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異世界の地、七光りの冒険  作者: 三笠 珠
ロステマ帝国編
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57.儀式

 ラフマの儀式は前日夜から行われていた。

代々伝わる秘薬を飲まされ、意識を混濁させるのだ。

いくら名誉なことといえ、皆が望んで身を捧げる訳ではない。

死の恐怖を前にして、それでも平静を保っていられるようにする手段であったのだ。

それを一定時間毎に与えられるラフマは、翌日の儀式まで朦朧とした意識の中過ごす。

 死まで秒読みという状態で、彼女は何を思っていたのだろうか。

はたまた、考えられるほどの思考はまとまっていないのだろうか。

それは本人にしかわからぬことである。

だが、思考力が残っていたとしても、それはそれで酷なことには違いない。



◆◇◆



 民衆に紛れた怜央はラフマの到着をまつ。

建物内部はそこそこ広く、入口から正面奥側に祭壇があった。

その祭壇は長い階段を登った高い所にあり、奥には寝そべった神の彫刻がある。

その彫刻は右手を虚空に伸ばし、何かを差し出せと言わんばかりである。

そしてそれの神性を強調するかの如く、くり抜かれた天井から差し込む光がスポットライトのように当たっていた。


 儀式開始までは時間があるようで、周囲の人間は社交場のような雰囲気で交流していた。

ただ単に突っ立っていた怜央にも、その身なりが気になったのか、話を聞きに来る者たちが後を絶えない。


「見かけない顔ですな。本日はどちらから?」

「ここだけの話、お忍びで来たのです。遠い国から来た……とだけ言っておきましょう」


大概の人にそう説明すると、勝手に解釈して納得してくれるのだ。

中にはお祭りについて教えてくれる人もいた。

 ハゲた中年で、身なりのそこそこ良い人物が、勝手に語ってくれたのだ。


「私はエレトゥスと言います。これに参加してもう30年でしょうか。恐らくあなたは今回が初めてですね?」

「ええ、そうです。ですからどんな流れかわからず不安でもあります」

「そうですか。いやなに、そんなに難しいものではありませんぞ」

「……良ければ少し、教えていただけませんか?」

「もちろん、いいですとも。もう間も無く神官達と巫女がやってまいります。すると神官は賛美歌を唱え、巫女は階段を登るのです。上には選ばれし5人の神官がおりますので、巫女を台座にこさえたあと四肢をおさえます。神への祈りが済みますと、1人の神官がナイフを構え、一思いに振り下ろすのです。肉を引き裂き心臓を取り出すと、神の手に捧げて巫女を落とします。階段から。あとは私達が彼女を解体して、その神聖な身を頂く――というところですかな」


怜央は聞いているうちに眉を顰めていた。

エレトゥスは覚えきれず心配なのかと受け取って、優しく声をかけた。


「なに、わからなければ周りを見て真似すればいいのです。緊張せずとも大丈夫ですぞ」


 怜央は彼が、根っからの悪人でないとわかっているも、やってる行いに疑問はないのかと不思議でならない。

しかしそんなものないに決まってる。

あったら30年もやるはずがないのだから。


 怜央がお礼を述べた時、入口の門が開き、会場の雰囲気ががらっと変わった。

神官達と巫女の入場であった。


「おお、来たようですな。――私は他の者に場所取りさせてありますから。これも何かの縁だ。貴殿も特等席に、案内しましょう」


 エレトゥスの思惑には打算もあったのだろうが、怜央もそれを承知で付いていく。

2人は人混みをかき分けて祭壇近くへと向かって行った。

そこで、神官達の通り道近くを押さえていた者と、位置を入れ替わった。


数多くの神官達が配置につくと、巫女――ラフマも歩き始める。

扉は閉まり、部屋は薄暗くなった。

唯一の光は祭壇を照らす、天井穴からの光のみ。

ラフマはその光に誘われるが如く、一歩、また一歩と、祭壇へ歩みを進める。


神官達の厳かな雰囲気で歌われる賛美歌は、聞く者全てを飲み込み、独特な世界へと(いざな)うようである。

やがて怜央の視界に入るところまで来ると、ラフマの状態に気づいた。


(なんだあれ……妙に目がうつろだ。何かされたのか……?)


心配する怜央など、ラフマの眼中に含まれることもなく、ただ、空虚を見つめてひたすら歩いていた。


 やがて怜央の前も通り過ぎ、階段へと足を踏み出す。

一段一段上がる様は、ラフマの寿命をカウントダウンしているかのようである。

実際何もしなければ、この後待ち受けるのは確実な死。

だが幸か不幸か、彼女は出会った。

異世界の者達と。

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