第二話
あれからどれくらい時間が経ったのだろう?
目を覚ますと違和感があった。尻の痛みは幾分落ち着いていたものの、仲間たちの表情は曇り宝箱のほうを向いていたのだ。
「目ェ覚めたかタムカ」
そう言ってきたのはマツンだった。僕が頷くとマツンは続けた。
「見てみィ。宝箱が閉じられとる。どうやらワシら、タイムリープしたようやで?」
タイムリープ? 時間が逆行するってやつか!? しかしこの尻の痛みは? それを残したまま時が戻ってしまう?
「どうやら宝箱のアタリを引くまでは部屋からでられんみたいで、時間も逆行するみたいやな。んっふふ……」
何が面白いのか、ハマタン。しかしその推理っぽいぞ? でもキツい。こんなトラップばかりの宝箱からアタリを引くことが出来るのだろうか? しかし先ほどの開けた二つはどこにあったか分かる。ということは、残りの宝箱にアタリが隠されているというわけだ。
そんな推理をしていると、閉じられた扉の向こうからダンジョンマスターの声が聞こえてきた。
「ああお前ら大変や。どうやらタイムリープしているみたいやな。その宝箱からアタリを引くまででられんで?」
──なんかいろいろ台本をすっ飛ばしたみたいだな。つまりダンジョンマスターはこう言いたいのだ。
この部屋はダンジョン内の危険度高いトラップ部屋らしく、いつどこに現れるか分からない部屋。
外から扉を開けることは出来ず、宝箱からアタリを引けば出られるが、ハズレばかりで、ヒドいものはタイムリープのトラップが発動してしまう。
そうやって閉じ込めたものを苦しめる部屋らしい。
さらにダンジョンマスターは続けた。
「ほならワシのほうでも扉を開ける手掛かりを見つけてくるから、お前らも宝箱の中からどうにかアタリを掴んでくれるか? ──それから宝箱の中身はシャッフルされとるから」
は、はいいいーーー!?
なぜそんな肝心なことを後付けで!
つまり、エンドゥが開けたものも僕が開けたものもタイムリープで元通りにされてる上にシャッフルされて中身の位置が変わっている?
タイムリープすればいつまでも12分の1を引き続けなくてはならないのだ。
なんと恐ろしい……。
ハマタンとマツンはアゴに手を当ててうなってしまった。
「つまり、時間が逆行すればいつまでも12分の1を引き続けなくてはいかんちゅうこっちゃな。んっふふ……」
「プスッ。こら恐ろしい部屋やでぇ~。プスップスス」
……この先輩二人は一体何が面白いのか? 恐怖で頭がおかしくなってしまったのかも知れない。まぁ僕が尻を押さえる姿を見ていたのではあるが。
そんな先輩二人にポーセーは提案する。
「みんなそれぞれ順番に開けましょ。ね、ね、ね」
たしかに。先ほどのような恐ろしいトラップが発動するならリスクを分散させたほうがいい。でないと先輩二人に命じられるまま僕たち三人で開け続けなくてはいけない。ポーセーは先輩たちにも開けて貰うようにお願いしたのだ。
先輩二人は最初は渋っていたが、自分たちも引かないと示しがつかないということで、順番に引いていくことになった。
さすがにハマタンは怒りに任せてエンドゥの尻を蹴り上げた。
「あーもー、エンドゥはよ開けんかィ! シバくぞ、コラァ!」
「いたぁ!」
エンドゥは尻を押さえて飛び上がる。そしてハマタンへと怒りの言葉を向けた。
「何するんですかー。やめて下さいよー」
しかしハマタンは冷めた口調でエンドゥが宝箱を開けるように指示を強める。
「もうええ。はよはよはよ」
「なんなんですかもぅ……」
エンドゥは小声で抗議しながら宝箱に手をかけ、それを開ける。そこには一枚の紙片。またか。
「んっふふ……」
「ハズレ……みたいです」
答えを聞く前に若干笑ってしまうハマタン。マツンは大口を開けて何かに耐えているようだ。笑いをひとしきりこらえたハマタンは声を上げる。
「またやないか! お前、全然おもろないわ! はい次、ポーセー!」
怒声を発してポーセーを指名するものの、ポーセーは次はタムカだ、マツンだと食い下がる。よっぽどティーキックが怖いのであろう。
「だいたいにしてね、マツンさんが開けるべきなんですよ! 盗賊なんだから!」
これは言えてる。盗賊の能力にはトラップの解除や錠前を開けるなどがある。しかしマツンは役柄を忘れて一喝。
「誰が盗賊やねん! ……まあハマタンは外国人のパンツ盗んだことあるけどな」
「お前も一緒におったやないかい!」
どうでもいいエピソード……。つかなんでもコンビでやってたんだな。そんな仲良しエピソードは宝箱には関係ない。
「もうええ。はよ開けんかい」
ハマタンが呆れたような口調でポーセーに言うと、ポーセーも仕方なく宝箱に声をかける。
「わーー」
「「うわぁーーー!!!」」
なにも学習していない。ポーセーは宝箱を開けもしないで先輩二人に驚いたフリの声を上げると、二人は後ろに倒れ気味になりながら壁側へと逃げた。それを見てポーセーは肩を揺らして笑う。
よせばいいのにそんなことをするものだから、ハマタンに蹴り上げられていた。
「しょーもないことせんでええねん! お前、殺したろか!」
ヒドい。殺されたらたまらないということで、ポーセーも観念して宝箱を開けるとそこには──。
「なんや?」
「水晶玉です」
キラキラに輝く手のひら大の水晶玉。ポーセーは手に取ってみんなのほうへと向けた。
「危ないな、こっち向けんなや」
マツンはたかだか水晶玉にビビって身構えた。ポーセーはエンドゥへと向け直して水晶玉を突き出した。
「やめて下さいよぉ。でもなんにもなりませんね?」
そう。何も起きない。するとハマタンがつぶやく。
「それがアタリなんとちゃうか?」
そう言われてみれば、これほど透明度の高い水晶玉は相当の技術がないと作れない。鑑定すればかなりの金額になるかもしれない。冒険者に成り立ての僕たちにはとんでもない激レアアイテムだ。
その時だった。水晶玉から光が伸びて壁に映像が映る。そこには美しい女性が映っていた。
その水晶玉の女性は勝手にしゃべりだしたのだ。
「はい。占い師です。ハマタンの今日の運勢は吉。ラッキーアイテムは薬草。マツンの今日の運勢は中吉。ラッキーランチはカレー」
突然の占い。僕たちはわけもわからずそれを見ていた。続いてポーセー、エンドゥが占われ、最後は僕の番だった。
「最後はタムカ。運勢は大凶。ラッキーキックはティーキック」
その時であった。先ほどと同じような声が部屋に響き渡る。
「タムカ。ティーキック」
あっという間に開かれていた宝箱が変形し高速移動する。それから手枷、足枷で動きを封じられ、腹が浮き上がらせられる。
怪しい笛の音の警報トラップ。入り口の扉が開き、先ほどの屈強な茶褐色の魔人が現れ、ミドルキックの構えをしていた。
ヤバい! やられる! どうしてだ? ポーセーが開けた宝箱なのに。
鈍い音。その音が消えると手枷、足枷が外れ僕の体は地面に落ちる。
「ああぁぁぁあああぁぁぁあああー」
僕の声──。魂が抜けるような声。
「ん。でもこれでラッキーってことやからね」
「やかましわ」
先輩たちの言葉がうっすらと聞こえたような気がした。そのまま僕はまどろみの中へ……。




