2話 クロンと幼馴染
「ーーおはようございまーす!」
朝、玄関口から元気な女の子の声が聞こえてきた。恐らくあの娘だろう。
「はーい!」
俺は返事をし、ドアを開ける。
「ふふっ、おはよ、クロン」
「……ああ、おはよう、アナ」
幼馴染の笑顔は、どこかいつもより明るく感じた。
★
「そうか、もう7歳になったのか。おめでとう、アナ」
「ありがとう、クロン! 私ももうすぐ大人の女ね!」
アナはそういって笑った。
アナは、俺の幼馴染だ。6……じゃなかった、7歳で、俺より2歳年下の可愛い女の子。透き通るような白い肌に、髪の毛はそこらへんの子と変わらない茶髪だ、少し薄めかもしれないが。
風を浴びると、その長い髪がサラサラと流れるようになびく、こんな寂れた村にはふさわしくないと思ってしまうような子だ。
「何いってんだよ、まだあと8年は子供のままだぞ?」
この国では15歳で大人と認められる、らしい。らしいというのは、この村周辺が俺にとっての”世界”であり、全てだからだ。俺は、たまに来る行商人くらいしか、違う”世界”の人を知らない。
父さんも昔は行商人だったらしいが、この村に住む母さんに一目惚れしてそのまま住み着いたらしい。後はそんな父さんから聞く話くらいか。
兎に角、そんな狭い”世界”に住む俺だが、それでもアナは一つ垢抜けているというか、正に住む”世界”が違う気がするような女の子なのだ。
じゃあ、何故そんな子と幼馴染なのかというと、それは三年前の出来事が関係するのだが……
「どうしたの、クロン?」
気がつくと、アナが俺の顔を覗き込んでいた。思わずドキリとする。こいつ、こんなに整った顔をしていたのか。
「い、いや。お前も大きくなったなあって。あの森で出会った頃は、まだこんなだったのに」
俺は手で地面との距離を示しながらそう話をする。
「でしょ、それにね、おっぱいも大きくなってきたんだよ!」
アナは俺の言葉を聞き、胸を反らしながら答えた。アナの肌に負けないくらい白く汚れのないワンピースの胸のあたりが、少し膨らんでいる、気がした。過去形なのは、びっくりしてすぐに目をそらしたからだ。
「ちょ、何やってんだよ! お前はもう少し恥じらいというものをだなあ……」
「えー、クロン。照れてるんでしょ? ね、ね?」
アナは俺の反応に気を良くしたのか、ニヤニヤしながら向かい合って座っていた机を回り込み、また俺の顔を覗き込んできた。
見た目は大人しそうな(父さん曰く清純派)女の子なのに、どうしてこういつも元気なのだろうか。
「あーもー、うっとうしいなあ。大人しく座っとけよ」
俺は少し赤くなった顔を見られまいと横に向けながら、アナを手で押し退けようとする。
「キャッ」
すると、聞いたことのない声色の声が聞こえてきた。と同時に、手に柔らかい感触が。
「え?」
俺はアナの方に顔を戻すと、俺の両手がアナの胸に触れているのが目に入った。アナはびっくりしたのか、バンザイを肩のあたりまで下げたような体勢で固まっていた。
というか、今の声、もしかしてアナの声なのか?
アナは顔を一瞬で真っ赤に染め、プルプルと震えだしたかと思うと。
「く……」
「く?」
「く……クロンの、エッチーっ!」
バッチーン!!
「ぐはあっ!」
俺はアナの小さな手で思い切り叩かれ、椅子から転げ落ちた。
「うえーん!」
そしてそのままアナは、玄関から飛び出していってしまった。俺は叩かれた頬を抑えながら、思わず呟いた。
「……なんだこりゃ」
どうしてこうなった。