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第17話

 一刀が壁に掛けられていた槍で天井の板を嵌めなおそうとしていると、区星と湯冷ましを持った区連が入室してきた。

「何をやっている?鼠でも居たか?」

「えーっと……どっちかというと蛇退治かな。むしろ鼠が蛇から守ってくれたよ」

「噛まれなかったか?鼠にたくさん感謝しろ」

 区星は何となく察したのだろう。

 交州軍の補給についての話し合いでは漢水越えと宛への移動については問題なさそうだが、流民3千人の近くを通ることになると予想された。

「そもそも本当に流民なのかという問題があります。3千人の中に黄巾党が潜むのは簡単ですし、敢えて老人混じりで脚を遅くして周囲を偵察しているとも考えられます」

「そういう可能性もあるかー」

「他にも防備の薄そうな県や村を乗っ取ることを考えている者が居ないとも言えません。軍のように意志が統一された集団ではないので、悪意あるごく一部の扇動や自作自演で官と衝突することもあり得ます」

「因縁をつけてくる奴に流されて暴動が起きるっていうのはあるかもしれないよな。じゃあそういうことが起きないようにするにはどうするかだけど」

「簡単なのは向こうから代表者を連れてきて軍がすれ違う間、問題が起きないよう見ててもらうことだな」

「やっぱりそうなる?だとすると先行して流民達の所に行くのは士燮様の名代と俺達か」

「名代の護衛を兼ねて区星達も行くことになるだろう。食料を無心された時のために多めに補充しておくべきか」

「保存食ならあって困ることはない……って思うけど、3千人を1食だけでも食わせる量の食料って運ぶのは結構負担になるよな。こっちは500人規模の輜重隊だし」

「牛車と御者を徴募するか?」

 区星の考えは自分たちで持っていくこと。

「それは……劉表様なら許可をくれるかもしれないけど、襄陽の住民から士燮様が横暴な奴だって思われるかもしれない。いっそ、漢水を越えたら流民の最寄りの県で食料の代金を払っておいて流民自身に受け取ってもらうとか?流民が食料を要求してこなくても、帰りに俺達が補給できるし」

 一刀の考えは補給地を用意しておくこと。

「成る程な……しかし、流民が受け取りに行こうとしたらその県が知らぬ存ぜぬを言い出したらどうする?それに、帰りに補給のためにそこで1日駐留するよう縛られるし、保管のための倉庫代も余計に取られることになるだろう」

「あー……確かに……」

 一刀と区星の考えがでたので区連が考えを言う。

「私ならば先ずは流民に聞いてから食料を用意します。軍の出発は明後日ですが、いっそ明日先行して出発して流民の代表に話を通すというのも手段の一つかと」

「それだ!明日はそれをまとめて士燮様に提出しよう」

 陽が出て明るくなり始めたら起こしてもらうよう区連に頼み、朝の早いうちに士燮に見せる木簡を書くことにして今日の会議はお開きとなった。




 士燮に昨日の相談のまとめを渡すと区連の提案が採用された。士燮も元々先行して流民の状態を確認しようとしていたようで、名代の選定と食料を調達するための高額決済用の帛(ハク。絹織物のこと)と錢を用意していた。

「北郷殿達も行ってみるかね?流民に付き添っているという旅芸人のことだが、3姉妹で礼舞ライブなるものを行っているそうだ。明日、本隊と共に出発しては通り過ぎるだけだけになるが、今日の内に行けば礼舞をみることができるやもしれぬぞ」

「礼舞……外来語にライブと言う言葉があって、まさに歌と踊りなどを披露するものです。もしかしたら私の時代の人間が旅芸人と称してライブをしているかもしれません。行ってみたいと思います」

 現代人で音楽ができるものならばこの世界の感性に合わせて調整するだけで最先端の音楽を提供できるだろう。物品や記録に残しやすい農耕技術などと違い、音楽は後世に残し難いため歴史を変える心配をせずに披露できる。

(お金を貰えるし身分が怪しくても旅芸人ならいくらでも取り繕える。現代人がやっててもおかしくはないよな)

「もし北郷殿の時代の人だったり、その関係者だったなら話を聞くためにも襄陽まで報告に戻らなくても構わない。流民の野営地の近くの村で1泊するなりして待っていてくれ」

「分かりました。李梅もそれでいい?」

「構わん。姉にも声を掛けておこう」

「私の名代はもう少ししたら出発するが、どのみち漢水越えの船を用意しなければならん。多少遅れても問題はないから、劉表殿に挨拶しておくとよい」

「分かりました」

 士燮の部屋を退室して一刀は劉表に出発の挨拶をするため取り次いでくれる人を探す。区星は区連の部屋へ向かって行った。

 政務の間の近くで周囲の番をしていた魏延に襄陽を先行して出発するので劉表に挨拶したいと申し出ると、すぐに取り次いでくれた。劉表は黄祖ともう一人、妙齢の女性と会議中だったが一度会議を止め、一刀の出発の挨拶を受けてくれた。

「そうですか。名残惜しくはありますが、北郷殿の道中の安全を祈らせていただきます」

「ありがとうございます。会議の邪魔をしてしまい申し訳ありませんでした」

「いえいえ。何も言われずに去られる方がずっと残念です。そうそう、こちらの黄忠は初対面でしたな」

 劉表が一刀と黄忠の仲立ちをする。

(黄忠というと弓の名手の老人ってイメージだけど、随分若い……っていうか、チャイナドレス?)

「北郷様のことは魏延からも伺っております。蓬莱の島の武士という、自身に厳しく誇り高い人々のなのだとか。それだけでなく、悩みの一つを見事に断ち切ってくれたとか」

「わわわ、黄忠様!」

 慌てた様子の魏延が遮る。

「いいじゃないの魏延ちゃん。その様子だとちゃんと北郷様に感謝を伝えてないんでしょう?こういうのはちゃんと言っておかないと後々になって後悔するものよ」

「そうは言いますが……後で伝えますので、それ以上はどうかご勘弁を……」

「はーい。北郷様、この通り魏延も根は乙女ですので、何か言いたそうにしていたら急かさずに聴いてあげてくださいませ」

「それはもちろん」

 そんな一刀達のやり取りを見て劉表が言った。

「魏延も素質はあるのですが経験の少なさから軽んじられることがあります。いずれは新野にでも封じて一軍を任せようと思っていたのですが、周囲の評価を跳ね返そうと空回りしてしまってそこが不安でした。それが北郷殿との交流で肩の力が抜けたようで、州牧として安心できました。重ねて、北郷殿に感謝を捧げます」

「そんな、劉表様……私自身は特に何もしていませんのに……」

「荊州を息子に継がせる親として、そして荊州の民の安全を預かる者として、配下の成長はこの上ない幸せなのです」

「劉表様……」

 一刀が劉表からの感謝の意を受け取ると、外から武官が区星を伴って入室してきた。

「一刀。準備が出来たぞ」

「わかった李梅。それでは私はこの辺りで失礼させていただきます。ご歓待本当にありがとうございました、劉表様。それと、黄祖殿と黄忠殿もご壮健で」

 黄忠は柔らかくほほ笑みながら、黄祖は昨日の事など無かったかのようなすまし顔で型通りの別れの挨拶をした。

(黄祖殿、確かに美人の部類なんだろうけど今一つ何を考えてるのか分からなくてやっぱり苦手だな……でも黄祖と黄忠の黄姓同士って親戚なのか?三國志だと特に絡みもないからただの偶然かな?)

 魏延を伴って退室する一刀と区星。魏延は二人に渡したいものがあるからと急いで自室へ走って行った。

「そうそう、魏延っていずれは新野を治めて一軍を任される事になるかもしれないんだって。もう出世が決まってるなんて凄いな」

「新野というと……漢水を越えて中原側か。荊州から見て最前線を任されるのだから、確かに期待されているのだろう。穿うがって見ると……」

「厄介払いか、昨日言ってた跡目争いのゴタゴタから避難させようとしてるか?かな」

「そうだ。魏延は腹芸をするような人柄ではないし、かといって武将を遊ばせてはおけんだろう」

「当然だけど、出世も政治の一つなんだな」

「区星の一族なら東は呉の辺りから西は益州の先の大月氏の国の辺りまでで好きなように生きているぞ。馬と暮らす者、木こりをする者、船を作る者に農業をする者。皆好き勝手に生きている」

「へー……なんだか国みたいだな」

「いや、皆一族だから互いに親交はあるが村以上にはまとまらないようにしている。規模が大きくなると反乱の準備をしていると思われて警戒されるからだな。一々中原の戦に関わりたくはないのだろう。例外的に楚には協力していたらしいが……」

 話していると魏延が戻って来た。

「お待たせしました、区星さん!北郷様!以前益州から来た商人から買った短剣なのですが、是非とも区星さんに使っていただきたくて持ってきました」

 魏延が抱えていた短剣を区星に差し出す。その短剣は緩い「くの字」になっており、一刀の知る所のククリナイフにそっくりだった。受け取った区星は鞘から抜いて刀身を見た。

「内側に刃がついているのか……不思議な形だが使いやすそうだ。ありがとう魏延」

「北郷様にも何かお渡しできればよかったのですが、ちょっと思いつかなくて……それで、私のお気に入りの店で買った乾酪(チーズのこと)を持ってきました。行軍にも耐えられますが、悪くなったら食べないでください」

 魏延から革袋を受け取る一刀。

「乾酪……チーズか。かなり硬いけど、削って食べるの?」

「そうです。かなり塩気が強いので慣れないうちは胸やけするかもしれませんが、慣れてくると塩気と酸味できゅっとなった口の中を酒で流すのが癖になります。もちろん茹でた豆や肉汁の滴る焼きたての肉にも合います」

「旨そうだな。一刀、酒を買ったら飲むぞ」

「李梅さん李梅さん、あなた頂いた短刀よりも気になってません?っていうか下戸じゃ……まあ、すごく美味しそうに魏延が語るから気持ちは分かるけどさ。ありがとう魏延。大事に食べるよ」

「いえいえ……先ほど黄忠様も言っておりましたが私の悩みを解決してくださったこと、本当に感謝しています」

「あー、的盧の髪だってやつ……心の持ちよう一つだけど、堂々としてると却ってからかわれないものだから」

「はい。蒙が啓けて視野が一つ二つ広がりました」

(蒙が啓くってなんだ?言わんとすることは分かったけど、意外と魏延って賢い子?脳筋系武将だと思っててごめん)

 一刀が魏延への認識を改めたところで区星が気づく。

「そうだ、姉たちが待っているからそろそろ行くぞ」

「それじゃあ魏延、改めてありがとう。また帰りに寄ったら美味しい食べ物の店を教えてくれよ」

 警備の仕事がある魏延と別れ、政務の間を後にした。




 政庁の前には麦わら帽子を被った区連が董衣と花相を連れて立っていた。

「お待たせ桜桃。お土産に美味しそうな物を貰ったから後で食べよう」

「この匂いは乾酪ですか?とても良い匂いです」

「袋の中の匂いまで分かるのか……嗅覚、聴覚の発達ってすごいな」

「さて。それでは士燮様の名代を追いかけましょうか」

 区星は花相に、一刀は董衣に騎乗して区連の手を引き上げて自身の前に乗せる。

「襄陽の街を出たら駈歩で行きましょう。そろそろ試してみませんと」

 区連が目を閉じた状態で馬に揺られることに慣れてきたこと、この先で黄巾党から逃げることがあるかもしれないということで駈歩を試すことにした。

 成人しているとはいえ体格が区星と同じく発育の良い子供程度のため、一刀は自分が子供の頃に親と二人乗りをした時の恰好を思い出す。

「それじゃあお腹の所に手を回すよ。準備が出来たら走るから」

 一刀は柔らかいな、と思いながら華奢な区連の身体に片手を回す。

「もう少ししっかり抱えて下さい……そうです。走ってください」

 一刀は区星に声をかけてから董衣に合図して走らせた。

 董衣の癖のテンションが上がると全力での襲歩になってしまう事を心配していたが、董衣は二人分の体重を苦にしてというよりは区連の事を心配してか慎重に加速してくれた。

(駈歩も問題なく出来てる……ただ、いつもより身体が近くて緊張する……)

 下心は無いが少女を後ろから抱きしめている状況に緊張する一刀だった。

 1週間に1話……いや1~2週間で1話くらいいければいいな…… 

 プロットなど無く、大まかな設定と大きなイベントとオチしか考えていなかったので基本行き当たりばったりですが上手いことキャラが勝手に動いてくれているというかなんというか。精進します。


ちょっとした解説

・礼舞=ライブは公式イベントかなにかで見たような。別のゲームのイベントだったら申し訳ないです。どのみち(主に区星の)経験を積ませるために派遣されるのでライブというのには引っかからなくても問題無いと思います……多分。

・魏延からもらった担当はククリナイフのようなマケドニアのコピスのようなものをイメージしております。コーヒー豆の伝来のように交易レベルがぶっ飛んでいるからということで脳内補間してください。

・チーズは遊牧民なり家畜の乳を飲む民族が近くに居れば自然発生的に出て来る食品なので登場。やはり益州方面でヤクなり羊なりの乳で作っていた人が襄陽で開店した店のもの。保存を効かせるために塩気が強いものがあるそうですが、呑兵衛にはいいつまみになるかもしれません(なお脳出血リスク)。生ハムとチーズは美味しい組み合わせですが塩分に気を付けないといけませんね。

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