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ターニングポイント

 俺の名前は青井優、ただのしがない高校生だ。


 趣味も特技などは立派に言えるものは一つもなく、飽きもせずに中学からの友達とだべって過ごす毎日。


 ただ、そんな俺にも‘頑張っていること’とわざわざいうのは少し恥ずかしいことだが、気にしていることが一つある。それは同じクラスの天野さんの存在だ。


 天野さんはテニス部のエースで運動神経抜群、クラスでは頭脳明晰の委員長ポジでみんなから頼られる人気者だ。


 俺はそんな天野さんに一瞬で恋に落ちた。きっかけは単純だが、その気持ちに間違いはない......と俺は信じている。


 とは言っても、何も取り柄がない俺は告白なんて以ての外、話しかけることでさえできずじまいでいた。


 挙句の果てに中学からの友達の亮介に「お前、天野さんのこと好きだろ? やめとけ、全然釣り合わないから」と言われてしまう事態だ。


 まるで鉄の拳で殴られたかのような衝撃だった。しかし、俺は真摯にそれを受け止め悩み、考えた。


 その結果がまずは友達になるということだった。友達という関係になってしまうと恋人という関係とは逆に遠ざかってしまうんじゃないかと、一瞬頭に思い浮かんだがそんなことを気にする余裕はヘタレの俺にはなかった。


 ヘタレはヘタレなりの戦い方があるんだよ!


 俺は話しかけまくった。ここで大事なのは‘なるべくほかの人に見られない所で’というところだ。


 もちろん、話しかけまくるという行為も気持ち悪がられると思うが、そこは天使みたいな性格をしている天野さんだから問題はないだろう。


 問題なのは人に見られてあらぬ噂が立ってしまうことだ。天野さんに迷惑をかけることだけは絶対に避けなければならない。


 その気持ちを遵守し話しかけ続けた結果、


「優君、優君、ちゃんと話聞いてる?」

「う、うん。ちゃんと聞いてるよ」


 「優君」と下の名前で呼ばれ、二人きりでお喋りができるまでの関係になることができた。今俺たちは朝の日直のために黒板を掃除していた。


 憧れの天野さんが目の前に......目から涙が。こんな些細なことでも俺からしたら嬉しいことなのだ。


「ちょっと! 優君、涙出てるよ! そんなに私の話がつまらないの!」

「ごめん、ごめん、ちょっと寝不足でさ」

「もぉーーちゃんと聞いてよね」

「うん」


 これも全部みんなのアドバイスのおかげだ。寝不足の原因でもあるが、オンラインゲーム友達のキャプテンイタリアンさん。


 キャプテンイタリアンさんは有名スマホオンラインゲームの野原行動で知り合った女性プレイヤーだ。半年前ほどに知り合い、今やほぼ毎夜ゲームをする仲だ。


 キャプテンイタリアンさんが女性、さらに高校教師をしていることもあって相談をしていたのだ。


 ありがとうございます、キャプテンイタリアンさん。あなたのおかげで下の名前で呼ばれるまで仲良くなることができました。


 それに椎名もありがとう。


 椎名は天野さんと仲良くなる前からの仲がいい友達で漫画好きという同じ趣味が合うことから、たまに図書室で好きな漫画について語り合っている。


 椎名はお下げと丸縁眼鏡が似合う女の子だったが、勉強好きで無口な性格から話しかけにくい印象があった。勉強好きというのもなんと椎名はあの秀才な天野さんよりも定期試験の学年順位が高いのだ。


 しかし、思わぬことから知った漫画好きという同一の趣味はすぐに俺達の仲を深めた。


 椎名とたくさん話をした経験のおかげで天野さんに話しかける時に緊張が緩んだよ。ありがとう椎名。


 あとは当たって砕けるのみ。この関係が壊れてしまうかと考えると少し怖いが、そんなことは言っていられない。


 告白をするタイミングを見つけて俺の気持ちをぶつけるんだ!


「ねぇ、優君。ちょっといいかな」


 突然、天野さんが顔を赤らめる。廊下には誰もいる気配はなく、教室の中には二人が立てる音だけが静かに波を立てていた。


 こ、この雰囲気は!? まさか天野さんから!? 待って心の準備がまだ——


「この間話した天智先輩の話なんだけどね......私達付き合うことになったんだ」

「ふぇ?」


 頭の中が真っ白になった。


 え? なんて? 天智先輩と天野さんが付き合って——


「これも優君が相談に乗ってくれたおかげだよ。ありがとう」


 え? 俺いつの間に相談に——


「あま——」


 『キーンコーンカーンコーン』と俺の声をふさぐかのように予鈴がなる。


「あ、ごめん。この話他に人に聞かれたくないから」


 そう言い、自分の席へ駆けていく天野さん。ドアの方を見ると続々とクラスメイトが入ってくるのが見えた。


 天野さん......そうか全部俺の勘違いだったんだな。でも、無駄に告白して関係が壊れるよりはよかったか......きついな。


「あの」


 その時、目の前にいる女子に声をかけられる。


 あ、ここにいたら邪魔か。


 放心状態になった俺はまだ黒板消しを持ったまま教壇に立ち尽くしてしまっていた。


 それにしてもこんな子同じクラスにいたかな。可愛いいという言葉が似合う丸いボブカットに大きな瞳、いい意味で目立つであろう彼女を見逃すわけないはずなのに。


「あ、ごめん。すぐにどくから」


 通る場所を作ろうと俺は教壇から降りようとする。


 しかし、


「あの! 青井くん!」

「その声は椎名!?」

「どうかな? イメチェンしてみたんだ」


 毛先をクルクルといじるその姿は以前のお下げの髪形からは想像できないものであった。


 これが椎名!? いつも前髪と眼鏡で顔の半分が隠れていたから気が付かなかった......


「似合ってる......かな」

「う、うん。似合っ......てるよ」


 見た目がいつもと違うせいか、そのたった一言を言うだけで心臓の鼓動が早くなっていくのを感じた。


 これが本当に椎名なのか? アイドルグループにいてもおかしくないくらい見た目が変わって......


 クラス中からひそひそ話している声が聞こえる。気が付くと俺らが黒板の前にいるということもあり、注目が集まってしまっていた。


 ここにいたらまずい。注目を集めてしまう。


「し、椎名、こっち」


 俺は椎名を廊下に連れていこうと手を引く。


「え? 青井くん?」


 あ、椎名の手冷たい。椎名の手ってこんなに小さかったんだな。


 しかし、それを考えた瞬間急に手をつないでいることが恥ずかしくなり、焦った俺は教壇を降りる際に椎名もろとも転んでしまう。


「きゃ!」


 俺が仰向けに倒れその上に椎名が覆いかぶさってくる。その光景はとても教室の中で行われていることとは思えないものであった。


「だ、大丈夫か? 椎名」

「う、うん」


 しかし、その時一番聞きたくないであろう音が耳を刺す。


『ガラガラガラガラ』


 音の鳴る方を見るとそこには、


「あ、青井......お前、何しているんだ」


 そこには影から男子から鬼教師と呼ばれている鬼寺先生が足を震わせながら佇んでいた。


「ち、違うんですよ! 先生、これには訳が!」

「問答無用!」


 俺は襟をつかまれ上に乗っている椎名関係なしに無理やり立たされる。これが鬼寺先生が影で鬼教師と言われている所以であった。


 うう、息が......


「おら! 立て!」

「あ、足が浮いていて立て......」


 しぬぅ......


「青井くん!」

「青井!」

「青井くん!」

「青井!」

「青井くん!!」

「青井!!」


 こうして俺のターニングポイントは二人の女性から名前を連呼されることで幕を閉じた。


 天野さん助けて......



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やる気が・・・・・・・・・出ます!!

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