11話 起床
今更ですが、作者の癖で、どうでもいいような話が挟まれることがあります。予めご了承下さい。
「ううっ……」
体の節々が痛む……
「……こ、ここは?」
痛む身体を抑えながらなんとか起き上がると、俺はベッドの上で寝かされていた。見た所、俺の家ではなさそうだ。何処なのだろう?
ふと気がつくと、足が妙に重い。俺は部屋を見回していた視線を下に向けた。
すると、俺の足を枕にするように、アナが寝ていた。
なぜ、こんな状況に?
「……思い、出した!」
そうだ! 俺は、ヴォルフェヌスとかいう狼型魔物の王と呼ばれる魔物と戦っていたんだ。そしてランガジーノ様がいきなりやられて、俺はアナを庇って……
「アナ!」
俺は、アナの身体を揺さぶった。
「ふぇ?」
アナは眠たそうに目をこすりながら、俺の足からゆっくりと頭を持ち上げる。眠たそうな半開きの目が次第に見開かれていく。
「……クロン! 起きたの! 大丈夫!?」
アナは、寝起きとは思えない勢いで、俺の身体を揺すった。いててて
「アナ、い、痛い! 痛いから!」
「あっ! ごめん……」
アナは俺の体から手を離し、ベッドのすぐそばにある椅子に座った。
一息置いて、俺は今の状況を確認する。
「アナ、ここは何処なんだ?」
「うん、ちゃんと喋られるね。よかった! ここは私の部屋だよ」
「え? アナの部屋?」
俺は今一度部屋を見渡す。女の子の部屋、それも村長と娘といっても、貧しい村のため、俺の家と大差はなかった。
ただ、アナの部屋だということを意識すると、不思議といい匂いがする気が……
「こほん!」
「あ、ごめん」
俺はアナの方を向き直した。アナの白い頬が少し赤くなっている気がする。
「そうか、俺は助かったんだな。それで、ここに連れてこられたのか。なぜアナの部屋へなのかはわからないが」
そうだ、俺はアナを庇った後、確かあの”技”を使ったんだ。今ここに俺やアナがいるってことは、きちんと倒すことができたんだな。だが、一応確認して置いたほうがいいだろう。
「それと、ヴォルフェヌスは、倒せたんだな?」
「うん、あのあと村の大人たちが総出で駆けつけたんだ。ちゃんと死んでいるか確認したから、心配しなくても大丈夫だよ?」
「後、俺は結構な怪我をしていたはずなのだが?」
俺はアナが襲われそうになった時、咄嗟にアナの前に飛び出した。右腕を差し出したのは今ではいい判断だったと思う。あの痛みは確かに本物だった。だが今見ると、寝ていたせいか、身体が痛いけど、傷はひとつもないのだ。
「えっとね、それはね……」
アナの顔が真っ赤になった。変なやつだなあ?
「愛だよ」
……は?
「だから、愛だよ!」
アナは目をキラキラさせて、そう断言した。
「愛? 誰の?」
何をいっているんだこいつは。神父様みたいなことを言い出したぞ。
「私の愛する心が、クロンを助けたんだよ! え……憶えてないの?」
「憶えて……? 技を使った後は、もう力が抜けてしまって、意識を保つのもやっとで、それ以降のことは殆ど憶えてないんだ、すまんな」
「なっ! 憶えて、ないんだ……」
アナは下を向いてブツブツと何か呟いている。あれ、もしかして俺は憶えていなくちゃいけないことを憶えていなかったり…?
「お、俺としては、アナが無事でだったのが一番だ」
「え、 私?」
思い出せる気がしない……よし、誤魔化そう!
「ああ。あの時、アナを守らなきゃって思ったら、自然と力が湧いてきてな。だから、ある意味アナのおかげだな!」
俺はアナに向かって微笑んだ。俺にとっての勝利の女神になったわけだし、嘘は言っていない。ま、実際は女神と言うよりは子犬なのだが。
「わ、私のおかげ……そう」
アナは自分の髪をいじりながらそっぽを向いた。なんだ、恥ずかしがってるのか?
「ふ、ありがとな。アナが攫われたと聞いた時はびっくりしたが、結果として魔物の親玉を倒せたんだ」
俺はそんなアナの頭を撫でながら言う。そもそも、アナは俺のことを心配して家飛び出したんだ。俺にも責任がある。だから、こうして少しでもアナが責任を感じないようにしておかないと。
「そう言われると、そうかな……なんか、さっきからいいように言いくるめられている気がするけど」
アナはいじけたような顔をするが、満更でもなさそうだ。それにしても、こいつの髪の毛はやっぱサラサラだな。
★
----バタン!
アナの髪の毛を撫でていると、部屋のドアが勢いよく開いた。
「クロンくん!」
と、アナの目から光がなくなった。アナ……?
が、すぐに元に戻り、俺と一緒に部屋のドアを見る。
「ランガジーノ様!」
入ってきたのは、俺と一緒にヴォルフェヌスを倒しに向かったランガジーノ様だった。
ランガジーノはヴォルフェヌスに切り裂かれたはず……大丈夫なのかな?
ランガジーノ様はベッドのそばまで近づくと、ホッとした様子で息をついた。
「クロンくん、大丈夫だったか」
「ランガジーノ様こそ。でも、ランガジーノ様こそ、ヴォルフェヌスにやられてましたよね?」
「ああ、恥ずかしながら、不意を突かれてしまったよ。まあ、鎧の性能が良かったのか、打撲で済んだのは幸いかな」
そうか、良かった。後味の悪い結果にならずに済んだか。
「だが、三日も寝てしまっていたからね。少し身体がなまってしまったかな」
ランガジーノ様はハハハと笑う。え、俺たち三日も寝ていたの!?
俺はアナに確認しようとそちらを向く。
「あ、クロンはね、七日も寝てしまっていたんだよ。だから、もう起きないかと思って……」
な、七日!? そんなに寝ていたのか……通りで身体が重いわけだ。
「アナ、ちゃんは、クロンくんがここに運ばれてから、付きっきりで看病をしていたんだよ、ね?」
ランガジーノ様が言う。そうか、だからさっきここで寝ていたのか。なんだか、悪いな。アナだって、怖くて仕方なかっただろうに。
「うん。汗を拭いたり、水を飲ませたり」
「そうか、すまなかったな」
「ううん、こうしてクロンが起きてくれて、良かったよ。看病した甲斐があった」
アナが微笑む。
俺たちは、その後少しの間、話をして過ごした。