ヒロイン達の夜
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「じゃ、おやすみ!」
無理やり話を終わらせ、電話を切ったキャプテンイタリアンこと、鬼寺氷代子はスマホを放り出しベットの上でもだえる。
「はわあぁぁ! ついに、誘ってしまった。青井のことを......くぅぅぅっ!」
鬼寺はゲームで知り合った優が自分の生徒の青井優だということに随分と前から気が付いていた。
しかし、リアルで友達がいないせいか、はたまた優のことを気に入っているせいか、自分の正体を明かすことなく関係を続けていたのだ。
「どうするか」
声だけならよかったもの、会うとなれば必然と自分が担任の鬼寺ということがばれてしまう。正体がばれずにデートをするなんてまず不可能であった
いっそ正直に話すか。だが、そうしたら「なんで今まで黙っていた」という話になってしまう。問い詰められたら鬼寺は何といえばいいのだろうか。そこに救いの手はなかった。
だとしたらやはりばれない方向でいくしかない。別に声の性質を変えているわけでもないのに今までばれていないということは、見た目を変えれば意外とばれないのではという考えが、鬼寺の頭に浮かぶ。
それはそれで自分に興味がないように感じるのだが。
「よし、ド〇キに行ってくるか」
その後、売っていないものがないことで定評があるドン・キ〇ーテで金色のかつらとサングラスを買った鬼寺は緊張で眠れず、夜遅くまで優とともにゲームをする羽目になった。
☆
正座でイスに座り、椎名三尹は机の上にある自分が描いた漫画と睨み合いをする。
「はぁー言えないよ。今描いている漫画が青井くんを主人公にした話なんて。かといって今までに書いたものを見せるのも......」
椎名は本棚にあるノートを手に取る。それは漫画を描き始めた中学生時代に書いたまだ拙いものであった。
それに、自分に期待してくれている相手に自分が書いた中で古いもの見せる事も失礼に当たるだろう。そう思った椎名は二つを天秤にかける。
青井を題材にしたことを言わないで今描いている物を見せるか、それとも質は落ちてしまうが一つ前に描いた一般的な恋愛物語の話を見せるか。
「んーいくら鈍感な青井くんでも見せちゃったらわかっちゃうよね」
それは椎名が青井のことを好きだという意味であった。以前から青井に好意を抱いていた椎名は恋に奥手な乙女ながらも好きだというサインを出していた。
しかし、今までそういった経験がない青井はすべて見逃し、「椎名は優しい子」という印象で終わってしまっていた。
「うん。 やっぱり、この気持ちは直接伝えたい。今からほかの話を描こう。見せるのが少し遅れちゃうけど、それがいいよね」
本棚にノートをしまった椎名は立ち上がり外を眺める。
「明日は晴れか......」
丁度新しい画材を買いたいと思っていた椎名は、明日はデパートに出かけることを決める。
「もしかしたら青井くんと会ったりして」
そんな想像が止まらなくなりそうになった椎名は明日の備えてベットに入るのであった。