3.家出の理由
叫びたくても口を塞がれているので叫べない。
どうしよう怖いよ…お母さん助けて…。
ポロポロ零れ落ちる涙に気付いたのか相手の力が少し緩んだ。
それでも私に振りほどけるだけの力は無い。
私、どうなっちゃうのかな…。
このまま売り飛ばされてしまうのかな…。
大人しくあの家に居れば良かったの?
酷いことをされそうになったら舌を噛んで死のうと決めている。
怖くない、お母さんにまた逢えるから。
「お嬢、俺だ!!」
「!?」
この声はジン?
「大声出すなよ?」
頷くとジンは手を離して私を自分の方へ向かせた。
「ジン…何してるの?」
「お嬢が出て行くのが見えたから付いてきた。まさか、あんな所に抜け穴があるとは……俺は今まで門番に金を握らせて飲みに行っていたのに…」
「ジン…飲みに行ってたの?」
絶対、綺麗なお姉さんが居るお店だ!!
ジンは大人だから、そういうお店に行っててもおかしくはないのだけど…面白くない。
無言で歩き出すとジンが追い掛けてきた。
「お嬢!!」
「早く屋敷へ帰って…。私の事と隠しドアは秘密にしてもらえると嬉しい……」
ジンが何処で何をしていようと私には関係ない…。
それよりも早く屋敷から離れたい。
こんな所で騒いでいたら誰かに見つかってしまうかもしれない。
足早に立ち去るとジンが追い掛けてきた。
「何処に行くんだよ?」
行く当ては無い。
「お嬢が家出するなら俺も付いていく」
「え?」
思わず振り返るとジンは私の手を取ってスタスタと歩き出した。
「ちょっとジン、何を言ってるの?」
「とりあえず宿を探すか」
ジンは私の話を聞かずに、どんどん歩いて行く。
「さすがにこの時間だとまともな宿は空いてねぇな…」
「……」
私に付いて来るって…ジンは本気なのかな?
隙を見て連れ戻す気?
何件目かの宿でやっと空きがあった。
「まさか、一部屋しか空いてないとは…」
ジンはソファに腰を下ろすと自分の横をポンポンと叩いた。
いつもなら嬉しくて喜んで隣に座るけど…今は複雑な気持ち。
バッグを握り締めたまま隣に座るとジンは私の方を向いた。
「どうして家出したんだ?」
「……」
前世を思い出したからなんて言えない。
どうしよう。
「言いたくないなら言わなくても良いよ」
ジンは私の頭を優しく撫でると「酒を飲んでくるから先に寝てな」と部屋を出て行ってしまった。




