魔法少女、誕生
急に現れたその男の子はあたしが両親の寝室をこっそり通り抜けてくんできたお茶をジトーと見つめている。
誕生日ギリギリの深夜にこんなミラクルがあるなんて!
二階の窓から入ってきたその男の子に期待を寄せる。
「あの、あなたはいったい?」
我慢しきれなくてテーブルを挟んで向かえ側にいる男の子に話しかける。
この状況に混乱してないわけじゃないけど
期待とワクワクには勝てない。
「オレはエラい人の指示でマホウカイからニンゲンカイにきた。
マホウカイとニンゲンカイを揺るがすトラブルがおきたらしいんだけど、そのトラブルを解決するにはニンゲンカイの力が必要らしい。しかもただのニンゲンじゃなくて11歳くらいのオンナで適性があるやつ。オレはなんでか知らねーけどエラい人が言ってた。その適正者をカリマホウツカイにしてトラブルを解決しなければいけないとかなんとか」
「トラブル・・・?仮魔法使い?適正?」
早口で、でもだるそうに喋る男の子の言葉は私をワクワクと混乱に陥れる。
なんだか、想像してた魔法少女とはちょっと違うようだ。
しかも仮魔法使いって、仮ってことはアニメで見たような完全な(?)魔法使いじゃないってこと?
「トラブル解決には1年ぐらいってエラい人が言ってた。つまりオマエのカリマホウツカイとしての契約期間は1年間だ。
今こっちの世界は4月だから次の年の3月くらいに契約終了だ。ちなみにタダじゃなくて契約終了時には報酬としてなんでも願いをひとつだけかなえてやるらしい」
ずいぶんと現実的だ。
魔法少女っていうのはこう、もっとふわふわしたものじゃないのか。
ハケンシャイン?みたいな魔法少女ってなんかやなんですけど。
自分用に持ってきたお茶をすすりながら考える。
というかざっくりとした、本当にざっくりとした事情は分かったけど
まだこの男の子についてはわからないままだ。
じーっと男の子を見る。
髪の毛は金髪。さらさらしてて少し長い。
同級生にはどうひっくりかえっても居ないインパクトに正直目が離せないでいる。
真ん中分けされた少し長い金髪は光にあたって輝いている。
そしてその金髪に似合うキレイな顔立ちと白い肌。目は緑っぽい。
年齢は・・・あたしと同じくらい?
服装はなんか変でケープみたいなのをきていて色は全身黒だ。
魔法使いって黒色だからある意味イメージ通り?
「・・・なにあほ面で見てんだよ気持ち悪いな」
恐らく美少年って言葉がぴったりなのに口がとんでもなくわるいのは出会って数分でも分かる。
くそ口が悪い。
「あほ面じゃないもん!てか知らない人が突然きて魔法使いとかいってきたりしたら見るにきまってるじゃん!まずはちゃんと名乗ってよ!!」
「うっせーな、キンキンした声で叫んでんじゃねーよ。あほ面」
「またあほ面っていった!!私は大野麻衣!!お お の ま い !!!」
「だから声キンキンしててうるせーんだよ!耳がちぎれるだろ!!」
「さっきから失礼ね!とりあえず名乗りなさいよ!!」
フンっと鼻息を荒くする。
そりゃ魔法少女になれそうだし、夢が叶うから有難いけど(この順応性の高さあたしの長所よね)
名前も知らない人と契約するなんてママに怒られちゃうわよ!(言うつもりもないし変に現実的だけど!)
「あー、もうわかったからそのキンキンとした大声だすのやめろよ!
・・・オレはレオ。」
「オレっていう一人称にレオって聞きにくいし紛らわしいわね」
「うっっせえ!!いちいち茶々入れてくんな!
オレだってほんとうは面倒くせーよ!ニンゲンカイのオンナのサポートなんて!
でもエラい人の命令だから仕方なくオマエと契約しにきたんだよ!オレはマホウ学校初等部で1番優秀な生徒だからな。
それでエラい人はオレをオマエのパートナーに任命したんだよ。」
「パートナー?」
「あぁ、そうだ。パートナー。
適任者のニンゲンと近い年齢がいいだろうっていう上の判断でオレがパートナーになった。さっきも言ったが優秀だからな!」
ドヤ顔も様になる美少年っぷりだけど発言には腹が立つ。
つまりあたしを仮魔法使いとやらにして2つの世界を揺るがすかもしれないトラブルをパートナーであるレオと一緒に1年間かけて解決しろってこと?
「あほ面のわりに察しがいいな。そういう事だ」
あの、あたしくちに出していってないんですけど
とにかく仮っていうのがひっかかるけどあたし魔法少女になれるんだ・・・!
長年の夢が叶う!みんなに馬鹿にされてきたけど諦めないでよかったぁ・・・。
「それでやるのか?やらないなら他に数人適任者がいるからそっちあた・・・「やる!!!
」・・・人の話最後まで聞けよ。まぁやるならいいや。じゃ、契約すっぞ」
食い気味に返事をしたあたしを呆れた目で見ながらなにならケープの中から本を出した。
・・・手のひらサイズの。
「なにその、ちっさい本」
「もうオマエはだまってろ。まぁいいや、みてみ。」
そう言われてレオからミニサイズの本に視線を戻す。
レオの左手にはいつの間にかキレイな色のした青い杖が握られていた。
(すごい!本当に魔法使いっぽい!)
その杖を左の手のひらに置いてあるミニサイズの本にトン、と音を鳴らして叩いた。
するとミニサイズの本は白い光を発しながらむくむくと大きくなって行った。
そして本はミニサイズではなく、辞典サイズの普通の本に姿を変えていた。
「・・・!すっっごーい!!!ねえ、これ魔法だよね!?やばい!わぁぁ・・・!」
「だからオマエはいちいちうるせーんだよ!だまって見てられねーのかよ!」
レオからそう不機嫌な声が飛ぶけど
これにテンション上がらない方が無理なので無視する。
ちょっと半信半疑だったけどやっぱりレオは魔法使いのようだ。
「その本なに?」
「・・・・・・」
答えるのがめんどくさいのか、あたしのリアクションと質問攻めをスルーして
本をパラパラめくる。
仕方がないのであたしもパラパラ捲られてる本を見つめる。
表紙に文字が書いてあるけど読めない。
魔法語かな?
「よし、これだな」
目当てのページが見つかったのかレオがそう呟く。