危ないミッドナイト
物陰から顔を出している敵に華麗なヘッドショットをきめていく。すると、敵は緑色の血を流して倒れた後にアイテムをドロップする。
もちろん、今俺がしているのはゲームの中の話で若者に人気な野原行動という名前のゲームで血が緑色なのもグロテスクな表現を避けるためのゲーム上の仕様だ。
野原行動というのは孤島に何も持っていない状態で降ろされて、そこから武器を拾いながら最後の一人になるまで戦う、いわゆるバトルロワイヤルゲームだ。
「よし! あと残りプレイヤー十三人だ」
俺は毎晩このゲームをしているということもあって、趣味程度だが腕に自信はあった。
しかし、残りプレイヤー人数が二桁を切ったところで背後から出てきた敵に滅多打ちにされてあっけなくゲームオーバーになってしまう。
「ああ! あと少しだったのに!」
『惜しかったな、優』
今の声はこのゲームで知り合ったキャプテンイタリアンさんという女性の方でL〇NE電話を通して通話を行っている。
野原行動の中にもVCが存在しているのだが、長く関係を続けていくにあたって回線が悪いゲーム内VCを使うよりSNSサービスを使う方がいいという話になり、連絡先を交換したのであった。
その行為にやましい気持ちはないからな。別に女性と連絡先を交換したからって何かあるわけないし、キャプテンイタリアンさんはただのゲーム友達だし、なにより俺には天野さんが......って今朝振られたばかりだった。
いや、ただ振られたのだったらよかった。残酷なのは彼氏ができたという理由で直接的ではなく、間接的に振られたことであった。
だから、俺の気持ちは天野さんに伝えられずじまいに。しかも、天野さんが付き合った彼氏は俺が紹介した先輩......
思い出したら涙が出てきた。
「うわーん! キャプテンイタリアンさんー!」
『ど、どうした!? そんなに負けたのが悔しいのか?』
「違うんですよー。ちょっと聞いてください」
俺は再びゲームを進めながら今朝のことをすべて打ち明けた。野原行動の序盤は武器を拾うことだけが多いので雑談をしながらでもやりやすいのだ。それに元々、キャプテンイタリアンさんには同じクラスに好きな人がいることを話し、相談していたので話は早かった。
『そうだったのか。それは辛かったな』
「はい。でも、キャプテンイタリアンさんにこの話を聞いてもらえてよかったです。少しは気持ちの整理ができました」
本当に良かった。キャプテンイタリアンさんと話すのはまるで先生と喋っているみたいですごく頼りになるというか、ってキャプテンイタリアンさんも教職の仕事をしているんだった。
『そ、そうか......それはよかった』
「はい。ありがとうございます」
『な、なあ、優。よかったら......私と付き合わないか?』
「私?」
『い、いや! 違うんだ! 今のは言葉の綾でな! そうだ! 先生! 先生と付き合うなんてのはどうだ? 例えば担任の先生なんかは?』
「先生ですかー」
びっくりした。急に「私と付き合わないか」なんていうから頭が真っ白になったよ。でも、先生か。んー。
俺の担任の先生は鬼教師と恐れられている鬼寺先生だからな。付き合うのは難しいかな。
『どうだ? なかなかいい考えだと思うのだが』
「んー難しいですね」
『なんでだ?』
「担任の先生とは合わないというか、無理そうですね」
『そうか......じゃあ、この話はもう終わりだ! 早く敵を倒しに行くぞ!』
俺の元へ乱暴に車を停め早く乗れとジェスチャーをするキャプテンイタリアンさん。いつもなら時間ぎりぎりまで動かないんだけどな。
「え? もう行くんですか? 俺まだ物資を拾いきってないんですけど」
『知らん! 早く乗れ!』
「キャプテンイタリアンさん、なんか怒ってません?」
『怒ってない。が、今私はとても銃を乱射したい気分なんだ早く行くぞ』
「そんなー」
こうして俺たちは危ないミッドナイトに出かけていくのであった。