拝啓、勇者より
0:ーー拝啓、勇者へーー
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アルド:勇者とは
アルド:困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者や、勝敗にかかわらず勇敢に戦った者に対して敬意を表した呼称である
0:アイゼンベルク領
ダーヴィン:「ふむ、こんな夜分に客人か」
アルド:「やぁ。こんばんは、お久しぶりだねぇ、ダーヴィン殿」
ダーヴィン:「君は確か、アルドと言ったか。帝国貴族とのいざこざ以来だが・・・ふは、しかし小汚い。勇者としての自覚があるのか」
アルド:「明日には殺し合いをするんだよぉ、わざわざ綺麗に着飾る必要もないと思うんだぁ」
ダーヴィン:「勇者とはその国の顔だ。理解したまえよ、我々は国を背負っているのだ
ダーヴィン:美しく在らねばならん。最も、私はそう自分を律さずとも常に美しいのだが」
アルド:「アイゼンベルクの勇者は醜いまでに美しさに拘るって噂、本当だったんだねぇ
アルド:あは。僕には理解し難い」
ダーヴィン:「ふむ。そんな言葉は幾度と聞いたさ。今更理解を得ようとも思うまい」
アルド:「そっか」
ダーヴィン:「して、何故グリムドリンの勇者が斯様な場所にいるのだ。それも、騎士も連れずに。まさかとは思うが、ここでやるかな?」
アルド:「やめてよ、そんなせこい真似をするつもりは無いよぉ。明日殺し合う人間の顔くらい、改めて見ておきたくてさ」
ダーヴィン:「それは殊勝な事だ。では改めて。私はアイゼンベルク法国の名誉勇者、ダーヴィン・カーネンハーツである
ダーヴィン:騎士の名は八咫と言う。今は煙草でも吹かしているのだろうが」
アルド:「僕はアルド・アルバート
アルド:グリムドリン帝国の名誉勇者やってま〜す
アルド:騎士の名前はクライス。僕の英雄で、今は迷子だ」
ダーヴィン:「ふは。迷子か。うむ、クライスの噂も聞き及んでいる。国を背負う勇者の「剣」として付き従う騎士。
ダーヴィン:それを数百年に渡り輩出してきたエリートの家計、フランドル家の子息とな
ダーヴィン:腕前は歴代最強と謳われているようだが・・・如何せん性格面に問題がある。ともな」
アルド:「あはは、耳の痛い話だよ
アルド:それでも僕はクライスを選んだ。騎士選定の権利は勇者にあるからね。ていうか、君の所の騎士は人の事言えないでしょ」
ダーヴィン:「あぁ。全くもって困ったものだ。何かあればすぐ疲れただのやれ帰りたいだの抜かしおる奴でね
ダーヴィン:しかし、ふは。彼奴は美しいとも。戦っている時だけだがな」
アルド:「腕っ節も悪名も有名だ。「伏せ鬼」八咫。
アルド:各国の紛争地域、領土問題に何度も介入しては解決に導いている。元は貴族殺しの猟兵団だと言うのに活躍は一人前以上
アルド:頭も切れる厄介者ってね。相当嫌われてるよ。八咫も、君も」
ダーヴィン:「ふは。過去がどうあれ重要視すべきは今だ。そして八咫は自国だけではない、他国の問題も鮮やかに解決している。それでこそ私の騎士だ
ダーヴィン:八咫は騎士の家計ではないものの、私の眼鏡に叶う唯一の男だ。
ダーヴィン:そしてどうやら、君の所の騎士とも何やら因縁があるらしいじゃないか」
アルド:「あぁ、らしいね。詳しくは話してくれないけれど、ライバルって奴らしい
アルド:クライスが誰かをそんなに褒めるのは初めて見たね」
ダーヴィン:「結構。八咫自身は酷く面倒臭がっていたが、ああ見えて悪い気はしていないのだろう。奴はそういう人間だ」
アルド:「・・・こう話すと、やはり君が悪い人には見えない」
ダーヴィン:「それはそうだ。私は聡く強かである。それがダーヴィンという勇者だからな」
アルド:「うん。まさしく勇ましい者だ
アルド:ーー帝国領土の南西全てを受け渡せという不遜さも、その勇ましさの現れかい」
ダーヴィン:「あの土地はそもそも法国の物だ。元ある場所へ戻すだけのことだとも」
アルド:「その問題は8代も前の勇者達が決闘によって解決した事だ。それを今更ちゃぶ台返しだなんて、今や君の評判はガタ落ちだよぉ」
ダーヴィン:「知っているとも。しかし、三年だ。三年後には私の行いが正しかったと皆が思うだろう。私はそう確信している」
アルド:「今からでも手を引いてくれないか」
ダーヴィン:「なるほど、今日訪れた本当の目的はそれか」
アルド:「僕はね、出来れば君とは殺し合いたくない。正直な話さぁ、戦いとかそういうの好きじゃないんだ」
ダーヴィン:「ふむ。騎士とは名誉勇者の為に、名誉勇者とはその国の為に命を尽くすのが役割の筈だが。臆したか」
アルド:「勇者なんて聞こえが大袈裟なだけの外交官みたいなものだからね
アルド:実際、僕は血筋で勇者になっただけで辞めれるなら明日にでも辞めたいくらいだ」
ダーヴィン:「美しくない」
アルド:「はい?」
ダーヴィン:「私は私の信念に従い、国を背負っているのだ。なんの覚悟も、思想も持たない平和ボケしたお飾りの君に講釈をされる筋合いは無い。疾く失せたまへよ」
アルド:「おかしいこと言ってるかな、僕は国を背負って「戦争はやめましょう」って言ってるだけなんだけど」
ダーヴィン:「ふむ。その昔、度重なる戦争を経て各国は深刻な資源不足に悩まされた
ダーヴィン:結果行われた処置が「国家代表者制度」
ダーヴィン:それに選ばれた者達が「勇者」と呼ばれるようになり
ダーヴィン:国家間にて起こった問題は勇者と、その騎士。この二対二の決闘にて解決する
ダーヴィン:それが大陸内で決定されたものの筈だが?」
アルド:「そんな事は当然知ってるよ、けどそれがどうしたっていうんだい。戦争に変わりは無い」
ダーヴィン:「私は民草を戦場に赴かせているわけでは決してない
ダーヴィン:自らの手で、自らの命を賭けてアイゼンベルクという国をより良いものにするのだ
ダーヴィン:それが勇者の責任であり、義務だ。それを戦争はやめましょう等と体のいい方弁で片付けられては困るな」
0:八咫が扉を開ける
八咫:「なんだなんだ、喧嘩か」
ダーヴィン:「八咫、戻ったか」
八咫:「あぁ。しっかし、決闘前夜だってのに、おアツいねぇ?」
アルド:「・・・。やあ、伏せ鬼。トリアナの紛争ではお世話になったよ、改めて
アルド:グリムドリン帝国の勇者ーー」
八咫:「あーいいいい、知ってるし
八咫:それに」
クライス:「おーアルド、ここに居たか」
八咫:「あいつが来ちゃあ話し合い所でもねぇだろ」
アルド:「クライス、おかえり」
クライス:「何がおかえりだ。一人で突っ走りやがって」
アルド:「えー、君が勝手に迷子になったんだよぉ
アルド:八咫はどこだぁ!って突っ走ったのも君だ。でもおめでとう、念願の彼との会合は果たされたようだ」
クライス:「・・・あ?」
八咫:「よ」
クライス:「おい、おいおい、久しぶりじゃなぁい八咫ァ!元気してたかよ」
八咫:「まぁな。おめさんは・・・聞くまでもねぇか」
クライス:「あぁ、明日の為にずっと我慢してきたからな
クライス:お前と大舞台でやり合える、こんなにアガる事はねぇ。引き分けの決着は今日だ」
八咫:「はは。相変わらずおアツいねぇ」
ダーヴィン:「ふむ。貴国の騎士とも顔も見れた所で、私は明日に控えて休ませて貰おう
ダーヴィン:アルドよ、私を止めたいのならば私を殺す事だ。ふは、私達にできる事はそれだけなのだからな」
アルド:「・・・」
ダーヴィン:「行くぞ、八咫」
八咫:「あぁ。そんじゃなぁ、アルド殿、クライスも」
クライス:「はぁ?もう行くのかよ、何の為に俺は走り回ってたんだ」
アルド:「どの道、明日会えるさ。そうだろ」
クライス:「わぁーってんだよそんな事は」
アルド:「それじゃあ、僕達も帰らせてもらおうかな。夜分遅くにごめんね」
ダーヴィン:「ふむ。それではこれにて」
八咫:「ばぁ〜い」
0:二人は部屋を後にする
クライス:「んで、どうだったんだよ。和平ってのは」
アルド:「あぁ、駄目だったよ」
クライス:「よし。そりゃ上々だ。
クライス:何度でも言うぜアルド。俺は明日の決闘を心から楽しみにしてる。お前の平和主義は嫌いじゃねぇが今回ばかりはやらなきゃ損だ。
クライス:国家間の決戦。こりゃ殆どの騎士が人生で一回きりだ。勇者の騎士として、命を賭して戦う
クライス:はっきりと言える。俺は明日の為に産まれてきたんだ」
アルド:「わかってるよ、そもそも和平交渉はダメで元々だ
アルド:ダーヴィンは相当のやり手だと聞くし、やっぱり殺し合うしかないのかぁ」
クライス:「お前も少しは腹くくれよ。ガキがやってる勇者ごっことはちげぇんだ
クライス:曲がりなりにも、お前は国背負ってんだろ」
アルド:「・・・あは。僕にそんな事言うのなんて君くらいだよ、クライス。本当に、君を騎士に選んでよかった。」
クライス:「うちのお偉いさん方はお前に頭上がんねぇからなぁ。きもっちわり。さ、行こうぜ」
アルド:「うん。和平は決裂した
アルド:なら僕も、お国のために頑張るよ」
クライス:「あはぁん。良い顔だぜぇ、アルド。俺はそっちのお前の方が好きだなぁ。俺がお前について行くって決めた時の顔だ」
アルド:「あは、懐かしいね」
クライス:「もう四年も前か、いや。まだ四年か?」
アルド:「何年も何年も勧誘して、やっと僕と一緒に来てくれたんだ。まだ四年だよ。僕の中ではね」
クライス:「そうか」
0:回想 5年前
アルド:「クライスくん!初めまして、グリムドリン29代目勇者候補のアルド・アルバートだよ!」
クライス:「おう、帰れ」
アルド:「酷い!ねぇねぇ、君ってめちゃくちゃに強いよね?」
クライス:「あー、なんかそう言われてんな」
アルド:「将来、僕の騎士になってよ!」
クライス:「帰れ」
アルド:「なんでさ!」
クライス:「兄貴とかを推薦しろよ、俺はそういうの嫌いだし、勉強とか出来ねぇから」
アルド:「それでもいいんだって、君がいいんだ」
クライス:「帰れ」
アルド:「あ!ちょっと、クライスくん!」
クライス:唐突に現れたこいつは、しつこく、何度も何度も俺を騎士にしようと声を掛けてきた
アルド:「クライス!」
クライス:「おいおい、俺らはいつから呼び捨てする間柄になったんだ」
アルド:「今日から!」
クライス:何回断っても、こいつは何度でも俺の部屋を訪れた
アルド:「やあ、クライス」
クライス:「うげっ。また来たのかお前」
アルド:「何度でも来るさ。僕の騎士になっておくれ」
クライス:「断る、他当たれ」
アルド:「どうしてそんなに頑なになるのさぁ!フランドルの名が泣くよ?」
クライス:「俺は家の為に生きてるわけじゃねぇ。それにお前らみたいに国背負って戦うとか柄じゃねぇんだよ。つまんねぇし」
アルド:「またそういうこと言う、あぁ、そう言えば最近外出が多いね?何か新しい趣味でも見つけたの」
クライス:「あー、まぁそんな感じだ。退屈させてくんねぇ奴を見つけてな」
アルド:「ふーん?」
クライス:俺にとっての退屈は日常で、人間関係で、しがらみだった
アルド:「昨日、父さんが死んだんだ」
クライス:「・・・28代目がか?」
アルド:「うん。明日から僕が正式に29代目の、グリムドリンの名誉勇者になる」
クライス:「そりゃあ、ご愁傷さま、と同時に、おめっとさん」
アルド:「僕も本格的に騎士が必要になる」
クライス:「・・・」
アルド:「僕じゃあ君を退屈させちゃうのかい」
クライス:「いやぁ、別にそういう訳じゃねぇがよ」
アルド:「・・・聞いてくれ、クライス」
クライス:「あ?何だ急に」
アルド:「ーー僕はね、英雄になりたかったんだ」
クライス:「は?」
アルド:「でも、僕は戦いとか、殺し合いとか、そういうのが好きじゃない。小柄だし、斬られると痛いし、怖いし。何より。僕よりもずっとずっと強い人を知っているから
アルド:自分が戦う事に意味を見いだせない。どんぐりの背比べとでも言うのかな」
クライス:「お?そりゃ誰のことだ」
アルド:「君だよ」
クライス:「・・・はぁ。俺か」
アルド:「そう残念がらないでよ。うん。君の剣闘を初めて見たのは8年も前だ。君は自分よりも一回り程大きい戦士を難なく倒した。僕は震えたよ、英雄は居るんだって。本当に勇者と呼ばれるべきなのは僕でも、法国の勇者でも、トリアナの勇者でも、アースの勇者でもない
アルド:ーー君だ。だから僕は君の人柱になる。君という武力を使って、平和をこの大陸に築く。そして君を平和の象徴と謳う。君の銅像を立てる。君の武勲を後世に語る。君を称える。君を、僕の英雄にする」
クライス:「・・・」
アルド:「出かけるんだろう、帰ったら返事を聞かせておくれ」
0:場面転換 現在
クライス:「その時、丁度八咫も騎士になるっつーから喜んでお前の騎士になったわけだが。」
アルド:「あぁ、それであんなにあっさり」
クライス:「しかしあの時のお前の顔はやっぱり、一本飛んでたな」
アルド:「僕は君のファンなだけなんだけどね」
クライス:「それが病的だって言ってんだよ」
アルド:「あはは。でも約束通りだ。君を退屈させはしない。アイゼンベルクの勇者と、「伏せ鬼」と名高い騎士を倒して、君の英雄伝は更に広まる」
クライス:「そう言うならなんで初めは和平なんて結ぼうとしたんだって話だぜ」
アルド:「あ・・・」
クライス:「・・・ん?アルド?」
アルド:「そうだね、君には謝らなきゃいけない」
クライス:「あ?何がだ」
アルド:「・・・決闘の末、君が八咫を殺してしまった後、どこかに行ってしまうんじゃないかと思ったからだ」
クライス:「・・・ねぇよ、その後もお前が退屈させてくんねぇんだろ」
アルド:「・・・あは。うん、任せてよ」
0:場面転換
八咫:「あれがグリムドリンの勇者かぁ、思ったより物腰柔らかいじゃねぇの
八咫:前あった時も思ったが、随分と小柄だしな」
ダーヴィン:「しかし気付いてるのだろう、八咫よ」
八咫:「あぁ、ありゃ強いわ。おめさん多分負けるぞ、ダーヴィン」
ダーヴィン:「・・・ふは。まさしく天賦の才と言うやつか。まったく、戦いが嫌いなどどの口が、と言った具合であると」
八咫:「和平を蹴ったのはおめさん自身だ」
ダーヴィン:「やはり聞いていたのか、盗み聞きとは美しさの欠けらも無い男だな君は」
八咫:「おぉおぉ、相変わらず辛辣だねぇ」
ダーヴィン:「ふは。不変とは美しさだよ、八咫。ふむ。しかし、これが終われば次は食料問題か。時間がいくらあっても足りんな」
八咫:「はは。頭も切れて腕も立つ、完璧が求められる勇者ってのにも同情はするがよ。
八咫:まずは明日に集中だろ。相手はクライスだし」
ダーヴィン:「万事構わない。私は、私の愛するこの国を、より美しく導いてみせるとも」
八咫:「おぉ、頑張れ頑張れ」
ダーヴィン:「その為に、私と共に死んでくれよ。八咫」
八咫:「そうして欲しいなら金を出しな」
ダーヴィン:「ふは。お前も変わらず正直者だな。しかしそこが良い。酔狂も、信仰も、忠誠も信用ならん。
ダーヴィン:欲だよ。私はお前の欲を勝った」
八咫:「わかってんだろうな、今回の報酬は弾んでもらうぞ」
ダーヴィン:「うむ。400」
八咫:「馬鹿がいるなぁ、倍の800は貰わねぇとよ。相手は歴代最強だぜ」
ダーヴィン:「ふはっ。国家予算級じゃあないか。友情価格500」
八咫:「友情ぉ、はは。二度と言うな反吐が出る。だがお得意さんだからな、まけてやる、650」
ダーヴィン:「550」
八咫:「600」
ダーヴィン:「・・・ふむ。この辺りが落とし所だろう。明日のお前の死闘、金貨600枚で買った」
八咫:「はは、四年もご贔屓にしてもらって、毎度」
ダーヴィン:「む・・・。あぁ、もう四年か」
八咫:「あの頃から本当に、おめさんも変わらねぇな」
ダーヴィン:「ふはっ、懐かしいな、あの時のお前は臭かったし汚かったし、何より荒れていた。あぁ、肌もだが、性格の話だぞ」
八咫:「おぉおぉ、うるせぇなこいつ」
ダーヴィン:「改めて聞こうか、お前は何を見ている」
八咫:「・・・はは。変わらねぇよ。俺は今を見てる。ずっと、ずっとだ」
0:場面転換 五年前 牢獄
ダーヴィン:「ふむ。アイゼンベルクの牢獄は臭いな。汚いし、なにより美しくない」
八咫:「・・・」
ダーヴィン:「そうは思わないか、伏せ鬼」
八咫:「誰だお前」
ダーヴィン:「二年前、各国の貴族を殺し、その罪で帝国の騎士候補一人に解体された、その猟兵団の残党。
ダーヴィン:その圧倒的な剣技から着いたあだ名は「伏せ鬼」
ダーヴィン:ふむ。随分と大層な名に聞こえるが、一年半逃げ回った挙句結局捕まり、今では死刑を待つだけのモルモットだ
ダーヴィン:ふは。美しくないな」
八咫:「その変人極まってる喋り方、噂の変態勇者だな」
ダーヴィン:「ほう。思ったより察しが良く学もあるな」
八咫:「目ェ腐ってんのか?教養ありそうな顔してんだろうが」
ダーヴィン:「ふむ。確かに良い出の者であろう。例えば、東国の君主に仕えていた、武士であった、とかな」
八咫:「なんでおめさんがそれ知ってんだ、俺の故郷は鎖国してる引きこもりな筈だが」
ダーヴィン:「それは牢獄で悠々自適な穀潰しをしている自分への皮肉か?ふは。生憎勇者という役職の者はアウトドア派なものでな」
八咫:「さすが勇者様だ、権限使い放題なんでもありだな」
ダーヴィン:「ひとつ問おう伏せ鬼。お前は生きないのか」
八咫:「死刑囚に脱走を仄めかしてんのか?勇者ってのは随分好き放題だな。壺割ってそうだ」
ダーヴィン:「そうだ。私はお前を見ている。そしてお前に問うている」
八咫:「おめさんの目的は知ったこっちゃないが
八咫:俺の悪い噂は知ってんだろ。故郷では主君殺し。巷では伏せ鬼。周辺諸国、特に帝国では貴族殺しで通ってる
八咫:そんでもし仮におめさんが俺を勧誘しているって言うなら、そこに勇者殺しが付け加えられるな。あぁ、役満だ」
ダーヴィン:「伏せ鬼、貴族殺しは理解出来る。が、主君殺しに至っては子細の表記がなかった
ダーヴィン:して、主君殺しの意味を答えろ」
八咫:「命令すんなよ坊ちゃん。俺は上から見る奴と話が長い奴が嫌いだ。そんで俺は気の長い方じゃない」
ダーヴィン:「ふは。分からないか、私が上だと言っているのだ。お前はただ答えればいい。何度でも言おう、私はお前を見ている
ダーヴィン:そして改めて問おう。何故主君を殺した」
0:八咫の暫し思考する間
八咫:「――金払いが悪かったからだ」
ダーヴィン:「・・・・・・ふは。単純で良い」
八咫:「俺からもひとつ聞かせろよ坊ちゃん」
ダーヴィン:「許そう」
八咫:「・・・お前は何を見てる」
0:間
ダーヴィン:「何を見ているか、と問われれば私は今、お前を見ている。そして私は過去、数多の私の王道に散っていった私の騎士を見ていた。そして未来、私は私の築いた美しい国に住む民や、土地を見ている。
ダーヴィン:ならばその問いの答えは
ダーヴィン:私は、私自身を見ている。」
八咫:「・・・」
ダーヴィン:「私の景色は私の物だ。誰にも譲るまいよ。そして問いを返そう
ダーヴィン:お前は何を見ている」
八咫:「・・・俺としちゃあ非常に残念だが、おめさんと似たようなもんだ。
八咫:俺が見てるのは、今の俺の景色だ。だが、俺達の決定的に違う所は
八咫:俺は今しか見ていない。過去も、未来も、俺にとっちゃどうでもいい。金にならねぇしな」
ダーヴィン:「ふは。欲深い。そして気に入った」
八咫:「そりゃどうも、吟味は済んだかよ。おら、精算しな。本題だ」
ダーヴィン:「単刀直入に。伏せ鬼、私に伏せ」
八咫:「犬になれってか?わんわんってよぉ」
ダーヴィン:「お前が見ない未来は私が見よう。だからお前は、今、私に屈服しろ」
0:間
八咫:「・・・俺が見るのは今だけだ。だから俺は・・・伏せ鬼は今だけ、お前に伏す」
ダーヴィン:「・・・ふは。上々」
八咫:「あぁ、だが俺は高いぞ」
ダーヴィン:「分かっているとも。私はお前の強さを買った。欲を買った。お前の、美しさを買った。言い値で払うとも」
八咫:「そういや、商売相手の名前も聞いてなかったな」
ダーヴィン:「ふは。記憶したまへ。私の美しい名を。
ダーヴィン:私はアイゼンベルクの勇者。ダーヴィンだ。」
八咫:「・・・俺は八咫だ。巷では伏せ鬼だの貴族殺しだの呼ばれてる。俺を雇うと、嫌われるぜ?」
0:場面転換 現在
八咫:「な、言った通りだ。あれから四年。おめさんは嫌われてる。特に帝国の貴族からな?」
ダーヴィン:「ふは。万事構わん。私は私の王道を征く」
八咫:「ったく、殺す気かよ」
ダーヴィン:「舐めるな、お前を理解し、そして雇い、命を賭けさせられるのは私だけだと自負している」
八咫:「はは。その通りだよ。俺は金が好きだ。そして、お前が払う金の為なら死ねる」
ダーヴィン:「ふは、小汚く、臭く、振る舞いには美しさの欠けらも無いが、見る目のある奴だよ、お前は」
八咫:「そりゃあどうも。お前が騎士に誘ってくれたおかげで未だにクライスに付き纏われてるわけなんだがな」
ダーヴィン:「ふは。では明日が決着という事だ。うむ良いアテだった。よく眠れるとも」
八咫:「あぁ。おめさんが掲げる夢の為にも、俺はお前を「王」にする」
ダーヴィン:「あぁ!勇者などという国の奴隷には収まらんよ!腐った王権も、道を誤った貴族共も、私が全て正す、美しくな」
八咫:「期待してるぜぇ」
ダーヴィン:「ふは!それは支払いの額を、という意味か」
八咫:「はは。決まってんだろ」
ダーヴィン:「うむ、潔し!まずは明日を生き抜く!その為に、奴らには王道の贄となってもらおう!」
八咫:「はは。おアツいねぇ」
0:場面転換 決戦当日
アルド:そして、決戦当日
0:闘技場
クライス:「・・・」
アルド:「闘技場なんて久しぶりでしょ、クライス」
クライス:「・・・ああ。」
アルド:「うん、良い顔だ」
クライス:(N)闘技場。ガキの頃に大人と闘いたくて何度も足を運んだ。観客の声援、髪には砂が絡み付き、ゲートから吹き通る風が心地良い。そして目の前には、屈強な戦士がいる。この高揚感が大好きだった。生と死の境目が曖昧になるあの感覚を味わいたくて、何度も何度も何度も足を踏み入れた。それこそ、飽きるまで
クライス:俺は期待していた。希望していた。だが違った
クライス:俺は強かった。誰よりも。そして俺は、退屈した
クライス:孤独を感じた。俺にとっての退屈は日常で、人間関係で、しがらみで、人生だった
クライス:でも、今は違う。お前がいる
八咫:「おぉ、会場盛り上がってんねぇ」
ダーヴィン:「特に帝国貴族の連中が熱くなっているな」
八咫:「はは、相変わらず嫌われてるねぇ、俺達は」
ダーヴィン:「お前のせいだぞ、八咫」
八咫:「でも俺を雇ったのもお前だ」
ダーヴィン:「ふは。違いない」
アルド:「どう、クライス。アガってる?」
クライス:「あぁ、最高の気分だ・・・!」
アルド:「よし、行こう。僕の英雄」
クライス:「おうよ」
ダーヴィン:「盛り上がっているのは観客だけではないようだ」
八咫:「あぁ、まったくもって、おアツいねぇ」
クライス:決戦の開始を報せる鐘の音が鳴り響く、それと同時に剣を鞘から引き抜き、歩を進める。相手に近付くのに連動して、生と死が同時に近付く、この感覚が最高にーー
八咫:「調子はどうだよ、クライスゥ!」
クライス:「あぁ!絶好調だよぉ、八咫ァ!」
0:二人は打ち合う
八咫:「ははっ!そりゃなによりだぁ!」
クライス:最高だ。
0:場面転換
ダーヴィン:「ふんっ!」
アルド:「そぉれ!」
ダーヴィン:「やはり強いな!平和主義が聞いて呆れる!」
アルド:「喋る余裕があるだなんて羨ましいね、戦い慣れってやつかい」
ダーヴィン:「冗談、君がその気になれば、私より強いだろう」
アルド:「分かってて勝負を挑むのか、本当に理解しかねるよ!」
ダーヴィン:「ふはっ!しかし君がどれだけ強かろうが関係ないのだ、何故なら私は美しいのだから!」
アルド:「訳が分からない、ねぇ!」
ダーヴィン:「ぉぉおお!」
アルド:「そぉおおれ!」
八咫:「ははっ!前よりまた強くなってんなぁ!」
クライス:「お前は鈍ったんじゃねぇのぉ!」
八咫:「言ってろよ唐変木!」
クライス:真剣での勝負ってのはそう長く続くものじゃない。例えば、握った剣が汗で滑った時、ちょっとした地面の窪みに足を取られた時、砂が目に入った時、そんな些細なきっかけで勝負はあっけなく終わる
クライス:あの時もそうだった
0:場面転換 6年前 戦場
クライス:「おらぁっ!」
八咫:「っと、あぶねぇな、殺す気かよ」
クライス:「ははぁん!殺す気だよ、避けられたがよ
クライス:あぁ、東国の日本刀とかいう武器を使う猟兵
クライス:その構造上、斬れば斬るほど血と脂で斬れ味が劣化する。はず、だが
クライス:斬っても斬ってもその男が振るう剣技に衰えはねぇ。そいつの前に立った奴は全員地に伏す
クライス:着いたあだ名は「伏せ鬼」
クライス:名前負けはしてねぇみてぇだな、八咫ァ・・・!」
八咫:「随分と有名人になっちまったもんだ。・・・ってその紋章」
八咫:ったく、なるほど。名家フランドルは伊達じゃねぇな。全員死んじまったよ、お前一人のせいでなぁ」
クライス:「名の通った貴族殺し専門の猟兵団って聞いてたから期待してたんだが、案外歯ごたえのねぇ連中だったよ
クライス:やっぱお前の武勲に尾ひれがついただけの集団だったわけだ」
八咫:「言ってくれるじゃねぇの、俺はあんま同僚の死とかに興味はねぇし、猟兵団のボスが死んだ以上、雇い主も居ない
八咫:金の切れ目が縁の切れ目ってやつだ。俺は退くぜ、おめさんとやるのは損しかねぇ」
クライス:「はぁぁ?待て待て、何の為に汽車乗って俺はピクニックに来たんだよ」
八咫:「あ?おめさんこそ雇い主の勇者様に言われてここに来てんだろ?もう俺は無関係だっつったんだぜ。俺と対立して得があるとは思えんがね」
クライス:「あー、いや。俺、騎士じゃねぇんだ」
八咫:「は?」
クライス:「ただの騎士候補。つっても俺が誘いを蹴ってるんだが。そりゃいい、名目上は確かに貴族殺しの猟兵団の解体だが
クライス:正直な話よぉ、俺はお前と戦いたくてここに来たんだ。お偉方の命令はどうでもいい」
八咫:「はは、フランドルの天才は問題児ってのはマジらしいな」
クライス:「あぁ。だが俺以上に嫌われてるぜ?お前ら
クライス:だからさっさと構えな。大義名分がある以上やり易い」
八咫:「ひゃあ〜、おアツいねぇ」
クライス:「俺は強いからよ、相手がどのくらい強いかは見ればわかる
クライス:お前、強いな。この上なく」
八咫:そう言った直後、俺の言葉も聞かずにアイツは斬りかかってきた、とんだ暴君だ
八咫:だがまぁ、勝敗は呆気なく付いた。クライスが砂利に足を取られて、その隙にジャキーンとやったわけよ。どうだ?強いだろ、俺
クライス:(吐血)「ーーーーは?」
八咫:「はぁ・・・はぁ・・・ったく、あぶねぇな・・・地の利が無けりゃ俺死んでたぞ・・・」
クライス:「・・・はは・・・ははははは」
八咫:「あ?」
クライス:「はははは!やべぇ!アガる!斬られた!痛い!ははっ!まじで強いじゃねぇか!でもまだ死んでねぇ、ほら、二回戦目だ、立てよぉ」
八咫:「やめとけよ、俺もボロボロだし、おめさんもそれ以上やったら出血で死ぬぞ」
クライス:「あぁ!本望だ!」
八咫:「・・・はは、じゃあやるかよぉ、あぁ?」
クライス:「ははぁん、堪んねぇなおめぇはァ!」
0:二人は鍔迫り合いになる
八咫:「そういや自己紹介もまだだったな!名乗ってみな、覚えてやるよ!」
クライス:「あぁ!俺はクライス。クライス・フランドルだ!」
八咫:「はは!クライスだな!名家の怪物、ちゃんと覚えたぜぇ!」
クライス:「っらぁ!!」
八咫:それから数分斬り合い、お互いに疲れ果てて勝敗なんざ覚えてない
八咫:だがまぁ、悪くない時間だった
クライス:それから約一年、俺は何度も何度も俺は放浪してるアイツを探し出しては血統を申し込んだ
八咫:「・・・おめさんまた来たのか。帝国貴族共の衛兵でも俺を見つけるのにてんやわんやだってのに」
クライス:「あぁ、一ヶ月前は負けたからな。今日は勝つぜ八咫」
八咫:「ったく、月一ペースで殺し合ってちゃ命がいくつあっても足りねぇな」
クライス:「折角命があるんだ、贅沢に使おうぜ?」
八咫:「はは。本当に、おアツいねぇ。お前は」
クライス:出会う度に真剣で殺し合い、その都度死にかける。なんの憂いも心配もなく、ただただ剣を振れる。俺にとっての幸せはお前と打ち合ってる事だ。
八咫:俺に腕っ節でここまで食らいついて来んのはこいつが初めてだ。散々俺の力を利用しようと擦り寄ってきた奴らは居たが
八咫:俺は本当の意味で、対等な人間を見つけたんだろう
八咫:度重なる決闘の結果は6対6。文字通りの引き分けだ
クライス:それから半年が経ち、八咫は唐突に姿を見せなくなった
アルド:「八咫・・・?って言うと、あの伏せ鬼だね
アルド:確か半年前くらいに捕まったね。アイゼンベルク領の貴族連合に」
クライス:「―――は?」
アルド:「随分と貴族に対して喧嘩売ってた猟兵団に居たみたいだし、しょうがないね。
アルド:・・・もしかして君が最近気に入ってた人って、彼?」
クライス:「ーーっ!」
アルド:「クライス!?どこ行くの!」
クライス:ふざけんな・・・!ふざけんなふざけんな!何捕まってんだよお前・・・!まだ勝負着いてねぇだろ
クライス:馬鹿野郎・・・!!
クライス:「出てこい!!八咫ァ!何勝手に捕まってんだ!さっさと脱獄しろ!」
0:八咫は刑務所からダーヴィンと共に出てくる
八咫:「お?クライスじゃねぇか」
クライス:「・・・は?おいおい、まじで脱獄か?」
八咫:「あー。いや」
ダーヴィン:「む。誰だこの小汚いのは」
クライス:「あ?なんだてめぇ」
八咫:「こいつは法国の勇者ダーヴィン。俺、今日からこいつの騎士になるから」
クライス:「・・・はぁああああ!?」
クライス:びっくりしたが、嬉しかったなぁ。またお前と戦える。そして何より、引き分けじゃあ終われねぇからよ
八咫:あぁ。俺は別に負けず嫌いって訳じゃねぇが。お前にだけは負けたくねぇな。
クライス:お前と打ち合うのは楽しい
八咫:一手一手が、俺を確実に殺しに来てるのが分かる
クライス:その全てをなぎ、より鋭利に、変則的に次の一手を返してくる
八咫:悔しいが、お前は天才だ。お前は最高だ。クライス
クライス:嗚呼、願わくば、この時間が永遠に続けばと、心から思うよ。八咫
0:場面転換 決闘中
八咫:「っ!楽しんでるかぁ!クライス!」
クライス:「あぁ!最高潮だ!!」
八咫:「そぉら行くぜぇぇぇぇ!」
クライス:「ぉぉおらああああああ!」
八咫:「ーーーかはっ!」
アルド:八咫が地に伏した原因は、クライスの剣戟でも無ければ、僕でも、ダーヴィンでも無い。観客席に居た、帝国の貴族が放った一発の弾丸だった
クライス:「ーーーは?」
ダーヴィン:「八咫・・・!?」
アルド:「何してんだお前!くそ、何のための国際条約だよ・・・!」
クライス:「八咫・・・?おい・・・?立てよ。何してんだ。俺まだお前を倒してねぇよ」
アルド:「衛兵!なにしてる!そいつを抑えろ!」
クライス:「おいおいおいおい、ふざけんな。何してんだあいつ」
アルド:「クライス!落ち着いて!今衛兵がーー」
クライス:「てめぇぶっ殺すぞ!!!」
アルド:「クライス!」
ダーヴィン:「・・・」
アルド:「・・・ダーヴィン、すまない。帝国側の条約違反だ、決闘はーー」
ダーヴィン:「八咫は貴族殺しの罪を負う身だ。故に、此度の帝国側の不遜、万事構わない。私が許す!しかしこちらの騎士が倒れた以上仕方があるまい。
ダーヴィン:私と、アルド・アルバート。この一騎打ちを申し込む!」
アルド:「・・・は?」
ダーヴィン:「受けるも、退くも、君次第だ。しかし退いては国際条約違反で此度の決闘は無効、賠償として土地の譲渡は行われるだろう」
アルド:「・・・何を考えてるんだ、君は」
ダーヴィン:「私は、私の誇れる国しか愛さない。君に斬られ、私が地に伏すならそれも良い。八咫が斬られ、降伏し負けるならそれも良い。だが!賠償によって得た土地も、名誉も、誇れるものでは無い
ダーヴィン:私はそれを恥じる!!
ダーヴィン:改めて言おう。私、ダーヴィン・カーネンハーツは、君に一騎打ちを申し込む」
アルド:「・・・嗚呼、君は勇者だ。間違いなく
アルド:アルド・アルバート。その申し出、僭越ながら受けさせて頂く
アルド:ダーヴィンと言う勇者に、最大限の、敬意を」
ダーヴィン:「意気や良し。してアルド、最後に聞かせたまえ」
アルド:「なんなりと」
ダーヴィン:「君は、何を見ている」
アルド:「ーー夢を見ている」
ダーヴィン:「ふはっ!うむ。万事構わない!いざ、美しく参る!」
アルド:「ありがとう」
0:一瞬の沈黙
アルド:「そぉおおおおおれぇえええ!」
ダーヴィン:「はぁぁあああああああ!!」
アルド:「撤回する!貴方は、強い!僕よりも!」
ダーヴィン:「あぁ!そうだとも!私は強いよ!誰よりも!」
アルド:「うぉおっ!」
ダーヴィン:「っーー!」
アルド:拝啓、勇者へ
0:アルドはダーヴィンを斬りつける
ダーヴィン:「ーーかはっ!」
アルド:「君が英雄なら、悪くない」
ダーヴィン:「・・・いいや。」
:
クライス:「ーーざけんな。ふざけんなふざけんな。こんな決着ありかよ・・・八咫ァ・・・!」
八咫:「そんな叫ばなくても聞こえてるっての」
クライス:「・・・は・・・?」
アルド:「・・・おい?八咫、見てなかったのかい、もうダーヴィンは負けた。終わったんだ」
八咫:「そういう話じゃねぇんだよ。あいつが必死こいて頑張ったってのに、呑気におねんねはしてらんねぇだろ」
アルド:「君は!ダーヴィンの意志を無視するのか!ダーヴィンは自分の命を賭けて、一騎打ちを申し込んだんだぞ!」
八咫:「あいつは負けてねぇよ。だって、まだあいつの騎士が負けてねぇ」
アルド:「何を言ってるんだ・・・!」
ダーヴィン:「八咫ァ!」
八咫:「なんだ、ダーヴィン」
ダーヴィン:「私は、自分の騎士を下げるとは、一言も言っていない」
八咫:「あぁ。知ってる」
アルド:「何を・・・?」
ダーヴィン:「ふ、は、は。アルド。私はね、英雄なんかではない、ましてや勇者でもない
ダーヴィン:王なのだ。規律を重んじ、尚且つ狡猾である。それが王だ。そして、私がこうして生きている。虫の息ではあるがな。そして騎士はまだ戦える。なれば状況は初めに戻るだけだ
ダーヴィン:しかしアルド、君はダメだぞ。君は、私との一騎打ちを終えたのだ。あとは騎士に任せるといい。まぁどの道
ダーヴィン:ーー私達が、勝つ」
アルド:「あ、は、ーーーあっはァ!!!
アルド:クライスゥ!!彼らは間違いなく英雄だ!!そしてそれに勝って!君が証明してくれ!
アルド:君が!君だけが僕の英雄だって!」
クライス:「アルド・・・。あぁ・・・。あぁ・・・!!」
ダーヴィン:「八咫ァ!お前は言ったのだ!私を王にすると!なればそれをここで果たせ!」
八咫:「ったく、どいつもこいつも
八咫:ーーーおアツいねぇ・・・!!」
クライス:「・・・なんだよ、なんだよおい
クライス:最高にアツいじゃねぇか。あぁ、伏せ鬼を伏すのは俺だァ!」
八咫:「ははっ、伏せ鬼はあいつにしか伏さないんだよ!」
0:二人は打ち合う
クライス:「あぁ!強い!強いなぁお前は!」
八咫:「あぁ。俺は横腹に風穴が空いてるし、身体も怠い。だが、頭は冴えてるし調子も悪くない。おめさんの調子はどうだ」
クライス:「あぁ・・・!たった今
クライス:ーー絶好調になったァ!!」
八咫:「そいつぁ何よりだなぁ、クライスゥ・・・!!」
クライス:「あぁ、あぁ・・・!はははっ!
クライス:ありがとう、ありがとう。
クライス:俺は生まれて初めて、神に感謝したよ!!」
0:二人は鍔迫り合いになる
八咫:「馬鹿が!俺がすげぇんだよ!」
クライス:「あぁ!そういう所が大好きだ!愛してるぜぇ!」
八咫:「ははっ!相変わらずキメェなぁ!」
クライス:「ぅぉおおおおおらぁああ!!」
八咫:「おぉおおおおおおおおお!!」
アルド:ーーそして決着がついた時、英雄は地に伏していた
八咫:(吐血)
クライス:「・・・はっは・・・やっぱ、これだなぁ」
ダーヴィン:「・・・」
八咫:「・・・悪いなぁ、金貨六百枚、お得意さんを勝たせてやれなかった」
ダーヴィン:「とんだ穀潰しだ。だが、言わねばならんな。ありがとう、と」
八咫:「そもそもよぉ、アイツらじゃ料金不足じゃねぇの」
ダーヴィン:「ふは。欲深い。だから気に入った」
八咫:「どうだ、美しくないか」
ダーヴィン:「――いいや、美しい。」
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0:場面転換 墓地
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クライス:あの日から、追いかける者も、追いつく奴も居なくなっちまった。あぁ、また退屈な日常が帰ってきた。俺にとっての退屈は、日常で、人間関係で、しがらみで、俺自身だった
アルド:「クライス、また墓参りかい」
クライス:「あぁ」
アルド:「君が墓参りしてる間に、僕は今日も一人で勝ってきたよ。そう、一人でね」
クライス:「へぇ。あの平和主義がねぇ。いよいよ独り立ちしたって感じかァ?なら、俺ももうお役御免だな。どこにいても退屈だ」
アルド:「あの日、君は確かに僕の中で英雄となった。けれど、僕ならばまだその先を見せることが出来る」
クライス:「大きく出たな。はっきり言うが、お前は退屈だ。でもそれはお前が悪いわけじゃない。お前が俺の事を英雄と言ってくれたように、俺の英雄はアイツだけだった」
アルド:「――僕はね、英雄になりたいんだ。
アルド:だから、クライス」
クライス:「・・・」
アルド:「・・・クライス?」
クライス:「あ?」
アルド:「いつまで墓石見てんだ・・・!僕だ、僕を見ろ!!」
クライス:「・・・」
アルド:「ああ分かったよ!分かってるよ!!君が退屈だって言うなら、君が憂鬱だって言うなら!他の誰でも無い。君が、そう言うのなら、僕が全部言い伏せる!捩じ伏せる!!
アルド:いいか、調子乗んなよクライス・フランドル!君を、伏すのは、僕なんだ!それはね、クライス…」
クライス:「いい加減にしてくれ、もう俺はーー」
アルド:「アルド・アルバートが、君の勇者だからだ」
クライス:「・・・」
アルド:「・・・約束したろ。君を、退屈させはしない」
クライス:「ーーーはは、そりゃあ、おアツいなぁ」
アルド:「見てろよ、僕の英雄」
クライス:「あぁ。俺の勇者さんよ」
ダーヴィン:勇者とは
ダーヴィン:困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者や、勝敗にかかわらず勇敢に戦った者に対して敬意を表した呼称である