第一話
冒険者と言えば聞こえは良いが、初めてのダンジョン探索の僕たちパーティ五人は、付き添いのギルドマスターに案内されて浅い階層の休憩ポイントにたどり着いた。
ギルドマスターは、僕たちを休憩室に入れるとこう言った。
「お前ら、俺はこの階層の宝箱を見てくるから少しこの部屋で休んでてくれるかー? すぐ戻るから」
と言って、部屋を出て行ってしまった。残されたのは僕たちパーティ五人。リーダー格のゴロつきハマタン、筋肉ダルマのヘタレ盗賊マツン、ずる賢い魔道士ポーセー、影の薄いアーチャーであるエンドゥ、そして僧侶の僕タムカだ。
ハマタンとマツンは低い階層しかいかないもののギルド内では相当なベテランなので、連れて来たギルドマスターすらも下の扱いで鼻を鳴らす。
「なんやあいつ」
「あー。ダルゥ。ダルいわぁ~」
場は一気にハマタンとマツンに支配される。僕たち三人は苦笑していた。
休憩ポイントに用意されているイスに腰を下ろしたハマタンはふと気付いた。
「あれ? なんや。宝箱や」
見るとハマタンが座った角度から、別部屋が見える。そこには宝箱が陳列されていたのだ。一つや二つではない。全部で十二個もあった。
沸き立つ仲間たち。僕たちは急いでその小部屋に入った。すると入り口の扉が閉まってしまう。宝箱の部屋に閉じ込められたのだ。驚きはしたがひょっとしたらどこかに部屋の扉を開けるスイッチがあるかも知れないと、目の前の宝箱に目を奪われていた。
だが、ここはダンジョン。宝箱十二個もあれば大半が罠だろう。
針が飛び出してくるもの、ガスが吹き出てくるもの、宝箱自体がモンスターなもの。いろいろ考えられる。触らないほうが無難だ。ここはギルドマスターが帰ってきてから外から扉を開けて貰い、宝箱を開けるかマスターに判断して貰ったほうが得策であろう。
みんなもそうだとなって、僕たちは小部屋に備え付けのイスに腰を下ろして談笑を始めた。
しかし待てど暮らせどギルドマスターが帰ってこない。こういう段取りを読むのが得意なハマタンはポーセーのほうを向いてつぶやいた。
「開けろっちゅうことやないか?」
「ボクがですか?」
ハマタンの眼力がポーセーに開けろと言っているようだった。ポーセーは四の五の愚痴を言っていたが、ハマタンがそれを聞き入れるわけもなく、仕方なしに立ち上がり一番左端の宝箱の前に立った。
「な、なにかあったら助けて下さいよ?」
「大丈夫や。なんにもあれへん」
そういうマツンの根拠はどこからくるのか? ポーセーは宝箱に手をかける。
「わーー!!」
「「うわぁーーー!!!」」
ポーセーの叫び声に肝心の先輩二人が叫び声をあげる。宝箱は開いてはいなかった。そんな二人を見てポーセーは笑っていた。
ハッキリいって、このパーティはビビりだらけだ。普段はギルド内を肩で風切ってあるくようなハマタンとマツンでも、芯はビビりなのである。
ハマタンとマツンは、この状況を打破するが如く、ポーセーを殴りつけてごまかし、エンドゥのほうへと向き直る。
「エンドゥ。お前開けェ」
「え? あ、ハイ」
影が薄いので、大してリアクションしない。それでいいのか? それでも芸人か?
エンドゥは一つの宝箱に手をかけ、それを開ける。引きも何もない。レギュラーなのにモブ。そういう感じだ。
エンドゥの宝箱には一枚の紙が入っていた。マツンは前のめり気味に聞く。
「宝の地図か?」
エンドゥはその紙をこちらへ向けた。
「『ハズレ』……らしいです」
ハズレだった。面白くともなんともない。やはりコイツは持っていない。しかし先輩二人は声を殺して笑う。
「んっふふ……」
「ハズレ……やないか」
しばらく笑いをこらえてはいるものの持ち直し、ハマタンは並べられた宝箱の中身を分析し、僕たちへとその内容を伝えてきた。
「つまりこれはあれや。アタリは扉が開くとかそういうヤツちゃうか?」
なるほど納得。ハズレを避けてアタリを引けば扉が開く。そうすれば休憩ポイントへと戻れるかもしれない。もともと休憩ポイントに付属された部屋なのだから初心者へのお試しの部屋……みたいなものなのかも知れないな。
「ほな今度はタムカ。お前開けェ」
「あ、ハイ」
僕に順番が回ってきた。こうなったらさっさと部屋を出るべきだ。僕は適当に選んだ宝箱の前に屈み込んで宝箱のロックを外す。そしていざご開帳の段となってゆっくりと宝箱の蓋を上げた。
その時である!
宝箱に触れていた両手両足に枷のようなものがついて一気に地面に引きずられた。
宝箱は生き物のように変形し、次は腹を押し上げ腰が宙に浮いた間抜けなかたちとなった。
さらに笛の音のようなものが部屋中に鳴り響いたのである。
「なんや? 警報トラップや!」
怯えて辺りを警戒するポーセーに続いて仲間たちも壁側に避難する。僕一人動けないままだ。
警報トラップは魔物を呼ぶ。この閉じられた空間にどんな魔物がやって来るのか想像できない。
そのうちに警報トラップは止み、声のようなものが聞こえた。
『タムカ。ティーキックー』
その瞬間、入り口の扉が開いたかと思うと、屈強な茶褐色の戦士のような魔人が現れ奇妙な出で立ちで僕の尻に向かってやって来る。
この変な構えは他国の武術、ムエティーのそれだ。魔人はムエティーのミドルキックの体勢をとって僕の尻に狙いを定めていた。
「な、な、な、な、な?」
その時である!
鈍い音とともに、魔人から無情なる一撃が尻に加えられる。僕の内臓が口から全て出てしまうのかと思うほどの。
ティーキックが終わると手枷が解け、宝箱は元のかたちへと戻り、屈強な魔人は入り口の扉へと向かい、また完全に閉じられた。
だがそんなことはもうどうでも良かった。痛い。マジで痛い!
僕は芋虫のように体をくねらせ、部屋中を転げ回った。そして意識が遠くなる──。
僕は激痛に悶絶したのまま、そこで目を閉じてしまった。




