9.古い友人 sideジン
ヴィクトルとの出会いは、無理やり入れられた全寮制の学園だった。
変わった男で「友情に身分は関係無い」と言ってよく付きまとわれた。
「まさかジンと会うと思わなかったな」
豪華な馬車に乗って案内されたのは、これまた豪華な別荘だった。
部屋に案内されてヴィクトルと向き合って座る。
懐かしそうに昔の話をしているが、ゆっくり昔話に花を咲かせるつもりはないし思い出したくもない。
「昔話をするだけなら帰るぞ」
「お前は相変わらずだな」
苦笑していたヴィクトルは、メイドが部屋から出て行くと真面目な顔で話し始めた。
「お前の義弟が亡くなったらしい」
「……」
「あまり驚かないんだな」
「元々、身体が弱かったからな…」
5歳下の弟は身体が弱く、いつもベッドの上で過ごしていた。
そうか、死んだのか。
あの家で俺の事を家族だと認めてくれていた唯一の存在。
「知らせてくれて感謝する」
席を立とうとすると呼び止められた。
「待てジン、話はこれからだ。お前の家は、お前の事を探してるぞ」
「……今さら帰るつもりは無い」
あんな家、誰が帰るか。
「お前の意思は関係無い。見つかれば連れ戻されるぞ」
「あんな家、滅べば良いのにな」
思わず出た言葉にヴィクトルは吹き出した。
「ところで、あの子はお前の嫁か?」
ヴィクトルの視線の先には庭で遊ぶミリアの姿があった。
「な、違っ…」
「お前は、分かりやすいな」
ヴィクトルは可笑しそうに笑っている。
「そんなんじゃない……あの子は、俺と一緒なんだよ…」
今、この場所に居る理由を話すとヴィクトルは納得したように頷いた。
「でも、それだけが理由じゃないのだろう?」
「……」
ヴィクトルの言いたい事は分かる。
あの屋敷から逃げ出したミリアを放って置けなかったのは、同情じゃない。
俺が側に居たかったからだ。
「お前達の部屋を用意させるから、ゆっくり休むと良いよ」
「いや、でも…」
「お前が良くても、あの子は疲れているのでは無いのか?」
たしかに、移動ばかりで疲れているのかもしれない。
ミリアは馬車の中でも寝ていたし…。
「すまない」
「何を遠慮している?ジンは俺の親友だろう!!もっと甘えてくれて良いんだぞ!!」
「……」
いつから親友になった…?
「今夜だけと言わずに、しばらく泊まっていくと良い。この別荘の警備は万全だ、お前の家族だろうと入る事は許されないよ」
ヴィクトルは誇らしげに笑っている。
確かにな…暫く甘えさせてもらうとするか……。
ーコンコンー
「失礼致します。お茶のお代わりをお持ち致しました」
「あぁ、ありがとう。すまないが二人に部屋を用意してくれないか」
「かしこまりました」
「結婚を反対されて逃避行中らしいから労ってあげてくれ」
「まぁ…」
メイドは頬を染めて部屋から出て行った。
「お前、面白がっているだろう?」
ヴィクトルは、にっこり微笑んでいる。
昔と変わってないな、この男は。