化繊の錬金術師~Nano Fiber Alchemist~
このシリーズは設定厨が思い付いた設定を元に第一話分だけでっちあげてみた、というシリーズです。
設定だけなので続きとか考えていません。
もし、続きが読みたいという奇特な人が居たら、適当にパクって自分で書いてみてください。コメントに作品URL張っていただければ読みに行きます。
冒険者ギルドのクエストボードには、毎日たくさんの依頼が貼り付けられている。
中には、誰がこんな依頼を受けるのだ、というような奇妙な依頼もたまに掲載されることがある。例えば、今私が手に取った「筋力Cランク以上で服飾のギフト持ち」なんて条件がついている依頼だ。
服飾のギフトは、糸繰りから機織り、縫製にいたるまでの服飾に関する全ての作業が一人でこなせるようになる生産系チートの一つだ。この国の住人であれば、こんな便利なギフトを持っていたら冒険者などという食い詰め者に身を落とす必要はない。そして、筋力ランクは冒険者にでもならないと測定されない。
だから、このクエストの条件に当てはまる冒険者は存在しない。私のようなハグレ転生者を除けば、だけど。
クエストの依頼者は錬金術師のカツユキ・サトーとある。これは……名前からして私と同じ日本人転生者だろうか。依頼内容は錬金素材の加工および物性評価。
「ああ、そのクエストですか。意味不明だし条件も厳しくてだれも受けてくれないのに、ずっと更新されてるんですよね。受けてくれるんですか?」
受付に持っていくと、受付嬢はクエストについて教えてくれた。依頼人のカツユキ・サトーは王都に屋敷を構える中流貴族の元三男坊で、魔導学校を首席で卒業した天才魔導師だったらしい。優秀すぎて跡取り争いに巻き込まれそうになり、嫌気が差して家に絶縁状をたたきつけ、名前まで変えて辺境のこの街に移り住んできたそうだ。
「天才魔導師……って依頼者は錬金術師って書いてありますけど?」
「それが謎なんですよね。錬金術師なんて職業は聞いたこともないですし、報酬がお金じゃなくて錬金素材で生成した成果物の一部、ってのもなんだかあやしくて」
そう、この世界には錬金術って概念がない。ポーションなんかは薬師が作るし、武器防具にしたってそれぞれ専門の職人が素材から作る。錬金素材なんていわれてもなんのことやら、だろう。
しばらく考えて、私はこの依頼を受けることにした。どう見ても、この依頼は意図して同じ日本人転生者にしかわからないように書かれている。わざわざ冒険者ギルドを通すってことはやましいところがあるわけでもないだろうし、多分「おいしい」依頼だ。
クエストの指定場所であるカツユキ・サトーの工房は、町外れの森のそばにあった。
石造りのがっしりとした造りの屋敷で、近づくと薬品っぽい匂いが漂ってくる。
「ごめんくださいサトーさんはいらっしゃいますか?」
返事がないので、呼び鈴っぽいものがあったので押してみると、某コンビニの入店音メロディが流れた。
「うわ、なっつ……」
あまりの懐かしさに思わず声が出てしまった。そのまま待っていると、裏庭の方から渋めのイケオジが顔を覗かせた。
「めずらしいな、お客人か。ひょっとして、依頼受けてくれた冒険者の人?」
「あ、はい。シマムラと言います。服飾のギフト持ちで、筋力ランクBです」
お互いに自己紹介をして、ちょっとだけ日本の話で盛り上がる。サトーさんは、化学繊維ベンチャーで研究者をやっていたそうだ。仕事関係のゴタゴタで隣国のスパイに暗殺されて、貴族の三男坊に赤子転生したらしい。
ちなみに、私は先天性心臓疾患による病死。16の時に受けた手術が失敗して、高校卒業まで生き延びることが出来なかった。小中高とほとんど寝たきりで、来世では健康な体が欲しいと願ったところ、この世界の神様が転生させてくれた。年齢外見は死んだときのままで、心臓疾患のない健康な体でこの世界に召喚された、といった方が近いかもしれない。服飾のギフトは唯一の趣味が編み物だったので、その影響で授かったんだと思う。
「そっか、健康な体に転生できて良かったね。おじさん、そういう話弱いんだ……」
湿っぽい話になってしまった。どうしようこの空気……。
「え、えっと、そろそろ依頼の内容聞かせてもらっても良いですか?」
「あ、うん、そうだった。この素材で、ジャケットを作ってもらいたいんだ」
そう言って、サトーさんは木箱いっぱいの毛玉を持ってきた。
「こいつは俺が魔法で合成したアラミド繊維だ。ケブラーって行った方が通りがいいかな? 頑丈で熱にも強いんだけど、今の縫製技術だと固すぎて糸に加工するのにすら難儀しててね……。
筋力があって服飾のギフトを持ってる君なら、製糸、手織、縫製まで一通りできるはずだよね」
ケブラー繊維って、たしか防弾チョッキとかに使われてるやつだ。前世で読んだ小説にそんな単語を見た覚えがある。
「え? 凄いですね。技術チートってやつですか?」
「まあ、そうなるかな。でも、宮廷魔術師がエンチャントした鎧とかに比べると性能は落ちると思うよ。学院で物性評価した限り、ミスリル銀のプレートメイルは地球産のどんな素材よりも頑丈だったし。まあその辺もこれから評価するわけだけど」
「えっと、デザインはどうしましょう」
「そっち方面は素人だし、任せるよ。性能評価用の試作品だから最初はそんなに凝った作りにしなくても良いよ」
「わかりました」
シンプルで良いと言われたもの、服飾職人としてのデビュー作になるわけで、何かしらこだわりは入れたいということで、襟元を飾り編みにして1着編んでみた。さすがの服飾のギフト、糸繰りから始めたのに小一時間で仕上がってしまった。
サイズはサトーさんに合わせてみたけど、どうだろう。
「うん、さすがは服飾のギフト、思ったよりもずっと良いできばえだ。早速だけど、明後日までに同じ物をいくつか作ってもらって良いかな。素材は宿に持って帰って良いよ」
「いいんですか? これ貴重なものですよね?」
「君が加工しないとただのゴミだからね、それ。加工済みでも、鑑定持ちが見ても今はガラクタと表示される。そんなものを誰も盗もうとも思わないだろう」
サトーさん曰く、鑑定スキルが表示しているのは「多くの人に共通した見解」だから、共通の見解が蓄積されるまではどんなに凄いものでもガラクタと見えてしまうらしい。
なんでそんなことがわかるのかと聞いてみたら、魔法とかスキルとかのしくみを魔術大学時代に研究していて、そういう結論にたどり着いたんだそうな。なんでも、情報系のスキルは集合知とか深層学習とかと似たシステムで動いている……らしい。説明はされたんだけど難しすぎて良く理解できなかった。
そんなわけで、二日後に納品にまたやってきたんだけど、今度は耐久試験を見せてくれた。
地面に斧や槍が固定されていて、そこに防具を着せた人形をクレーンでつり上げて、落とす。人形の重さや落とす高さを変えることで威力を調整することが出来る、らしい。どう見ても大がかりな拷問装置だ。
「耐刃性、耐弾性は革鎧より上だね。衝撃吸収材を内側に重ねれば耐衝撃性も金属鎧に劣らない。試作品のつもりだったけど、いきなり凄いのが出来たなこりゃ」
結果を見てサトーさんはご満悦だった。確かにこれは凄い。服として着るにはちょっとごわつくけど、この軽さで防御力は革鎧より上だなんてちょっと信じられない。
「じゃ、契約通り、余った分で作ったのはシマムラさんにあげるよ。あと、これの材料になる魔物素材だけど、定期的に狩ってきてくれると助かるんだけど、専業契約結ばない?」
とてもありがたいお誘いだったので、専属契約はもちろん受けた。
なにか、こう、予感がしたんだ。サトーさんが作った錬金素材で私が服を作る。そしたら、自分のお店が持てるんじゃないかってね。
これが、化繊の錬金術師との私の出会いだった。
サブタイトル見ればわかりますが、鋼の錬金術師から思い付いたネタです。
錬金術師って、ファンタジーワールドの架空職業ではなくて、過去に実在した職業なんですよな。
元素の概念がないころ、水銀やら錫やらといった卑金属から貴金属を作り出す研究が錬金術で、その研究者が錬金術師と呼ばれる人たちだったわけです。まあ、やってることはケミカル手品詐欺師だったわけですが、彼らの研究が現代の化学の基礎を形作った。
ってことは、現代の化学屋さんが転生して技術チートするなら、それは錬金術師なんじゃないのか、という風に思ったわけです。
ストーリー上蛇足になりそうなので省きましたが、サトーさんは魔術を使って温度や圧力を操作して、化学反応を発生させ、魔法でスペクトル分析とかして魔物素材に含まれている成分を解析したりしています。それを魔法なしでできるようにすることを目的にいろいろ研究しています。