1話 光線
リハビリで投稿します。
「そこだっ!」
草原に、一条の光が走る。
「キュピッ……!」
逃げようとしていた一匹の野兎が、その光に貫かれ倒れ伏した。
「……ふう、これで5匹か」
少年は倒れ伏したそれを拾い上げ、背中に背負った籠に収める。野兎の傷跡は火で焼き潰されたように黒ずんでおり、ほとんど出血していない。
そして籠の中には、この野兎を殺すまでに、すでに四羽の野兎が放り込まれていた。その野兎のどれもが、同じように身体のどこかを貫かれており、少し焦げ臭い肉の焼けた匂いを放っていた。
「まさか団体さんに出会うとは、運が良かったぜ。これで今夜の食事が少しは豪華になるな!」
少年はどうやら夜のオカズを獲りに来ていたようだ。思ったよりも短時間でいい成果が上がられたためか、気分は上々。
少年の住む村では、子供は誰しも常に飢えているのだ。勿論、大人達も表立って態度には出さないが、いつも腹を空かせているのは同じ。なのでこうして出来ることで、少しでも村に貢献しようと狩に出かけたのだ。
「……よし、どんどん狩るぞー!」
少年は、次の獲物を探しに草原を歩いていく――――
★
「ほう、これは中々。久しぶりの兎肉だからか、母さんの料理が美味しく感じるぞ」
男は肉を頬張り、そう感想を口にする。
「え、なんだって?」
女はそんな態度を見て、男を睨みつけ怒りをあらわにした。
「あ、いや、いつもおいしいぞ? うん。いつもはせいぜい野鳥の肉だから、今日は食べ応えがあるなって意味だよ! な?」
男は隣に座る自分の息子に語りかける。
「うん、そうだよ母さん。やっぱりたくさん食べられたほうが、美味しく感じるのは当たり前だとおもうよ。だから、母さんのいつもの料理が美味しくないってことじゃ、ないとおもうよ?」
「……そうかい、たんとお食べ。なんたって、今日はクロンのお陰でこんなにたくさんあるんだからね!」
母親は息子の言葉を聞き、怒りが収まったのか笑顔でそう語りかけた。
この男女は夫婦、そしてその息子こそ、先程まで草原で狩りをしていた少年、クロンである。クロンは結局往復四回、計35羽もの野兎を狩ってきた。
なぜそんなに獲ることができたのかというと、いつもは草原に疎らにしかいない野兎だが、今日は何故か家族連れと思わしき団体に何回も遭遇したからだ。運が良かったのか、クロンの持つ”技”の調子も良く、こうして豪勢な夕食となったのだ。
勿論、この一家族三人だけで、35羽もの兎肉を食べきることはできない。クロンはあくまで貧しいこの村全体のために狩をしてきたのだ。功労者として、分け前を少し多くもらえたに過ぎない。
それでも、いつもは小さく分けて、二口三口ほどで終わってしまう肉に、ガブリとかぶりつくことが出来るのだから、喜ばないほうがおかしいだろう。
「うん! やっぱり、母さんの料理は最高だね!」
「あらあら、ほら口元から油が垂れてるよ」
「ははは、もっと落ち着いて食べるんだぞ、クロン」
そうして、夜は更けていった――――