はずれスキルを引いた幼馴染の地味子が実はもともと一を聞いて十を知る天才だった件
このシリーズは設定厨が思い付いた設定を元に第一話分だけでっちあげてみた、というシリーズです。
設定だけなので続きとか考えていません。
もし、続きが読みたいという奇特な人が居たら、適当にパクって自分で書いてみてください。コメントに作品URL張っていただければ読みに行きます。
「文野愛珠殿のスキルは『速読』ですな。能力は……あらゆる文字を2倍の速度で読めるようになる……ですな」
スキル判定の水晶玉を覗いていた司教がそう言うと、悪い意味で他のクラスメイトざわつかせた。
「女神の気まぐれにも困ったものね。勇者ではなく文官のスキルなんて、や……。」
高座で尊大にふんぞり返っていた王妃サマが、ためいきまじりにぼやきかけたところで言葉をつぐむ。「役立たず」と言いかけたのは誰の目にも明らかだった。
文野愛珠は休み時間には一人で本を読んでいるから、ある意味納得のスキルではあるが、他のクラスメイト達は剣豪やら聖女、黒魔導師といったファンタジーで強そうななスキルを得ている中で、悪い意味で浮いている。
そんなわけで、クラス召喚からのハズレスキル追放というなろうでよく見る流れ……になりかけた。なりかけたところで、彼女の幼なじみである俺が止めた。
「ちょっとまってくれ、追放は酷いんじゃないか? クラスメイトだろ? おまえら人の心とかないのか?」
当たりのスキルと言われて少し調子に乗っていたクラスメイト数名をにらみつけた。
付き合っているというわけでもないが、俺と文野が幼なじみであることは皆知っている。そんな俺に詰められてさすがに罪悪感が出てきたのか、口をつぐんで目をそらす。
そんな中、会話に割り込んできたのは王妃サマだった。
「そなた。確か万谷と言ったか。スキルは何だ?」
「魔術兵だ」
魔術兵は各種属性の魔法と、武器全般がそこそこに使えるようになるという万能型スキルらしい。器用貧乏の上位互換、ただし超一流は無理、くらいのハズレでもないが大当たりでもない、という感じだった。
答えを聞いた王妃サマは渋い顔をして思案にふける。嫌な感じの沈黙が場を支配する。
「あの、ひとつ良いかしら? 速読のスキル持ちが市井で暮らしていくのにどんな道があるのかしら? その、一般論としてだけど」
話が停滞したのを察したのか、当事者である文野が司教にそう尋ねた。
「そうですな、先に王妃様がおっしゃっられた通り、文官であればたいへん重宝されるスキルです。市井でも商家であれば活用出来るでしょうな」
「それは、素性の知れない異邦人がぱっと付くことの出来る職業なのかしら?」
「そ、それは……」
言いよどむ司教。俺も言われて気がついた。スキルがあるからって見ず知らずの外国人をいきなり雇ったりはできないよな。
「質問を変えるわ。身一つで出てきた異邦人や旅人がつける職はこの国にはあるのかしら?」
司教はいくつかの『素性を問わない職業』について説明してくれたが、どれもこう、酷いというか、丁稚奉公以下の使い捨て同然の下働きばかり。唯一栄達が望めるのが冒険者だけど、荒事がメインなので腕っ節がないと大きくは稼げない。ただ、薬草採取なんかを地道にやっていけば信用も付いていずれまともな職に就くことも出来るだろう、とのこと。
……いや、無理だろ。知らない国にいきなり召還されて、チートスキルもなしにたった一人で放り出されて生きのこれる女子高生なんているわけがない。せめて、信頼出来る仲間が必要だろう。
「……文野。俺と一緒に冒険者をやろう。みんなも、それで文句ないよな?」
俺がそう言うと、大部分のクラスメイト達は『こいつ、正気か?』みたいな顔をしていたが、表だって文句を言うやつはいなかった。女王も渋々俺たち二人を城外に案内するように、護衛の兵士に命令した。
こうして俺と文野は、他のクラスメイト達とは半ば自ら袂を分かち、追放された。
城を出た道すがら、文野は……いや、愛珠はすっかり幼なじみモードに戻って素の表情を見せていた。
「良かったの? クラスのみんなと一緒に居なくて?」
「そうだな、見捨てるようで罪悪感あったけど、自分の身の方が大事だし。こっちの方が安全なんだろ?」
「まあ、そうね。こっちの方が安全と言うよりは、あっちがどう考えても危険なのよね。あの王妃サマ、まともに相手をしたくないわね」
そう言って愛珠はため息をついた。続けてその理由も語り始める。
「一言二言で場の空気をがらっと変えちゃうんだもん。しかも仲違いをさせる方向に持って行ってたでしょ。高校生の集団を普段から相手にしているベテラン教諭にだってそんなのできないわ。それ専門に訓練を積んでいるか、人を扇動するスキルでも持ってるんじゃないかしら」
根拠はないけど多分後者ね、と補足して愛珠はさらに言葉を続ける。
「速読が文官のスキルってのもちょっと引っかかるのよね。速読がハズレなのは直接的な戦闘に限った話でしょ。国家レベルで敵対する軍勢と戦っているのであれば、情報将校や作戦参謀はいないとおかしいのよね。スキルがあるのだから知的労働は出来るはずなのにさせようとしない。最悪、『知識をつけられると困る』と思ってる可能性もあるわね。
そもそもの話として、危機感を煽るような話ばかりで軍事行動をさせるのに必要な指揮系統の話がまったく出てこなかったのがめちゃくちゃ不自然なのよ。軍事に関して情報の非対称性を意図して引き起こすなんて、ろくな組織じゃない。信用してはダメね」
なるほど、そんなこと考えてたのか……。というか、ヤクザがぽっと出の下っ端に鉄砲玉やらせるのと同じじゃないか。想像以上にやばい状況だったんだな。
そんな聞く人が聞けば剣呑極まりない話をしながらしばらく道を歩いてみて気がついたが、学生服というのはこの世界ではだいぶ目立つ。
なので、愛珠の提案で先に古着屋で今着ている学生服を売って目だない格好をしてから、冒険者ギルドに行くことになった。
化繊はこの世界にはないらしく、異国の特別な製法で作られた服、という愛珠の売り込みで、学生服はずいぶん高くで売れたようだ。その金で頑丈な旅人向けの服を購入した。旅装を選んだのは、今後を考えるとアウトドア生活の機能性を重視した服の方がいろいろ便利だろう、という理由だ。
こっちの人たちはアングロサクソン系の顔立ちなので、黒髪黒目はどうしても目立ってしまうが、格好だけでもあわせるとだいぶマシになった。
城を出るときに支給された支度金(という名の口止め料)もあわせて、まだ多少金に余裕はあったが、武器や防具の類いはそろえず冒険者ギルドに行くことになった。
ついたのが昼下がりの時間帯だったせいか、冒険者ギルドにはあまり人が居なかった。
そこそこ大きな建物で、依頼やギルドからの通達が張り出されている大きな掲示板に、納品のための大きなカウンターが二つと、事務系の手続きをやっている受付窓口が1つ。
まず掲示板の内容に目を通す。……俺は読めないが、愛珠は速読のスキルの恩恵でこちらの文字が読めるらしく、一通り目を通したようだ。話す言葉は通じるのに文字が読めないというのも不思議な話だが、異世界に召喚されることに比べればたいした話ではない。そういう物だと割り切ることにした。
「どうだ?」
「んー、ラノベとかで想像する冒険者ギルドの掲示板と同じみたいね。ほとんどは冒険者への依頼だったわ。あと、各種素材の買取価格表と、注意喚起がいくつか」
「そっか。じゃあ冒険者登録するか」
俺たちは無人の受付窓口に行って、呼び鈴を押す。中から初老の男が出てくる。俺が「冒険者登録がしたい」と告げると、奥から羊皮紙の束を持ってきた。
「あんたら、字は読めるのかい?」
持ってきた文書は冒険者ギルドの規則が書かれたものらしい。愛珠なら読めるので、以降の手続きはまかせる。
愛珠はゆっくり時間をかけて文書を読んで、気になったことを細かく受付の爺さんに質問していた。
愛珠が納得したところで、書類にサインをして冒険者の認識票を受け取る。ついでにパーティー申請もやっておく。リーダーは俺で、ジョブは戦士ということにした。愛珠は雑用担当でジョブはなし。
これで晴れて冒険者になったわけだが、今日は時間も遅くてこれから依頼を受けるというわけにも行かないので、資料室を使わせてもらうことにした。
まあ、俺はこの国の字が読めないので資料を読むのは愛珠だけなのだが。
資料室に入って二人っきりになったら、愛珠はものすごい勢いで書棚をあさって資料を読み始める。100ページ以上あるであろう資料でも1分もかからず目を通し、1時間ちょっとで100冊近い本を読破。
その中で、いくつか重要そうな本の内容を読み聞かせてくれた。
特に重要視していたのが、冒険者の規則をまとめた本だった。
「無意味に見えてもルールには必ず作られた理由がある。規則を全部くまなく調べればある程度の組織の実態は見えてくるものよ」
依頼の年度統計やら、トラブルの記録なんかを照らし合わせてやればなんとなくの事情が見えてくるんだそうだ。
魔物素材の解体や売却の手続きは、比較的合理的な内容だったが、護衛や調査依頼なんかの規則はだいぶ今の形になるまでにだいぶ迷走した形跡があるらしい。
「ざっくりだけど、宗教絡みで不自然なことになってるのが目立つわね。貴族が祭祀関係で出しているっぽい依頼に特に気を使ってるみたい。逆に言えば、日常的な依頼については冒険者側がよほどバカなことをしない限りはトラブルにならないようね。当面は雑用系の依頼を中心に受けていけば、とりあえずは暮らしていけると思うわ」
「しかし、あの短時間で良くそれだけわかるな。さすが『一を聞いて十を知る神童』と言われただけのことはあるな」
「速読のスキルがチート過ぎるのよ。どんな文字でも読めるのに加えて、文字を認識する速度が倍になってるみたい。周辺視野を活用したりする、日本で言う『速読』とはまったく別ものね。技術じゃなくフィジカルよ。両方を併用すればこれくらいわけないわね」
さらりと簡単に言うが、これ元々の能力がチートだからできることなんだよなぁ……。学校の勉強なんて授業を聞いてれば十分、予習復習は授業前に教科書をパラ見するだけ。理系文系芸術系を問わず、全ての教科でその気になれば満点を取ることも出来るが、目立つのが嫌なのでテストではちょっと頭の良い真面目な学生くらいの成績になるようわざと間違えているらしい。
一度、風邪気味で体調を崩したときに受けたテストで、ぼーっとしててうっかり全問正解してしまって学年1位になったことがある、という逸話もあったりする。100年に一人の天才、と言っても言いすぎではないんじゃないかと思う。
ぶっちゃけた話、異世界スキルよりも愛珠の存在自体の方がよっぽどチートじみている。
この天才が幼なじみで本当に良かった。おかげで、なんとか異世界でもやって行けそうだ。
わかる人にはわかると思いますが、もし、エスパー魔美の高畑くんが文野愛珠の元ネタです。
エスパー魔美は突如超能力を得た魔美が高畑くんのアドバイスを受けて大冒険する、という物語ですが、異世界転生でチートを得た主人公が参謀タイプの親友と冒険する、という設定で同じフォーマットが使える気がするんですよね。
なろう式異世界ものでは主人公の一人称視点が定番ですが、高畑くんを主人公にすると読者が天才の視点を持つことになって無理が出るので、エスパー魔美と同じく主人公はチートをもらった凡人側。
そうなると男女は入れ替えた方が無難だろうとうことで、こういう構成にしてみました。