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5.近づく距離

ソファで寝てたはずなのにベッドで目が覚めた…ソファに目を向けるとジンが眠っている。


ジンは背が高いから足がはみ出してる。

ベッドを使って良かったのに……。


ふふふ、眉間に皺がよってる。

思わず撫でると急に手を捕まれた。


「きゃあ」


「何してんだ?」


「お、起こしちゃったかな?ごめんね…」


恥ずかしい。


「二度寝してた…二度寝は最高だな」


ジンはあくびをしながら起きると私の頭を撫でた。


「おはよう、お嬢」


「おはよう」


「朝御飯にパンを買ってきたから」


ジンが指差す先を見るとテーブルにパンの袋があった。


「あとスープ」


手渡されたカップは温かくて湯気が出ている。

これは魔道具?


「このカップ…」


「持ち運びもできるし、あっても困らないだろう?」


「でも…高いよね?」


保冷と保温ができるカップなんて庶民には贅沢品だよ。


「俺は溜め込んでるから実は金持ちなんだぜ。細かい事は気にすんな」


ジンが笑いながら私の頭を撫でた。


「ほら朝食にするぞ」


「うん、ありがとう」


スープを一口飲むとじんわりと温かさが身体中に広がる。


「温かいスープなんて久しぶり…美味しい」


「え…?」


ジンが驚いた顔をして私の方を見る。


「私は食事のマナーが悪いから何度もやり直しをさせられるの…スープを口にする時は冷えてしまっているのよ」


スープだけでは無くて他の料理も私が口にする時には、ほとんど冷えている。

それでも豪華な食事には変わらないから有り難く頂いている。


「これからはマナーなんて気にせず美味しい物を、いっぱい食べような」


ジンが私にパンを何個も差し出してくる。


「そんなにいっぱい食べれないよ」


「残りは昼御飯にするか…」


朝御飯を食べ終わるとジンは部屋を出て行ったのでその間に着替えを済ませた。


「お嬢、準備できたなら出るぞ」


「?」


「俺とお嬢が居ないのは、すぐに分かるから早めに行動しないと…」


「ジンは、本当に私と一緒に来るの?」


「昨夜も言ったろ?それとも俺が居たら嫌なのか?」


「嫌じゃないよ…」


嫌じゃない…ジンと一緒に居れるのは嬉しい。

でも私と一緒に居たらジンが不幸になるかもしれない…。


「俺は、お嬢と一緒に居たい」


ジン…。




「私が居ない事に気付くのは…たぶん、昼過ぎだと思う…」


私の朝食は冷めた頃に部屋の前に運ばれて来る。

そして昼過ぎまで自習。

メイド長が昼食を持ってくるまで私が居ない事に気付く者は居ない。


「それは好都合だな」


ジンに連れられて来たのは乗り合い馬車の停留所。


「今の内に出来るだけ移動しておこう」


乗り合い馬車に乗るのは初めて。

思ったより揺れるのね……。

振動で身体が跳ねそうになる。


「お嬢…」


ジンが私を自分の方へ引き寄せて支えてくれた。


「ありがとう」


「お嬢は軽いから大変だな」


ジンとの距離が近くて恥ずかしい。

お屋敷に居た時は私が近づくとジンは、いつもさりげなく離れて居たのに…。


「お嬢、顔が赤いけど大丈夫か?」


「え?だ、大丈夫だよ…」


ジンは私の頬に触れるとバッグからゴソゴソと上着を取り出し私の頭に被せた。


「昼間は日射しが強いからな…後で帽子を買うから今は、それで我慢してくれ」


「ありがとう…」


顔が赤いのは日射しのせいじゃないんだけどね…。

こっそりジンを見つめると私の視線に気付いたジンが頭を撫でる。


「大丈夫、お嬢は何も心配するな」






長距離の移動をする人達は居ないみたいで、いつの間にか馬車は私達だけになっていた。


「どこまで行くの?」


「何も決めてないけど出来るだけ屋敷から離れて賑わってる街まで行こうと思ってる」


「賑わってる方が良いの?」


「その方が紛れ込めるからな…」


そうか…。人が沢山居ればそれだけ見つかりにくいのか。何も考えてなかった…。

近くの町で住み込みの仕事を探そうと思ってたから、ジンが居なかったら私はすぐに見つかって連れ戻されて居たかもしれない。


「この辺が良さそうだな…お嬢、降りるぞ」


ジンに手を引かれて馬車から降りると、近くに商店街があるのか沢山の人が行き交っている。


「宿より先に昼御飯にするか…」


ジンは辺りを見渡すと私の手をぎゅっと握りしめた。


「お嬢、これから外を歩く時は俺の手を離すなよ」


「うん」


素直に頷いたけど私は元々、下町で暮らしていたから危ない場所とかそれなりに分かるつもりなんだけどな…。


ジンは結構、過保護なのかもしれない。

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