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第18話

 士燮の名代と合流して漢水を越え北上する。

 流民の動向を漢水の船便の親方に聞くと、既に付近の村にも例の礼舞ライブで食料を分けてもらいに来たことがあるそうだ。また、豪農も多く居るようで牛車の用意にも事欠かないようだ。

「流民にしては裕福だよな。曹操軍が許昌方面の黄巾党軍を討伐したらしいのに地元に帰らないのってどうしてだと思う?」

「区星が思うに、戻ってもまた戦乱が起きるかもしれないから、と中原を離れて交州や益州を目指しているんじゃないか?」

「牛とか持ってる豪農でも、一度故郷を捨てたら地元に戻れないってのもあるだろうしな」

「それに、戻る途中で黄巾党や山賊に襲われるのを恐れているのかもしれません」

「成る程。今、流民の中でも戻りたいっていう人と新天地を目指してこのまま進もうっていう人の2つに意見が分かれてて歩みが遅くなっているのかもしれないな」

「もしそうなら極力どちらの肩を持つことなくさっさと通り過ぎないと、溜まった不満の矛先を向けられてしまうかもしれませんね」

「こうなったのも役人がしっかりしてないからだー、ってなる訳だ。全然違う所から来たのに国の役人ってだけでなじられるのも納得いかないけど」

「土地に根差して生きている者にとっては、他所の土地の人間なんて肩書が服を着て歩いているような物ですから。一生のうちの数刻、数日程度の付き合いしか持たないであろう存在になんて、大した興味を抱かないものです」

「俺の国の戦国時代もそんなもんだったらしいな。新しい支配者は税をどれだけとるか、前より悪かったら反乱したり税を納めなかったりしたらしい」

「治めるのが難しそうな国だな」

「だから統治のためには徹底的に甘くするか恐怖を抱かせるか……って、あの煙、例の流民の炊飯のかな?」

 道の向こうには煙が数条、空へとたなびいている。

 近づいて行くと見張りらしき男たちに呼び止められた。

「お役人様方。この先には黄巾党に焼け出された不幸な流民しかおりやせん。火の始末はちゃんとしますんで、どうかそのまま帰ってはいただけやせんか」

 呼びかけて来た男に士燮の名代が答える。

「我々は役人ではあるが、宛の役人ではない。交趾と零陵から洛陽へと税を治めに行くところなのだ。流民がいるという噂を聞き、護衛の軍が近くを通るが何もしないという事をそちらの代表に伝えに来たのだ。それと、もし物資で困っている物があれば助けられる範囲で援助したい」

 男たちの間に動揺が見えた。

「交趾と言えば、俺の親戚が流罪になって流されたところだ。わりと栄えてるらしいぜ」

「県の役人が交易商から天竺の物を買って自慢しているのを見たことがある」

「物資を分けてくれるってんならいい話じゃないか?それに、こっちには張の姐さん達の他にも居るじゃないか。あの大斧の武将。通しても問題無いと思うぜ」

「……交趾のお役人様。しばらく待っていてくだせい。申し訳ねえんですが、黄巾党が化けてるかもしれねえんで簡単には通すなって言われてるんでさあ。今、上の方に連絡して許可を貰ってきますんで」

「そちらの事情も分かるつもりだ。交趾太守、士燮様からも配慮するよう言われいる」

「ありがとうごぜえやす」

 そう言うと男達の中で一番脚が速いという者が伝言を頼まれて駆けだしていった。

 少しすると区星と区連が一刀に耳打ちする。

「結構な数を連れた武将が来るぞ。何かあっても雑兵はともかく、武将は少し厄介だ。かなりの手練れだろう」

「陽が落ちていれば私が引き受けられますが、今はそうも行きません。もし弓を向けられたらすぐに逃げましょう。名代の方もそれとなく準備しているようですし」

「董衣の耳も流民の居る方を向いてる。ちょっと緊張してるのかも」

 見張りの男たちに敵意はないようだが、流民の代表がどう判断して行動するかは別だ。

 緊張しながら待っていると、伝言に駆けて行った男が区姉妹と変わらない程度の背丈の少女を連れて戻って来た。

(また薄着っていうかビキニとスカート?それより、すごい大きさの斧だ。刃の部分だけであの娘の身長くらいある。柄も合わせたら俺より大きいんじゃないか?)

「シャンはシャン……じゃなくて、徐晃。おにいちゃん達を迎えに来たの。付いてきて」

 徐晃と名乗った少女は一刀を見ながら言った。恐らく、乗っている馬の質や最大の戦力の区姉妹を従えている事で代表と思われたのだろう。

 それに対して士燮の名代は怒るでもなく、すぐに一刀の前に馬を進め露払いの形になって徐晃の誘導を受ける。

(こういうとき映画だと役人って序列がどうとか言って話を蒸し返して酷い目に合うんだよな。そうしないですぐにこういう対応ができるんだから流石だなー。でも徐晃、ね。こんなちっちゃい女の子でももう驚かないぞ)

 打算的な面を見れば狙われやすい大将首を一刀に押しつけたようなものだが、この場での最善手だろう。

 流民のキャンプ地は区割りがしっかりされており、居住スペースが通行の邪魔にならないように配置されていた。中心部に大きな天幕があり、そこに代表とされる張三姉妹が居るとのことだ。

「あ、来た来た!貴方たちが交趾のお役人さん?足りない物を分けてくれるっていうんでしょ?お姉ちゃん、すっっごい助かるよ!」

 またアクの強い女性が出て来た、と一刀が思っていると横いる眼鏡の女性が口を出す。

「姉はこういう性格ですので多々、失礼があるかもしれませんがご容赦願います。物資を融通していただけるとの事で、今必要な物をこちらの木簡にまとめておきました」

 眼鏡の女性は一刀ではなく士燮の名代に木簡を渡す。その二人の間で実務的な話が始まったので一刀は礼舞のことについて尋ねた。

「申し遅れました。私、北郷一刀と申します。ところで皆様は礼舞……ライブ、をされていると聞きました。どのような形でライブをされているのですか?」

「私達のこと知ってるの!?交趾の方まで名前が響いちゃったかー。もう私達、数え役萬☆姉妹(かぞえやくまん・しすたぁず)も全国区だね!これはもう天下を取ったと言っても過言ではないんじゃないかな?地和ちゃん!」

(ユニット名にシスターズ、って英語……いや、まだわからないぞ)

「天和姉さん、質問に答えてないよ。えっとね、すてえじ、っていうお立ち台を作ってそこで歌うの。後ろに壁を建てて、音を前に届きやすくしたりして歌うの」

(英語を使っているけど発音が慣れていない感じだ。現代人じゃないのかな?だとしたら現代人のマネージャーみたいな人が居て、その人の言葉を使っているってことか?)

「それとね、会場に入場する時には皆で黄色い布を目立つところに巻いてもらうんだよ!そうすると皆仲間だっていう一体感があって、初対面の人同士でもすぐに打ち解けちゃうんだよ」

「ちょっ、姉さん、それは秘密!」

「え?……あ!違うの!私達黄巾党じゃなくて、ただ入場券を目立つようにしてただけなの!それを真似されちゃったみたいで……」

 天和と呼ばれている女性が弁明する。確かに分かりやすい目印で敵味方を区別し、一体感を得られる手段にはもってこいのやり方ではある。それを反乱の首謀者が真似るのは不思議ではない。

 だが一刀にとって目の前の女性たちが黄巾党であろうがなかろうが気になるのはそこではない。

「えっと……まあ、そういう事にしておきましょうか。それより私が聞きたいのは、皆様がどこでライブやシスターズという言葉を知ったかなんです。私の地元・・にも伝わっている外来語なんですが、もしかしたら故郷の日本へ帰る手掛かりになるかも知れないんです」

 それとなく日本という単語を出して様子をうかがう一刀。しかし反応は期待していたようなものではなく、

「日本って東の方角って意味だよね?東に行ったら地元に帰れるんじゃないのかな?」

「それが、日本は島国でして、船が難破してこちらに流れ着いたものですから何処からどう出発したら良いのか分からないんです。もしその外来語を知っている人が居たら、どうやって日本へ行ってるのか聞きたいな、と思っていたのです」

「ごめんなさい。私達も、とっても古い本に書いてあった言葉を使っているだけだから力になれないの。シャンフーちゃんは聞いたことある?」

「シャンも知らない。でも東と言ったら徐福が行った蓬莱の島がそうかもしれない。けど、航路とかは書いてなかった」

「そっかー……」

(ライブなどの単語を知ったのは古い本からか……その本を書いた人が俺と同じ境遇だったってことなのかな?)

 現代人が居るかもしれないと期待していたが、これでは会えそうにない。よくて執筆者の墓に辿り着く程度だろうか。

「ところでその古い本ってどんな本なんですか?よければ見せて頂けませんか?」

「その本、許昌の方で暴れてた黄巾党の人に持っていかれちゃったの。太平要術っていう本なんだけど、どうやったら言いたいことを相手に伝えられるかっていうことが沢山書いてあったのよ。それを、私達の歌を聞いてもらうことに応用してたんだー」

 太平要術という言葉に一瞬驚く一刀。黄巾党の首魁である張角が持っていたと言われる本であり、目の前には張姓の三姉妹。どうしても悪い想像が働いてしまう。

 そんな一刀の気を知ってか知らずか、地和と呼ばれていた女性が天和に声をかける。

「天和姉さん。思い出したんだけど、諸葛亮ちゃんと龐統ちゃんの二人ならとっても博識だし日本の事を知ってるんじゃないかな?」

「そうよ地和ちゃん!あのね、一刀君。この間、見聞を広める旅をしてるっていう二人組の女の子がここに来たの。私達の礼舞を見たいって言ってたから空いてる天幕で過ごしてもらってるんだけど、もしあの子達がいいって言ったら少し話してみたらどうかな?」

「知恵者として知られる諸葛先生達がここに?是非お願いします」

 会ってみたかったのは徐福であり、諸葛亮や龐統ではなかったがここに居るというのなら話してみても損は無いだろう。

「良かった。じゃあシャンフーちゃん、悪いんだけど一刀君たちを諸葛亮ちゃん達のところまで送っていってくれる?私達、今夜の礼舞の準備があるから……」

「わかった。おにいちゃん達、シャンに付いてきて」

「ありがとうございます。えっと、張……」

「天和!私のことは天和ちゃんって呼んで。もし礼舞を見て行くんだったら、私の掛け声に合わせておっきな声で呼んでね!あと、堅苦しい言葉遣いもやめてもらえると嬉しいな」

「それって真名なんじゃ……」

「それでいいのよ。あ、私は地和ね。あっちで難しい話をしてるのが人和。礼舞では周りの人に合わせて声を出して、楽しんでってね」

「分かりまし……分かった。士燮様の名代の人は報告のために帰るけど、俺達は残って礼舞を見て行ってもいいって言われてるから、見させてもらうよ」

「やった!場所はシャンフーちゃんと一緒に来れば分かるから、楽しみにしててね!」

 そう言いながら一刀の手を力強く握る天和。甘い匂いが鼻をくすぐるが、黄祖とのこともありこの程度では動じない。余裕を持って天和の手を握り返す。

「それじゃあまた後で。徐晃さん、よろしくお願いします。行こう、李梅、桜桃」

 一刀達が士燮の名代に伝言してから去ると、

「天和姉さん。今の、どう思う?」

「……うん。初めてかも。あんなに手を握ったのに、少しも動揺しないなんて……。もっと自分を磨いて、一刀君に認められなきゃ!」

「いやそうじゃなくて!私達の事、もしかしたら気づいてるんじゃないかって!」

「んー。でも、暴れてるのはあっちの張角さんだし……話せばわかってくれるよ」

「姉さんったらそんな暖気のんきな……」

 まあ積極的な策がとれる訳でなし、何かあってもここの流民3千人は何も知らないから私達の味方よねー、と地和は納得した。

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