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8. 謎の親子とジン

ジンに買って貰ったマントは体温に合わせて温度調節をしてくれる優れもので夏は涼しくて冬は温かい。

とんでもないお値段だったと思うけど……実は嬉しかった。


ピンク色…可愛い。


ピンク色の服は着た事が無くて…マントでも嬉しい。

姿見の前で何度も見てしまう。


「可愛い…」


「うん、すげー可愛い」


え…?

振り返るとジンが立っていた。


「ね、寝てると思ってた…」


早朝だから、てっきり寝ていると思っていたのに…。


「料理人の朝は早いんだよ」


ジンは笑いながら私の頭を撫でる。


「お嬢は可愛いから何でも似合うな」


「あ、ありがとう……」


ジンが言う『可愛い』は、小さな子供を見て言う『可愛い』と同じ事なのは分かっているけど胸がキュンとしてしまう。


「お嬢は、行きたい場所はあるか?」


「行きたい場所?」


「次は何処に行こうか?」


うーん。

いきなり言われても困るな。

行きたい場所……。


「あ、海に行きたい!!」


「海か、港町なら人も多いだろうし珍しい食材もありそうだな…よし、行こう!!」


何やらジンの料理人魂に火を付けてしまったらしい。


ここから海って近いのかな?

私は、この辺りの地図が頭に入っていないから今、自分が何処に居るのかも分からない。


私って本当に一人じゃ何も出来ないんだな…。


お母さんが死んで一人で生きてきたつもりでいたけど周りの人に恵まれていただけなのね…きっと。


宿屋のみんなに親切にしてもらってお父様に見つけてもらって……。


今はジンが一緒に居てくれる。

ジンはどうして私と一緒に居てくれるんだろう?

私が世間知らずで頼り無いからかな?


いつまで一緒に居てくれるんだろう……。



「お嬢、準備できたら出るぞ」


「はーい」


慌てて準備をしてジンと一緒に宿を出た。


「海は、ここから近いの?」


「そうだな…昼過ぎには着くと思う」


昼過ぎか……。

それまでジンと密着しているのは嬉しいような恥ずかしいような…。


馬車に乗り込むとジンが私を自分の方へ引き寄せた。

恥ずかしくて俯くと……。


「眠いなら寝てても良いぞ」


「うん…ありがとう…」


恥ずかしいから寝た振りしてようかな…。

ぎゅっと目を閉じてジンにもたれかかると…ジンの温もりと馬車の振動で本当に眠くなってきた。


少しだけ眠らせてもらおうかな……。






「お嬢!!起きろ…お嬢!!」


ん…?

ジンの声が聞こえる。

目を開けるとジンの顔が目の前にあった。


カッコイイ…。


ぼんやり眺めていると…ジンは私の手を引いて立ち上がった。


「降りるぞ」


馬車から降りると…磯の香りがした。

海の近くに来たんだ……。


ードンッー


「きゃあ」


いきなり背中を押されてバランスを崩した私をジンが受け止めてくれた。


「お嬢、大丈夫か?」


「う、うん…大丈夫…」


さっきの衝撃は何だったんだろう?

振り返ると、女の子が尻餅をついていた。

この子がぶつかってきたのかしら?

声をかけようとしたら綺麗な女性が駆け寄ってきた。


「クレア!!余所見しながら走ってはいけませんっていつも言っているでしょう!!」


「お母様…ごめんなさい…」


「謝るのはお母様にでは無くてお姉さんにでしょう?」


お母さんの手を借りて立ち上がったクレアちゃんは私の方を向いて頭を下げた。


「お姉さん、ごめんなさい」


「大丈夫だよ」


私が笑顔で答えるとクレアちゃんも笑顔になった。

可愛い!!


「本当に申し訳ありませんでした」


お母さんも私に深々と頭を下げ謝罪をしてくれた。


「どうしたんだい?」


「あ、旦那様…クレアが、こちらのお嬢さんにぶつかってしまって…」


「それは、申し訳ない事をしたね、お嬢さんお怪我はありませんか?」


「大丈夫です!!」


ひゃークレアちゃんのお父さん、カッコイイ!!

クレアちゃんのお父さんは私の後ろにいるジンに目を向けると……。


「ジン?ジンだろう?久しぶりだな!!」


え?


ジンは怪訝な顔をしているけど、すぐに誰か気付いた様で……。


「ヴィクトルか?」


「お前が学園を辞めて以来だな…」



「旦那様、こんな所で立ち話も何ですし…私達の別荘へご招待されては如何です?」


「あぁ、それもそうだな…ジンの耳に入れておきたい話もあるんだ…」



「お嬢、すまないが少し付き合ってもらって良いか?」


ジンが小声で私に確認をしてきたので小さく頷いた。


「うん、大丈夫」


「ありがとう」


ジンに頭を撫でられてキュンとしてしまった。


「この先に馬車を停めているんだ」


クレアちゃん親子の後ろを少し離れてジンと歩く。


「ジン…あのね、私の事は『お嬢』じゃなくてミリアって呼んで欲しいの…」


たぶん…クレアちゃん達は貴族だと思う。

私とジンの関係も私が家出してきた事も知られたくない。


「あぁ、そうだな…お嬢は何も心配しなくて良いよ」


「今、お嬢って言った!!」


「気を付けないと癖で出ちまうな…」


ジンは小さな声で呪文の様に私の名前を呟いている。


「私の名前は?」


「ミリア」


「!!」


ジンに名前で呼ばれるのは思っていたより破壊力がある。


「なっ!!おじょ…ミリアが呼べって言ったんだぞ…」


「そ、そうだけど…恥ずかしくなっちゃって…」


両手で頬を押さえるとジンはプイッと横を向いてしまった。

怒っちゃったかな?



「君達、仲が良いね」


いつの間にか馬車の前に来ていた様で…。


「さぁ中へどうぞ」


この立派な馬車は間違いなく貴族。

それもかなり上流の……ジンとヴィクトル様の関係が気になる。


ジンは…何者なんだろう?

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