口
昔、板橋駅に行った記憶を利用して窓というホラーを書いた。
埼京線板橋駅の駅前にはアパホテルがあって、その当時その風景を電車の往復でよく見ていたので、それで何か書けないかなって考えて出てきたのがホラーだった。
「ホラーだ」
ホラーが出てきたのは意外とびっくりした。何か書けたらよかった。なろうでの活動をしてますっていう証左というか、まあ、登録だけしておいて何もしないっていうのを避けたかった。まあ、あの当時は頑張っていたと思う。ちゃんとした話を作りたいという完品提出幻想の最中の話だ。文字数もそれなりになくてはと思って、間にどうでもいいダメな人の話を入れてたし。
んで、今年の夏ホラーはテーマが駅という事で、まずそのことを考えた。思い出した。
「うわー、もったいねえ」
って思った。
しかし考え直してみると、こうして思い出すのも何かの縁だろうか?と思った。
「行ってみようかな」
だから私は新たな着想を求め板橋駅に行った。
「あっつ・・・」
板橋駅に着いて電車から降りた時にはもう零時も近くなってる23時台であった。
前と違い今回は明確にホラーを求めて板橋駅に行ったため、そのような時間になった。
予想は出来たことだが電車から降りると死ぬほど暑い。車内で冷やされた体から一気に汗が噴き出した。昨今はもう夜だろうと昼だろうと都心部は暑いのだ。容赦なく暑いのだ。
「・・・」
まあそれでも、駅のベンチには口をあけて寝てるサラリーマンが座っていたりした。ちなみに以前板橋駅に来たときはOLがホームにしゃがんで線路にゲロを吐いていた。私はそれを見た時、なんか話書けそうって思ったんだ。
「いないな」
今回そういうOLはいなかった。ベンチで大口を開けて寝てるリーマンだけだ。
外は暑いしもう終電も近いからか、ホームには私とその大口リーマンしかいない。私だってうかうかしてたら帰りの電車が無くなる。赤羽止まりしかなくなる。まあ、そうなったらそうなったでネットカフェで夜を明かせばいいんだけど。
「あの窓がなあ」
アパホテルの窓を眺めながら何か話のネタが降りてこないか待った。
しかしそうそう降りてくるものでもない。
特に私の場合欲をもって望むと、大抵失敗する傾向にある。
でもまあ、せっかく来たのに何も得られず帰るというのもなあ。
ホラー。なんかホラー。
ホラーなんか出てこい。
夏ホラーのホラーなんか。
なんか出てこい。
「あ」
そう言えはよく聞く話だけど、怖い話をするとそういうのが近寄ってくるんだという。人によってはそういうことを考えるだけで寄ってくるという人もいる。
「え?じゃあ・・・」
今、なんか寄ってきてるのかな?
辺りを見回す。何もないように見える。
「別に・・・」
何もない。
でも、
何か違和感があった。
違和感を感じた。
間違い探しの様な。
マジカル頭脳パワー!!の間違い探しの300点の問題の様な。
違和感。
最後の所で貝から一瞬足が出たあの300点の問題の様な。
違和感。
よくよく見た。
ベンチで大口を開けて寝てるリーマン。
その口から、白い手。指。
ホワイトアスパラガスの様な。
白い指が出ていた。
私が気が付いたのを察したのか、その手は、ずるりと手首まで出て、腕が見え、肘まで出てきて、
その瞬間、駅の照明が消えた。
全部消えた。
あーあ。
また何も見えなくなっちゃった。