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第64話 夢を結んで

「そうですか……また戦が起きるかもしれないのですね。何時になったら終わるのでしょうね」

 長沙を出る前に孫権から反董卓連合が興されるかもしれないと聴かされ、一刀たちは急いで零陵に戻り細梔に報告した。

「徐州と青州の黄巾軍が残っているので今すぐに、という訳ではないとのことですが……もしそうなれば、零陵軍の本隊と劉度様はまたしばらく帰ってこれなくなるかもしれないそうです」

「後方支援に慣れた軍を遊ばせる理由などありませんからね……零陵は主軍を欠いているのでこれ以上の増派を要求されはしないと思いますが、それでも糧食の用意などはしておきましょう」

 孫権からは戦があるとすれば来年ではないか、との見立てであり、それに向けて米の備蓄と肉の買い取り契約や日持ちのする農作物の増産指示が農村に出された。

「徴兵の予定は無いってだけですごい安心されてたな。種芋とかの代金を政庁で負担するってのも大きいんだろうけど」

「戦が無ければ救荒策にもなる。中原は銭で税を納めるのが基本だが貨幣の改鋳騒ぎでそれも困難だ。物納で税を納められるのなら助かるだろう……冷夏にならなければ、だが」

「銭で、か……じゃあ作物を収穫してからそれを売って銭にするってことか。足元見られて買い叩かれそうだな」

「そういった事の積み重ねが叛乱の種になる。商人も馬鹿ではないから生かさず殺さず、恨みを買い過ぎない程度に値上げしているだろう」

 一刀たちが農村へ布告を説明しに行くと、最初は徴税の引き締めかと殺気立っていた農民たちも笑顔になった。さらに3つ目の村に行く頃にはその布告の内容が既に伝わっており、村落同士の繋がりの深さを実感した。

 零陵でちょっとした雑務や伝令などをこなしながら時は過ぎ、一刀がこの世界で目覚めてからそろそろ1年が経とうとしていた。

「もうすぐ1年か……反董卓連合が黄巾の乱から間を置かずすぐに起こりそうってのも……」

 大まかな歴史の流れを知っているだけに、戦の間隔や出来事などから自分の知識が今後どれ程役に立つのかと一刀は不安と恐怖を覚えた。

「大きな逸脱は無いって言ってもここだって何が起きるか分からないんだし……よし」

 深呼吸をしてから立ち上がると、一刀は李梅を呼んで街へ出た。

「えっと、俺さ……そろそろここに来て1年になるだろ」

「最初は趙忠の間者かと疑われていたな」

「そうだったっけ。まあ俺は間者なんて柄じゃないけどさ」

「間者らしい間者など役に立たん。むしろ一刀のようにすぐ人の懐に入りこむような者の方が向いているだろう」

「それって外交の使者なんじゃ……って、情報収集ならそんなもんか。まあそれはおいといて。俺さ、帰る手段を探すってのは変わらないけど……それでも、この世界で頑張って生きるよ。だからさ、これからはもっと色んな仕事を……それこそ戦場で兵士でも伝令でもなんでもやるよ」

「戦場に出る事ばかりが生きる覚悟とは……いや、徴兵される民と公平であろうとしているのか。その意志は尊重するが使いどころは軍権を持つ者が決めるぞ。だが、何故今更そのようなことを?」

「うん。なんて言うか、1年経つしこれからもっと頑張っていくよって所信表明って言うか……だから、さ」

 一刀は李梅の手を握った。

「色々積極的にやってこうと思ったんだ」

「う、うむ……そうか。それは、良かった……」

 手を繋いだものの両者には照れがあった。

 そんな二人だったが互いに触れることに緊張しなくなり、照れも気負いも無くなるとそれから間もなく、夢を結んだ。




「俺の旗、か……普通は自分の姓を描くんだろ? じゃあ北郷でいいんじゃないか?」

「2字では収まりが悪い。それに北郷では農民反乱の旗とも見られる恐れがある」

「あー……北部の村の連合みたいな」

 一刀も伝令や軍使として各地に赴く機会があるだろうとのことで旗を作ることになり、その草案を昼休みに中庭で李梅と確認していた。

「いくつか候補がある。ここから選ぶなり参考にして自分でかんがえても良い」

 そう言って李梅が差し出した紙には動物や象形文字を抽象化したような模様が描かれていた。

「何かSを左右反転させたみたいな模様の下に波線?……こっちのは象の左右に剣……あ、この丸に十文字」

「む? ……十文字は滲んでいるだけだ。書き損じの裏紙に描いて貰ったものだからな。気に入ったのか?」

「ちょっと……どころじゃない縁を感じるなーって。この模様で頼める? 十文字は円に触れないようにして」

「うむ。これで作っておこう」

「一刀君はクレストゥスだったのかい?」

 ルキウスも昼の休憩に、と中庭に来たのだろう。広げられたままの紋章が描かれた紙を見て尋ねて来た。

「クレストゥス……クリストゥス……ああ、キリスト教徒ではないです。ウチの家の紋章で、十字を切るおまじないが元になったとかなんとか……」

「十字を切ると言えば中原の人は蒸餅を食べる前にそうする。交差は交わるの字に通じ、末永くという意味になるそうだ。丸も天を意味すると言うし、目出度いものが組み合わさった物ではないか?」

 李梅からも考察のような補足があった。

「磔にする十字架の紋章ではないのだね。一神教は広範な属州と異民族を抱えるローマの統治にそぐわないと思うんだけど、信者が増えていてね……ユダヤ人とも緊張が高まっていたようだし、つい思い出してしまったよ」

「宗教問題は荒れますからね……」

「おっと。それはそれとして、一刀君も正式に従軍するんだって? この前見せて貰ったカブラ矢と似てるけどこれをあげよう」

「従軍と言っても伝令とか輸送隊の監督ですけどね……これは笛? ホイッスルですか?」

 ルキウスが差し出した木製の円筒を受け取りながら一刀は尋ねた。

「ホイッスル……ゲルマニアのようなブリタンニアのような言葉だね。船を漕ぐ時にずれないように拍子をとったり、百人長が前列と控えの兵を交代する時に吹くよ。後は弓の斉射や総突撃にも使うね」

「百人長が使うって、そんな権威のあるものを頂いていいんですか?」

「一隊を率いるということは君たちはそういう立場なのだし、気が引けるというなら兵を率いる責任を負っているという自戒のためと思うと良い。便利に使って無事に生きて帰ってくれると嬉しい。それと、どうやら相手はこの国の首相なんだって? 簒奪者とはいえ一応ローマと国交を結んだ政府と戦う側に軍の装備は渡せないからね。これはあくまで楽器だよ。楽器」

「すごい詭弁ですね……ありがとうございます。ルキウスさん」

 ルキウスの立場では内乱に手を貸したととられかねない行動は控えなければならない。それでも命令伝達手段として使われる物を贈るのは個人としての友誼を優先してくれたのだろう。

「ところで丸に十文字は分かったけれど、その十文字は滲みなんだよね? 本当はどんな紋章だったんだい?」

「それもそうですね。丸一つだけってことは無いでしょうけど……どうなの?」

 一刀が李梅に尋ねた。

「うむ。丸の下に盆だ。これを描いてくれた干宝……絲花シーファが言うには、丸と盆は太陽と三日月。次いでに上に炎を据えて五行の火気を取り込みたかったそうだ。漢は火徳だから上に置いて尊重する姿勢を見せ、火気は南を指すから二重の意味があるとか」

「そこまで大それた意味を持たされると……何て言うか、困るな。ってか、絲花にそんな才能があったんだ」

「昔話や怪談を聴いて覚えたからだと言っていた。これも北方の遊牧民の伝説を元に考えたそうだ」

「干宝ちゃんはそういうのにとても詳しいよ。ローマやペルシアの意匠も知っているようだったからね。お父さんが余程の収集家だったらしいよ」

「シルクロード……絹の交易路で芸術品も交換されたそうですし、知っててもおかしくは無さそうですね」

 絲花の意外な程の知識と才能に、三國志の時代に関わらず干宝という名前の人物に心当たりの無い一刀だった。




 春の半ば、一刀の旗が出来上がる頃中原から荊州に檄文が届いた。

 大将軍である何進の名で各地の諸侯に宛てられたものだったが、曹操軍の使者が届けに来た事から誰が発したものかは明らかだった。

「この檄文は概ね州牧以上、高位の官職者に宛てられています。零陵の劉度様も漢室の方だとして、どうしてこちらに送られて来たのでしょう? 皆さんの考えをお聴かせ下さい」

 政務の間で細梔が尋ねた。

「劉度様にも送られていて、その代官の呂強様にもお知らせするのが筋だと曹操様が考えたのではありませんか?」

 呼び出されていた郭石の答えに一刀も頷いて同意した。

「私もそう思います。そういう所をキチンとしている人だって印象がありますので」

「実際に人となりを知っている方から見てもそう思われますか。代官程度にまで……」

 一刀の後押しもあったが、それでも細梔は腑に落ちない様子だった。

「細梔様は今年は中央ではなく、その反董卓軍に税を納めることを求められているのではないか、とお考えなのではありませんか?」

「その通りです、桜桃。いくら相国の董卓が悪臣だと言われても、滞りなく朝廷へ税を納めるのは漢の臣として守らねばならぬ一線です」

「税は納めねば……しかし洛陽への道は反董卓軍が占拠している、と。なかなか難儀ですね」

 会議に参加している他の面々も沈黙してしまった。

「それなら長沙の霊帝様に納めたら良いんじゃないですか?」

 止まってしまった場の空気を変えようと一刀が最初に考えたことを提案するが、周囲の渋い表情は変わらなかった。

「一刀様、そうしてしまうと我々も現在の朝廷を認めないという意志を示すことになります。それに、霊帝様をこの反董卓軍の頭目にする動きを助長してしまうでしょう。もしもこの檄文よりも先に朝廷から江南の郡太守はそうするように、という指示があったのならその限りでは無いのですが……相国の改革が優先で、荊・益・交の3州を治める国名すら南蛮国か宋国かで揉めて……」

 細梔は何かに気付いたようだ。

「その軍権を利用しようとするのは反董卓軍だけではなく、相国も同様でしょう。となれば、死に物狂いで朝廷からの使者がこちらに来て軍を興すよう求めるはずです。その際に税についての指示もあることでしょう。延長するにせよ何処にどう納めるにせよ準備はすすめておきましょう」

 取り敢えず税については洛陽まで行くことを念頭に輸送の手配をしておくことになった。

「ところで細梔様、霊帝様に朝廷からの使者と反董卓軍からの使者が来たとしてどちらに味方をするのでしょうか?」

「正当性が高いのは反董卓軍でしょうか。悪臣を取り除くという大義名分と大将軍の名が入っていることが大きいです。ですが相国の失政も塩の騰貴を招いたことと貨幣の価値を不安定にしたことですが、これは改革の初期段階ですので結果と見るには性急に過ぎます」

「成る程……政策を始めたばかりでいきなり駄目出しされた訳ですものね」

「ですが曹操様がそこまで性急に事を進めるということは、それだけここ以外の地方での塩の騰貴が深刻なのかもしれません……一方、相国に味方する場合は皇室の結束を諸侯に示し、霊帝様の軍の功績で以て相国に反省を求めるという形で改革を牽制できると考えられます。まあ、相国を打ち倒しても洛陽から涼州までの荒涼とした土地、反董卓軍に参加した諸侯を打ち倒せば肥沃な中原の地……そう言った戦後の利権で物を見る佞臣がはべっていなければ良いのですが」

 霊帝が居る長沙の太守は孫堅であり、そうした心配は無いと思いながらも一刀はこうも思った。

(敵が強い方が面白れー! とか言って反董卓連合に喧嘩売りそうなんだよな、孫堅……)

 職場でコロナ発生、終わり際に自分が感染したことで書いてるどころではなく投稿期間が空いてしまいました。すみません


・夢を結んで

 同床異夢という直球であんまりな言葉があるのだからその逆は……そういうことです。

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