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第42話 戦に向かって

 洛陽出発の日。

 城壁外で交州軍、曹操軍と合流して隊列を整えていると、虎牢関方面から小規模な軍が向かってきている事に気付いた。

「李梅、あの軍見える? 洛陽から迎えの使者が出てないけど、正規軍じゃないのかな」

「う~む……装備の質がバラバラだ。歩き方も揃っていないし、どこかの義勇軍かもしれん。しかし、指揮している人物が良いのか、堂々とした足取りだ。旗の字は……劉」

「へ~……劉姓の義勇軍……って、劉備か!? 李梅、指揮官って3人組で、一人は長いヒゲが特徴的じゃないか?」

「ちょっと待て」

 李梅は花相の背の上に立ち上がり眼を凝らす。

「3人組の女だ。髭では無いが長い髪で偃月刀を持った女と、蛇の様にうねった刀身の矛を持った小柄な……区星と同じか少し小さいくらいの少女だ。中心に居るのは……なんだかフワフワした感じの女だ。ここからでは遠くて良く分からん」

「性別はともかく青龍偃月刀と蛇矛ってことは演義の劉備一行か……朱里達を呼んでおくべきかな。ありがとう李梅」

 一刀は整列の指揮の補助を抜け、士燮に劉の旗を掲げる義勇軍が来たことを報告した。

「洛陽守備兵に連絡しておこう。一刀は曹操殿にも伝えに行ってくれ」

 曹操にも義勇軍らしきものが来ていると伝えると、

「あの程度の規模で……また張角の首を持ってきた義勇軍かしら? 行進ぐらいは出来ているようだし、そこそこ戦えるかもしれないわね。立身出世を望むのであれば、実力次第で召し抱えるのも面白そうね」

「また華琳様の人材収集癖ですか……」

 一刀の後ろから夏侯惇の声がした。

 夏侯惇と季衣が曹軍の整列と兵糧の準備を終えたと報告に来たようだ。

「丁度良かったわ。春蘭、あの義勇軍とすれ違うとしたら、彼らはどうすると思う?」

「官軍の道を塞ぐ愚か者は居ないと思います。道を譲るでしょう」

「そうね。普通はそうなるわ。でも、道の横には畑が続いているわ。どうやって道を譲るかしら?」

「1列縦隊に編成して……ああ、その練度があるかということですね」

「ええ。もし彼らの練度が不足していたら、私達が本当の軍と言う物を見せてやりましょう。隊列に余裕を持たせておきなさい」

「はッ! 全隊に指示します」

「そういうことだから一刀、おじさまにもその旨を伝えておいて」

「分かった」

 夏侯惇が軍の指揮に戻るのを見送り、一刀も交州軍に戻ろうとした所を季衣に声を掛けられた。

「兄ちゃん。ボクね、馬に乗れるようになったんだ。許昌に着いたら一緒に走ろうって雛里に伝えて」

「伝えておくよ。そうだ、馬超……すごい馬術の上手な馬好きが言ってたんだけど、涼州からこの辺の馬は懐くと可愛いんだって。なんでも、座って休んでる主人の膝に頭を乗せて親愛の情を示すとか、鼻のニオイを嗅いでも怒らないとか」

「ちょっと一刀! そんな度し難い事を季衣に教えないで頂戴!」

「どしがた……確かに絵面えづらは悪いか。ということで季衣、懐いた馬は顔を寄せて来るからおでこを優しく撫でてやるといいぞ」

「わかったよ兄ちゃん。馬超さんはスゴイけどよくわからない人なんだね」

「おっと、早く戻らないと。またな、季衣」

 一刀が交州軍の中に戻ると、洛陽守備隊からの早馬が義勇軍の素性確認に走って行った。

 士燮に曹操の伝言を伝えると、既に朱里たちから指摘されており準備は整っていた。

 雛里に季衣が馬に乗れるようになった事を伝えるついでに、軍師二人に劉備軍に興味はあるのか尋ねた。

「噂には聞いたことがあります。幽州で私塾を開いていた盧植様の教え子だとか。盧植様は中央に招聘されて、今は軍を率いて黄巾党討伐に従事されているそうです」

(盧植と言えば賄賂を贈らなかったから、讒言で投獄された人だったか……)

「盧植様は実践的な学者のようで、各地で活躍しているそうですからその教え子の劉備殿も一角の人物だと思います」

「そうか……すれ違うだけでも、顔ぐらいは見えるかな」

 劉備軍の方から洛陽守備隊の早馬が戻ってくる。

 入れ違いに曹操が前進の号令を掛けると曹軍が歩き出した。交州軍はその後ろに追随するのでしばらく待つことになる。

「ご主人様の無事の御帰還を、我ら一同願っております」

 見送りに来ていた士燮邸の使用人たちが士燮の出発に合わせ、持ち寄った楽器を演奏した。

 見事な演奏に聞きほれていると曹軍の背が見えた。間隔を開けて士燮が前進の号令をかけ、交州軍も歩き出す。背中で聞く音楽が四拍子のためか、兵の歩調と重なり足取りを軽くさせた。

「当たり前だけど、銅鑼と太鼓と笛だけじゃないんだな。二胡っていうか馬頭琴? みたいなのもあったし」

「区星も演奏できるが桜桃には敵わん。しかし、それにも引けをとらん演奏だった」

「耳が良いからか……本当に皆、多才だな」

「今度、董衣の尻尾の毛を使って胡琴を作ってみるか? 白毛の方が音が柔らかいらしいが、違いが分からん」

「でも黒毛の方が摩擦が強いでしょう? だから少し違いが出るのよ」

 一刀の前に座る桜桃。夜間警備のために同乗して休んでいた。

「そんなものか……ん?」

「前の方で何かあったようです。夏侯惇様が2列縦隊の号令を掛けたようですね」

「だとすると俺達も隊列が変わるか。馬は1列になるように準備しとかないとな」

 前方の曹軍の隊列が変わったのを確認してから士燮も号令を掛けた。そのつもりで兵の前後の間隔を開けていたのでスムーズに歩兵2列、騎馬1列に隊列が変わった。

 曹軍が前進を再開したので追随すると、隊列を細くしようと蠢く義勇軍が見えて来た。更に進むと、劉の旗の下に3人の女性が居た。

 李梅の言っていたとおりの3人組で、曹操と何か揉めたのか関羽らしき髪の長い女性が睨むようにこちらの行軍を見ている。

「ん? どうした董衣?」

 董衣が劉備らしい女性に顔を向けていた。見れば他の馬も同様で、歩みこそ止めないが劉備に注意を向けているのが分かった。

(劉備に皇族の風格ってやつがあるのか? 天子様とそんなに似てる感じはしないし、優しそうな雰囲気は何となく伝わってくるけど……)

 何とは無しに愛馬と同じように劉備を見ていると目が合った。

 一刀が会釈すると劉備も小さく手を振って応える。

(フワっとした劉備と張飛、それをピリッと締める関羽か。張飛が血の気の多そうなタイプじゃないのが意外と言えば意外か)

 劉備の義勇軍とすれ違って隊列を戻した2つの軍は、再び歩を進めた。

 劉備軍について尋ねると李梅は、

「あの3人、いずれも強いぞ。指揮官が敵の前線に穴を開けて浸透していくやり方で戦っているのだろう。しかし、そんな戦い方は正規兵には通用しない。数のぶつけ合いを監督する者を味方にしなければ、いずれ消耗する」

 史実では後に仕えることになる朱里たちに尋ねると、

「人相が良いですね。将器や天運を持った相です。軍師となる人を味方に付ければ栄達の道を歩むでしょう」

「朱里と雛里は自分で仕えようとは思わないのか?」

「高潔そうではありますが、それだけなら曹操様や士燮様もそうです。言葉を交わしてみない事には分かりません」

「そういうものか……香風はどう思った?」

「李梅が言ってたのと同じ……軍としては脆い。あと、あの程度の行進なら新野に行った流民みんなと変わらない」

「新野か……帰りに寄るから、挨拶していかないとな」

 虎牢関が見えてくると、早馬が数頭こちらに向かって走って来ていた。

 先を行く曹軍が早馬のうち一騎を受け入れ、他は脇目もふらず洛陽へ走って行く。

「今の早馬、虎牢関の向こうで蝗か黄巾軍でも出て来たのか?」

 少しすると季衣がやって来て、士燮と一刀たちに曹操の所へ来るよう伝えた。

「兄ちゃん、華琳様が蝗と長沙の事で話があるから来て頂戴って」

「長沙ってことは、周朝はちゃんと帰ってこれたのか……分かった。すぐに行こう」




 曹操と早馬の使者、そして士燮と合流すると使者が語り始めた。

「まずは蝗についてですが、宛の方から東に進んで行きました。既に豫洲を通り過ぎていますが、蔵の管理が甘かったいくつかの県で飢餓が発生しています。許昌、陳留が少し早めに収穫していた食料を送っているので死人はほとんど出ていないと思われます」

「山に住む賢者のお陰よ。このことについては李白殿と一刀に感謝しているわ。いずれ何かの形で報いさせて頂戴。使者殿、長沙の事を」

「はい。零陵よりの報告で長沙の地にて太守、張津に叛乱の意志が確認されました。兵に厳しく訓練を施し、張津に従わない住民や異民族を徴用して城壁を厚く高くし、坑道戦に備えた塹壕を掘って防備を固めています。さらに、怪しげな香や薬で立ち寄った商人に言う事を聞かせ、私財で傭兵を集めるよう指示しているそうです」

 怪しげな香とは麻薬の事だろうか? 一部の麻薬は紀元前から記録があるのを一刀は知らなかったが、この世界ならそういう物もあるのだろうと考えた。

「これだけなら黄巾軍への防備と言い張れなくもないのだけれど、もう一つ証拠があるのよ」

「有新保之と書かれた玉璽を盛んに使っているとのことです。間諜の話では鬼道の国を作ると言っていたとか」

「玉璽は恐らく王莽の時代の物よ。それがどういう経緯か張津の手に渡り、天意を得たとでも思ったのかしら」

 玉璽と言えば、袁術が伝国璽で僭称した事を思い出す一刀。こういった縁起というものは、神々との距離が近い時代故に一生を狂わせてしまうものなのだろうか。

 ともかく、使者によれば長沙に叛乱の兆しありとの事で襄陽から早馬を飛ばして来たとのことだ。つい気になって周朝の事を尋ねると、

「零陵の太守代官殿から派遣された間諜が襄陽に来たのです。零陵に戻っていては叛乱の準備に時間を与えてしまうと考えたのでしょう。我が主、劉表に報告した後、零陵に向かったそうです」

 周朝は無事に帰ったようだ。

 しかし、安心ばかりしてはいられない。曹操から一つ提案された。

「この場の零陵の兵は区星殿たちだけで、他は輜重兵なのでしょう。それなら貴女たちだけで先行して襄陽兵と合流して、長沙で零陵軍を待つのはどうかしら? 攻城戦なら梯子や投石機を作る時間もかかるし、戦場と防備を確認しておくのも戦に勝つには必要よ」

「うむ。我々交州軍も漢水を船で下れば長沙の包囲に間に合うだろう。むしろ、先行して我々の兵糧を買い付ける用意をさせておいてくれると助かる」

「宛には黄巾軍対策の軍が居るから食料の減りが早いってことですね。周りの邑から食料を買えるだけ買ってるかもしれないから、いくらか分けてもらうようお願いしておかないといけませんね」

「確保するのは江南のモンの村々からだ。貢物を積まない分、手持ちの兵糧が増えているから長沙までなら無補給でいけるが攻城戦となるとどうなるか分からん。攻城兵器の材木供出も頼んでおくと良い。材木や兵糧は銀で支払う事を約束するが、その辺りは諸葛亮殿、鳳統殿が詳しかろう」

 話を聞きながら考えてはいたのだろう。朱里と雛里は緊張せずに答える。

「お任せください。少ない損害で勝てるよう知恵を絞ります」

(今度は寄せ集めの黄巾軍じゃなくて、防備を固め始めた正規軍……条件は悪いけど、僭称者の地方領主相手だと朱里と雛里はオーバーキルに思えるから頼もしい)

「区星もそれが良いと思う。一刀はどうする? お前は武官ではないから参戦する必要は無いが」

「今更それは無しだぞ李梅。俺だって伝令が出来る……いや、董衣にしがみついてるだけかもしれないけど、それくらいは出来るさ」

「お兄ちゃんは朱里たちと一緒に……近付く逆賊は、シャンが全部片づける……」

「よし、それじゃあ皆で行こう。竜胆様、先に行って待ってます」

「私の符と砂金を持って行け。襄陽まで1日で、という訳には行くまい。蝗が出た後で砂金がどれだけの価値になるかは分からんが、州牧から与えられた符と叛乱軍討伐の名目があれば無下にはするまい」

 夏の気配は春に芽吹いた花を枯らし、青い空から降る陽光は深い緑を彩る。これから戦に向かうという人間たちを見ながら、大地を覆う生命の色は益々(ますます)生を謳歌する。

 前半部分、まるっと書き直してたら時間がかかってしまいました。だってなんか面白くなかったし……

 前回ちらっと出た、

「桜桃は朱里達が乗ってた紫金に一人で乗るんだったな」

 の、朱里達の馬の名前の紫金ですが、これはムラサキハナナこと諸葛菜の別名の紫金草から。「知恵の泉」、「聡明」、「優秀」など。そのままですね。

 次回は長沙攻略戦です。政治パートよりは書きやすそう……

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