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閑話.アリータのお食事

ギルド依頼が終わった翌日、部屋にはアリータと怜央が居た。

他のメンバーは講義やら用事やらで出っ張っていて、部屋には2人だけの状況。

今がチャンスと踏んだアリータは自分のベットの端に座り、怜央を呼んだ。


「ねぇ……ちょっと」

「ん?」


アリータはちょいちょいと手招きし、怜央はアリータの前まで来た。


「何?」


怜央がそう尋ねると、アリータは無言で横に移動し、怜央が座れる場所を用意した。

ここに座れという意味を理解した怜央はアリータの横に促されるまま座る。


「どうしたの?」


アリータは目の前の壁から視線を動かさず、声だけで応える。


「あの時の約束……忘れていないでしょうね?」

「あの時の約束……?」

「私がギルドに入る条件のことよ……!」

「あーあれね。覚えてるよ。え? 今、血吸いたいの? さっき朝飯食べたばかりなのに」

「アンタらの食べる飯は言わば嗜好品みたいなものよ。私にとっての本当の食事は血だけだわ 」

「ふーん? まあいいけど、はい」


怜央は隣のアリータに向けて腕を差し出した。

怜央のその行為には、多少恥ずかしくて顔向けしてなかったアリータも思わず振り向いた。


「はい……じゃないわよ! どこの世界に血を吸わせるとき腕を差し出すバカがいるのよ! ……たくっ」

「えー、じゃあどこから吸うの?」

「……もういいからほら、真ん中に移動して」


アリータは1人立ち上がると怜央を真ん中の方へと移動させる。

言われるがまま横にずれた怜央に、アリータは対面する形で跨った。


「お、おいアリータ……」

「普通吸血鬼が血を吸う所といったら1つでしょ……」


アリータは怜央に密着し、首筋に口を付けるため視界からズレた。

怜央はアリータと重なる身体部分にじんわりとした熱を感じ、わずかに香る上品な香水に鼻腔をくすぐられた。


「これちょっと恥ずかしいんだけど……」

「静かにしてればすぐ終わるわよ……」


お互いが羞恥心を抑えながらこの行為に臨んでいた。

踏ん切りをつけたアリータは、怜央の首筋にそっと唇を這わせた。

もぞもぞと移動させながら1番薄いベスト吸血ポジションを見つけると、牙をくい込ませる前に舌で湿らす。

怜央は柔らかな唇に加え、唾液のしたたる舌先の感触に、悶々とした感情が押し寄せる。

ましてやこの姿勢。

色々とまずかった。


「ちょ、なんで舐め――はよやって!」

「――うっさいわね! 痛みを感じにくくさせてあげてるのに! そんなに言うならもう良いわ、一気に行くからね!」

「え、ちょっ、優しく――」


アリータは恥ずかしさと苛立ちで、思い切り牙を突き立てた。

瞬間、怜央は想像してたより遥かに強い痛みに、身体はビクンッと反応した。


「痛ッ!!!!?!?」


アリータは暴れる怜央を持ち前の筋力で押さえつけながら、黙々と吸血行為に及ぶ。

そこにはもう、アリータから羞恥心は感じられない。

ただ本当にうまい、極上のご飯に舌づつみするが如く夢中になっていたのだ。

アリータが血に夢中になっている最中、片や怜央は涙を目に湛えていた。


(ぐっ……こんなに痛いとは思って無かった……! )


怜央の算段では献血程度の、針に刺される程度の痛みを想像していた。

だが考えてみれば尖った歯は針よりずっと太い。

痛くて当たり前だったのだ。


(俺は……やめる! 週一でこんなことやってられっか!!)


怜央はアリータという人材と、それに伴う週一の激痛を比較衡量し、痛みの方が嫌だという結論に至った。

だが、その状態が数分続くと痛みも和らぎ冷静な判断力も戻る。

よくみてみれば一生懸命自分の血を啜るアリータに、若干の愛苦しさを覚え始めてさえいた。

怜央は雰囲気に流されて、そっと抱えるように手を回すが無事払われてしまう。

それにちょっとした寂しさを覚えつつも、10分ほどしてこの行為は終わった。



◆◇◆



「……ふぅ。ご馳走様」

「お粗末様。――でももうちょっとどうにかならない?めっちゃ痛いんだけどこれ」

「そんなこと知ってるわよ。だから最初、麻酔成分のある唾液で痛みを和らげてあげようとしたのに、アンタうるさいんだもの」

「は!? いやそれもうちょっと早く言って!? 本当に痛かったんだからね?」

「言ったわよ! それなのにアンタが急かすから!」


怜央は不必要な痛みを受けていたことに絶句して思わず顔を覆った。


「なんてこった……」

「ま、自業自得ってことね」


アリータもアリータで、そうならそうとしっかり下準備してくれてもよかったのではないか。

今回の激痛はアリータによる理不尽な行いのせいでもあると考えた怜央は、やや強気に交渉を迫った。

手始めにボソリと呟く。


「3週間……」

「ん?」

「これからは3週間に1回だけだ……」

「は……はぁ!? ちょっと、何を言って」


怜央は手のひらを向けて言葉を遮ると、ゆっくりと窓際に近づき、外を見下ろしながら背中を向けて語った。


「想像してたよりずっっっっと痛かった。これには耐えられそうにない」

「だ、だから、次からはちゃんとしてあげるわよ!」


アリータの声音から焦りの感情を感じ取った怜央は、壁に寄りかかって一層強気に攻めた。


「だめだ……交渉は一切受け付けない」


怜央がここまで言うのは先の手を払われた件が関わっている訳ではない。

拒絶されて傷付いたから少し意地悪してやろうという訳ではないのだ。

決して。


「ふ、ふーん? そんなこと言うんだ? じゃあ残念だけど、この超絶優秀なギルドメンバーを失うことになってしまうわね? 貴方はそれでもいいのかしら?」


アリータも一転攻勢、自分の価値を武器に対抗してきた。

だが怜央は確信する。

先程のアリータの夢中っぷり。

以前の様子も含めると、アリータは俺の血にどハマりした可能性が高い――と。

だからこそ強気の攻めができる。


「構わんぞ」

「――えっ!? ちょ、ちょっと……」

「あえてもう一度言おう、構わん。アリータは意地悪してわざと痛くしたろ? 性格悪い人はうちのギルドにはちょっとなー」

「だ、だからそれはアンタが――」

「言い訳する人も嫌い」

「あ……うぅ……」


取り付く島もないアリータは若干半べそ気味でたじたじになっていた。

流れは完全に怜央の側に来ている。

こうなればもう、あと一押しで完全に抑え込めるだろう。

だが怜央とて鬼畜ではない。

勝利を確信した怜央はお互いにとってWIN-WINの関係になれるよう調整を始めた。


「――まあ、確かにここ何回か一緒にいて、アリータには助けられた部分もあったかな」

「……! そ、そうでしょ? ほら、私は有用な人材――」

「調子に乗らない」

「ぅう……」

「んで、今までの活躍を考慮したら、やっぱり2週間に1度くらいならいいかなって。――条件付きで」

「条件って……何よ……」


アリータは余程、怜央の血が吸えなくなるのが困るらしく、物凄く弱気で従順な姿勢だ。


「うむ。まずはやはり、ギルドに残ってもらうこと。次に、痛くしないこと。そして、血をあげるタイミングは俺が決めます」

「それじゃ、最悪……2週間以上吸えないこともあるんじゃ……」

「俺の体調もあるからまあ……。でも大丈夫。アリータがいい子にしてたらもっと、そう――1週間に2回とかもあるかもね」

「……!」


アリータは今以上の好条件に変えられる可能性にこの上なく惑わされた。

怜央も怜央でこれが上手く行けば気難しいアリータを上手くコントロールできるのではないか。

そんな思惑があっての条件提示だった。

そして迷いに迷ったアリータは決断した。


「わかった……その話に乗りましょう」

「よっしゃ、契約成立だな」

「ただ……1つ条件が――」

「条件???」

「……っ、いえ、その……お願いがあるのだけれど……」

「……聞くだけね」


アリータは手をもじもじさせて、少し赤面しながら声を絞り出した。


「その……やっぱり他の吸血鬼(ひと)には血を分けないでほしいのよ……」

「つまり、血を上げるのはアリータだけにしろ――と?」


アリータは無言で頷いた。

それが独占欲なのか、他に理由があるのかはしらないが、そんなアリータの姿に愛おしさを感じた怜央は二つ返事でOKを出した。

こうして馬の鼻先にニンジンならぬ、アリータの目先に血を用意することで、後々の主導権を握っていく怜央だった。


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