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七月二十四日。
今日はLittle Princessファーストドーム公演『Princess World〜姫、降臨〜』の記念すべき初日である。
「マントよーし、サイリウムよーし、タオルよーし、双眼鏡よーし、電子チケットよーし、スマホの充電よーし、姫への愛情よーし!! うん、オッケイ! 忘れ物はないな!!」
史裕は指差し確認で持ち物の最終チェックをしていた。うん、でも最後の確認はいらないと思うんだ。愛情チェックって何それ聞いた事ない。しかもちゃんと自分の胸のあたりを指差して言ってるのがまた腹立つ。
「じゃ、行ってきまーす!!」
十七時半開場、十八時開演。始まるまではまだまだ時間があるが、どうやら〝物販〟とやらに並ぶらしく朝早くから出る必要があるそうだ。
ちなみに物販とはグッズ販売のことらしい。会場の近くにブースを設け、そこでタオルやTシャツ、ペンライトなどのライブオリジナルグッズやフォトセットなどを販売するんだそうだ。人気のグッズはすぐに売り切れてしまうので毎回長蛇の列が出来るという。ちなみにライブハウスでやっていた時は握手券なんかが付いてきたようだが、大きい会場ではさすがに出来ないらしい。まぁ、人の規模も違うしね。
ひらひらと手を振って、夢と希望に満ち溢れたその背中を見送る。
私は深く息を吐いた。
今日は私にとってもある意味勝負の日だ。
市川と会って、答えを出す日なのだから。
別れた原因が誤解だったって知った時は動揺したしその後の告白もかなり驚いたけど、心の整理はある程度出来た。あとは自分の気持ちを正直に話すだけ。
それと……青柳課長。彼とはあの後一度だけ話をした。史裕からの伝言を伝えるために。
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「課長、ちょっといいですか?」
「佐伯か。どうした?」
誰もいない廊下で意を決して話しかけたのだが、拍子抜けするぐらい普通に返された。
「……実は弟からちょっとした伝言を預かってまして」
「弟くんから?」
私は小さく息を吸う。
「〝リトプリの王宮舞踏会、席どうでしたか? 俺はスタンド二列目でした。運が良ければトロッコが通るかもです。土曜日は一緒に楽しみましょうね!〟……だそうです。金騎士の青柳さんに絶対伝えてくれって言われたので。……すみません」
言っていて恥ずかしくなった。史裕のせいでなぜ私が恥をかかなければならないんだと内心で歯軋りする。
座席は公演の三日前にようやくわかったらしい。詳しくは知らないが、電子チケットを受け取る時にならないと見れない仕組みになっているそうだ。公演によっては当日にならないとわからないものもあるらしい。ドキドキして落ち着かないから、私だったら当日はちょっと嫌だ。
「トロッコが来る席はデカイな! 俺は花道近くのアリーナだった。リトプリが通るのを間近に見れる神席だ!! 弟くんにもちろん一緒に楽しもうと言っておいてくれ」
課長は今までの不機嫌そうな態度が嘘のように元に戻っていた。最近見ることのなかった笑顔を私に振りまいている。リトプリのライブが近いからだろうか。
「そうだ。土曜日はお前も出掛けるんだろ?」
「…………」
「気を付けてな」
「……はい」
課長は笑顔のまま言って、フロアへと歩き出す。
……ほらね。その日、私が市川と会うのを知ってても何も言ってこない。
当たり前だ。課長は私のこと何とも思ってないんだから。推しのドームライブで頭がいっぱいになるのは当然だ。こうやっていちいち気にしてる、私の方が変なのだ。
♪
♬
あの時の会話を思い出して溜息をついた。いや、こんなことしてる場合じゃない。私もさっさと準備をしなければ。




