寝転がる真琴


真琴:………。


0:寝返り


真琴:……。


0:寝返り


真琴:…。


0:天井を眺めた


真琴:(M)なんか。なんと言うか、ここ最近家に人が居る事が多かったからな。一人だと静かだなーこの部屋。やる事ねえし。…ああ。なんか。眠



皐月:『ハンドルネーム「世界一聞き分けの良い妹」さんからのお便りです。

以前にもお便りをお送りしたものです。やはりカブが抜けません。

私の叔父は八年前、異常体になって殺されました。

それから私の疎外感は少しだけ安らぎました。

兄が一人ぼっちになったからです。

兄は積極的に友人を作ろうとはしませんでした。

恐らく、友人を作るのが怖かったのだと思います。

また、自分の目の前から消えるのではないか。

死んでしまうのではないか。

その結果、兄は正真正銘のボッチでした。

ですが私は妹なのでずっと傍にいることができます。

嫌われても、縁を切っても、絶交しても

血が繋がった兄妹である事実は覆りません。

それなのに、カブが抜けません。』



【6日目】



真琴:……。ん…。ん!?


0:起き上がる


真琴:(M)やっべ、クソ寝てた、今何時だ…っ。


皐月:…あ…


真琴:(M)朝の4時!?寝過ぎだろ…!馬鹿馬鹿、何してんだ俺はっ。皐月からめっちゃメッセージきてるし…っ。


皐月:…お、はよう、お兄ちゃん


真琴:…え?


皐月:…


真琴:あ、あぁ、なんだ。来てたのか


皐月:…!


真琴:悪い、寝てて迎えに行けなかった!すまん!っていうか勝手に上がるなって…


皐月:〜〜〜…っ。


0:皐月は真琴に抱きついた


真琴:うおっ。は、なんだ。どうしたどうした


皐月:…。


真琴:…。どうした、なんかあったか。


皐月:ううん。何も無い。


真琴:嘘つけ。何かあったろ。まさか実家で何かあったか…!


皐月:ううん。何も無い。本当に、何も無かったから


真琴:…じゃあどうした。


皐月:…。


真琴:んー。ごめんな、迎え行けなくて


皐月:いいよ。全然いい。


真琴:ん。


皐月:お兄ちゃんは、いつまで私のお兄ちゃんなの


真琴:は???


皐月:…


真琴:…あー…。そりゃ死ぬまでだろ。ていうか、死んでもだな。その事実は残り続けるしな?


皐月:…ん。よかった


真琴:よかったって、事実だろ。本当どうした。


皐月:…


真琴:…。分かったよ、無理に話さなくていい


皐月:ありがと


真琴:…。


皐月:…


真琴:なんか食うか


皐月:いらない


真琴:そ。


皐月:…


真琴:…


0:長い間


皐月:…ごめん、落ち着いた。


真琴:…ん。そりゃようござんした。


皐月:…


真琴:なんか映画でも見るか


皐月:見る


真琴:(M)夕方まで見てた映画を再び見直す。皐月が部屋の電気を付けたがらないので、無駄に大きいBGMと効果音声のみが部屋中に響いていた。泣き所も笑い所も見つからないままエンドロールを迎えた。これははっきり駄作だと言える。


皐月:…。お兄ちゃん、映画終わったよ


真琴:ああ。なんか、通り過ぎるように終わったな


皐月:うん


真琴:おもろかったか?


皐月:くそつまんない


真琴:な。この制作会社の映画は二度と見ねえ


皐月:…


真琴:…次、何見るかなー。あ、お前はもう眠いか


皐月:ううん。


真琴:そうか。そんじゃあ…そうだなぁ…


皐月:ありがとね、お兄ちゃん


真琴:なにが


皐月:ありがと


真琴:おう。


皐月:…。ここ最近さ、意味不明な警報ばっかりだったよね


真琴:そうだな


皐月:あれさ。多分私だ


真琴:…


皐月:私、異常体になったっぽい


真琴:……は…?


皐月:…


真琴:(M)分かる。皐月はそういう冗談を言うやつじゃないと分かる。というか、顔を見れば分かる。心臓が、うるさい。


皐月:…ごめん


真琴:…なんで謝んだよ


皐月:だって。身内に異常体が出たら、中央入りとか。なんか、多分。足引っ張るだろうなって。思って


真琴:いいよそんなの。気にすんなよ。


皐月:気にするよ。お兄ちゃんの夢なのに


真琴:…


皐月:ごめん


真琴:謝んな。怒るぞ


皐月:…


真琴:(M)やばい。心臓がうるさい。どうする。どうすればいい。妹が、異常体になった。駄目だ、俺が焦ってどうする。一番不安なのは皐月だ。俺は不安になっちゃダメだ。


皐月:…私。殺されるのかな


真琴:…っ


皐月:叔父さんの時みたいに


真琴:そんなわけあるか…!


皐月:…でも


真琴:でももクソもないっ。そんな事させるか…っ。大丈夫だ、俺が守ってやる。当然だ、兄貴だからな。


皐月:…


真琴:皐月は何も心配しなくていい。俺が全部、何とかする。


皐月:お兄ちゃん


真琴:大丈夫だ!お前の兄貴はここぞという時はやる男だぞっ。


皐月:うん。


0:皐月は徐々に涙を零す


皐月:ありがとう


真琴:おうおう、泣け泣け。くそ泣け。


皐月:うん


真琴:大丈夫だ、大丈夫だからな。


皐月:うん


真琴:(M)暫く、皐月はずっと泣いていた。朝日が上りきった頃、泣き疲れたのか、皐月はぐっすりと眠った。


0:朝


真琴:…さて…。


0:真琴は携帯を開く


真琴:(M)手が震える。心臓がまだ煩くて、痛い。時間が経っても、俺は全くもって冷静になれていなかった。観測室の反応検知は絶対だ。いつかはバレる。その時、妹はどうなる?大人しく出頭すれば収容保護されるだろうか。本当か?本当に妹は、皐月は無事に生きていられるのか。自覚した、俺は、まだまだガキだ。今にも泣きたいくらいの不安に駆られる。


0:電話をかける


真琴:(M)本当に、クソダサい兄貴だ。俺には無理だ、不安だ、助けてくれ、妹を、助けてくれ。修也くん。修也くん。


新海:「もしもしぃ?」


真琴:…っ。修也くん…!


新海:「なんだ、真琴か。なんだよ朝っぱらから」


真琴:助けてくれ…っ。皐月が…っ。皐月が…っ。


新海:「…?なんかあったのか」


真琴:あ…あの、さ…他言無用で、お願いしたいんだけどさ…


新海:「…。おう。なんだ。どうした」


真琴:…ぁ…


新海:「大丈夫だ。俺に出来ることなら、全力で手伝ってやる」


真琴:…皐月が…異常体に、なっちまった


新海:「…」


真琴:…どうすれば、いいかなあ。俺、全然わかんなくて。ダメだなあ、俺。結局、修也くんに頼ることしか出来なくて…っ。


新海:「…。経緯は置いておいて、だ。よく頑張った。そんで、よく頼った。偉いぞ、真琴」


真琴:…っ…


新海:「今からそっち行く。いいか?」


真琴:…うん。ありがとう、ごめん、休みなのに


新海:「謝んな。その、なんて言ったっけ。異常体になった子」


真琴:…?だから、皐月が


新海:「そうか、分かった。その皐月ちゃんって子も。その場から動かないようにしといてくれ」


真琴:…。ちょっと、待って。


新海:「なんだ?」


真琴:…なんか。あれ、なんか言ってること変じゃない…?


新海:「…ん?なにがだ」


真琴:なんか、皐月に対して。他人みたいな…


新海:「…?あれ。すまん、知り合いだったか…?」


真琴:(M)血の気が引いた。


新海:「苗字聞けば分かるかも、教えてくれ。ウチの生徒、であってるよな?」


真琴:(M)息が、できない。


新海:「…おい?真琴?」


真琴:皐月、だよ…?


新海:「ん、おう」


真琴:皐月だよ、修也くん。


新海:「…すまん。誰かわからない。だからあの、苗字を」


真琴:…二ノ、宮


新海:「?」


真琴:二ノ宮、皐月…。俺の、妹だよ…


新海:「…え?お前、妹なんか居たか」


真琴:(M)心が、割れる。


新海:「おい。真琴?真琴、大丈夫かっ。おい、聞こえてるのか真琴」


皐月:ごめん修也くん、電話切るね。


0:皐月が無理矢理電話を切る


真琴:…!皐月…っ。


皐月:…はは、そりゃあまあ、あんな大きい声出したら、起きるよね…。


真琴:…


皐月:なんか。あれっぽいね。私、皆の記憶からも消えるっぽいね。そこまで透明になるかーって、感じだ


真琴:…お前…


皐月:…


真琴:…いつから、気付いてたんだ


皐月:…6日前から、違和感はあったんだ。友達に無視される事が多くなって。初めはいじめかな〜とか、ダル絡みしすぎたのかな〜とか。思って…


真琴:(M)最近通学中にやたらと絡んできた意味を理解した。その頃から既に、始まっていたんだ。


皐月:…それで、昨日のさ。警報が鳴るちょっと前にコンビニ行ったでしょ。…その時、店員に話しかけても、無視されて、何回話しかけても、無視されて、その後すぐに警報が鳴って。それで…


0:皐月の手は震えている


皐月:お兄ちゃんに連絡しようとしたけど、その後すぐに。透明化の異常体だーって、報道があって。あ、これ私じゃね?って…


真琴:…


皐月:だから、取り敢えず修也くんに連絡してみた。お兄ちゃんに無視されたら私泣くから。


真琴:…。


皐月:でも、修也くん。…どなたですかって。私の声、聞こえてない、みたいで、急いでる、からって。イタズラ電話なら、やめて、って…電話切られちゃって


真琴:…っ…。


皐月:その後、実家、帰っても、お父さんも、お母さんも、私の事、見えてなくて。


真琴:もういい、もういいよ。


皐月:お兄ちゃんも、私の事見えないし、覚えてもないのかな、って、思ったら、だから、帰ってきても、中々声掛けられなくて、


真琴:もういいって。


皐月:お兄ちゃん、私。このまま消えて無くなるのかな


真琴:馬鹿なこと言うなよ、そんなわけないだろ


皐月:でも、皆。私の事見えないし、忘れてるし


真琴:俺は忘れないって。ふざけんなよお前


皐月:…本当?


真琴:本当だ。本当だよ。何があっても覚えてるって、お前みたいなうるさいの。だから他の何を忘れても、お前だけは忘れないって。ほら、今もこうして見えてる。話もしてる。な?


皐月:……うん


真琴:…


0:無言


真琴:(M)何分、無言が続いただろう。これ以上安心させてやれる言葉が思い付かない。気休めの言葉一つ満足にかけてやれない。本当に、ダメな兄貴だ俺は。…何か、何かないか。皐月を助ける方法は、何か。


0:真琴は本棚を漁った


真琴:(M)ガキの頃買った、異常性に関する学書。これでいい。いや、これしかない。何か、何か手がかり、何でもいい。なんでも…っ。


0:ページをめくる


真琴:(M)…。異常性の暴発に関する記事。これだ。多分、皐月は無意識的に力を使ってる。制御できてない


0:読む


真琴:(M)…感情が大きく揺らぐ際に、異常体は大きく反応を示す。逆を返し、異常性が暴発している間は、感情の制御が効かなくなる。暴発状態に陥った異常体はその悪循環によって更なる暴走を…。


0:読む手が止まる


真琴:(M)…思えば、予兆はあったはずだ。皐月は歳を経つにつれて、俺の事を「兄貴」と呼ぶようになった。でも、気持ちが沈んだ日は「お兄ちゃん」と呼ぶ。最近多いとは思ってたのに。なんで、なんでこんな簡単なことに、気づかなかった。


皐月:…お兄ちゃん?


真琴:…っ、どうした、皐月


皐月:顔、怖いよ


真琴:…あ、ああ。すまんすまん。つい。


皐月:電話。いっぱい来てるよ。多分修也くん


真琴:…。いいよ。どうせ


皐月:…どうせ?


真琴:…すまん。何も無い。忘れてくれ。


皐月:…うん。


真琴:(M)時間だけが過ぎていく。何も出来ないまま、また夜が明けようとしている。焦る。嫌な汗が止まらない。


皐月:…


真琴:何見てんだ、皐月。写真?


皐月:んん。いや、なんでも


真琴:ん。なに、捨てんの?


皐月:うん。


真琴:いいのか?


皐月:いい


真琴:…。どんな、写真だ?捨てるほどいやな写真なのか


皐月:べつに


真琴:…。見せてくれよ


皐月:やだ


真琴:…いいじゃん。見せろよ


皐月:やだ


真琴:なんでそんな嫌がるんだよ


皐月:だって…


真琴:(M)嫌な予感はしていた。ほんの。ほんの一瞬、視界に写った。それは、家族写真。いや、家族写真だったもの。


皐月:…あー…だから見せたくなかったのに


真琴:(M)皐月の姿だけが、綺麗さっぱり無くなっていた。


皐月:…。


真琴:…ふざけんな。


0:真琴は写真を破った


真琴:ふざけんな…っ。なんだ、これ…っ、


皐月:しょうがないよ。これは、うん。なんというか


真琴:しょうがないって、お前…っ。って事は、まさか


皐月:…


0:真琴は携帯を見る


真琴:(M)スマホを覗くと。昨日の警報ニュースが無かった。…違う、無かったことになっている。皐月の力は、透明化なんて、そんなちゃちなものじゃなかった。皐月の存在自体が、無かったことになりつつある。世界から、忘れられていく。


皐月:…やめて、お兄ちゃん


真琴:…すまん


皐月:…


真琴:……。なんか、映画とか…


皐月:ちょっと嬉しいよ


真琴:…なにがだよ


皐月:なんか。世界に私達二人っきりみたいで


真琴:…


皐月:叔父さんが死んでからさ、修也くんとめっきり遊ばなくなったじゃん。その間はずっと、こうやって同じ子供部屋でさ。何をするでもなく、ボーッと一日過ごして。


真琴:…ああ


皐月:思えば私、多分あの時が一番幸せだったかもなあ


真琴:なにが、幸せなんだよ


皐月:お兄ちゃんには分からないよー


真琴:なんだよそれ


皐月:ふふん


真琴:…


皐月:…ねえ、お腹空いた


真琴:…、そうか。なんか買ってきてやる。何が食べたい?


皐月:油っこいの


真琴:分かった。ちょっと待ってろ


皐月:…私も行く


真琴:お前は……。いや、分かった、一緒に行こう。


皐月:奢り?


真琴:当たり前だ、奢ってやる。


皐月:ははー。優しい。やっぱりね。私はね?世界で一番可愛いくて、世界で一番物分りのいい妹ですので。


真琴:…ああ、そうだな。そうだよ


皐月:…。


真琴:…ほら、行くぞ


皐月:ごめんね、気使わせちゃって


真琴:…


皐月:そりゃ、まあ。やりづらいよなー。そりゃそうだ。


真琴:…なんでもいいよ。お前が気を強く持ってくれるなら、なんでもいい、なんだってしてやる。


皐月:ほほー。なんでも


真琴:ああ、なんでもだ。


皐月:奢ってくれる?


真琴:安いもんだ、いくらでも奢ってやる


皐月:泊めてくれる?


真琴:当たり前だ、気が済むまでいくらでも泊まってけ。


皐月:はは、本当になんでもしてくれる


真琴:言ったろ。俺に出来ることならなんでもやるさ。


皐月:サービスデーじゃん。


真琴:…


皐月:じゃあ…。


真琴:…


皐月:…お兄ちゃん?


真琴:……


皐月:…え。


真琴:…


皐月:お兄ちゃん!


真琴:…!な、なんだ。どうした?


皐月:…今…


真琴:いや、いやいや。お前の冗談が衝撃すぎてフリーズしてんだよっ。


皐月:…そっか


真琴:(M)…やばい。今。一瞬。皐月の事、忘れた。認識できなくなった。まずい。怖い。忘れる?このまま?俺も、皐月を忘れるのか


皐月:…。やっぱり今、私の事見えなくなったでしょー。


真琴:ちがっ…


皐月:違わないよ


真琴:…


皐月:あーあ。薄情なお兄ちゃんだ。忘れないって言ったのに


真琴:……


皐月:冗談だよ


真琴:…


皐月:…はは、ごめんごめん。そんな顔しないで


真琴:だから、なんで謝んだよ


皐月:…だって。うーん。難しいなあ…


真琴:…


皐月:…ちょっと、ベランダ出る。


真琴:なんでだ


皐月:外の空気吸いたいだけ。変なこと考えてるわけじゃないよ


真琴:…ああ。


皐月:ん。


0:皐月はベランダに出た


皐月:……。


0:空を見る


皐月:………。


0:座った


皐月:…嫌だなあ。


0:涙


皐月:なんで。こうなっちゃったかなあ。私、ここにいるのになぁ。


真琴:(M)ベランダから皐月の啜り泣く声が聞こえる。俺も、忘れかけた。何を言っても説得力なんかない。暫く立つと、貼り付けた笑顔で皐月が戻ってきた。また暫くの無言の中…


新海:真琴!真琴、いるか!開けてくれ、修也だっ。


真琴:…修也くん?


皐月:…あーあ。


新海:電話出ないし!生きてんだろうな!おい!真琴っ。


皐月:…


真琴:…出てもいいか?


皐月:いいよ、勿論。


真琴:つらくないか


皐月:…


真琴:…。すまん、聞いた俺が馬鹿だった。本当にすまん。


皐月:いいっていいって。ほら。出てあげて


真琴:…ああ。皐月はここで待ってろ


皐月:…うん


0:玄関に移動


真琴:…


0:ドアを開く


新海:…っ。真琴…!良かったっ。無事だったか…!


真琴:うん。無事だよ。来てくれてありがとう


新海:いい。それより、異常体の、その。


真琴:…皐月ね


新海:そうだ、その子。その子は中にいるのか


真琴:…うん。


皐月:やっほ!修也くんっ


真琴:皐月、お前。待ってろって言ったろ


皐月:…


真琴:ああもう…っ。なあ修也くん、この顔を見てもまだ……


新海:…


真琴:(M)修也くんの、困惑する顔。その顔を見て、全てを理解した。


新海:ああ、えっと。その…


真琴:(M)本当に修也くんの世界には、皐月はもう存在しないんだ。


新海:…。すまん。真琴


真琴:…。


皐月:ごめん、見てもらった方が早いと思って。


真琴:…。ちょっとだけ、家で待ってられるか、皐月


皐月:…うん


真琴:すぐ帰ってくるから


皐月:…


真琴:約束だ


皐月:…わかった


0:皐月は部屋に戻った


真琴:…。修也くん。相談、してもいいか


新海:…勿論だ。俺でよければ


真琴:(M)街を歩く。つい先日の騒がしさなんて無かったみたいに、ただの日常だ。


新海:おい、真琴。どこまで歩くんだ


真琴:…。話が話だけにさ。人通りが多いところは避けたい。


新海:…そうか。


真琴:(M)…やっぱり、どの写真のフォルダを見返しても、ことごとく皐月が映っていない。家族写真も、どの写真も、皐月だけが、居なかったことになっている。


0:公園


新海:…懐かしいな、この公園。


真琴:昔、皐月と、俺と。修也くんで。一緒に虫取りした公園だよ


新海:…。


真琴:…修也くんから見たら、俺は気が狂っちまったように見えてんのかな


新海:いいや。俺はお前を信じる。多分、とんでもない何かが起こってて、それを俺は忘れてる。そうだな


真琴:…


新海:…。真琴。俺は、お前を信じてる。お前も、俺を信じろ。


真琴:…っ。ありがとう


新海:なにがあった。


真琴:…俺の妹が、無かったことになった。よく分からないけど、多分。存在自体


新海:…。お前の話から察するに、俺は。その、皐月さんと知り合いだったんだな。それも、ここでお前と虫取りしてたガキの頃から。


真琴:そうだよ。


新海:…。お前、相当参ってんな。


真琴:…そりゃあ。ね。


新海:…。すまんが、俺にはその記憶がごっそり無い。信じてはいるが、お前と同じ感情を分かち合うことが出来ない。


真琴:…ああ。分かってる。


0:無言


新海:…悔しいな。


真琴:…?


新海:…異常体を取り巻く問題は。俺には、遠い話だ。あの叔父さんの一件から、程遠い世界の話だと分かっちまって。不貞腐れて。でも今こうしてお前がその渦中にいる。なのに、俺は何も出来ないどころか、何も覚えてない。また、他人事だ。


真琴:…


新海:…だから、クソ悔しいよ。


真琴:……ごめん。実はさっき、一瞬。修也くんを恨んだ。


新海:いいよ。俺でも恨む。


真琴:…


新海:それでも、聞かせてくれるか


真琴:…俺の妹が、居なくなろうとしてる。もしかしたら、俺も、そのうち忘れてしまうかもしれない。


新海:…


真琴:どうすれば止められるかな。


新海:…すまん。異常性の暴発に関しては、ブラックボックスだ。俺どころか、その専門家でもまだ未解明な部分が多い。


真琴:…


新海:ただ。異常性は本人の感情に応じて強く反応を示す。今は皐月さんを刺激しないのが一番だ。


真琴:…でもさ…


新海:…言いたい事は分かる。もしその、消えて無くなるのを阻止しても、今度は中央に身柄を引き渡すことになる。異常体がすぐ傍にいるのに警報がなってないのがその証拠だ


真琴:…選べないよ。俺


新海:…


真琴:どっちにしても、妹を手放す事になるんだろ。


新海:…そうだな。


真琴:…どうにか、なんないかなぁ


新海:…


真琴:…。


新海:…。


真琴:…修也くん…?


新海:(M)ああ。どこまで薄情なんだ。俺は


真琴:…え


新海:(M)なんで俺がここに居るか。分からない。


真琴:…まさか


新海:(M)目の前の男子の名前が、思い出せない。


0:真琴は携帯を見た


真琴:…っ…。


0:家族写真には真琴と皐月の姿が無い


真琴:はは。そうかよ…。そう来るかよ…っ。


新海:(M)ダメだ。忘れるな。それはダメだ。取らないでくれ、それだけは取らないでくれ。


真琴:……修也くん。無理しなくていいよ。


新海:…駄目だ。


真琴:…


新海:…っ。


0:新海は頬を叩く


新海:…真琴…っ。


真琴:…!


0:息を吸う


新海:妹を完全に救う方法な、そう。その話だった。いいか、そんなもんはない。そんな都合のいい馬鹿みたいな話は無い。


真琴:…。


新海:多分、俺が今から言う言葉は。無責任だ。忘れてるから言える事だ。それでも聞いてくれるか


真琴:…ああ


新海:お前がそんな弱気でどうすんだ。


真琴:…


新海:一番不安なのは、今にも全部から忘れられようとしてる皐月さんだ。そんでお前は、そんな皐月さんを覚えてる。恐らくたった一人の人間だ。


真琴:…分かってるよ…


新海:分かってんなら、駄々こねんな


真琴:…そんな言い方…っ。


新海:俺が中央入りを諦めたのは。…くそ、カッコつけて言うぞ、俺が諦めたのは、中央に入る事が、全部を救う手段にはならないって分かっちまったからだ…!


真琴:…!


新海:お前んとこの叔父さんが暴走したっ。叔父さんを救ったら、他の誰かが死ぬかもしれない状況だった。他の誰かを救う為には、叔父さんを殺すしかない状況だった。ガキの俺でも分かった。全部を都合よく救える正義のヒーローなんて、このクソッタレな世の中にはないって、よく分かった…!


真琴:…


新海:だから俺は、何も選ばない、ただの現実を生きる事にした。逃げたんだ。この世の中じゃあ、誰かがその不平等な正義を振りかざす役割をしなくちゃならない、けど。俺はそこから逃げて、現実に逃げたっ。クソだせー大人だっ。でも、それでいいとも思ってる。俺はな、自分に甘いからな。だからこそな。


0:新海は真琴を抱きしめる


新海:お前もなあ。逃げたっていいんだ


真琴:……


新海:選ぶ事で、お前の今後の人生、ずっと何か重いもんを引き摺る事になる。しんどいぞ、それは。すげーしんどい。


真琴:……うん


新海:それでも。それでも選ぶって言うなら


真琴:…うん。


新海:俺が一緒に背負ってやる。友達だろ。


真琴:…っ。忘れるくせに


新海:いいや。忘れない。こうして自力で思い出した。


真琴:…。俺も、人のことは言えないけど


新海:…そうか。お前も皐月さんのこと、忘れかけてんだな


真琴:…うん。


新海:…まぁたしかに。時間の問題なのかもな。ただ、俺が代わりに背負うって約束した事は、忘れない。それだけは、絶対にだ。


真琴:…っ。


新海:いよいよ、俺の番が来たなって感じだ。


真琴:…約束だね


新海:ああ。約束する…っ。


真琴:…でも。ありがとう。お陰で決心が着いたよ。


新海:…


真琴:…。大丈夫。信じてるよ


新海:…。


真琴:修也くんは。いつまで経っても俺のヒーローだから。


新海:…あれ。


0:真琴は歩き出した


真琴:…。


新海:…俺。なんでここに居るんだっけ。


真琴:……んーーー。暑いなあ。


0:真琴は伸びをした


真琴:…あ。唐揚げ買って帰ってやらないと



皐月:(M)お兄ちゃんが破いた家族写真。それを見ると、お兄ちゃんの姿も。写真から消えていた。私は、私がしてしまった事を理解した。私だけじゃない。私に関わる存在も、忘れられて行くんだ。多分それは、私が心の奥底で、そう望んだから。私だけ忘れられるくらいなら、お兄ちゃんも一緒にって


0:真琴のマンション


真琴:ただいま。


皐月:おかえり、お兄ちゃん


真琴:…。


皐月:…ごめん。ごめんね、お兄ちゃん


真琴:…気付いちまったかぁ


皐月:ごめん


0:皐月はベランダに立っている


真琴:とりあえずほら、こっち戻ってこいよ


皐月:ダメだよ。私が死なないと、お兄ちゃんも。完全に消えちゃうかもしれないから


真琴:…


皐月:ごめんね。本当に


真琴:…いいよ。お前となら


皐月:…は…?


真琴:一緒に消えてやる。どっか行こう


皐月:…なんで…駄目だよ。お兄ちゃんは関係ないもん


真琴:関係あるよ


皐月:関係ないよ…っ。


真琴:関係ある。家族だろ


皐月:…


真琴:俺さ、元々は。あー。小っ恥ずかしくて言うの嫌なんだけど。結構ほら、お前守りたくて中央行きたかった節あるんだよ


皐月:…え


真琴:叔父さんが死んだ時にさ。俺、何も出来なかったから。大きくなったら、いつでもお前のとこに駆けつけられるようにって思って。だからこそお前だけは中央から遠ざけたかったんだ


皐月:…


真琴:でも、こうして一緒に居られるなら。ずっとお前を守ってやれる…って事には、うーん。ならないか…?


皐月:…


真琴:でも、これは本心。お前とならどこにでも行くよ。て言うかもうこれはお願いだな。……俺も連れてってくれ。ほら、お前一人じゃ心配だから


皐月:…嫌だ、お兄ちゃんを、巻き込みたくない


真琴:…


皐月:嘘。私だけ消えるのは嫌


真琴:本心出るの早いな


皐月:でも、本当の本当に巻き込みたくないっ。


真琴:大丈夫だ。保険はかけてある。修也くんに頼んできた


皐月:無理だよ、修也くん、私のことも呆気なく忘れたじゃん


真琴:大丈夫だ


皐月:何が


真琴:大丈夫だよ。俺たちのヒーローだ。


皐月:…


真琴:だから、大丈夫。俺は選んだ。でも、俺は皐月の意思を尊重したい。皐月、お前は、どうしたい?


皐月:…


真琴:死ぬ以外のことは認めてやる。俺を連れて行くか、行かないか。それは任せる。ただひとつ言えるのは、俺は絶対に諦めないよ。絶対に。


皐月:…っ。


真琴:皐月は、どうしたい?


皐月:…私は


真琴:うん


皐月:…どうせ助けてくれるなら、お兄ちゃんがいいなあ


真琴:…


皐月:ダメかな


真琴:…ダメなもんか。助けるさ。兄貴だからな


皐月:…


真琴:そうかあ…一緒には、連れてってくれないか


皐月:うん。やだ


真琴:意地悪だな


皐月:へへ、寂しいか


真琴:ああ。寂しい。クソ寂しいよ


皐月:…


真琴:どっか散歩でも行くか?


皐月:…ううん。なんか、映画でも見よ


真琴:ああ。分かった。


0:二人は座る


皐月:…。


真琴:なんか見たいのあるか


皐月:んーー。無いなあ


真琴:あ。唐揚げ買ってきたぞ。食う?


皐月:食べるー


真琴:ほれ、塩と醤油。どっちがい?


皐月:どっちもどっちも


真琴:ふざけんな、俺も食うんだよ。半分こだ


皐月:こんな時くらい譲れよなあーー


真琴:嫌ですーー。ほれ、食え


皐月:ん。いただきます


真琴:…お。これ面白そうじゃね?


皐月:んー。あ、これアレじゃん。小説が元になってる


真琴:知ってんの?


皐月:うん。昔図書館で呼んだ気がする


真琴:じゃあ、コレ見てみるか


皐月:恋愛ものだよ?


真琴:いいよ、なんでも。


皐月:ん。そか


0:映画が再生される


皐月:…。映像凝ってるねー


真琴:CGの進歩だなあ。すげえ


皐月:…お兄ちゃん


真琴:なんだ?


皐月:唐揚げ。食わせろ


真琴:は?食えばいいじゃん


皐月:…


真琴:あー。あ?お前いくつだよ


皐月:16になりました


真琴:はあ。ほれ。口開けろ


皐月:あざす。


0:食べる


皐月:ん。ん。


真琴:美味いか


皐月:うん、美味しい


真琴:俺も。いただきます


0:食べる


真琴:うん。うん。まあ、ぼちぼちだな


皐月:今食ったのどっち?


真琴:塩。


皐月:じゃあ私が食べたのが醤油だ。塩いただきます


真琴:ほいよ


皐月:ん。ん。醤油の方が美味しいな


真琴:まじ?


0:食べる


真琴:…。そうか?味濃くない?


皐月:そう?私は好きだったけどなあ


真琴:変な味覚


皐月:うっさいやい


真琴:…。なあ、皐月


皐月:なあに、お兄ちゃん


真琴:俺、やってけるかな


皐月:なに。さっき諦めないって言ったばっかりなのに。ださ


真琴:正直、自信はあんまり無いよ。


皐月:…。修也くんが着いてくれてるんでしょ


真琴:…うん。


皐月:…それじゃ不足だと?


真琴:そうだよ。お前がだる絡みして煽ってこないと、多分ここの受験も受かってない


皐月:あー、そう言えば。そんな進学校無理だよーって煽った覚えが


真琴:だろ


皐月:ふふん、やっぱり私がいないとダメなんですねえ


真琴:ダメだよ。俺は。お前がいないと


皐月:…


真琴:ダメダメだ


皐月:はは、やっぱりお兄ちゃん置いてくって決めて正解だったかも


真琴:は?なんで


皐月:惜しまれるのって嬉しいもんだなあって


真琴:お前ほんと性格終わってるぞ


皐月:お好きに言ってくださいなー。今から忘れるような薄情な兄よりよっぽどマシなので


真琴:反論しづらいって


皐月:心配しなくても、ずっと見てるよ。幽霊みたいなもんだし


真琴:それはそれで、なんか。怖いな


皐月:なんだよ。ていうかさ。私が消えたら中央行く必要ないんじゃ?


真琴:中央に行かないとお前を見つけられないだろ。異常体じゃんお前


皐月:あ、そうか。それが一番手っ取り早いのか


真琴:そ。まあ任せろよ、言うてる間にだよ。


皐月:ほんとお?


真琴:ほんとほんと。すぐ見つけてシバいてやる


皐月:はは、待ってる。


真琴:おう。待ってろ


皐月:てか、全然映画見てないね


真琴:思えばこんなのばっかりだな


皐月:ねー。


真琴:…


皐月:…


真琴:皐月、いるか


皐月:うん。いるよ


真琴:…。ほれ、醤油。


皐月:ん。優しいじゃないですか


0:食べる


皐月:へへ、美味い美味い。


真琴:絶対塩の方が美味いのになあ


皐月:変な味覚


真琴:うっせえよ


皐月:…ねえ、お兄ちゃん


真琴:なんだ?


皐月:…。


真琴:…なんだよ


皐月:ううん。やっぱやめとく


真琴:は?


皐月:今言うのはずるいかなって


真琴:そうか。いいならいいよ。また今度聞く


皐月:言ったね


真琴:うん、言った。


皐月:ん。


真琴:…皐月。


皐月:なに?


真琴:…


皐月:…。


真琴:…皐月。


皐月:はいはい、いるってば


真琴:…皐月。


皐月:…いるよ


真琴:…まだ映画、始まったばっかだぞ


皐月:うん。見てるよ


真琴:…。


0:静寂


皐月:…お兄ちゃん。


真琴:…


皐月:いつか、私を見つけてね


真琴:…。


0:部屋には真琴一人


真琴:…。ああ。



真琴:…なんだこの、クソみたいな映画。



皐月:『夏風が、頬を撫ぜる頃。

過去を愛でる花は、綺麗に散っていた』


【7日目】



新海:おはよう。真琴


真琴:修也くん、なに。迎えに来てくれるとか初めてじゃない?


新海:そうかもな。ほれ、学校行くぞ。


真琴:…うん。


新海:…


真琴:…はは。なんか。なんだろう。


新海:覚えてるよ。


真琴:…!


新海:お前と、一緒に背負うって、覚えてる


真琴:…。でも、俺。何を背負ったか。覚えてないや


新海:俺も覚えてない。だから。それも一緒に背負う


真琴:…寂しいもんだなあ。


新海:真琴。


真琴:なに


新海:諦めるのか


真琴:…ううん。諦めないよ


新海:…


真琴:なんか。誰かに笑われそうな気がするし


新海:そうか。


真琴:だから、その誰かを、まずは思い出す所からだ。


新海:ああ、手伝うよ。今度は俺も逃げない。お前を、救うって決めたからな。


0:新海は懐から紙を取り出した


真琴:?なにそれ


新海:辞表。


真琴:はは。やっぱヒーローだよ、修也くんは。


新海:頑張ろうな。真琴


真琴:…。おすっ。


0:真琴は部屋から出る


真琴:…。


0:部屋には誰も居ない


真琴:行ってくる。



【7DAYS】

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