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第66話 連合の指揮官

 許昌は反董卓連合の集結地点の一つだったが、それは各地で挙兵した諸侯の兵数が多過ぎたことが理由の一つであった。

 一か所に全軍が集結すると補給の問題……物資輸送はともかく、それを各軍への分配や兵を寝泊まりさせる陣地の広さとその資材など諸々の面で非効率となるからだ。

 そのため諸侯が直卒する主軍が虎牢関後略の拠点である許昌に集結し、輜重隊や予備の兵は後方の諸都市に控えたり洛陽への荷留めをしながら主軍の進出に合わせて随時移動することとなっていた。

 そんな許昌の近くまで来た一刀たちだったが、許昌を囲むように建てられた陣地の数を見て驚いた。

「10個以上も陣がある……俺たち、護衛を切り詰めてほとんどが輸送隊だけどさあ……こんな数の軍隊に食わせられる量の飯なんて持ってこれてたか?」

「陣だけ立派で数が少なければ充分な量だろうがそうもゆくまい。例え全軍の一食、弓の一斉射に満たぬ程度の量だったとしても無駄にはならんし、物資の引き渡しの式典とやらで結束を示すのだろう? 諸侯は皆反董卓で団結している、と」

「それなあ……そのために俺の制服を持ってきてる訳だけど。久し振りに見ると本当に光って見えるんだよな」

 現代技術で染色された制服はその生地の光沢も相まって、この時代の衣服を見慣れた一刀にも特別な逸品だと実感させた。

「タグに難燃性とか制電って書いてるから何気に高性能なんだよな。今まで気にしたことも無かった」

「あの服では馬の毛が着きそうだが車の用意が無い。騎乗する前にじゃれつかれないよう気を付けろ」

 しばらく許昌の方を眺めていると先触れに派遣した兵が帰って来たが送り出した時よりも一人多かった。

「一刀の兵だ。自分で報告を聴け。区星は訓練に行ってくる」

 帰陣した兵の報告を聴き、休憩を与えると一刀は兵に付いて来た女性に向き直った。

「久し振り……って程でもないか、風。元気だった?」

「忙しくて夜しか眠れなかったのです。お兄さんの方は旗まで用意して随分出世したようなのです」

「責任が増えたけど任せてもらえたっていうのは励みになるよな。それで風が来たって事は、曹操から内々で何か伝言が?」

「そうなのです。華琳様からお兄さんたちの軍が立派に見えるよう頼まれているのです」

「立派にって言ったって服装とかはボロボロって訳じゃ無いけど、そんなすぐに服とか装備とかの用意なんてできないだろ」

「そこを工夫するのが風の仕事なのですよ、お兄さん。物資の目録は使者の方から見せてもらっていますので早速取り掛かりましょう」

 風は物資の保管所に着くと中身を確認し満足そうに頷いた。

「物資の横流しもなく管理も行き届いているのです。それでは武具を取り出して背の高い兵から身につけさせましょう。許昌の蔵に納めるまで中身をあらためる訳ではないので、武具の入っていた箱は空でも問題ありません」

「マジか……たしかに武装した兵は見栄えが良いけど、そんなのあり?」

「中身は風が今確認したから良いのです。ただ、箱の中ではなく兵が身に着けて運んでいるだけですから。行進は騎兵を先頭に背の高い順で、騎兵には弓と槍を持ってもらいましょう。それから――」

「待て待て、そんなに護衛の兵は居ないって。ほとんどが牛とか馬車を扱う輜重隊だ。どこからそんな人数を連れて来るんだよ。牛とか牽く人数が足りなくなるぞ」

「ふふふ、それなら溢れた分は連れて行かなければよいのですよ」

「え? それって……輜重隊を人と動物に分けて、余分な牛とかはここに置いて人間は普通の歩兵に見せかけるってことか? 

 風の言葉から考えたことを一刀が口にすると、風は首を傾げながら答えた。

「それだけでは無いのですよ。連れて行く分の牛には空の荷箱を余計に運ばせるのです。そうすれば諸侯の兵には荊州から力持ちの牛が派遣されたように見えて士気が高まりますし、そんな部隊の兵は精鋭だろうと考えます。そして残した牛馬たちと人員にはこの周囲のむらから買った食糧を後日許昌に入れてもらいます。そうすると荊州は中原を出来る限り支援していると演出できます」

「……すごいな。そんなに考えてたのか。でもそんなに諸侯の兵に期待させたら俺たち、そのまま洛陽まで攻めることにならない? 物資の輸送はともかく、戦闘ってなると……」

「そこは華琳様が軍議を上手く誘導しているところです。発言力のある袁家と懇意で、大将軍を確保したのは華琳様ですから」

「曹操なら……まあ安心だな。すくなくとも弾避けとかで使い潰されたりはしないだろ」

「その役回りは孫家が受け持ったのです。義勇軍として袁術軍の旗下に組み込まれましたよ」




 翌日、輜重隊を指定された位置で止めた一刀は諸侯の兵の注目を集めながら許昌へ馬を進めた。

(何かこう……霊帝に謁見した時とは違った緊張感があるよな、こういうの。舞台役者とかスポーツ選手って毎回こんな注目されて緊張しないのか?)

 一刀の緊張を余所に董衣は怯えるでもなく脚を動かしていた。

(注目って言うなら競馬の騎手とか馬もそうだよな。目が血走った博徒の罵声を浴びるんだから……それに比べれば随分とマシ、だよな)

 天気は良く晴れており、日差しが制服を照らすと馬上の一刀を見ていた諸侯の兵は眩しそうに目を細めた。

 許昌の門前では大きな日傘の下で曹操や馬超に何進、面識のある袁紹と袁術の二人が居り、他の地域に居る諸侯の名代が並んでいた。

 それらの人々の下まで着くと下馬した一刀は台本通りに到着と物資引き渡しの挨拶をした。

(セリフを忘れたら袖に挟んだカンペを見ることができる安心感。ありがたいよホント。次は鏑矢を思い切り輜重隊の方へ飛ばす……)

 一刀が董衣の旅装に積んでいた弓と鏑矢を取り出して番えると、自分が来た方向へ向けて思い切り引いて放った。

 放たれた矢はピーッ、と澄んだ音を鳴らしながら風に乗り一刀と輜重隊の中間まで飛ぶと、その音を合図に輜重隊は前進を始めた。

 輜重隊の先頭を行く李梅が地面に刺さった鏑矢の辺りまで近付くと、前進する馬上から斧槍の先端で掬い上げて回収した。何気なく行われた動作であったが、その練度の高さを諸侯の軍に印象付けることとなった。

 輜重隊の騎兵はともかく、歩兵は運んでいた武装を身に着けただけのほぼ農兵だったが武装の手入れが良く為されていたため精鋭に見えなくもない。

 彼らは許昌の門前で一刀と合流すると停止した。

「荊州よりの支援、大儀である」

 何進から一言贈られた後、許昌入城を許可された一刀たちは城門をくぐった。




 物資を許昌の倉に移す作業中、曹操の使いから明日の軍議に参加するよう伝えられた。

 使いによると進軍や作戦を考えるための軍議ではなく、誰が指揮を執るかを決めるための軍議とのことだった。

「誰が指揮を執るかの軍議か……史実だと袁紹が盟主になってグダグダ進軍するんだよな」

 現在、連合の盟主は大将軍である何進だったが実際に大軍を指揮した経験は無く、諸侯の派閥も一枚岩ではなかったことが明日の軍議に影響していた。

 以前は濁流派と清流派で区別されたような十常侍と何進の権力争いで形成された何進閥も、董卓が行った清流派への昇格人事で亀裂が入り分裂の兆しがあった。そのため何進としても軍の指揮を任せ功を譲ることで諸侯を懐柔しようというのだ。

 元来権力欲の強い何進だったがこの戦に勝たなくてはもう後が無い。故に不得手な軍の指揮を任せて勝率を高めつつも恩を売ろうと考えたのだろう。

 その決断を聴いて曹操は何進を再評価した。軍議で決められた総指揮官であれば様々な思惑を持って参加している諸侯も従うであろうし、軍権を自ら手放すという手段も中々承服できるものではない。何進が言い出さなければ曹操が進言して無理にでも飲ませるつもりだったのだ。

 夜が明け、時間になると一刀は李梅と共に軍議に参加した。

 一刀たちに指定された席は下座だったが隣には劉備が居り、単純に参陣した順に並べられているようだった。

 また、席についた諸侯の後ろには軍師か護衛のような人が控えていた。

「これより軍議を始める。余が全軍を統括するが皆の協力により斯様な大軍となった。そのため実際に前線で指揮を執る者を決めておく必要がある。先ずはそれを決めようぞ」

 何進が軍議の開始を宣言すると諸侯はわずかにざわめいた。その中で初めに発言したのは袁紹だった。

「私が思いますに華琳さんがよろしいと思いますわ。曹孟徳と言えば何進様を洛陽から助け出した英雄と名高く、皇甫嵩さんと協同して10万の黄巾軍相手に勝った実績もありますもの」

 壮年の諸侯たちの視線をものともせぬ堂々とした物言いは説得力があり、一種のカリスマ性を感じさせた。

(史実で袁紹が高く評価されたっていうのも納得だ……見た目や声の大きさが優れてたって評価だったけど、袁紹の言葉はまるで当たり前の事を言ってるみたいにスッと入ってくる)

 袁紹からの推薦を受けた曹操だったが慌てた様子も見せずに拒否した。

「運が良かっただけよ。それに、私よりももっと相応しい人が居るのではなくて? 実績で言えば公孫賛殿や麗羽、貴女も匈奴に対して戦果を挙げているわ。騎兵が主体の董卓軍にはその経験が活かせるはずよ」

「あら、華琳さんったら謙遜して。では白蓮さんは?」

「え、私? ……野戦ならともかく攻城戦の経験はほとんど無いから虎牢関は抜けないな。もっと適任の人が居るだろ」

「白蓮さんまで……でしたら臧洪ぞうこうさんはどうですか? 挙兵の誓いの言葉はとても立派でしたわ」

 臧洪と呼ばれた男性は何進のすぐ近くの席に座っており、彼もまた辞退した。

「あれは天下万民の志を言葉にしたまでのことです。そして私には軍を率いた経験もありません。しかし一兵卒として骨の一片、血の一滴になれど戦う所存。どうぞ、存分にお使い下さい」

 その後も袁紹はめぼしい人物に声を掛けては断られるという事を繰り返した。

(この場の誰に対しても物怖じせず会議のペースを握っている時点で袁紹が順当に総指揮を執ることになるんだろうな)

 それでも最後に袁紹は身内を推すのは憚られますが、と前置きしてから袁術に尋ねた。

「美羽さんはどうかしら? 十常侍粛清の折の活躍ぶりは中々のものでしたけれど」

「妾も辞退させてもらおうかのう。妾ではここに集った諸兄に号令するにはいささか若輩に過ぎるのじゃ。かしこくも天子様より受けた大恩に報いるため真っ先に先頭に立って戦うのが袁家の道理じゃし、やはり妾のような若輩者が号令するのは諸兄らに対し礼を失するのじゃ。やはり今からでも妾たち袁家の軍だけで洛陽へ行くべきではないかのう」

 袁家の二人は十常侍を排した功績や、大兵力を擁する袁家が抜け駆けをほのめかす発言で連合へ楔を打った。

 打合せていた訳ではなかったが、こうした発言の積み重ねが集団内での立場を固めることを二人は知っていた。

「美羽さん……確かにその通りですわ。何進様、総指揮を執る方がどなたであれ私たちを先行させて下さいませ。露払いは私たちにお任せを。では真直さん、進発の準備をお願いしますわ」

 袁紹が後ろに立っていた文官の女性に指示を出しながら立ち上がった。

 あまりにも急な展開に諸侯が驚く中、何進が袁紹を止めた。

「いや、それには及ばない。前線の指揮は其方に任せよう。あの虎牢関を露払い程度に陥落させようという気概、まさに天下無双の士である。袁家の忠義を果たすのはもちろんだが、我らとて天子より恩を受けているのだ。我らの忠義も忘れないでもらいたい」

 何進が袁紹を引き留めると諸侯もそれに続いた。

「我らにも忠義を果たさせて下さい! 御下知を、袁本初様!」

 口々に指揮権を渡すと叫ぶ諸侯の声に立ち止まった袁紹は、一同を見回して一息ついて言った。

「分かりました! この袁本初、若輩ではありますが皆様の軍を必ずや洛陽へ導きますわ。そして、共に漢の政治の正道を取り戻しましょう!」

 袁紹の宣言に感極まった諸侯の中には泣き出す者まで現れた。

 そうした熱狂の冷めぬ内に袁紹は言葉を続ける。

「難攻不落の虎牢関は私の軍が主攻を努めます。そして虎牢関の出城である汜水関の主攻は美羽さんにお願いします。まずは汜水関を陥落せしめ、しかる後に虎牢関へ取り掛かります。先行する美羽さんには並行して補給係をお任せしますので物資の集積地の選定と早期の汜水関攻略をして下さい」

「任されたのじゃ。七乃、地図と人足の用意をさせておくのじゃ」

「美羽さんの汜水関攻略軍には華琳さん、臧洪さんを付けます。それと同じく荊州から来た孫堅さんと北郷さんの軍も指揮してください。予備として白蓮さんと――」

 袁紹は自身を虎牢関攻略の本隊に、袁術には先手として汜水関攻略の本隊にして連合の軍を分配した。それは袁術に先駆けの功績を譲りつつも、最終的には虎牢関攻略の袁紹閥の人間がやや戦功を挙げられるような配置だった。

(先行する袁術が補給係を兼務……って言っても三國志だと孫堅に前線を任せっきりで補給も与えなかったんだよな。俺たちの隊も補給の実働隊に配置されたから、俺からちゃんと孫堅軍に補給をすれば戦況は変わる、のか?)

 一部分とは言え歴史を変えるかもしれない立場に立った事で心臓の鼓動が早くなる一刀だった。

身内の不幸のあれこれも終わって一段落ついたので投稿を再開します

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