表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/71

第35話 洛陽2

「ぷろていん?」

「プロテインってのは……タンパク質の事で筋肉とか肌の原料、かな? 運動の後にプロテインの粉を牛乳とかに溶かして飲むと筋肉が着くって言われてるんだけど……これ、大豆原料のやつだ」

「牛馬に煮豆を食べさせると力が着くと言われているが、そういう理屈だったのか」

「この手紙だと製法が全部書いてあるんだけど、原料の豆は用意できても脱脂の手順とか粉末にするのはこの時代だと無理じゃないか? ベンジンって染み抜きの何かだろ……作れるものなら作って欲しいってあるけど」

 続きを読んでみると大豆とホエイをある場所に届けて欲しいとあった。ホエイは胃袋水筒に牛か山羊の乳を入れて振り続ければ得られると書いてあり、チーズの副産物程度のもので構わないようだ。

「届けてくれたらこの世界の事を教えてくれるって書いてある。そして事が終わったらこの手紙は焼却される……焼却しろ、じゃなくてされる? どういうことだ?」

「一刀の国の文字と、同じ時代の物を知っている人物が呼び出して来た、というのは分かった。だが、それなら何故自分から姿を現さないのだ?」

「分からないけど自分で動くことができないのかもしれないな。なんにせよ、俺は行ってみるのはアリだと思う」

「ほえい、というものは乾酪の上澄みの事のようですし、遠乗りのついでに作れますね。明日は一刀様達は袁紹様の所に行き、私は届け先の様子を確認した後で馬たちの運動がてら乾酪を作るというのはどうでしょう? 帽子と目隠しがあればそれほど眩しくはありませんし」

「ん……それならシャンもお姉ちゃんについてく……場所の検討もつくから案内できる。それに、シャンと紫鈴が先導すれば、お姉ちゃんは乗らなくても済む」

「袁紹様を遠乗りに誘って、ってのも急過ぎて失礼だもんな。桜桃、香風、すまんが頼む」

 差出人が誰かは見当がつかないが、指定された場所の情報収集は無駄にはなるまい。土地勘のある香風に桜桃を任せ、明日の予定を決めた一刀はその旨を士燮に報告した。

 士燮からは「妥当である」、と承認され、袁紹へは士燮からの親書を渡すよう頼まれた。

「袁紹殿は袁術殿とよく似ている。当人たちは否定するがな」

(ってことは、気を張っている時はともかく内面は幼い感じか……)

 部屋に戻って謎の手紙を読み返していると李梅が訪ねて来た。

「故郷の文字が懐かしいのか?」

「まあ、な。ただ、そこまでホームシック……故郷が恋しくて仕方ないっ、て訳じゃなくて、久し振りに見ると平仮名忘れてるなーって。ほらこの「ぬ」と「め」とか、「む」なんかも不思議な形だろ? こんなんだったっけってさ」

「漢字が崩れたような不思議な形だな……それはそうと一刀。ちょっと耳を見せろ」

「え? 耳? ……なんか恥ずかしいな」

 一刀が屈むと耳孔を覗かれる。

「やはりな。耳垢が溜まっている。取ってやるからこっちに来い」

 そう言って部屋の寝台に腰かけて自分の膝を示す。

「膝枕で!? ……いいの?」

「頭を固定しなければならんのだから当然だろう。区星も、母や姉にこうしてもらっていた」

「そうなのか。じゃあ、失礼します」

 李梅に背を向ける形で頭を預ける一刀。手を添えられ見やすいように頭の角度を調整されると、耳介から木の感触が侵入した。

 侵入者はゾリゾリと耳孔を這いまわり、その度に背筋を甘い痺れが走り自然と身体が悶えそうになる。すると添えられていた小さな手がそっと、頭を柔らかくもしなやかなふとももに押し付ける。

 段々と奥の方を擦られると、これまで自覚していなかった痒みが刺激され、耳かきの這った後を爽快感が追いかける。

 そんな甘美な時間も枕の主の一言で遮られた。

「……うむ。大体取れた。さあ、次はこっちを向いて反対側だ」

「え?」

 聞き返そうとするが頭と肩に回された手から寝返るように促され、つい身をよじって少女の腹を見る恰好になった。

「ちょっと、コレは――」

「いいから! いいから、そのまま……」

 いつも泰然としている李梅が慌てたように制する。すぐに耳かきを耳孔に当てられては、一刀に抵抗する術はなかった。

 反対側と同じように耳孔への侵入を許し、一通り終える頃に李梅は話し始めた。

「一刀は孫策殿の宴席のおりめかけは要らぬかと誘われたそうだな」

「香風から聞いたのか? その時にちゃんと断ったけど、それがどうかしたか?」

 身を起こそうと力を入れるが李梅の手に抑えられた。

「一刀のことだ。いつものように、いずれ帰るのだから契りを結ぶのは不義理になると思ったのだろう?」

「うん。責任を取れないのにそんなことはできないよ」

「それは一刀の美点だが、区星達の、今の世ではそうではない。戦で死ぬか、病で死ぬか、蹂躙され望まぬ子を産むか、そんな事が普通に起きるのだ。だから我々は……一刀から見れば急ぎ過ぎているかもしれんが、好ける相手が居るのは幸せなことなのだ」

 そういって李梅は一刀の頭を掻き抱く。

「お前を手放したくは無い……」

「李梅……ありがとう。踏ん切りがついたら、その時は……」

 李梅の腹に顔を埋めながら答える。

「でも、俺なんかでいいのか? 俺、何か、その……好きになってもらえるような事、できてた?」

「そんなことにまで理由が必要なのか? だとしたら、一刀は本当に平和で、暇な世に産まれたのだな」

「暇、か……理由がないと自信が持てないっていうか、下手すると訴えられたりもするからなあ」

「……訂正する。魔境に住んでいたようだな」

「……ところで脚、痺れない? 起きようか?」

「まだ、平気だ」

 夕食に呼ばれるまで、不器用な二人の距離は変わらなかった。




 翌日、偵察と遠乗りに向かう桜桃と香風を見届け、

「早速あの羊の胃袋水筒が活躍したな。でも、桜桃は昨日のアレ、気付いてたよな」

「気付くも何も、お前を我々のものにするため篭絡しよう、と送り出したのは姉だ」

「我々って……浮気みたいで嫌じゃないのか? そういうの」

「我々の村は比較的平地にあるのだ。故に軍人崩れの盗賊団や密猟者、隠田を開墾しようとする武装豪族とやりあうから男が死んで女が余る。それに、力のある家が男やその家族を囲うのは漢でも普通の事だと聞いている。他の女性と親しくしようが、見境の無いものでなければ問題はない」

「へー……ん? 囲われるのは俺の方?」

 価値観の相違を改めて認識させられた一刀。婚姻の相手や労働力として自分の家、或いは村で人を囲い込むということだろう。

「まあいいや。とにかく今日は袁紹様の所に行くけど、袁術様より派手好きらしい。どんな人なんだろうな」

 訪ねてみると袁術同様、袁紹の邸宅でも歓迎を受けた。袁紹の側には文醜と顔良の2人が控えており、団欒の時には賑やかな袁紹と文醜が会話を引っ張っては顔良がたしなめるという図式が成立していた。

 一刀一行は漫才でも見ている気分になりながらも、聞き捨てならない情報を得ることになる。

「そうそう、蓬莱の島と言えば遼東の方からこんな話を聞きましたの。何でも北方の騎馬民族が楽浪郡を荒らし尽くした後、無人の地に不思議な民族が入植したらしいのですわ。その民族は私達ともどの遊牧民とも似つかず、歩兵で重装騎兵と戦う命知らずで、遼東の公孫氏は古に記録が残る「倭人」ではないかと考えているそうですの」

「! ……もしかしたら同じ島の人かもしれません。ですが、私の産まれた列島には50以上の国がありますのでなんとも言えません」

 嘘は言ってないと自分に言い聞かせる一刀。

(倭人が入植? 伽耶の事か? でも古の記録に残っていた倭人が最近入植っていうのも……この世界の歴史だからツッコミようが無いけど)

「そうなんですの? まあ、貴方様の服装からすれば重装騎兵と戦える武器を持った民族がいてもおかしくはありませんわ。無理強いは致しませんが、もし許されるなら是非ともこの国にもその武器の秘密を教えてくれませんこと?」

「私も武器や素材そのものの作り方にまでは詳しくありませんので……何か再現できたものがあれば、祖国に怒られない範囲で協力させて頂きます」

「ええ。武器にせよ戦術にせよ、軍事機密を簡単に教えてもらえるとは思っておりませんことよ」

 他には気になるような情報は無く、しばらくして一行は袁紹邸を辞した。




「例のほえいと豆の届け先ですが、どうやら貂蝉という踊り子の家のようです。中には人の気配が無く、周辺住民からは人の出入りはしばらく見ていないとのことでした」

「貂蝉……でも人の出入りが無かったんだから、送り主は貂蝉から家を借りる間柄なのか? まあ行ってみないと分からないな。ところで乾酪とホエイの方はどうなった?」

「上々ですが、ほえいがどういう状態なのが良いのかが不明ですので」

「まあそのまま持っていこう。品質は問われてなかったし」

「はい。それでは袁紹様の事を伺ってもよろしいですか?」

「ああ、袁紹様は――」

 一刀一行と桜桃、香風で互いが離れていた間の情報交換をする。袁紹評は袁術と大差はなく、年齢の分だけ振る舞いに余裕が感じられる程度であった。

「あれだけ余裕を持った振る舞いができるんだから、大物と言えば大物だろうけどな。とにかく、明日はいよいよこっちの事情を知ってる謎の人物の所に行く訳だ。何日に来いって書いてないから、行って誰も居なかったらこっちから置手紙をしないとだな」

「筆と木片を持っていきませんとね」

 夜が明けて朝食を摂ると一刀はすぐに準備を終えた。李梅からは興奮しすぎだと嗜められるが、反省しつつも自然と気が急いてしまう。

「早く家に帰りたいとかじゃないんだけど、気になるんだよ。色々謎過ぎて」

 出発の直前、朱里と雛里から注意をされた。

「そういった気分の高まりを利用して暗示に掛ける術を持った者達が居ます。妖術使いと呼ばれるのはそういった手合いだと思いますので、相手が同じ境遇の人でも油断しないよう気をつけて下さい」

「善意、悪意に関わらず、相手の目的が何なのかを見定めるのは必要なことです」

「確かに……気を付けよう」

 謎の人物が指定した貂蝉の家まで香風が先導した。繁華街が近いようで、これまでの高級住宅街とは違った雰囲気の区画だった。

 家の中からは人の気配はしないとのことだが、念のため戸を叩いてみると返事が聞こえた。が、聞こえたのは一刀だけだった。

「すごく渋くてかっこいい声で「どうぞ」って聞こえたけど、皆は聞こえなかったのか?」

「一刀様。今まで感じたことの無いです。悪意は感じませんし、むしろ清浄に感じます。神仙の類というものでしょうか? 生物としての格の違いを思い知らされます」

「かと言って行かない訳にもな。むしろ、仙人っぽい人なら語る事にも信憑性が産まれるだろ。そんな存在がなんでプロテインを欲しがったのかは分からないけどさ」

 そう言いながら戸に手をかけて開くと香の匂いがした。「お邪魔します」、と声を掛けてから家に入ると、やはり一刀にしか聞こえない声で着席を促される。

「ここに座って待っててくれってさ」

「ふーっ……おかしい……妙に眠い……」

 李梅の呟きに力は無い。一刀以外の皆も同じ様子で机に突っ伏すようにして眠ってゆく。

「李梅! 桜桃! ……皆どうしたってんだ……」

 催眠性のガスが香に混じっているかと警戒するが、それなら一刀だけがなんの異常もないことに説明がつかない。眠っている皆を放って逃げるわけにもいかず途方に暮れていると、先ほどまでよりもずっとハッキリした声で、

「そう警戒せずともよい。卿が、北郷一刀だな。俺は貂蝉。その、依り代だ」

「馬の……ぬいぐるみ? 金銀妖瞳ヘテロクロミアだ……」

 声は祭壇に飾られたぬいぐるみから発せられていた。

 言葉選びとかテンポとか良くなりたいなぁ。


 ソイプロテイン:ベンジンが何なのかを覚えていて、適切な人に頼んで火計用の物を分けてもらい、発明大好きな人を連れてきていれば大豆の粉砕はできていた可能性が。

 耳かき:イベントスチルにありそうな感じだったので……

 半島に入植した倭人:記録自体は漢書とかもっと昔から出てきていたり……面倒なので外満洲とかの物騒な騎馬民族が略奪し切った無人の地に交易拠点建て始めたと考えて頂ければ。略奪したのに町が出来てるぞ、とやって来た騎馬民族を追い返すタワーディフェンスを始めているかも。ついでに日本書紀の年代をユリウス暦に当てはめると、三国志はちょうど神功皇后の頃ですね。

 仙人を騙る詐欺:香の裏で麻薬成分のある煙を出して意識を乱し、読経のような一定のリズムだったり宗教的な儀式でトランス状態に導きヴィジョンクエストを云々。軽度の催眠が掛かったところで金品や証文を……

 依り代の馬:RUNE 馬鹿うましか伝説から。原作1作目と同じ時期に貂蝉と同じような声の人が出演していたことから。腹斜筋のえくぼとか想像したくないので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ