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恋はサイリウムと共に  作者: 百川 凛
4曲目:再会は突然に
24/40


「……とんでもない事になった」


 案の定、会議室で私を待ち伏せていた課長は顔を合わせた瞬間開口一番にそう言った。血走った目でぐんぐん近付いて来ると、がしっと肩を掴まれる。下手したらパワハラセクハラ案件だ。


「聞いたか!? Charme(シャルム)の! 新しい! イメージキャラクター!!」

「は、はい」


 たった今あなたの口から聞きましたけど、という野暮なことは言わない。


「おい嘘だろどういう事だ!? リトプリがうちの化粧品を使うなんて夢か!? これは夢なのか!? 俺は白昼夢でも見てるのか!? つーかいくら極秘案件って言ったって課長級にも話が通ってないなんておかしくないか!? 会長も会長だ! いくら孫がファンだからって勝手に話進めるか!? 職権濫用もいいとこだろ!? いや、リトプリに目をつけるセンスは称賛に値するけれども!! キャスティングは普通こっちだろ!? でもありがとう! 逆にありがとうナイスサプラーイズ!! えっ、えっ、ていうかリトプリがCMに出てくれるわけだろ!? しかもそれに俺が関われるんだろ!? えっ、どうしよう俺一生分の運使い果たした!! これ死ぬかも幸せすぎて死ぬかもしれないどうしよう!!」

「とりあえず生きてください」

「そうだ、今日が俺の命日だそうに違いない!! …………いや!! リトプリと会えるまでは死んでも死にきれん!! ドームライブも控えてるし意地でも生き抜いてやる!!」


 頭を抱えて項垂れていたと思ったら急に天を仰ぐ。勝手に死んで勝手にぶっ生き返ったらしい。


「これはもう運命としか考えられない……!! やはり騎士(俺たち)と姫君は一心同体一生推せる!!」

「はいはいそうですね」


 もう気は済んだだろうか。私は椅子を並べ直しながら生返事をする。


「しかもな、新商品のリトプリコラボ!! 限定カラーのアイカラーとリップの発売を予定しているらしい!!」

「へぇ」

「企画課の一部の社員と研究員には既に知らされていて、開発に取り掛かってたそうなんだよ!! おかしくない!? だったらうちにも教えてくれればよくない!? 宣伝するんだからまずこっちに教えるのが筋ってもんじゃない!?」

「そうですね」

「まぁ今となっちゃ別に良いけどな! ああそうそう、うちの課に特別チームを置くことになったんだが、当然お前にも入ってもらう予定だからそのつもりでな!」

「はい?」


 驚いて顔を上げる。


「と、特別チームに私……ですか?」

「当たり前だろ。お前は俺の暴走制御ストッパーになってもらわないと。リトプリに夢中になって仕事に支障をきたしてしまう」


 確かに彼女達に対する情熱を知っている身としては課長が使い物にならなくなるだろうことは簡単に想像がついてしまうけれど。あの暴走を私が止める? いやいや、それってある意味最重要ポストじゃないか。


「……ていうのも理由の一つだけど、お前を抜擢するのはその仕事ぶりを見込んでだ。うちの商品とリトプリの魅力を最大限に引き出す良い宣伝をしっかり作ろう」


 ある程度胸の内を語って少し落ち着いたのか、課長が微笑みながら言った。こうやってちゃんと仕事のことを考えてる点はさすがと言えよう。


「ああっ!! 彼女たちの溢れんばかりの魅力をどうやって表現すればいいんだっ!? だってまずこの世の語彙力じゃ語り尽くせないんだぞ!? それを! 世界に! 発信しなければならないんだぞ!? どうする!? 俺は一体どうすればいい!?」


 勝手に悩み出した課長を放置して、私はもくもくと会議室の片付けを進める。この人こんな状態で今日仕事に戻れるのかな。会社のためにも帰った方が良くない?


「あっ、そうだ佐伯」

「はい?」


 くるりと振り向くと、予想より近い位置に課長が立っていてちょっと驚いた。課長は手に持ったラッピングされた透明な袋を差し出す。


「危うく忘れるところだった。……これ」


 それは、ツヤのある青いボディにデフォルメされたペンギンの顔のチャームが付いたボールペンだった。なんていうか絶妙にダサい。でも、チャームは可愛い。


「……これは?」

「ペンギンのボールペンだ」


 いや、それは見れば分かる。私の冷たい視線に何かを察したのか、課長は続けた。


「あー、なんていうか。実は水族館に行った時に買ってたんだが……どうも渡すタイミングがなくて」

「えっ?」


 いつの間に買ってたんだろう。だってあの時はお昼を食べてすぐリトプリのサプライズライブに行ったし、そんな暇なかったはずだ。……え、もしかしてランチの注文で席を外してた時? あの少しの時間で買ってたのかな? でも、なんで?


「なんでこれを私に?」

「あの日、せっかく二人で出掛けたんだから記念に何か買っておきたかったんだ。それに佐伯、ペンギン好きだろ?」


 小首を傾げると同時に、センターで分けられた前髪がサラリと揺れた。……認めない。私が好きだと言っていたものを当たり前のように覚えていて、それを当たり前のように言う姿にちょっとキュンときたなんて認めない。


「……ありがとうございます」


 お礼を告げると課長はニコリと微笑んだ。


「さぁ、これから忙しくなるから気合いいれてくぞ!」

「……はい」


 絶妙にダサいボールペンを貰って嬉しいなんて認めない。……くっそう。これだからイケメンは!!

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