第三話
目を覚ましても尻の激痛は残ったままだった。しかし、首を動かして辺りを見回すと開かれた宝箱はやはり閉じられていた。もう一度だ。もう一度、アタリを引かなくてはならないのだ。
「またや。またタイムリープしとるやないか」
先輩たちはいいよ。痛い思いをするのは僕だけだもの。それに、うっすらとみんな笑っているような気がする。ヒドい。人の不幸を。
「しかしあれや。ガス室とか水牢やったら御陀仏やのに、キック一発ならラッキーなほうかもしれん」
他人事。痛いのは僕。みんなは笑うだけ。くそう。そりゃ僕の人生の目標は『人を笑顔にすること』だ。僧侶を目指したのもそのためだ。
しかしこれは違う。笑顔の質が違うのだ。人の痛がるのを笑うのは人間性を問われる。仲間たちには真っ当な人生を歩んで欲しいのに。
「ほな次や。ポーセー。さっさと開けぇわ」
だがポーセーは先ほどと同じように抗議した。次は先輩たちの番だと譲らない。そのうちにハマタンが切れ気味に折れた。
「分かったわい! お前ら、変なハズレが出たら全員いてこますどぉ!」
そういいながら宝箱の前にしゃがみ込み、ビビりながらロックを開ける。さらにビビりながら中を覗き込んで取り出したものは、人形のようだった。
「なんやこれ?」
それは猿人類を模したハマタン人形だった。そっくりだ。みんな口に手を当てて声を忍ばせて笑った。
「んっふふ……」
ハマタン本人も笑っている。マツンは両手と口を大きく広げて笑うのを耐えていた。
「なんやこれ」
「プスス……見せんなや」
やはり仲良し。普段は毒づいていてもイチャイチャしている。
ひとしきりそれが終わると自己分析を語り出した。
「これはアタリともハズレともちゃうようやな。扉もあかんみたいやし。はい次ポーセー!!」
ハマタンの指示。しかしまたもやポーセーは嫌がった。
「いやいや、僕何回も開けてますもん。次はマツンさんでしょ?」
「お前なぁ」
マツンはイヤそうに首を振る。ポーセーは胸の前に拳を構えた。
「じゃんけんしましょ」
「いや、なんでや」
マツンは一歩後ろに下がったがハマタンがひと言。
「ええやろ。じゃんけんしてやれば満足すんならしてやれや」
ピシャリ。自分がする立場ならいやなくせに。マツンは仕方なく拳を握った。そしてポーセーに問う。
「おいポーセー。お前、最初何出す?」
それにエンドゥは汚いと言って苦笑。だがポーセーは答える。
「僕パー出します」
戦略のやりとりだ。何一つ答えなどない。互いが出した結果で全てが決まる。マツンは本気に受け取らない顔をして拳を振る。
「「じゃんけん ぽん! おー」」
なんと互いにパーだった。ポーセーは精神力で押し切った。パーを出すと言ってパーを出し切ったのだ。この時点で勝負は決したと言っても良かった。
ポーセーはその精神力のまま、拳を振り続けた。
「あーいこーで」
「わー! ちょちょちょちょ」
マツンはかなり慌てていた。ポーセーの言葉のままに先ほどのパーの形を振っていた。
「しょ!」
中央に出された手の形はポーセーがチョキ、マツンはパーのままだった。
「しゅーりょー!!」
ハマタンの声で勝敗は確定した。マツンはハマタンにもう一戦、三回勝負を提案するも退けられ、仕方なしに宝箱へと向かった。
そして一番端の宝箱を指差す。
「これまだ誰も開けてへんヤツだよな」
「でもシャッフルされてますよ。それにティーキックが入っているのかも」
脅すエンドゥの言葉にマツンはへたり込む。
「そうやんなー。──んー、まぁしゃーない。お前らなんかあったら助けてくれよ? あーもー」
グズグズしゃべりながら宝箱のロックを外す。そしてビビりながらゆっくりと宝箱を開けると──。
ビッ!
と音がして青い閃光がマツンの指に走った。どうやら弱い電流のトラップらしい。身体にはあまり影響がないようだが、マツンは茫然自失といった顔だった。
宝箱の中身は空で、そのトラップだけ。ハマタンは呆れた顔をしてマツンを見ていた。
「いつまでそんなサムい顔しとんねん」
「いやいやいやいや──」
マツンは手を振って立ち上がり、どれだけ痛かったかを熱弁する。曰く全身が痺れただの、手の骨が見えただの、未だに痺れて動けないだの言うものの、ハマタンはすでに背中を向けて興味のない顔をしていた。そりゃそうだ。
「次、エンドゥ!」
マツンの話が終わるかどうかといった所で被せ気味にエンドゥを指示。エンドゥはまたもや宝箱へと近づいた。
「コイツ、二回もハズレ引いとるからなぁ」
とマツン。しかしエンドゥは心外とばかり抗議する。
「なんでですか。シャッフルされてるから僕のせいじゃないです」
その言葉にマツンはすぐさま反応した。
「さぁエンドゥ、本日初の宝箱の中身はなんなのか?」
エンドゥは苦笑した。
「なんですか。今までの僕が開けたのは全部カットですか?」
ハマタンはそんなエンドゥの背中を蹴りつける。
「当たり前や。サムいこといっとらんでさっさと開けんかい!」
エンドゥはぶつぶつ言いながら宝箱のロックを外す。そしてその蓋を開けるとそこには──。一枚の折りたたまれた紙が入っていた。
「お前……」
「んっふふ……」
マツンが呆れ、ハマタンは声を忍ばせて笑う。同じだ。三回も同じ。逆に持っているぞ、この男。
「はい、次、タムカァ!」
ハマタンが声を上げるものの、エンドゥがそれを制した。
「待って下さい。まだ中身を見てません」
「見なくても一緒や! ハズレに決まっとる!」
「なんか、三文字よりも多そうなんですけど」
「……どれ。開けてみい」
エンドゥが折りたたまれた紙を開け、少しだけ笑う。そしてその内容をこちらに向けた途端例の声が部屋中に鳴り響いた。
「タムカ。ティーキック」
「えーーーっ!!!」
その瞬間、宝箱は僕の元へと高速移動し変形する。手足を拘束し腰を持ち上げる。そうミドルキックの位置へと。
仲間を見ると、もはや笑っていた。くそぅ! エンドゥが開けたものなのになんで僕が!
「しゃーないやん。大凶なんやから」
なにもしゃーなくない。開けた人のところにこの厄災がいくべきなのに。
沈黙していた入り口の扉が開き、茶褐色の屈強な魔人。それが踊るような足取りでこちらに向かってくる。
そして三度目となる無情なる一撃。そこから手足が自由となり地面に落ちる。
「あー! あー! あー!」
僕は尻を押さえて悶絶。まただ。また時間が逆行して同じことを……。




